細胞が叫んで軋んだ
苦しい程に魂はここに在った
死んだように生きてくなら
花火のように此処で燃え尽きても
ーーーーー
何かがおかしい。
剣閃が瞬く度に闇夜が、機体が斬り刻まれる毎に違和感は増す。
片翼が夜気を吹き飛ばし、紅翼は力強く羽ばたく。
湖畔の上空、重力と言う枷は何処へ置いて来たのか。
そんな言葉を見た者の脳裏に浮かべさせる程に、相対する二機のスピードは速い。
デミ・ウィングと朱凰、同じ相貌と翼を持つ二機は互いに刃を振るい、幾度となくその切っ先をぶつけ合う。
「やっぱり、Cランクの動きじゃ……機体じゃない」
蓮の呟きは円弧の軌道を描く刃が切り裂き、燈真の耳には届かずに消える。
デミ・ウィングがその主兵装を分割してからの数分間で、戦いの質は大きく変化していた。
砲撃一辺倒から射撃、剣撃の両方を使いこなす敵機に朱凰は攻め倦ねていた。
先程の呟き通り、その動きはCランクのモノではない。
デミ・ウィングの繰り出す切り払いからの刺突はフェイントで、身を捩り避けようとする朱凰へと光弾が撃ち込まれる。
ダメージアラートと共に響くのは破砕音、左肩の装甲が砕け散り、散り落ちる前に猛火を纏った朱凰の蹴りがデミ・ウィングを急襲。
中段蹴り、所謂ミドルキックがデミウィングの腹部に直撃し、衝撃が片翼を揺らす。
しかし、衝撃に双眸が揺れても尚、デミ・ウィングの攻勢は止まらない。
蹴りを食らったとほぼ同時に放たれるのは、右手に持つ銃器による打撃。
風を切って振り下ろされる銃身を朱凰は左手に握る大剣で受け流し、後方へと飛んで距離を取る。
違和感の答えはもう判っていた。
それは、燈真とデミ・ウィングのランク詐称疑惑だ。
燈真とデミ・ウィングはCランクだが、その動きと機体性能はSランクである自分と少なくとも同等。
機体の操作、技量はCPUとの練習やセンスの良さで納得出来うるが、機体性能はまた別の話。
デミ・ウィングの詳細なステータスは解らないが少なくともAランク以上……恐らくほぼ確実にSランクの機体値を有するだろう。
GBDEX-DWに置いて、各ランクのステータス総合値は決まっている。
機体登録時にステータスは自由に割り振り出来るが、そのトータルな値はどの機体でも同じなのだ。
勿論、ランクアップボーナスで追加されるステータスも同上である。
(だけど、だからこそ……相手の機体は“異質”だ)
デミ・ウィングのステータス値の割り振りがどうなっているかは解らないが、予想は出来る。
機動力は此方がやや上だろうが、攻撃力はデミ・ウィングの方が高い。
攻撃力と機動力、そして防御力。
Cランクの機体がSランクの機体と渡り合うにはそのどれかを犠牲にし、他種に極振り、特化させなければならない。
だが、Cランク機である筈のデミ・ウィングはSランクの機体に並ぶステータスを確実に持っている。
ランクの詐称、それが果たして可能かどうか。
ゲームシステムとしてランクの昇格はあれど降格はありえない、まず実装されていない。
アプリをアンインストールして再度ゲームを始めたとしても、最下層からスタートを切るしかないのだ。
違和感から疑問へ、そして疑念は迷いとなって蓮の集中力を蝕み、それを隙と見なしたデミ・ウィングが相対距離を瞬く間に詰めて迫った。
繰り出される幾度目かの刺突、雷刃が闇夜に瞬き、デミ・ウィングの双眸が紅く輝く。
迫る切っ先を双眸に映す朱凰は、反射的に右手のビームライフルを投げつけ
る。
手から放れた銃身を雷刃が貫き、爆発。
炎と煙を突き破り姿を現したデミ・ウィングが更に肉薄。
その胸元から伸びる尖角が、朱凰へと突き刺さる程に二機の距離は縮まり、その視線が交錯した。
「……チート、だな」
掌の中の小さな戦場。
視線を燈真へ向ける蓮は、諦めた様な、掠れた声を出した。
その声を斬り裂くのは閃く銀弧、新たな機影が闇夜に躍り出る。
ーーーーー
敵機を鳥葬し、古城を遠くに戦神が夜空を切り裂いて飛ぶ。
輝の黒犬を倒すのに思ったより時間が掛かったが、その分余力はあった。
レーダーに頼らずとも、湖畔の上空に燃える炎を目印に迷う事は無い。
最大戦速、ものの数秒で紅炎と雷光が瞬く戦域へと戦神は進軍する。
「マジか、押されてるじゃん……」
そして、視界に映る相方の姿に優斗は思わず声を漏らした。
漏らしながらも操作は止めず、愛機を朱凰の前に滑り込ませて閃く雷光を剣で受け止める。
二振りの剣を重ねて受け止めたものの、デミ・ウィングの一撃は予想以上に重い。
両の剣で切り払う戦神がフルブースト、全身の推進機器から炎が噴き上がった。
炎吐するブースター、黒光りする大翼で大気を叩く戦神が勢いの乗った刺突を繰り出す。
放たれる一撃、プロミネンスブレイドの切っ先が敵影を……残像を貫いた。
(今の避ける!?
初速が遅いとは言えこっちの方がスピードある筈なんだけど!)
フルブーストからの一撃を避けられた事に優斗は眉根を寄せるが、蓮と朱凰を相手に有利を取っている時点で強敵だとは判断出来た。
しかしそれでも、相方の力量を知る優斗からすれば、蓮の不調を疑いたくなる所だ。
「調子悪い訳じゃないでしょ、何かあった?」
「いや、何にも無い……訳じゃないけど、この機体強いから気をつけろ!」
蓮の応えからするに、予想以上に強いらしい。
そして、その様子を見るに“何か”ある。
「気をつけろと言っても二対一だ、押し切る!!」
様子を伺いたい所だが、先の一撃を避けた所を見るに敵の強さは未知数だ、
ならば出し惜しみする暇は無い。
戦神は剣を握り直し、月光を背に高く飛び上がった。
月明かりに照らされる漆黒の鎧、戦神へと遠く輝く月から一筋の光が降り注ぐ。
ソレは、EX-Dアビリティ発動の印。
黒犬との戦いでは温存していた切り札を、優斗は躊躇いなく使用する。
相方の……蓮の実力は自分より上であり、そんな彼と互角以上に渡りあう相手に本気で挑まない理由はない。
戦神の翼膜が、左右の肩口から伸びる三枚羽が大きく広がる。
黒塗りの外羽とは違い、内側は黄金に輝き、光を受けて更なる煌めきを放った。
更に、両の前腕及び脛部外側の装甲が開き、小振りな羽が姿を現す。
月から伸びる光は高純度のエネルギーそのもので、その名をマイクロウェーブと言った。
「EX-Dアビリティ、マイクロウェーブで得た過剰すぎる程のエネルギーを全て、ハイパーモードに回す……
来ならサテライトキャノンに使われるエネルギーを余す事なく機体の強化に回せば、どうなると思う?」
そう、戦神のベースはガンダムDXであり、翼膜となる三枚羽はサテライトキャノン発射時に展開される放熱板なのだ。
しかし、EX-Dアビリティ発動時においてそれは本来の使用方法とはならなかった。
マイクロウェーブにより得た莫大なエネルギーを、ハイパーモードにより強化された機体全体に行き渡らせる。
そうする事によって生まれるのは、眩過ぎる黄金に輝く戦神だ。
外は大雨、大嵐。
しかし、手の中にある戦場は一時の静寂に包まれる月夜。
雷光が四人を、そして月光が三機の姿を照らす。
ーーーーー
タッグマッチにて敗北したプレイヤーは、その視点を好きな位置へ持って行く事が出来る。
勿論、輝がその視線を送るのは燈真のデミ・ウィングの周囲だ。
(蓮君の言葉の意味はわかるよ、デミ・ウィングはおかしい。)
黄金に輝く戦神がデミ・ウィングへ襲い掛かる。
既に六本の刀は抜き放たれており、自我を持って動く刃は様々な角度、位置からデミ・ウィングを削っていた。
更に、刀を相手取るデミ・ウィングの死角から戦神の剣撃が放たれ、片翼に大きな裂傷。
バランスを崩した敵機へ打ち込まれるのは苛烈な連撃。
袈裟懸けの斬り落としから連続突きに繋がり、回転斬りがデミ・ウィングの胸元を、尖角を粉砕した。
「やべ、AP凄い減った」
確実に“通った”一撃に、優斗は頷く。
二種類のアビリティを組み合わせるエクストラデュアルアビリティ、設定している組み合わせとしては異質だが、レイジ系統としては破格の上昇値を持つだろう。
(今の一撃、“通った”けど倒れないなら……!!)
その一撃を受け、大ダメージを負った“だけ”で未だ動くデミ・ウィングもまた、異質。
EX-Dアビリティを発動した戦神の一撃は、Cランクの機体なら確殺出来る威力はある。
それを受けてまだ撃破に至らないならば、更なる威力の一撃を、必殺技を放つしかない。
自らが放つ黄金の輝きで闇夜を切り裂き、戦神が三枚羽を、大翼を広げて高く羽撃く。
引き連れるのは六本の刀と……翼膜の中央に装備されている小刃、その二振りが追加されて数は計八刃。
両の手に握る大剣をデミ・ウィングに叩き付け、その両方を雷刃が受け止めると同時にハウリングライフルが光弾を吐き出す。
しかし、戦神は光弾をものともせずに更に肉薄し、両の剣を振り下ろした。
受け止めた筈が規格外の剛力で振り切られる剣に、デミ・ウィングがバランスを崩す。
その瞬間を狙って放たれるのは戦神の必殺技。
輝の黒犬を葬った六道断罪ではなく、巻き起こるのは八刃による剣戟の嵐だ。
冷めた夜気を、静寂と月光を切り裂く刃嵐はデミ・ウィングを飲み込まんと迫り、距離を取ろうと羽ばたく片翼をその烈風で捕らえて引き寄せた。
「逃がさない……!!」
全てを斬り裂く刃の嵐に飲み込まれていく、デミ・ウィングの特徴的な片翼。
炎を模した翼は、瞬く間に無惨な程に刻まれていき、吹き荒れる烈風が翼の欠片を巻き上げていく。
そして、嵐に捕らわれ身動きが取れないデミ・ウィングへと戦神が疾り……
「必殺、“八大龍王・斬”!!」
烈迫の掛け声と共に、重ね合わされた二振りの刃が振り抜かれた。
それは眩い黄金の輝きを放つ極刃、戦神の放つ必殺の一撃。
その一撃は、自律駆動する八刃が生み出す刃嵐ごとデミ・ウィングを一刀両断……する筈だった。
だが、しかし。
ーーーーーDamageLimitOver
ーーーーーModeChange
刃の嵐は極光の一撃で両断されども、デミ・ウィングは未だその存在をレーダーに映る光点として表している。
剣閃により掻き消されそうになっていた嵐を“餌”に、燃え上がるのは異質な炎。
嵐を、極光を突き破り、そしてノイズと共に姿を現したのは……
ーーーーー“RaidBattleMode”
不意に響く電子音声、ノイズと重なり不明瞭ながらもその声は確かに四人の耳へと飛び込んでいた。
「レイドバトルモード、だっけ……」
聞き慣れない電子音に燈真以外の三人は顔を見合わせ、それぞれの視線が燈真へと向けられた。
しかし、当の本人はその視線に気付けない。
呟く燈真の視線の先では、デミ・ウィングが両腕を広げ、大きく夜空を仰ぎ見ていた。
しかしその姿は、燃え盛る緑炎に包まれ、紅の双眸には禍々しい燈火が宿っている。
両肩前面と左右膝内、四枚の翼の中央に輝くマナクリスタルから溢れ出すのは地獄の焔。
闇夜を灼き尽くさんとその勢いを増す獄焔が裂傷を、様々な傷を癒し、APを回復させる。
大きく仰ぐその背中、特徴的な片翼はその可動域の限界を超えて広がっていた。
付け根は片方なれども、片翼を成す四枚の翼の内二枚が右側へと倒れるように位置を変えて広がり、両翼となって力強く羽撃く。
片翼となり自由を失ったモノが、羽撃く為の翼を、一対の焔翼を得たならば。
「アビリティ……デュアル・ウィング
まだやれる、まだ飛べる」
畏怖と驚愕、警戒とそして……懐古。
四人の視線を振り切るように、デミ・ウィングは様々な感情の渦巻く宵闇を、焔を纏い飛翔する。
pixiv版を添削しているこのリメイクverですが、今の所大幅な改稿はなし。
とは言えども……
一章の山場であるこのバトルも次回で決着、よろしくお願いします。