GBDEX-DW   作:顔剥ぎの屠竜刀

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第三話/レオン症候群

 

 

アイデンティティーに憧れて

でもまた失うのが怖くって

大体そう何時だって

僕ら一つだけの明日探してく

 

 

ーーーーー

 

 

「……勝った。

思ったより上手く動かせたし、案外やれるもんだな」

 

大画面テレビに映る自機の後ろ姿と、勝利を告げる電子音声。

リザルト画面が先程のホーム画面へと切り替わり、燈真はコントローラーを床に置いた。

 

久々に触ったものの、上手くやれたようだ。

記憶は薄れても身体は憶えていたのだろうか。

 

「……カジュアルマッチ、戦績は付かないと言えどAランクの人に勝っちゃうなんて……凄いよ」

 

コントローラーを置き、ペットボトルへと手を伸ばす燈真の隣で、輝はポツリ、ポツリと呟く様に声を出した。

その表情は驚きの一言で表現出来るモノで、感嘆と畏怖、その両方が入り混じった息を吐く。

 

コレが所謂ジャイアントキリングと言うヤツか、そんな言葉が輝の脳裏に走る。

たったの一発で街中を火の海に変えた砲撃の威力も、有り得ない程の速度を出した機体性能も、輝は今まで見た事が無かったのだ。

 

そして何より特出すべきなのはそのセンス。

今回のバトルフィールドは市街地で、基本的に射線は通り難い。

 

ましてや今回の相手はAクラス、輝ならば攻撃を当てる事すら難しかっただろう。

しかし、燈真は久々の戦闘にてソレを成したのだ。

 

見え難いなら見える所に行けば良い。

超高高度まで昇れば、建造物の影も殆ど関係なかった。

 

屋内に入らない限りは敵の姿は“丸見え”なのだ。

 

(普通は思いつかないよ……)

 

ペットボトルを煽り、炭酸水を飲む燈真が輝の視線に気付いた。

 

「腕ならし終わったし、対戦する?」

 

ボトルの蓋を閉め、燈真は声を掛ける。

以前兄にやらされていた時も、兄と対戦した覚えがあった。

 

輝の答えを待たず、コントローラーを片手で動かし、カーソルを“ローカルマッチ”と記されたアイコンに合わせる。

一緒にやろう、と声を掛けて来たのだから、恐らく対戦したかった筈だ。

 

そんな予想に反し、輝は首を横に振る。

 

「いや、対戦も出来るけど、タッグマッチがしたいなって」

 

「タッグマッチ……?」

 

「そう、タッグマッチ。

 前作ABから一番大きく変わったのが2on2のタッグマッチが追加された事なんだ。

 デュアルウォリアー、二重の、二人の戦士。

 タイトル通り、今作の一番のウリはタッグマッチなんだよ」

 

カーソルがローカルマッチではなくタッグマッチを選択。

対戦でも良かったのだが、タッグマッチがしたいとの申し出を断る理由もなく、燈真は頷いた。

 

「四桁のパスワード、どうしよう?」

 

 「んー、0921で」

 

 「誕生日かな?

 咄嗟に四桁の数字を問われると、大体の人が誕生日を答えるんだよ」

 

パソコンデスクの前に座する輝の背から、視線を画面へと移す。

パスワードを打ち込み、対戦相手を自動で探す。

 

ランクマッチは自分と同ランク帯のマッチングになるが、タッグは高い方のランクに合わせたマッチングになるらしい。

燈真は最下層のFだが、輝はCランク、となればマッチするのはCランクのプレイヤーになるのだろう。

 

ーーーーー

 

黒犬弐號と名付けられた機体が、夕陽に染まる廃墟を駆ける。

鉄血のオルフェンズに登場する量産機

、獅電のカスタム機であるその機体を操るのは輝だ。

 

GBDEX-DW、前身であるAB……アッセンブルバトラーに出会ったのは、中学最後のクリスマスだった。

偶然にもネット配信されていた、全国大会の決勝戦。

 

生中継されていたソレに、プレイヤーとして出ていたのは年の離れた従兄弟。

心優しい従兄弟の、普段は見せない姿に心が踊った。

 

今こうやって戦場を駆けている機体も、彼から譲って貰った物だ。

地上戦、悪路走行に特化した機体は瓦礫を踏みしめ、大きく跳ぶ。

 

(僕もあの人みたいになりたい、そう思った。

 だから、負け越してても戦ってるんだ!)

 

輝の意気込みと共に、黒犬が引き金を絞る。

メインウェポンの大型ショットガンが銃口から散弾を吐き出した。

 

射程は短く、範囲は広く。

散弾が橙に照らされる廃ビルの壁面を穿った。

 

マッチングしたのは同じCランクのタッグで、両機体共に汎用ながらも高性能なガンダムタイプ。

獅電の頭部をEz-8のモノに変えた“なんちゃって”とは違い、此方の銃撃を回避したのは鮮やかなトリコロールに染まるれっきとした“ガンダム”

 

ショットガンの射程圏から逃れ、高層ビルを背に飛ぶのは衝撃の名を冠する主人公機。

赤、白、青の配色の機体はその背に赤き翼を背負っていた。

 

(デスティニーインパルス、カッコいい……)

 

黒犬の視線の先、浮遊するヒロイックな機影に輝は心の中で感嘆の声を漏らした。

しかし今は戦いの場、見とれている暇は無い。

 

デスティニーインパルスが巨砲を構え、一制射。

光条が黒犬を掠め、背後のビルを貫く。

 

破壊音を後方に残し、跳躍していた黒犬は別のビルの壁面に着地。

同時に足先と踵に組み込まれているホイールが急速回転し、一拍の停滞の後、重力に逆らい黒犬は壁面を走り出した。

 

「いっけえええ!」

 

輝は思わず声を上げる。

地上戦を得意とする機体での対空戦、それを成すのはその特徴的な脚部だ。

 

壁面を駆ける黒犬は再び銃口を敵機へ向け、引き金を絞る。

銃声と共に橙時の空を駆け抜ける散弾は、再び空を切った。

 

しかし、それは囮だ。

散弾の射線とその広い射角から逃れる為に大きく水平移動したデスティニーインパルスへ、その移動先を読んで放たれた四発のミサイルが迫る。

 

緩やかに、僅かに弧を描く軌道で弾頭が敵機へと迫り……着弾。

タイムラグはおかずに爆発、四つの火

球が連なって広がった。

 

その様子を尻目に、ビルを登り切った黒犬はその屋上にて空になったミサイルランチャーを投げ捨てる。

視線の先には爆煙から姿を現す赤き大翼。

 

フェイズシフト装甲、実弾兵器のダメージをカットするパッシブアビリティにより、デスティニーインパルスに此方からのダメージは殆ど通らない。

有効なのはレーザーやビームと言った光学兵器だが、黒犬の武装は全て実弾兵器である。

 

更に、飛行能力を有さない黒犬とは反対にデスティニーインパルスはその翼を持って空を自由に翔事が出来る。

即ち相性は最悪、遭遇した時点で此方の不利は決まっていたのだ。

 

(だけど、負けるつもりはないよ!)

 

タッグマッチと言えど、二機一組の状態でのスタートではない。

四機がそれぞれ戦場のランダムな位置に配置されてからの試合開始になる。

 

相手より先に相方と合流する事、そして相手の合流を阻止する事がタッグマッチに置いては重要である。

そして、合流するまでに会敵した場合はどれだけ敵機を“削れるか”もしくは“削られないか”も大事となってくるのだ。

 

煙を突き抜け、デスティニーインパルスが大剣を引き抜き高速飛翔……する前に、黒犬もまた、両手に近接武器を握り締めて屋上から跳んだ。

ショットガンの代わりに握るのは、柄が恐ろしく長い斧。

 

斧と言えどもその刃は縦に長く、刀身と呼んでも良い程だった。

その青銀に輝く刃を振りかざす黒犬が狙うのは、オブジェクトダメージ。

 

戦場にある建造物等と言ったオブジェクトには当たり判定があり、衝突すればダメージを受ける仕様となっている。

そして、そのダメージはアビリティやステータスに影響されないモノなのだ。

 

衝撃は同時。

剣による刺突が黒犬の右脇腹を貫き、刃斧がデスティニーインパルスの左肩の付け根に食い込んだ。

 

しかし、飛翔の勢いの乗った大剣の突き上げよりも、刃斧の叩き付けの方が

重力落下と機体重量も合わさり、勢いとしては強い。

一瞬の拮抗の後に、二機はもつれる様に、錐揉み回転しながら落下していく。

 

そして、地表へと墜落。

砂塵が舞い上がり、割れた装甲片が舞い散った。

 

「やった……かな!?」

 

パソコンのモニター越し、自機の姿は砂塵で見えないが、各種ステータスを見るに此方へオブジェクトダメージは入っていない。

輝が機体を後退させようとコントローラーを握り直したその時。

 

「あっ!?」

 

砂塵を突き破り、光の翼が大きく羽ばたいた。

光翼……それはデスティニーインパルスに搭載されている、ヴォワチュール・リュミエールを転利用した高速機動を可能としている状態を示す印し。

 

左右に残光が流れ、スリップストームにより砂塵が広がる。

視界が砂色に染まり、それを嫌った黒犬は後退。

 

足裏、爪先と踵に埋め込まれているホイールが音を立てて急速回転。

刃斧を腰だめに構える黒犬が、視界を埋める砂塵から距離を取った。

 

しかし、砂塵を突き破り輝く翼はその場から動く気配はない。

だが、後退した黒犬の更に後方からは一条の光が放たれており、輝はそれに気付けなかった。

 

「どう言う、事!?」

 

鳴り響くダメージアラート。

ナノラミネートコーティングを施された機体と言えど、光学兵器によるダメージを軽減は出来ても無効化は出来ない。

 

光条が黒犬の左肩を貫き、爆発。

左腕が肩口から千切れ、砂礫と共に転がっていく。

 

それを視界の端に収めながら、振り返った黒犬の目に映るのは、大翼……デスティニーシルエット、バックパックを外し、所謂素体の状態で大砲を投げ捨てる敵機の姿。

 

翼を捨て、その身を鮮やかなトリコロールカラーから鉄灰色に変えたインパルスガンダム。

敵は揉み合い、落下した後にバックパックをパージし、遠隔起動させ囮とさせたのだ。

 

大きく広がり光り輝く翼は目立ち、砂塵の中から噴出しているとは言えども、視線を誘導するには十分過ぎた。

そして、あえて装甲への通電……フェイズシフトを切り、機体カラーを鉄灰色に変えたのは周囲の廃墟群に紛れるカモフラージュの為。

 

(避け、れない!!)

 

気付いた頃には時既に遅し。

バックパックを捨てたとは言え、推進機器を全開にした敵機は既に眼前へと迫っており、振りかざされた大剣……レーザー対艦刀の光刃が煌めいた。

 

瞬間、赤と金に彩られた一条の黒光が降り注いだ。

ビルとビルの隙間、上空から注がれた一筋の光は鉄灰色の機体の胸元を、半ば砂漠となりつつあった地表をも貫き、一拍の間を置いてインパルスが火球となって大爆発を起こした。

 

「ごめん、ちょっと手間取った。

 マップ見て探せば良かったのに、ずっと画面見ててさ。

 七星君見付けるの遅くなった」

 

更に、地表からも火柱が吹き上がり、周囲へと黒炎と共に烈風が吹き荒れる。

勿論、爆風と黒炎を間近で受けた黒犬も吹き飛び、二、三度程地面を転がっていく。

 

オブジェクトダメージと黒炎によるエフェクトダメージが黒犬のAPを削るも、輝の視線は自機のステータスから燃え盛る黒炎へと向けられていた。

噴き出す火柱を背に、空から降り立つのは片翼の機影。

 

トライバル柄の紅炎があしらわれた翼を広げ、デミ・ウィングが左手に持っていた何か……それは黒く煤汚れたガンダムの頭、もう一機のデスティニーインパルスの頭を無造作に放り捨てる。

 

捨てられた頭部は乾いた音を立てて転がり、その音に重なって試合の終わり、電子音声が勝者の名を告げた。

 

「おし、俺達の勝ちだな」

 

その声を聞き、燈真は薄く笑った、否、頬を歪めた。

その横顔を見つめる輝は、動けなかった。

 

 

 

 

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