「いやあ!さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」
俺たちは城へと戻ると、夜になって開かれた大規模な宴に参加していた。
「ご馳走ですね!」
「わぁ……」
「ご主人様、食べてきてもいいのです?」
アイラたちは目を爛々とさせて盛られた食べ物の山を見ている。
「ああ構わないぞ。だがその前にアイラ、コハク」
「なのです?」
「ん?」
俺はアイラとコハクに耳打ちする。まだまだ問題は残っているからな。
「ーーできるか?」
「わかったのです」
「ん、わかった」
「よし、みんな食べてきていいぞ」
「「わー!」」
俺がそう言うとアイラとコハクははしゃぎながらご馳走に向かって駆け出す。
大丈夫だよな?今言ったこと忘れてないよな?
俺が二人に言ったのは『この後兵士たちがリファナとラフタリアを拘束するかもしれないからそうなったら兵士たちを跳ね飛ばしてくれ』というものだ。どのみち避けては通れぬ運命、ならばとことん暴れてやる。
「食いたければ食っていいぞ」
「はい!」
「ラフタリアちゃん、行こう!」
尚文たちの方を見ると尚文は何やら盾をいじっているようで、ラフタリアはリファナと一緒に食べ物を取りに行った。
ちなみにローゼはというと、城に着くなりクル……クルーズと一緒になって食事を取っていた。別行動することを禁止にしてるわけでもないし、どうでもいい。
俺も俺で適当に飯を取りながら、ある方向へと視線を向けながら食べる。うむ美味い。日本じゃ食べれないようなモノばかりで最高だな。
すると俺が注意を向けていた方向から、尚文の方に向かって行く元康の姿を見つける。
来たか。さて、俺も移動するか。その前にこの肉を食っちまおう。もったいないし、今後食える機会はずいぶん後になるからな。
「おい!尚文!」
「……なんだよ」
「決闘だ!」
キザったらしく手袋を片手だけ外して尚文に投げつけ、元康が決闘を宣言する。
「いきなり何言ってんだ、お前?」
「聞いたぞ!お前と一緒に居るラフタリアちゃんやリファナちゃん、そしてあの子たちは奴隷なんだってな!」
元康は尚文を指差しながら糾弾する。
ああ、そういえば元康にアイラやコハクの名前は伝えていなかったな。
「だからなんだ?」
「『だからなんだ?』……だと?お前、本気で言ってんのか!」
「ああ」
この国で奴隷制度なんて禁止してないだろう。
そもそもお前らの陰謀のせいで尚文に仲間ができないからだろう。
「人は……人を隷属させるもんじゃない!まして俺達異世界人である勇者はそんな真似は許されないんだ!」
「何を今更、俺達の世界でも奴隷は居るだろうが。許されない?お前の中ではそうなんだろうよ。お前の中ではな!」
「き……さま!」
元康は尚文に向けて矛を構える。
「勝負だ!俺が勝ったらラフタリアちゃんたちを解放させろ!」
「なんで勝負なんてしなきゃいけないんだ。つーかラフタリアはともかくリファナやちっこいメイド二人は刹那の奴隷だぞ?」
奴隷ではなくフィロリアル様ですぞ!
そんなやりとりを食いながら見ていたが、そろそろ猿轡されるだろうからアイラたちに対応してもらいたい。
俺は周囲を見渡す。すると二人の姿を見つけて俺は頭を抱えた。
「美味しいのですー!」
「ハムハム。ん、美味しい」
二人は食事に夢中でこっちで起きていることになんて全く気がついていない様子だった。
仕方ない、ここは俺が魔法で吹き飛ばすか。
そんなことを考えていると、クズが人混みをかき分け尚文らの前に現れた。
「勇者ともあろう者が奴隷を使っているとは……噂でしか聞いていなかったが、モトヤス殿が不服と言うのならワシが命ずる。決闘せよ!」
はいはい、そういうのいいから。女房の尻に敷かれてる婿入りの代理王のくせに威張ってんじゃねーよ。
俺はそんな感情をクズに抱きながら人混みをかき分けて、ある程度距離をとってそのやりとりを静観する。
「この国でワシの言う事は絶対!従わねば無理矢理にでも盾の勇者の奴隷を没収するまでだ」
「……チッ!」
「勝負なんてする必要ありません!私は――ふむぅ!」
「ラフタリアちゃーーふむぅ!」
その時ラフタリアとリファナが騒がないように口に布を巻かれて黙らされる。
「ツヴァイト・サンダーボルト」
「「「ぐはぁあああああ!」」」
リファナたちを取り巻く兵士に向けて魔法を放つ。その場にいた兵士は全員痺れその場に倒れた。
「オイオイオーイ、何勝手な事してくれちゃってんのー?」
「ぬ!何をする!?」
俺は人混みをかき分けてクズと尚文たちの前に出る。するとクズが俺に向かってそう叫ぶ。
「何って、お前らが俺の所有物に勝手に手を出そうとしたからだろ?」
「所有物って……リファナちゃんたちは物じゃないんだぞ!」
元康が俺の言い分に対して激昂する。
別に間違ったことは言ってないだろ。
「んなことより、決闘だって?」
俺は尚文の方を向いてそう言う。
「あ、ああ。このバカがふっかけてきやがった」
尚文が元康を指差しながらそう言う。
騒ぎは全部聞いていたからな。何があったか、つーか何が起こるか知ってるわけだが。
「ふーん、なら俺が尚文の代わりに決闘を受けてやるよ」
俺は元康らに向けてそう宣言する。
「なぜ書物が盾とモトヤス殿の決闘に混じるのじゃ?許可など出せるはずも無い!」
「そうだ!これは俺と尚文の決闘だ!勝手に混ざるな!」
やり直しで聞いたことあるセリフだな。立ち位置的に俺が元康で元康が樹の周回だったかな。
まぁそんなことはどうでもいい。ここは何としても俺が元康と決闘するように持っていかないとな。
「んー、俺は別にそれで構わないけどさぁ、お前が尚文に勝ったところで解放されるのはラフタリアだけだぞ?尚文も言ってたがリファナたちは俺の所有物であって、尚文に解放させる権利はないぞ?」
そう言うと元康があからさまに不快な表情をする。また所有物発言に反応したのか?それとも解放されないことに腹を立てているのか?
「だから、俺が代わりに決闘してやるって言ってんだよ。それでお前が勝ちゃリファナたちだけでなくラフタリアも解放してやるぜ?」
「おい刹那!何勝手なことを言ってるんだ!」
尚文が俺に向かって叫ぶ。大丈夫だ、俺はこんなやつに負けるわけない。
「どーすんだ?別に俺はいいんだぜ?ラフタリアだけを奴隷から解放して、他は
「きゃっ!せ、せつな様?」
俺は出来る限り悪人面をして、リファナの首に腕を回して近くへと抱き寄せる。
「おーい、アイラ、コハクー!」
いまだにこちらの騒動に気がついてない二人を呼ぶと、二人はあっと思い出したかのような反応をすると急いでこちらへとやってきた。
「ご主人様、ごめんなさいなのです!」
「ご主人……ごめん、なさい」
俺の元へと駆けつけてきた二人はあからさまに落ち込んだ様子で謝罪をする。落ち込んでるのも可愛ないなぁ、このまま抱き上げて撫で回したい。
けど今はそれどころじゃないですぞ。
「気にするな。それよりも周囲を警戒しろ。ラフタリアとリファナのことを全力で守れ」
「「はい(なのです)」」
二人はすぐさまリファナとラフタリアの前に立ち、周囲を警戒する。ほほう、これもこれで可愛いですな。
「それとさぁ、俺が所有してる奴隷はコイツらだけじゃないぜ?」
「何?」
俺は二イィと悪人ヅラで笑いながらステータス画面を呼び出して操作する。
すると遠くの方で皿が割れる音と悲鳴が聞こえてきた。
「うぐ!ぐ、うぅぅ!イタイイタイ!」
「ロ、ローゼ!?」
悲鳴がした方を見るとローゼが胸を押さえて苦しんでいる。その側にはクルーズがどうしたのかと心配している。
尚文たちも含め、観衆の注目はそちらへと向き何が起こったのかわからないといった表情をしている。
何が起こったか、そんなの簡単だ。元康の怒りを刺激するためにローゼの奴隷紋を発動させたのだ。
「元康よぉ、俺が所有してるのは亜人だけじゃなく、人間の奴隷も連れているんだぜ?それもあーんな可愛い女の子を無理やりに従わせてるんだぜ?」
そう元康を挑発するように言うと、勢いよく俺の方を向き激昂した。
「き、きさま!この人でなしが!」
「もしお前が尚文に勝ったとしても、解放されるのはラフタリアだけで、リファナやあそこにいる可愛い
大声でそう言い放つとクルーズは俺に気が付き、何か言いたげな様子で俺を睨みつける。
「早く決めろよ。どーするんだ、ヤリチン勇者サマよぉ」
「誰がヤリチンだ!お前に勝てばリファナちゃんたちを解放するんだな!?」
「だからそうだと言っているだろう?」
「わかった!お前と決闘してやるよ!刹那、今言ったことを忘れるな!」
元康が俺を指差して大声で叫ぶ。
「ああ、わかってるさ。ここにいる全員が証人なんだ、嘘のつきようがないだろう?」
「ぐぬ、モトヤス殿がそう言うのなら仕方あるまい。城の庭で書物とモトヤス殿の決闘を開催する!」
クズはそう宣言して、周囲は各々移動をし始める。兵士はというと俺たちを逃さないように取り囲んでいるが、押さえつけられないことを察したのかそれ以上近寄っては来なかった。
「せつな様、大丈夫なのですか?」
「全く問題ない」
「問題しかないだろ!刹那、勝手なことを言いやがって、もし負けたらどうするつもりだ」
尚文が俺に対して怒り口調でそう言う。尚文からしたら勝手に自分のものをかけられたようなものだからな。
「心配するな、負けるつもりはない。お前がやるより俺が勝負したほうがいいだろう?」
「それは……そうだが」
「それにお前だけじゃなく、俺も個人的にアイツに恨みがあるからな」
俺の手塩にかけて育てた娘たちに対して色目を使ってきたのだからな!愛の狩人でない貴様には報いを与えねばなりませんな!
「……わかった。お前がそう言うのなら今回は信じよう。負けたら二度とお前を信用しないからな」
「ああ。リファナたちのことを頼んだぞ」
「ご主人様……」
「ご主人、頑張って」
二人が心配そうに俺を応援してくれるのですぞ。おかげで俺は負ける気がしませんな!
「ありがとうな二人とも、では行ってくるのですぞ!」
俺は二人を撫でたあと尚文らと別れ、すぐに城の庭へと移動を開始した。
次回、刹那のチートスキルが発露します