書物の勇者?何だそれ   作:名無しし

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大事な人

 

食事を終えた俺達、俺は部屋に戻る前に尚文に声をかける。

 

「尚文、少しいいか?」

 

「何だ?眠いから明日じゃダメか?」

 

確かに尚文に言われた通り俺も食事を終えてから途端に眠くなった。

食事に睡眠薬でも盛られてたか?

 

「そんなに時間はとらないさ、ちょっとこっちに来てくれ」

 

「ああわかった」

 

俺はそれとなく尚文を食堂近くにあったバルコニーへと連れ出した。

そこからは満天の星空が広がっており思わず興奮した。

 

「おお、キレーな星空だな」

 

見たことない星座や星々に改めて本当に異世界に来たのだと実感する。

 

「それで、用件は何?」

 

やや不機嫌そうに尚文が言う、眠いのだろう。

 

「ちょっとな、大学生同士で話がしたくてね」

 

「それなら元康もじゃないのか?呼ばなくていいのか?」

 

「アイツはダメだ、あんなリア充を同じ大学生としてカウントしたくない」

 

一応本音ではあるがそれじゃない、それとなく尚文の味方でいることを伝えるためだ。

 

「確かにそうだな。二股して刺されるなんて、本当にそんなことがあるなんてな」

 

「全くだな」

 

俺と尚文は二人して元康の不幸を笑った。

 

「っと、そういえば用件を言ってなかったな」

 

「ああそうだったな」

 

さて、ここで安易に強姦魔の濡れ衣を着せられると言っても信じないだろうし、だからと言って味方でいると直で伝えても怪しまれる。

なので嘘を交えて味方でいることを言うことにしよう。

 

「…俺さ、元の世界に親友がいたんだよ。小さい頃から毎日バカやったり、困った時は助け合ったりした兄弟同然みたいな奴がさ」

 

「うん」

 

もちろん嘘、小中高とボッチを貫いてきた俺にそんな奴がいるわけがない。

 

「高校卒業してからは別々になっちまったけど今日、召喚されて隣にいたお前を見てビックリしたんだよ」

 

「その人って俺そっくりだとか?」

 

「ああ、今こうして見ても見た目が瓜二つで違うなんて信じられないくらいだ」

 

「へー、その人って今何してるんだ?」

 

きた、そう聞かれるのを待っていた。

 

「……高校を卒業して、すぐに事故に遭って…」

 

俺は目に涙を浮かべながらそう答える。

実際にそんなことがあったわけじゃないから別の悲しいことを思い出して涙を流す。

 

「あ、すまない……」

 

「いいさ、だからさ尚文。俺はアイツにはたくさん助けてもらった。その恩を、代わりと言ってはなんだがお前で返させてくれ」

 

「えっ、で、でも……」

 

「頼むよ、お前を信じさせてくれ。お前の、味方でいさせてほしい」

 

「っ、わ、わかったよ…俺が、その人の代わりになれるとは思えないけどそこまで言うなら…」

 

「ありがとう尚文、何があっても俺はお前の味方だ」

 

俺は尚文に手を差し出した。

 

「えっと、なんていうかとりあえずよろしく…」

 

尚文が俺の手を取り俺達は握手を交わした。

 

 

 

「勇者様のご来場」

 

翌朝、朝食を終えてクズからの呼び出しで俺たちは謁見の間に集まった。

 

さて、ここからが問題だ。原作じゃ盾の勇者である尚文にだけ露骨に差別されて仲間が集まらないなんてことになったが、今回は俺というイレギュラーな存在がいる。俺も0人で差別を受けるということもあり得ない話ではない。

 

謁見の間の扉が開くとそこには冒険者と思しき姿が多々あった。魔法使いや剣士を始め、武闘家や騎士がいた。

 

数を数えると全部で十四人、原作より二人多いな。

 

「十四人?五人で分けるにしても一人少なくないか?」

 

錬の意見に俺以外の三人が頷く、俺がいるから急遽数合わせで募ろうとしたが一人間に合わなかったというところか?

 

「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者がいるようじゃ」

 

それは盾以外の勇者のことか?そう言いたかったがそんなことしたら何か知っていると思われて俺の身も危険だ。

 

「さあ未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」

 

どう考えても普通はこっちが選ぶものだろうと思うのだが、尚文たちも疑問を抱いているように見える。

そんなこんなで募ったという連中(笑)はそれぞれこんな風に並んだ。

 

錬、5人

樹、3人

元康、4人

尚文、0人

俺、2人

 

ふむ、誰もいない尚文を除いて仲間は一番少ないが俺にも仕えたいという奴がいるとはな。

 

俺の後ろに並んだ冒険者は片方が剣士の男、もう一人は魔法使いの格好した女だ。

 

少なくとも原作で見たことはないな、数合わせで募った連中だろうか。

 

そんなことを考えていると尚文がクズに異議を唱えた。

 

「ちょっと王様!」

 

「う、うむ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」

 

「人望がありませんな」

 

くだらねー茶番だな。内心で鼻ほじりながら呆れたように俺はクズと大臣の話を聞く。

 

するとローブを着た男がクズの前に現れて内緒話をする。

 

はいはい盾の勇者はこの世界の理に疎い、だろ?

 

案の定クズはそう言って尚文は錬に対して仲間が多いことを指摘した。

 

「俺は連むのが嫌いなんだ。付いてこれない奴は置いていくぞ」

 

むしろお前は置いていくだろう、このコミュ障ボッチの中二病!

 

「刹那、どう思うよ!これって酷くないか」

 

「そうだな……理に疎いってのならアンタらが教えればいい話じゃないのか?」

 

「けどよ、実際に尚文は似たゲームをやったことがないんだぜ?ゲーム初心者について行こうなんて思う奴いないと思うけどな」

 

元康が小馬鹿にしたような口調でそう言う。

女ばかりはべらせやがって、いい気になってんじゃねえぞリア充!

 

「均等に分けようにも…無理矢理では士気に関わりそうですしね」

 

「だからって、俺は一人で旅立てってか!?」

 

「あ、勇者様。私は盾の勇者様の下へ行ってもいいですよ」

 

はい来ましたヴィッチ。

元康の仲間になりたがっていた赤髪の女、ヴィッチが手をあげた。

 

「良いのか?」

 

「はい」

 

やり直しの元康の気持ちがすげーわかる。正体知ってると殺したくなるな、けどそんなことしたら面倒くさいことになる。

明日、冤罪にかけられた時に助けてやるから今は我慢してくれ尚文。

 

「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらぬか?」

 

当然ながら誰も手をあげない。

クズが嘆くように溜息をついて言った。

 

「仕方あるまい、ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ。月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」

 

「は、はい!」

 

俺たちの前に五つの金袋が配られた。

 

「ナオフミ殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚用意した。これで装備を整えて旅立つがよい」

 

「「「「「は!」」」」」

 

それぞれ敬礼をして謁見を終えた。

 


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