GBDEX-DW   作:顔剥ぎの屠竜刀

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第四話/濃藍

 

 

解りあいたいから傷付けてしまう

他人よりも君が遠くなる

誰よりも側に居たいだけなのに

私はいつも迷子になる

 

 

ーーーーー

 

気が付けば壁掛け時計の針は19時を指していた。

開け放した窓からは、虫の音と共に涼しげな夜気が入って来ている。

 

「あー、時間そろそろまずそうじゃない?」

 

幾度目かのリザルト画面から目を離し、燈真は口を開いた。

初のタッグマッチを勝利で飾って以降、殆ど休憩もせずに輝と共にゲームに没頭していたのだが……

 

「あ、ホントだ。

 そろそろお開きにした方が良いかな?」

 

気付けば日も落ちており、窓の外では月がその姿を現すしていた。

時計の隣、乱雑に詰まれた様でどこか規則性を感じる本棚に一瞬だけ目が行くが、視線を戻した燈真は頷く。

 

「ずっとゲームしてたら疲れてきたし、ランク?七星君もAに上がったし終わるには丁度良いんじゃないかと思ってさ」

 

全戦全勝、最後の試合を終えた時点でゲーム内での輝のランクはCからAにまで上がっており、キリが良いと言えばその通りだろう。

ログアウトの手順を手早く済ませ、互いにパソコンやゲームの電源を切る。

 

「久々にゲームやって楽しかった、ありがとう」

 

階段を下り、玄関先で燈真は輝へ礼を言った。

 

「ううん、僕の方こそありがとう。

 誰かと一緒にこのDWやるのは初めてだったからとっても楽しかったよ!」

 

返す輝が、律儀にもキノコカットを揺らしてお辞儀をする。

その様子に燈真は頷き、最後に軽く手を振って歩き出した。

 

ーーーーー

 

履き慣れたバスケットシューズがアーケードを進む。

早い所は既に店じまいを終え、所々でシャッターの閉まる音が響いていた。

 

行きは輝に連れられだったが、帰りは燈真独りだ。

駅までの道のりは不安だったが、意外にも迷う事は無かった。

 

商店街のアーケードを抜け、駅前の広場へと出ればもう迷う事は無い。

駅へ向かう前にコンビニへ寄り、ミネラルウォーターを買う。

 

月が昇る夜、涼しいと言えど喉は乾いていた。

広場のベンチへ腰を下ろし、燈真はペットボトルの栓を捻って中身を煽る。

 

ボトルの中で揺れる水が、街灯に照らされて煌めいた。

その様子を楽しむように燈真はボトルを小さく揺らす。

 

その時だった、自転車のベルが鳴ったのは。

 

「逆神君……?」

 

ベルの音とは真逆のトーンで掛けられる声。

ペットボトルから視線を移した先には、自転車に跨がる少女の姿。

 

「……誰だっけ、昼休み一緒だった人?」

 

「あかりだよ、隣のクラスの黒野あかり」

 

少女はほんの少しだけ眉根を寄せ、自らの名を告げた。

昼休みに会った際、ちゃんと名乗って少しは話もしたのだが、燈真は覚えていない様にも見える。

 

その事にあかりは眉根を寄せたのだが、燈真は気付けない。

自転車に乗り、サドルに跨がるあかりの長く伸びた足が薄闇に映えた。

 

膝上丈のスカートの中が見えそうな事に気付き、燈真は視線を逸らす。

 

「もう夜だけど、バイト終わりとかだったの?」

 

そんな燈真の様子に気付かず、あかりは声を掛けた。

 

「……いや、遊んでた帰り。

 七星君に誘われてさ、ゲームしてたんだよ」

 

「ゲーム?家上がったの?」

 

「そう、一緒に帰る途中に良かったら遊ばない?って」

 

初対面ながら距離感と言うモノを感じさせず、寧ろ飛び越える様に輝は近付いてくる。

転校初日のクラスメートを家へ呼び、遊ぼうとする人は中々居ないだろう。

 

俯く燈真は、別の意味で眉根を寄せたあかりの表情に気付かない、否、気付けない。

 

「……あの子、輝なんだけど。

 ちょっと変わった子だけど仲良くしてくれたら嬉しい。

 友達を……誰かを家に上げるなんてここしばらくなかったし、逆神君の事をよっぽど気に入ったんだと思う」

 

何やら意味深長なあかりの言葉に、思わず燈真は顔を上げた。

しかし、街灯を背にするあかりの表情は、逆光によって見えない。

 

「確かに変わってる気はするけど、変な奴じゃなさそうだし多分大丈夫

 まぁ、喧嘩しないようにするよ」

 

黒塗りとまでは行かないが、陰って見えないその表情を探る事は叶わず、燈真は再び視線をあかりの足元へ落とす。

 

「そっちは部活帰り?」

 

続けるには難しそうな話題を変える為、燈真は問うた。

あかりの足元、ペダルを踏む靴は偶然にも燈真の履くバッシュと色違いの物だった。

 

首もとにはマフラータオル、背負うのは流行っていた箱型のリュック。

問い掛けたものの、おそらく答えは

“アタリ”だろうし、寧ろ問い掛けた後すぐに、昼間に“朝練が~”と言っていた事を思い出した。

 

「そうだよ、明日からテスト準備期間で暫く部活動は休止だから、練習の後のミーティングで時間掛かったの。」

 

しかし、答えの中には初耳な情報もあり、燈真は思わず聞き返す。

 

「ちょっと待って、明日からテスト一週間前的な感じ?

 担任なにも教えてくれなかったんだけど」

 

中間テストには遅いようで、かと言って期末テストには早い時期だ。

学校が変わればテストの時期やその他諸々も違うのだろうか、不親切な担任の顔が浮かぶものの、その顔はぼやけていた。

 

「あー、そっちの担任無気力気味だからね、あんまり評判良くないし。

 輝もゲームに夢中で話さなかったんだろうね、まぁ……あの子運動ダメダメだけどその分、勉強出来るしテスト勉強とかしなくても大丈夫なタイプだから」

 

忘れていたのか面倒で言わなかったのか、担任は恐らく前者だと思いたい所だ。

あかりの言葉に礼を返し、燈真は立ち上げる。

 

「期末テストが終わってちょっとすると終業式で、その日は近くの神社でお祭りがあるの。」

 

鞄のショルダーベルトをかけ直しながら、燈真は“へぇ”と返事をする。

引っ越して来たばかりで土地勘の無い燈真にとっては、ソレ以上の返事は出来なかった。

 

「興味が無い訳じゃないけど、暇なら覗いて見る」

 

その為、続く言葉も“それなり”のモノにしかならなかったが、無難ではあるだろう。

これ以上の会話も続ける理由は無いだろうと、燈真は軽く会釈を投げ、歩き出そうとした。

 

しかし、そんな燈真へあかりは再び声を掛ける。

 

「……昼間はごめんなさい。

 ピアスの事、聞かなきゃよかったかなと思って。

 蒸し返す訳じゃないけど、あの一瞬苛々してたみたいで、謝りたくて」

 

ーーーーー

 

街灯を背に立つあかりも、改札ですれ違う学生も、電車に揺られるサラリーマンも。

その全員の顔を覚える事なく燈真は帰路を進む。。

 

あかりの最後の言葉へどの様に返したのかも覚えていない。

真新しい匂いがする単身者用のマンションの灯りを点けても、それらがフラッシュバックする事は無かった。

 

四畳半のキッチンを抜け、八畳の板間に入る。

鞄を投げる様に置き、燈真は床に座り込んだ。

 

座った拍子でズボンのポケットからスマホが滑り落ち、硬質な音を立てた。

画面を見れば時刻は既に21時を過ぎていた。

 

(……飯、食わなきゃな)

 

冷め切らない熱気が残る部屋で、胃が空腹を訴えるのを感じる。

……感じるは良いが、動く気にはなれない。

 

転校初日にクラスメートの家に行き、そこそこ長い時間をゲームに費やす。

楽しかったが気を遣った事には変わりなく、腰を下ろした事で疲労感が染み出して来たのも感じた。

 

疲労感から続く眠気と、訴えを強めだす空腹感。

どちらを先に片すか、迷う時間は無かった。

 

ーーーーー

 

夕食を食べ終え、風呂に入る。

夏場でもゆっくり湯に浸かるのが輝の小さい頃からの習慣だった。

 

風呂上がりにアイスを食べ、お茶を飲み、歯を磨く。

これも変わらずだ。

 

リビングのソファに腰掛けうたた寝する父に声を掛け、輝は自室へ向かった。

部屋に入り翌日の準備をしながら輝は今日の出来事を思い返す。

 

恐そうに見えるらしい転校生との出会いと、彼と共に取った昼食。

早蝉の鳴き声を聞いた帰り道と、それから……燈真の戦い振りだ。

 

GBDEX-DW、兄がやるのに付き合って

いたと言って居たが、その実力は本物だった。

そして、圧倒的と言える機体ステータス。

 

充電器からスマホを取り外し、DWのアプリを開く。

戦歴と共に共闘した相手のステータスを確認出来るのだが、デミ・ウィングの各種ステータスは攻撃力と機動力が特出していた。

 

しかし、APに直結する装甲値も一般的な機体より遥かに高い。

前作のABと違い、DWはランクが上がる事により機体ステータスを上昇出来る言わば“昇格ボーナス”があり、各ランク毎にステータスの総合値は決まっているのだ。

 

(だけど……この機体は違う)

 

戦歴や各種ステータス等々が非公開設定が成されていないのは、燈真がこのゲームを自ら触っていない事を表す要素の一つだろう。

ゲームで使用するアカウントネームもtest2のままであり、GBD……ビルドダイバーズを模したSNSでのアバターも初期のままだ。

 

だが、デミ・ウィングのトータルステータスはAランクどころかSランク級である。

理由は分からないが、そんじょそこらのプレイヤーでは太刀打ち出来ないだろう。

 

輝はCランクへはやっとのことで上がったのだが、たった数時間でAランクへと昇格出来たのはそのほぼ全てが燈真とデミ・ウィングの圧倒的な力によるモノだった。

 

輝の脳裏に“チート”の文字が浮かぶが、もしそれを行っていたとしても、それは燈真ではなく彼の兄だろう。

違法なデータの改竄でないとすれば、デミ・ウィングのステータスの高さには何か別の理由がある……

 

そこで、輝の思考は途切れた。

 

「寝る時間、もう23時なんだ」

 

現在起動しているスマホアプリよりも優先度が高いモノ……就寝時間を知らせて鳴るアラームアプリを輝は停め、スマホを再び充電器へとセットした。

23時就寝の7時起床、高校三年間ずっと続けてきた習慣を、輝は今夜もしっかりと続ける。

 

ベッドへ潜り込み、枕元のリモコンでLEDライトの灯りを消した。

目を瞑れば、直ぐに眠れるだろう。

 

ーーーーー

 

それは悪夢と言えば悪夢だろう。

視界一面を埋める夜空と、宵闇を埋め尽くさんとばかりに輝く星々。

 

あかりに照らされる自分は浮遊感を感じながら、星座に掴まろうと手を伸ばす。

しかし、その手は何も掴めないままだ。

 

衝撃、揺れる視界を染める朱紅。

命の燈が流れ出る感覚で、目が覚めた。

 

 

 

 

 




四話目です、作品のテーマを意識して描写し始めた回。
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