書物の勇者?何だそれ   作:名無しし

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盾より最低な勇者

00:25

 

あと25分で次元の波が訪れる。

城下町では騎士隊や冒険者が準備を整え、出撃に備えていて、民間人は家に立てこもっている。

 

勇者である俺たちは時間になれば砂時計が波の発生地点へ飛ばしてくれる。

 

パーティーメンバーにもそれは適応されており、リファナやアイラ、コハクも一緒に飛ばされるだろう。

 

「あと少しで波だな」

 

「そうですね、せつな様」

 

「たくさん倒すのです!」

 

「魔物、美味しい?」

 

各々の感想を言ってうなずく。コハク、気が早いぞ。

 

「終わったら料理してやる」

 

「わーい」

 

この日のために俺たちは頑張ってきた。最初の波だし、強化分を含めりゃ余裕だろう。

 

「で、波の発生地点はリユート村付近で間違いないのか?」

 

「俺のゲーム知識が正しければの話だな、名前も似ているし可能性は高い」

 

俺たちは武器屋で波に飛ばされるまで待機しながら、打ち合わせをしていた。

 

「毎回、悪いですね。エルハルトさん」

 

「大丈夫だ。アンちゃんたちは勇者なんだからな、ちゃんと頑張って貰わねえと困るからな。こんくらいどうってことねえよ」

 

波に関してどういうものか、ある程度はゲーム知識という形で尚文に伝えた。

 

「にしても『ユウトの村』ってネーミングセンスを疑うな」

 

「有名実況者が最初に開拓した村だし、通称がそれで定着したからな」

 

召喚されて最初の波はリユート村で起こるだろうが、この世界に俺が乱入したことにより変わってしまった可能性も否定できない。

 

そうなると他の三勇者同様に知識が役に立たなくなるし、尚文からの信頼も無くなる。

 

なら最初から知識がズレていることを示唆しておけばいい。三勇者みたいに自分の知識こそ絶対みたいにしなければいい。

 

「ユウトの村に、リユート村ねぇ。字面的には似てなくもないが……」

 

「まあ別の場所に飛ばされたら、まずは村とか周囲に民家がないか確認して避難してからだな」

 

三馬鹿勇者は波のボスのことしか考えてないだろうし、メルロマルクの騎士団は信用ならん。俺たちが住民の避難をさせなきゃならないからな、人手がもっと欲しいところだ。

 

と、そんなことを考えていると入り口のドアが開く音が聞こえた。

 

「…………」

 

入り口の方を見ると、そこには見覚えのある魔法使いの女が俯きながら立っていた。

 

「あ、ローゼお姉ちゃんなのです!」

 

アイラが指差して女の名前を言う。

俺の"元"仲間にして現在は錬の仲間をしていたあのローゼだ。

 

「書も……っ、セ、セツナ、様……」

 

「……何だ?今更、俺に何の用だ?」

 

俺は目つきを鋭くしてローゼを見据える。

 

「……もう一度、私を仲間にしていただけませんか……?」

 

ローゼは声を震わせながらそう言った。

 

「仲間ねぇ、俺も犯罪者と糾弾して錬に取り入った裏切り者が、どのツラ下げて来てんだ?」

 

声にドスを聞かせながら、ゆっくりとローゼに近寄る。ローゼは俺と目を合わせようとせず俯いて震える。

 

「それはっ……そのっ……!申し訳……だから、妹には、手を……出さないで……」

 

ローゼは泣きそうになりながら謝罪の言葉を口にする。

 

「ふぅん」

 

よしよし、この様子なら以前の仕込みは上手くいったようだな。

 

『家族を人質に俺らに協力させる』

 

アイラがローゼとも顔見知りになってたのも幸いだ。そのおかげで事も早く進んだ。

 

クルクルパーの方はコハクが道に迷ってしまったから居場所を探れなかったがな。

 

だがローゼをこちら側に引き込んだ以上、手段なんていくらでもある。いくらでもな(・・・・・・)

 

「俺に絶対服従を誓うというのなら、考えてやらんこともないぞ?」

 

「っわかり、ました……」

 

「なら、その証明として、今から奴隷紋を刻みに行くぞ」

 

「えっ!?」

 

ローゼが驚きの声をあげる。

ま、当然の反応だろうな。

 

「奴隷紋さえ刻んでしまえば話は早い。何だ?絶対服従を誓うのだろう?何もおかしな話じゃないだろう」

 

そう言うとローゼは俯きながら沈黙する。

まあ、この様子なら必要なさそうだが念のためにな。それに奴隷にした方が色々と都合が良い。

 

「あの、せつな様。そこまでしなくてもいいのでは?」

 

「何故だ?コイツはお前を引き取る前に俺と共に行動していたが、裏切って俺を犯罪者と糾弾した奴だぞ。そんな奴に拘束無しで信用できると思うのか?」

 

「え、犯罪者……?」

 

リファナは目を丸くする。

そういえば話したことがなかったな。

別に話す必要がなかったし、気になるなら後で話すとでもするか。

 

「で、どうするんだ?別に嫌なら今からでも剣の勇者のところにでも戻ってもいいぞ?それがどういう(・・・・)結果を招くか(・・・・・・)は知らないけどな」

 

後半を少し強調して言うと、ローゼは俯いたままゆっくりと答える。

 

「……わ、わかり、ました……」

 

「じゃ、今から奴隷商のところに行って手っ取り早く刻むぞ」

 

「おい刹那、波までもう15分もないんだぞ。今から行って間に合うのか?」

 

黙って俺らのやり取りを見ていた尚文が口を開く。

ステータスに目をやるとカウントダウンは15分を切っていた。

確かに時間はギリギリだな、けど今ここで刻んでおかないとまた裏切られたらたまったもんじゃない。

 

「まー、なんとかなるっしょ。アイラ」

 

「はいなのです」

 

「今からコイツ連れて全速力で向かってもらいたい所があるんだ」

 

「お任せなのです」

 

そう言うとアイラはクイーン形態へと変身する。

俺はアイラの背中に乗り、ローゼに向けてスキルを発動させる。

 

「バインドロープ」

 

「きゃっ!」

 

書物からロープが飛び出し、ローゼを拘束する。

 

「逃げられたら困るからな。その状態で来てもらうぞ」

 

そのままロープを引っ張りアイラの背中へと引き上げた。

 

「リファナ、コハク。時間になったら波で同じ場所に飛ばされるはずだ。また後で合流しよう」

 

「はい、せつな様」

 

「ん、ご主人」

 

俺は前を向いてアイラに指示を出す。

 

「アイラ!全速力で!」

 

「はいなのです!」

 

「きゃあああああああああ!」

 

ローゼはアイラの背中から宙ぶらりんの状態で引っ張られていった。

 

 

 

 

「アイラ、お前は外で待ってろ」

 

「わかったのです」

 

アイラをテントの外で待機させ、俺はローゼを引っ張りながら中へと入った。

ローゼは吐きそうなくらい気持ちが悪くなっているようだった。

 

 

「奴隷商!」

 

「これはこれは書物の勇者様、一体何の……」

 

俺は奴隷商の言葉に被せるように言う。

 

「コイツに奴隷紋を掛けろ」

 

「おや、人間を奴隷にするのですかな?」

 

「そうだ。というかできるのか?」

 

今思ったがメルロマルクって人間至上主義だったよな。そんな国で人間の奴隷を連れるのは御法度じゃないか?

 

「いえ、可能といえば可能ですが、何分この国は人間至上主義でして人間を奴隷として取引する事は難しいです。ハイ」

 

やはりそうか、やり直しでもそんなこと言ってたからな。まあ可能ならばやってもらう以外に選択肢はない。

 

「可能ならすぐに掛けろ」

 

「フフフ、わかりました。ですが理由が理由故に、金額はかかりますがよろしいですかな?」

 

「構わない。波までの時間がないんでな、早くしろ」

 

波までのカウントダウンは残り10分になっていた。儀式自体は単純だけど奴隷商はグダグダと話をするからな、多少金がかかろうと仕方ない。

 

何、無くなれば奪えばいい話だ。この世界には殺すべき、殺しても問題のない連中が無数にいる。特に現時点では三勇教の過激派あたりが狙いどころだな。

 

それに今日の波で、ドサクサに紛れて消す予定の奴がいるからな。くっくっく。

 

 

「あぐっ!ぎ、う、うぅ……」

 

そんなことを考えていると儀式は終了しており、ローゼが苦しそうに胸を抑えていた。

 

「さて、代金はこれで足りるか?」 

 

俺は銀貨を130枚ほど取り出して奴隷商に渡す。

 

さて、奴隷の相場はよくわからんがラフタリアとかはサービスで30枚だった。それに100枚くらい足しとけば大丈夫だろうか。

 

「フフフ、ありがとうございます。それでは、本日の波でのご活躍を楽しみにしておりますぞ」

 

「ああそう」

 

とりあえずローゼの奴隷化はできた。

まずは、そうだな……

 

「ぐ、うぅぅ……!」

 

「ふむ、ちゃんと作動するようだな」

 

試しに奴隷紋を発動させてみる。するとローゼは胸を抑えて苦しみだす。

禁則事項はどうしようか、まあ命令とか咄嗟のときに発動したら困るし『嘘をつけない』程度にしておくか。

 

「っと、そろそろ時間のようだ。じゃあな奴隷商」

 

「フフフ、またのお越しをお待ちしております」

 

 

バキン!

視界の数字が0になると、耳元でガラスが割れるような大きな音が鳴り響き、俺たちは波へと飛ばされた。

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