自分の宿に戻るとまだ樹の仲間は騒いでおり、樹は端の方で一人で飲んでいた。
「おーい、樹」
「刹那さん、どこか行っていたんです?」
「夜風に当たっててな、てかお前は何で一人で飲んでいるんだ?」
「皆さん、すっかり酔ってしまったようで…テンションについていけないというか……」
そういえば樹はまだ高校生だったよな、酔っ払いのノリとか慣れていないんだろうな。
「あーわかる、俺も最初は酒の席はそんな感じだったよ。徐々に慣れていくさ」
「刹那さんはよくこういう所に来るんですか?」
「いや?サークルの打ち上げでしか行ったことはないが、いつも大体こんな感じだ」
ぶっちゃけサークルでもぼっちだけど楽しく飲みたいからな。
それにしても酔っ払いのテンションとやらはどの世界でも変わらないものだな。
樹の仲間のマルドだったか、アイツはガハハと笑いながら樹の凄さを語っている。今日初めて会ったのにそこまで語れることあるのかよ。
他の連中も似たり寄ったりで泣き上戸の奴、絡み酒の奴、様々だ。
「サークルですか、刹那さんはどこに所属していたのですか?」
「俺はイラスト系のサークルに入っていた。皆で絵を描いたり、同人即売会でイラスト本を出してたな。樹は部活とかやってるのか?」
「僕はーー」
この後、色々と楽しく雑談して親睦を深めた。
できれば味方に引き入れたいところだが、やり直しみたいにヴィッチが盗むところを見せて未来の話をするのにも色々ともう遅い。
それに未来の話といっても、俺はループしているわけでもないし、転移スキルを持ってないから錬を連れてくることもできないし、そもそも元康を信じさせるのは困難だ。
「おや、まだ残ってたのか」
大分夜も更けて、樹や仲間も各々の部屋に戻って行く頃、俺は自分の仲間の元へと戻った。
「ええ、セツナ様を残して寝るだなんてそんなことできませんよ」
クルトは真面目だなぁ、ローゼはというと疲れたのか酔ったのか知らないが机に突っ伏してスヤスヤと寝息を立てて気持ち良さそうに眠っていた。
「待たせてしまって悪いな、もう部屋に戻ろうか」
「そうですね、ローゼは自分が連れて行きます」
「そう、じゃおやすみ」
そう言って俺は自分の部屋へと戻った。
ーーーーーーーーー
「ふわ〜あ、何だこんな朝早くに……」
俺は兵士に呼び出され城へ向かっていた。
まあ何があるのかは分かっているが、もう少し寝ていたかった。
謁見の間に着くと、そこにはくさりかたびらを着た元康と、泣いているヴィッチ、そして錬と樹がいた。
ふむ、とりあえず俺が冤罪にかけられることはないようだな。
「刹那も来たか、一体何があったんだ?」
練が元康とヴィッチに向かってそう聞く。
「ひぐ…実は……」
「マイン、俺が代わりに説明しよう」
元康はヴィッチを宥め、代わりに何があったかを説明した。酒に酔った尚文がヴィッチに無理やり迫って強姦しようとしたと。
「なんだと!本当に仲間にそんな事をしたのか?」
「酷い話ですね…無理やり仲間に手を出そうとするなんて…しかも逆らえない様にとは…」
「…マッタクダナー」
全く、本当にくだらないな。
俺は内心呆れながら、それを表に出さないように尚文が連れて来られるのを待った。
やがてインナー姿の尚文が兵士に連行されてきた。
「マイン!」
尚文がヴィッチに向かって叫ぶ。
ヴィッチは怖がるかのように元康の後ろへと隠れた。
それを俺は見ていたがヴィッチはほくそ笑んでいた。
「な、なんだよ。その態度…」
「本当に身に覚えがないのか?」
「身に覚えってなに…って、あー!」
尚文が元康の装備を見て叫ぶ。
「お前が枕荒らしだったのか!」
「誰が枕荒らしだ!こんな外道な奴だったとは思いもしなかったぞ!」
「外道?何のことだ?」
尚文が首を傾げる。
冤罪なのだから知らなくて当然だろう。そろそろタイミング的に助けるために準備をしよう。
俺はこっそりと周りにバレないように魔法を構築する。初級魔法しか使えないし、兵士を吹き飛ばせはしないだろうがダメージは与えられるだろう。
てかこの厚さの書物ならぶん投げたり殴りつければ割と効くんじゃ?
『専用武器』での攻撃なら禁則事項にも触れないはずだ。
「そうだ!王様!俺、枕荒らし、寝込みに全財産と盾以外の装備品を全部盗まれてしまいました! どうか犯人を捕まえてください」
すまん、財産は俺が持っている。あとで返すから。
「黙れ外道!」
うるせーなクズ、お前が黙れよ。
それでも英知の賢王、杖の勇者なのか?あ?
すると尚文は助けを求めるような視線で俺の方を見る。
一昨日の夜、味方でいると言ったし助けてくれると思ったのだろう。
昨日、俺は尚文を助けるために色々と動いたんだ。当然助けるさ。
尚文に対して俺はフッと同情的な視線を送るも、その前にクズが怒鳴りそれを遮った。
「嫌がる我が国民に性行為を強要するとは許されざる蛮行、勇者でなければ即刻処刑物だ!」
「だから誤解だって言ってるじゃないですか!俺はやってない!」
ここで俺は尚文へと近づいて行き、兵士に少しでもダメージが与えられるようにする。
「お前!まさか支度金と装備が目当てで有らぬ罪を擦り付けたんだな!」
尚文は俺になんか目もくれずヴィッチの方に向かって叫ぶ。俺が近づいたからか、兵士は顔でも踏ませるつもりなのか尚文をさらに押さえつけた。
「ふざけんじゃねえ!どうせ最初から俺の金が目当てだったんだろ。仲間の装備を行き渡らせる為に打ち合わせしたんだ!」
「異世界に来て、仲間にそんな事をするなんてクズだな」
「そうですね。僕も同情の余地は無いと思います」
ここだ!
やり直しの元康みたいに、俺はこのタイミングを狙って兵士共に向けて魔法を一斉照射する。
「ファスト・サンダー!」
「ぐはぁぁああ!」
尚文を取り囲んでいた兵士共は痺れて、全員その場に倒れた。
「え……?え?」
「セツナ殿!?」
クズは唖然とした表情で俺を見る。尚文も困惑しているようだ。
「…くだらねえ茶番してんじゃねえよ、クズ」
「クズ!?」
「お前らも、よく考えてみろよ。本当に強姦未遂をした奴がこんな姿で連れて来られるのか?」
俺が三勇者に対してそう言うと、今まで唖然としていた元康が俺を糾弾した。
「な、何であろうとマインが泣いているんだぞ!お前はそれを庇うと言うのか!?」
ヴィッチの涙ごときに騙されやがって、そのまま道化を演じてろ。
「ホシモリ殿、一体どうしたと言うのじゃ。そこの盾が仲間を強姦しようとしたのに擁護しようと言うのですかな?幾ら心の知れた異世界人同士と言えど庇って良い事では無いのじゃ」
「刹那さん、貴方がそんなことをする人だなんて…見損ないましたよ」
そうだな、確かに昨夜あれだけ話をした仲というのに。
錬は、ただ俺たちを睨んでいるだけだな。何か言ったらどうなんだ?
「行くぞ、尚文」
「待て!」
俺が尚文を連れて謁見の間を出ようとすると、元康が大声で俺たちを止めようとする。
「何だ、まだ何かあるのか?お前も痺れさせるぞ?」
ギロッと殺意を込めた目で元康を睨み付けるとたじろいだ。