血の匂いが充満する山の中を、チリンと鈴の音を鳴らしながら疾走する。いたるところに張り巡らされたクモの巣を斬り払いながら進み、木々の間を駆け抜ける。
木を一つ抜け、二つ抜けてを繰り返し、至る所から流れる鬼の気配を辿って山中を駆け回るが、鬼の姿を捉えることは出来ていない。
「–––血の匂いが濃すぎて気配が辿れない」
那田蜘蛛山の中に蔓延する鉄錆の匂いに当てられてか、鬼の所在を上手く認識する事が出来ない。一年と少しで二百弱に及ぶ鬼殺を経験しても尚、これ程までに血が蔓延する戦場は数える程度しか経験していないからだ。
自身が経験した十二鬼月との戦闘は箱根山での追撃戦、上総九十九里浜での遭遇戦、紀伊半島で遭遇戦の累計三回。箱根では三十余名、上総九十九里浜では二十六名、紀伊半島では十八名の死者を出しつつも、その全てにおいて十二鬼月の討伐に成功している。
「今までで一番死者が多いか…?」
山中を見渡すだけでも人の死体が見つけられる惨状に思わず顔を顰める。あの鬼が言った十二鬼月がいると言う事実に信憑性を感じつつ、止めていた足を再び走らせる。
微かな月明かりが木々を照らす中、気配を頼りに山中を駆け回り、足を止めては辺りを見回す。それを何度か繰り返し、焦燥感を募らせていった最中–––––––それに、出逢った。
「………うおっ⁉︎」
突如として背後に衝撃を受け、思わず足をもつれさせる。腰あたりに何か硬いものがぶつかった感触を覚え、腰をさすりながら背後を見やる。
「誰だよこんな山中で……ん?」
「…………?」
恨めしい視線を向けた先には、可愛らしい少女が小首を傾げて地面に座り込んでいた。パチパチと大きな目はこちらを掴んで離さない、桃色の着物を着た童女。しかし、その口には無骨な竹が咥えられている。
「………子供?」
日輪刀を地面に突き立てた後、童女のそばに歩み寄り、腰を抱えて持ち上げる。その際にもこちらをじっと見つめており、綺麗な瞳と藍色の瞳が交錯する。
「綺麗な目だね…」
童女の何かを試すかのような瞳に疑問符を浮かべるが、少し経つと見定めたのか、童女がコテンと凭れかかってくる。
「なんでこんな山中にこんな子供が…?」
むーむーと唸る童女をあやす為に頭を撫でると、今度は機嫌が良いのか瞳を細める。血の匂い漂う殺伐とした山の中での一幕だというのに、その様子を見て思わず頰を緩ませる。
「ねぇ君。君はなんて名前なの?」
「むー」
「…喋れないよね」
もっと撫でろと目で催促してくる彼女の頭を優しく撫でつつ、辺りに気を巡らせる。すると、どこからか鬼の気配が肌を撫でる––––しかも、かなり近い。
「さて…どうしたものか」
この子を担いだまま鬼殺をするのは論外。しかし、近場で鬼の気配がする為山を降りるのも憚られる。八方塞がりになりつつ現状で、なんとか打開策を打ち出す為に無い頭を捻ると–––––––ふと、刃が視界の端に映った。
「–––––うぉぉぉぉ⁉︎」
自身の首–––––ではなく、自身が持つ童女の首目掛けて振るわれる鋼を腰を折る事で避ける。こちらが避けた事を見るや否や、相手は地面ごと叩き斬る勢いで刀を走らせる。
「っ、良い加減にしろ‼︎」
一度背中から地面に落ち、空いた右脚を胴体目掛けて振り抜く。相手はそれを見てから反応し、日輪刀を表向きで胴体に当てる。
(見てから反応できるのか⁉︎なんて反応速度だ!)
振り抜いた脚をそのまま引っ込め、回転する要領で地面から飛び退く。何か楽しいのか、きゃっきゃっと喜ぶ彼女を落とさないように持ちつつ大きく距離を取る。
「こっちは人間だぞ!いくら暗い山中とは言え、二度も刀を振るなんて–––––あれ?」
殺意を乗せた刀を振るって来た相手に激昂する。少し灸を据える必要があるかと目の前の人物を見ると、それは見知った少女だった。
紫色の蝶を模した髪飾りをつけ、口元に笑みを浮かべている可憐な少女––––––現蟲柱、胡蝶しのぶの継子である栗花落カナヲだった。
「栗花落さんじゃないですか。貴方も那田蜘蛛山に?」
「……………」
「…えーと?」
にこやかに微笑むだけで何も返してこない彼女に少し困惑する。–––蝶屋敷にいた時もそうだったけれど、彼女は基本的に何を言っても反応しないのだ。任務の時くらいは口を開くと思ったけれど、どうやら彼女のコレは筋金入りらしい。
なんて話しかければ良いか頭をひねっていると、栗花落さんが突然銅貨を投げ始めた。放たれた銅貨は綺麗な放物線を描き、綺麗に彼女の手元に収まる。
それを見てから静かに口を開く–––それは、自分にとって驚愕の事だった。
「その子の首を切って下さい。その子は鬼です」
「……はい?」
自分の腕の中にすっぽり収まり、頭を預けているこの子が鬼である。そう、目の前の彼女が言った。
あまりに突然の事過ぎて頭が混乱する–––––が、少し意識してみると確かに腕の中の童女から鬼の気配を感じる事ができる。
「…あー、成る程。そういうことか」
鬼の気配を感じたのに肝心の鬼を見つけることが出来なかったのはつまり、目の前の彼女自体が鬼であったからだと理解する。–––これじゃ確かにわからない筈だ。
「はい、ですから–––––」
そう言って笑う彼女を余所目に、うつらうつらとしている彼女の頭を軽く撫で、頰を突く。–––とても柔らかく、そして暖かい、まるで陽だまりの様な彼女。
起こされたからか、少し不機嫌になった彼女を撫でてあやす。–––この子が鬼であるならば、隙を見せた時点で喉元に食らいついている筈だ。にも関わらず、この子はもっと撫でろと催促するばかりで噛み付く素振りすら見せない。
–––しかし、鬼殺隊は鬼を滅殺する組織だ。自分もそこに所属し、組織の一員として活動している以上、この子の首を切るのが正しいのだろう。
彼女を持ったまま自分の日輪刀の所へと向かう––––すると、綺麗な視線が自分を再び貫く。先ほども感じた、何かを試すような視線。それを見た時、ふと、頭の中をとある少女が過った。
『後はお願いします、お兄さん』
助けることの出来なかった、ひとりの少女。村の人々から寄って集って生け贄にされた、憐れな少女––––––この子も、同じではないだろうか?
『鬼』だから。その一点で鬼殺隊から寄って集って首を狩られる。–––あの村での少女と何が違う。
手を汚したくないから、また見殺しにするのか––––違う。
今度は間に合うようにと、願ったのは嘘だったのか––––違う。
自分もあの村の奴らと同じで、1人の少女を寄って集って殺すのか–––––––––違うさ。
腕の中の彼女の頭を撫で、軽く抱きしめてから栗花落さんの方へ向き直る。
「彼女は殺さない–––絶対に」
明確に、聞き間違いのない様に、そう言い放った。
「……師範からその鬼を殺せと仰せつかっています」
「ならしのぶさんと会わせてくれないかな?でき得る限り説得したいから」
「……理解できません。その子は鬼です、人を喰うんですよ?」
微笑みを浮かべたまま疑問を投げかける彼女に静かに口を開く。
「鬼だから人を喰うわけじゃない。人を喰う奴が鬼なんだよ」
「……鬼殺の妨害をするんですね」
日輪刀を構える彼女を見て、腕から童女を下ろす。まだ足りないとむーむー唸る彼女の頭に手を置き「少し待っててくれ」と頭を撫でる。
「違うさ。『人』を守るんだよ」
地面に突き刺した日輪刀を引き抜く。『チリン』と鈴が鳴り、その音が暗い山の中へと溶けていく。
「どうして俺が彼女を切らなかったかわかるかい?」
「…………」
「目が、とても綺麗だったんだよ。–––鬼とは到底思えない程に」
月で藍色に輝く日輪刀を正面に構え、彼女を守るように立ち塞がる。
「そう言う君はどうなんだい?この子が人を喰うと、そう思うかい?」
「…私は、師範の命令に従うだけです」
–––––彼女のその言葉を聞いた途端、心に何かが刺さった感覚がした。
「–––––そうか。君は命令で人を殺すんだな」
シャリリンと鈴の音が響き渡る––––––直後、自分を中心に一面の木々がバラバラに切り裂かれる。崩れた木々は木片を撒き散らせながら散乱し、木片の一つが彼女の頰に赤い線を付ける。
「っ⁉︎」
彼女の動揺が肌で感じられる–––いくら目が良くても、反応できなければ意味がない。
「–––遅いよ」
一度後退しようとする彼女を見て、髪に再び刃を走らせる。寸分の狂いもなく走る刃は彼女の綺麗な毛先を切り取り、下がる足を止めさせる。なんとか身体を守ろうと振るわれる刃を即座に弾き返し、返した刃を首に当てる。
刹那の間に殺される間合いに入られた事に目を見開く彼女に、冷たく言い放つ。
「相手の実力も測れないのなら、こうして一方的に殺される事も考えておいたほうが良い」
静寂が辺りを支配する中、そうして首に当てた刃を引き抜こうとする–––––––その直後、鴉が鳴いた。
「伝令!伝令!炭治郎、禰豆子両名ヲ本部ヘ連レ帰ルベシ!繰リ返ス!炭治郎、禰豆子両名ヲ本部ヘ連レ帰ルベシ!」
その声を聞いた時、ピタリと刃を止める。
「…今の、聞こえたよね」
「……………」
「取り敢えず休戦だ。––––伝令が早くて助かった」
栗花落の首に半ば食い込んでいた刀を静かに持ち上げる–––刀の剣先を見るに、幸い血は出ていないようだ。伝令が出た以上、怪我をさせない事に、越した事はない。
彼女は断たれそうになった首をさすりつつ、その場から下がる。口には微笑みが浮かんでいる–––が、その額には微かに汗が浮き出ている。
「聞いた通り、彼女–––禰豆子は本部に連れて行く。それで良いよね」
無言でうなづく彼女を見て、構えを解く。うつらと眠そうな禰豆子を抱き起こし、栗花落の方を見遣る。
「それじゃあ、炭治郎君の所へ案内してくれ」
日輪刀を下げつつ、そう言った。
_____________________
「–––随分酷い状態だね」
栗花落さんの案内に従い、木製の箱の中に入っていった少女––––禰豆子を背負って森の中を歩き、目的の少年の所まで辿り着く。
地面に倒れ伏している彼は、傍目から見ても分かる程酷い怪我を負っていた。肺が微かに上下している事から生きているのは間違いないが、酷い怪我な事に変わりはない。
「栗花落さん、彼は……」
振り向いた先には既に彼女の姿はなく、自分の言葉は山奥へと消えていった。–––音もなく消えたな…。
消えた栗花落さんを一度頭から消し、目の前の少年に向き直る。
「取り敢えず、一度診ないとわからないか」
箱を地面に降ろし、身体を触診して怪我の様子を確認する––––腕と足に切創が複数、擦過傷が無数に存在している。
「下顎も打撲してるな…、それで気絶したのか」
脳天に打撲痕がある事から、恐らく頭上からの一撃を貰ったことがわかる–––––自分が思うのもアレだが、随分と綺麗に入ったらしい。
「取り敢えず軽く治療しないと…鴉‼︎」
頭上に向かって叫ぶと、「カァー」と鳴き声と共に空から雑嚢が落ちてくる。それを掴み中から塗り薬と包帯を取り出し、該当箇所に治療を施していく。
「小屋内さん、何か手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
側にいる黒装束の人物––––––隠の人に声を掛けられる。それを断り「それより」と言葉を繋げる。
「この山にいた生存者の中に、尾崎って人は居ましたか?」
「尾崎…はい、居ましたよ。水色の日輪刀を持っている人ですね」
「本当ですか!良かった…」
治療の手を止めずに安堵の表情を浮かべる。––––生きていてくれたよかったと、心の底から思う。
腕の切創を最後に、治療の手を止める–––手持ちのものではこれが精一杯だ。後はどこかで治療に専念してほしいけれど…。
「この少年…炭治郎君はこれからどうなるんですか」
「詳しい事はわかりません。只、柱合裁判に掛けられるとは聞いています」
「柱合裁判ですか…。それは、穏やかじゃないですね」
–––––柱合裁判。
重大な隊律違反を犯した隊員への処分を、鬼殺隊最強の柱達によって決める裁判。自分が鬼殺隊に入って一年程度経つが、裁判が行われると聞くのはこれが初めてだ。
「それにしても、何故この少年は鬼を連れているのでしょうか…」
心底わからないと言う表情で話す隠へ口を開く。
「この子が連れているのは鬼じゃありません、只の少女ですよ」
「そんな馬鹿な。私は実際に見ていませんが、鬼であったと聞いていますよ」
あり得ないと頭を振る。–––やはり、隠であっても鬼への憎しみは根深いようだ。これ以上言葉を重ねた所で意味が無いと判断し、会話を終わらせる。
「鬼の特徴は持っているかもしれませんが、それでも彼女は人間ですよ」
苦しそうに息を吐く少年、炭治郎の頭に手を置く。–––––自分よりもあどけない顔付きの少年がこれから歩むであろう道は、恐らく並大抵のものではないのだろう。
「なんとか弁解の機会は作れないでしょうか–––」
その言葉に隠は目を伏せて首を振る。
「無理ですよ。…側付きの同僚に聞いたんですけど、特に風柱と炎柱が怒髪天を突く勢いらしいです。聞く耳を持つとは思えませんよ」
「不死川さんと煉獄さんが…」
風柱の不死川実弥さんに、炎柱の煉獄杏寿郎さん–––––どちらも極めて優れた剣士だ。それに彼等の性格を勘案すれば、鬼を連れた剣士をどう思うのかは想像に難く無い。
「––––このまま行ったら多分、二人とも処断される」
それは自分の思う所ではない。なんとか助ける方法を考えるが、何も良い案は浮かばない。
「仕方ないですよ…。鬼を連れた剣士なんて許したら、鬼殺隊の存在そのものが危ぶまれますから」
肩を竦めて言う隠を余所目に、未来へ思いを馳せる。
現役の柱の人達とは全員と面識があるが、彼等の性格を鑑みても処断は免れないだろう。–––恋柱の甘露寺さんは反対してくれそうな気はするが、残り八人の意見をひっくり返すには至らないだろう。
「何か、何か手はないか––––」
「あの、小屋内さん。少し良いですか?」
ない頭を回して何か打開策を講じようと考え始めると、隠から声を掛けられる。
「何かありましたか?」
「この少年とは顔見知りなんですか?」
首を横に振る。
「いえ、この山で初めて会いました」
「それなら、どうしてそこまで気を配る必要があるんですか?」
「どうして、ですか?」
「はい」と言うと、そのまま言葉を繋げる。
「小屋内さん程の人が、この少年に気をかける必要がわからないんです。まだ階級も低いこんな少年を、助ける理由なんて––––」
–––自分でも意図せず、無意識に歯を噛みしめる。
「–––すいません。それ以上、口を開かないで下さい」
思わず話の途中に口を挟む。少し怯えた様子を見るに、感情が漏れていたようだ–––隠の人が言いたいこともわからなくは無い。だから深く追求はしないが、それでも良い気はしない。
自分の中で感情を整理し、改めて口を開く。
「–––この少年は、操られていた隊員を殺さず助ける方法を模索していました。一歩間違えば、自分が殺されてしまうような状況で」
思い起こすのは操り糸の情景。–––この少年が切り掛かっていれば、三人の命は救われなかっただろう。
「口で言うのは簡単ですが、それを実行する難しさは計り知れません」
穏やかな風に揺られた鈴がチリンと鳴り、辺りへと綺麗な金属音を響かせる––––弁解の機会が無いにしても、せめて何か伝えなければならない。
「人を殺しても咎められない状況で、それでも敢えて助ける道を選んだ––––俺は、そんな心を持った隊士に死んでほしくないんです」
日輪刀に括られた鈴をほどき、それを眠っている炭治郎の腕に係る–––––これで、少なくとも自分が二人に関与している事を示すことが出来る。
自分のような一介の隊士の意図がどこまで通じるかはわからないが、少なくとも即斬首、と言う結果にならない事を祈るばかりだ。
「まぁ色々理屈は捏ねましたが、結局の所、自分がしたいからそうするだけなのかもしれません」
立ち上がり、隠の人の目を見る。
「–––––自分はもう、後悔はしたくないんです」
微笑みながら言う。暗い空が霞み、明るい色へと変わっていく–––––夜はもう、明けようとしていた。
__________________
「––––––い」
声が、聞こえる。どこか静かで、落ち着いた感じの声だ。
「–––––ーい」
ここは何処だ?暗くて何も見えない。
「–––––おーい」
早く逃げないと。逃げないと、禰豆子が––––––。
「っ禰豆子⁉︎」
勢いよく飛び起きると、額になにかがぶつかる感覚を覚える。目覚めたばかりで視界がぼやけるが、はっきりしてくると目の前に人が––––。
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
頭を抑えて蹲る人に声をかける–––状況から考えて、自分の頭とぶつかったと考えられるからだ。
「い、いや…大丈夫…大丈夫…」
ヨロヨロしながらも起き上がる彼の顔を見る–––––その人は、那田蜘蛛山で操られていた隊員達を相手してくれた人だった。
「無事だったんですね!良かった…」
「うん、無事だったよ。…頭は無事じゃないけど」
「これ絶対コブになってるよ…」と額をさする彼にひたすら頭を下げる。声を掛けてくれた人に頭突きをするなんて––––って。
「禰豆子は⁉︎禰豆子は何処ですか⁉︎」
「落ち着いてくれ、炭治郎君。彼女ならそこだよ」
指差す方向を見ると、そこに鱗滝さんから貰った木箱が見える。鼻を利かせると、たしかに箱の中にいるらしい。
「良かった…本当に、良かった…」
禰豆子が無事な事に思わず脱力する。もし目が覚めて禰豆子が居なかったら、自分がどうなっていたか分からない。目元の涙を拭うと、正面へ向き直る。
「それで、貴方は…」
「俺は小屋内権兵衛、鬼殺隊の一剣士だよ」
髪を短く揃え、少し垂れ目な顔立ちの人物だった。瞳は深い藍色で、見ていると此方が引き込まれそうになる感じがする。
小屋内さんは短い自己紹介をした後、深刻そうな表情で口を開く。
「時間がない。早速で悪いけど、今君が置かれている状況を説明する」
「状況…」
一つ頷くと、そのまま言葉を続ける。
「これから君達兄妹は、柱合裁判に掛けられる」
「柱合裁判…ですか?」
「そう。簡単に言えば、鬼殺隊の偉い人達による裁判だね」
「それで、自分はどうなるんですか?」
静かに、しかしはっきりと口にする。
「––––恐らくだけど、斬首になるだろう」
「そんな……!」
神妙な顔で告げられる言葉に思わず声を上げてしまう。––––ここまで頑張ってきたのに、最期は鬼殺隊に殺されるなんて…!
なんとか打開策を考えようとすると、優しい声色で声が掛けられる。
「けど、それは自分の思うところじゃない。だから、君にそれを託す」
「それって…」
小屋内さんが指差す所…右腕を見る。そこには銀色の鈴が二つ括られており、腕を動かすと「チリン」と綺麗な音を鳴らす。
「–––俺が普段身につけてる鈴だよ。それを見れば多分、君の話を聞いてもらえる筈だ」
「これでも結構強い剣士なんだよ?」と言うと頭に手を載せ、クシャクシャと荒っぽく撫でられる–––––嫌な気持ちはしない、寧ろ心地いいくらいだ。
「そういえば、この包帯は一体…」
改めて身体の様子を見るとあちこちに包帯が巻かれ、気絶する前に身体中を走っていた激痛が収まっている。
「それは俺がやったんだよ。どこかまだ痛むかい?」
「いえ全然!ありがとうございます、小屋内さん」
「気にしないで。こっちが好きでやった事だから」
笑いかけてくれる小屋内さん––––その様子を見て、思わず口を開く。
「あの、小屋内さんはどうしてそこまでしてくれるんですか?俺は、鬼を連れているのに…」
–––––鬼殺隊は鬼を許さない。それはこの一件でよくわかった。
自分はそれを破り、妹とは言え、鬼を庇った。それは鬼殺隊では許されない事なんだろう––––––にも関わらず、権兵衛さんからはこちらを気遣う、思い遣る匂いすら感じる。
それを聞いた権兵衛さんは困った表情を浮かべた後、再び頭を撫で回す。
「君は真面目だね。それに実直だ、きっと良い剣士になる」
「あ、ありがとうございます」
一通り撫でたのか、腕を下ろす。「そうだね…」と少し間が空いた後、静かに口を開く。
「結局の所、これは自分よがりの優しさなんだよ。自分がこうしたいからそうする、それだけの事さ」
「自分よがりの優しさ…ですか」
「そうさ」と微笑むと額に指が当てられる。
「––––後悔は、時として死ぬより辛いからね」
–––––そう言う権兵衛さんからは、途方も無い様な哀しみの匂いがした。何か言わなければと口を開くが、何か気の利いた事が言えるわけでも無い事実に閉口する。
「それに、君の妹は鬼なんかじゃないよ」
身の丈よりも大きな日輪刀を持って立ち上がる権兵衛さんは、なんの躊躇いもなくそう言った。突然の出来事に一瞬固まるが、すぐさま反論する。
「い、いえ。妹は、禰豆子は鬼です。現に、妹は日の光を浴びる事が出来ません」
「別に、日の下を歩けないから鬼って訳じゃない」
困惑しつつ否定するが、権兵衛さんは自分の言葉を笑って飛ばす。すると、再び腰を落として目線を合わせる。
「太陽の下を歩けないから鬼って訳じゃない。鬼舞辻に血を貰ったから鬼になる訳じゃない–––––––人を殺したモノが、鬼になるんだよ」
彼の言葉は、鉛のように重く自分の心を打つ。その重さは、彼の想いを表しているかのようだった。
「君の妹、禰豆子ちゃんはとても綺麗な目をしてたよ。あんな目をする子が、鬼である筈がない」
掌が両頬に当てられる。–––硬い、剣士の手だった。
「–––彼女を守った事を誇れよ、炭治郎。君はかけがえのない、妹を守ったんだから」
–––––その言葉を聞いた途端、目から涙からポロポロと溢れ出す。意図せず流れ出したそれは、自分の意思で止める事が出来ない。
「す、すいません…。急に泣き出したりして」
「いや、良いよ。––––涙は、流せる内に流した方が良い」
涙をある程度流した後、軽く目元を拭う。それを見た小屋内さんは自分の頭を一度撫でると、再び腰を上げて日輪刀を携える。–––朝日に照らされたその日輪刀は、とても綺麗な藍色に輝いていた。
「––––どうか君が、死ぬより辛い後悔をしない事を」
権兵衛さんはそう言うと「それじゃあお願いします」と黒装束の人に伝える。すると二人に自分が担がれ、妙な浮遊感を覚える。
「小屋内さん、色々と、本当にありがとうございました!俺、まだまだ頑張ります!」
それを聞いた権兵衛さんは嬉しいような困ったような顔で笑う。
「程々にね。頑張りすぎて倒れても元も子もないよ」
「はい!…そう言えば、この鈴はどうすれば良いですか?」
腕に巻かれた鈴を見せる。チリンと鳴る銀色の鈴はあちこち傷だらけだが、何故だが普通の鈴よりも風格がある。「あぁそれか」と頷くと、笑いながら口を開く。
「君に預けておくよ。今度会ったら返してくれ」
「…良いんですか?何か、大切なものじゃ…」
「大切なものだから預けるんだよ。出来れば失くさないで欲しいな」
そう言って笑う権兵衛さんを余所目に、鈴を握りしめる–––絶対に無くすわけには行かない…!
「わかりました。必ずお返しします!」
決意を新たに宣言すると、朗らかに口を開く。
「頼むよ–––それじゃあ隠の人、お願いします」
「行くぞ」と黒装束の人が駆け出し、次第に権兵衛さんが遠ざかっていく。姿が見えなくなるまで手を振ってくれている彼に頭を下げ、姿が消えても頭を下げ続けた。–––優しい匂いと、悲しい匂いを併せ持った人だった。
「…お前、良かったな」
「へっ?」
穏やかな風が頰を撫でる中、ふと自分を運んでいる黒装束の人から声を掛けられる。
「あの人から気に入って貰えた事だよ。もしかしたら助かるかもな」
「あの人って、権兵衛さんの事ですか?」
「そうだよ」と頷くと、そのまま言葉を続ける。
「お前知らないのか?鈴鳴りの剣士だよ」
「鈴鳴りの剣士…ですか?」
「あぁ、僅か一年で二百程度の鬼を殺して甲に昇格した、正真正銘の化け物だよ」
「一年で二百…⁉︎」
一年で二百を超える鬼を殺す–––––鬼の残虐さや強さを考えれば有り得ない偉業だ。自分が今まで殺してきた鬼の数が精々十程度なのに対し、彼はその二十倍に及ぶ数を殺しているからだ。
鬼を殺す難易度も含めて、それ程鬼に遭遇できるのか––––そこで、ある存在が頭に浮かぶ。
「もしかして、小屋内さんって希血の人なんですか?」
希血–––その名の通り、希少な血の持ち主。鬼にとってのご馳走。希血の人を一人食べれば、それだけで五十人、百人程度食べるのと同等の力を得る事ができる存在。–––つい三週間ほど前に出会った少年がそうだった。
しかし、その予想は外れて黒装束の人は首を振る。
「いや、違うぞ。ごく普通の人間だ」
「それじゃあどうして…」
「簡単だよ。あの人、めちゃくちゃ脚が広いんだ」
「脚が広い…?」
–––––脚が広いって事はあれか、脚が長いって事だろうか。しかし、そんなに身長があったとは思えないんだけど…。
なんて事を考えていると呆れた声が聞こえてくる。
「脚が広いってのはあれだ、行動範囲が広いって事だ」
「どれくらい広いんですか?」
あっけらかんと言い放つ。
「この前は蝦夷にいて、さらにその前は薩摩に居たらしいぞ」
「……えっと、真反対だと思うんですけど」
「そうだよ。だから化け物なんじゃねぇか」
「あの人ほんと人間じゃねぇよ…」と慄く人を余所目に、自分の腕につけられた鈴を見る。–––本当に、凄い剣士なんだな。
「そんな訳であの人は柱の方々からの覚えも良い。良い子にしてれば、お前も助かるかも知れないな」
「…そうですね!頑張ります!」
「いや、何を頑張るんだよ…」と呆れた声を呟く人の上から空を見上げる。
夜明け直後の白ばんだ空に浮かぶ雲が流れる様を見て、自分は再び前を向いた–––––––。
_____________________
「–––––貴方は変わりませんね、権兵衛君」
隠に運ばれていった少年を見送り、鈴のなくなった日輪刀を持ってその場から立ち去ろうとした最中、権兵衛君の背中に声をかける。
特に驚く様子もなく振り向く彼は、こちらを見て穏やかに笑う–––多少やつれている事には、今は触れない方が良いだろう。
「お久しぶりです、しのぶさん。この山に来ていたんですね」
「えぇ、お館様からの依頼でして。といっても、私は一匹も鬼を殺していないのですが」
多少皮肉げに言うと権兵衛君はすぐさま返す。
「怪我人が多かったですから、しのぶさんの存在は大いに救いになったと思いますよ。–––なにも、鬼を殺す事だけが尊いわけじゃありません」
そう言って笑う権兵衛君–––相変わらずのお人好しらしい。
「だと良いんですけど…。それより、鈴はどうしたんですか?先程から見えませんけど」
「あぁ、鈴ですか」と日輪刀を持ち上げる。彼の特徴とも言える大きな日輪刀に付けられた銀色の鈴はそこにはなく、どこか新鮮な感覚を覚える。
「先程の少年に付けました。お守りのようなものです」
「先程の少年––––竃門炭治郎君ですね」
「はい」と短く答えると、向き直ってこちらを正面に見据える。–––藍色の瞳が夜明けの日に照らされ、綺麗な色を見せる。
少し息を吸った後、意を決して口を開く。
「お願いがあります、しのぶさん」
「お断りします」
沈黙。何か言いたげな表情を浮かべる彼相手に、こちらはニコニコと笑みを浮かべる。
「えぇと…お願いがあるんですけど」
「はい、お断りします」
困ったように目を泳がせる権兵衛君を見て、益々笑みを深める。––––今思えば、こんなに困っている権兵衛君を見るのは初めてですね。
「あの、自分なにも言ってない…」
「何を言われても聴く気はありませんよ?」
言葉を遮ると権兵衛君の目がぐるぐると回り、頭から湯気が出始める–––––この子が一年と少しでも200に登る鬼を殺したと言うのだから驚きだ。
「お、お団子奢りますよ?」
「結構です–––私が怒っている理由がわかりますか?」
安っぽい懐柔に出た所で溜息を吐き、腰に手を当てて問い詰める。すると顎に手を当てて考え始め、ある程度経つと口を開く。
「蝶屋敷を勝手に抜け出した事とか…」
「それもありますが、本質は別です」
むむむ、と頭を捻る権兵衛君に大きな溜息を吐く。––––鈍い人だとは思っていましたが、ここまで来ると病気ですね。
多少間を置いた後、静かに口を開く。
「–––カナヲに武器を向けましたね」
直後、彼の纏う雰囲気が一変する––––––先程の暖かなものとは打って変わった、冷たい気配が辺りに充満する。
穏やかな光を讃えて居た瞳は暗く沈み、僅かに緩められていた口元が引き締められる。
「––––えぇ、間違いなく」
一切の淀みなく言い切る。–––見え透いた嘘はつかない少年だから嘘はつかないとは思ったが、ここまですんなり言うとも思っていなかった。
「言い逃れはしないんですね。開き直っているとか?」
被りを振って否定する。
「まさか。自分のやった事には最低限責任を持つだけです––––ただ」
権兵衛君の視線が自分を貫く。–––藍色の瞳の奥が不規則に揺らぎ、感情が蠢いている事が分かる。
「命令だから。そう言って、斬りかかる様な人を自分は好きになれません」
彼の持つ日輪刀が太陽に照らされて藍色に光る。限界まで使い込まれたその鋼は、鈍く重厚な光を湛えている。
–––四ヶ月前の冨岡さんとの戦いよりも洗練された気配を感じるが、日輪刀には手をかけない。
「カナヲは命令に従っただけです。別に、彼女が悪い訳じゃない」
「命令に従うのは重要です、それは否定しません。しかし、それは自分に明確な意思が伴ってこそではないでしょうか」
ブレる事なく向けられた彼の視線には、言いようもない熱が込められている。–––恐らく、彼はカナヲに怒っているのだろう。自分の意思で動けなかった過去があるからこそ、自分の意思を持たない人が許せないのだ。
しかし、隊律を犯したのは彼の方。いくら過去にどんな事情があろうと、それは揺るがない。
「あまり深くは言えませんが、カナヲにはカナヲの事情があるんです。あまり、深入りはして欲しくないですね」
「……わかりました」
渋々、と言った様子で視線を逸らし雰囲気が弛緩する。–––日輪刀に手が伸びなくて良かったと、心から思う。もし手を掛けていたら、目の前の少年は襲いかかってきたかもしれないからだ。
「……このまま行けば、何処かで潰れることは明白ですよ」
「…わかっていますよ」
権兵衛君はややぶっきらぼうに言い放つと「わかってるなら良いです」と言い、森の中に歩き出す––––––って。
「ちょっと待ってください、何処に行くんですか」
「何処って…鬼を殺しに行こうかと」
「その様子でですか」
着用していた羽織の一部に穴が空き、隊服のあちこちも損傷している状況。額には打撃跡が痛々しく残り、大きく腫れている。先程は敢えて触れなかったが、目元には黒い隈が浮かび上がっている。明らかに疲労している状態だと伺える。
そんな様子にも関わらず彼はなんて事ない風にいう。
「えぇ、これから北に向かおうと思いまして」
「…なぜ北に?」
「この前まで薩摩にいたので。今度はそうですね…陸奥の方まで足を伸ばそうかと」
「それでは」と足を再び動かす彼––––––森に消えて行く彼を追って地面を蹴り、肩を強く掴む。ミシミシと何かが軋む音が聞こえるが、敢えて聞こえなかったフリをする。
「何勝手に行こうとしているんですか。話はまだ終わっていませんよ」
「…そうなんですか?」
やや疲れた風に振り返る彼––––ニコニコと表情を作っていたが、そろそろ限界かも知れない。
「そこに座りなさい」
「…えっ」
地面に指を指して促す。
「早く、柱の命令ですよ?」
「えっ、いや、あの…」
「い い か ら」
威圧感を出すと渋々といった様子で座る–––さて、何から言って行きましょうか。
「まず貴方は鬼殺の妨害をしました。これは立派な隊律違反です」
「彼女は鬼では……」
「それはあくまで貴方の主観です。客観的に見ればあの子が鬼であることは明白です」
ぴしゃりと言い放つとシュンとした様子で肩を竦める彼に、さらに言葉を重ねる。
「しかもその際に私の継子であるカナヲを害しようとした。ここまで仕出かした相手をヌケヌケと見逃すと思いますか?」
「すいません…」
「私は言いましたよね?相手を無力化出来るのであれば極力人を害してはいけないと。貴方は言われた事も守れない人なんですか?」
「返す言葉もございません…」
「さらになんですか、そんな状態にも関わらず鬼を殺しに行く?陸奥まで?鬼の殺しすぎで頭が茹ってしまったんですか?」
「…………」
「貴方が疲労している事は傍目から見てわかります。にも関わらず、上司である柱の忠告を無視して、剰え話を遮ってその場から立ち去ろうとする?本当にいい度胸ですね」
「………………うぅ」
「鬼を殺しに行く事は立派です。しかし、鬼殺隊は組織です。上司の命令に従わないのであれば処分をしなければなりません。お分かりですよね?」
「………………………はい」
まくし立てていた言葉を区切り、一息いれる。権兵衛君は肩を縮め小動物のように怯えている––––こういう所は、分相応に少年という事ですかね。
「そこで、諸々の隊律違反を含めて貴方には罰を与えます。受け入れますよね?」
「………………………えぇと」
「受け入れますよね?」
念を押すと「うぅ…」呻いた後、渋々と言った様子で頷く。その様子を見て笑みを浮かべ、口を開く。–––こういう時に素直なのは彼の美徳ですね。
「では––––貴方には当分蝶屋敷で働いて貰います」
するとキョトンとした様子にもなり、やがて訝しむように此方を見る。
「……自分はあまり治療関係に秀でてはいませんが」
「この那田蜘蛛山で傷を負った隊士は全て蝶屋敷で治療します。よって、猫の手も借りたくなる程忙しくなることが懸念されます」
「そこで」と言葉を区切り、正座している彼の額に人差し指を当てる。
「傷病者が居なくなるまで、貴方にも手伝って貰います。良いですね?」
「……任務が入った場合は、そちらを優先して良いんですよね」
「勿論です。これはあくまでも私刑ですから、任務を優先にするのは当然です」
「そうですか…」と何か考え、首を傾ける。–––悩む事数瞬。答えを出したのか、正面から此方を見据える。
「–––わかりました。その罰、甘んじて受け入れます」
「ありがとうございます、権兵衛君」
了承の意を受けて、緊張の糸を解す–––断るとは思っていなかったが、万が一があり得るからだ。
「しかし、自分が蝶屋敷で何か手伝える事があるとは思えないのですが…」
「色々と仕事はありますから、そこは心配しなくて大丈夫ですよ」
「そうですか…。アオイさん達に会ったら謝らないといけませんね」
そういうと傍にある日輪刀を持って地面から立ち上がる。
「それでしのぶさん。業腹とは思うんですけど、お願いがあるんです」
「竃門炭治郎君の事、ですね」
「はい」と頷くと、頭を下げてそのまま言葉を続ける。
「なんとか彼が斬首にならないよう尽力してくれないでしょうか。自分にでき得る限りなんでもやります。ですから––––」
「大丈夫ですよ、権兵衛君」
頭を下げている権兵衛君の頭に手を置き、優しく微笑む。意図がわからないのか、キョトンとした様子の彼に口を開く。
「貴方が思っている以上に、貴方は柱の方々に大きな影響力を持っていますから」
そう言って笑うと、木の上で構えている冨岡さんに視線で合図する。音もなく現れた冨岡さんに驚いたのか「えっ」と間の抜けた声を権兵衛君が挙げる。
「冨岡さんもいらっしゃったのですか」
「………あぁ」
「この人も鬼殺の妨害をしたんですよ。夜の森の中で私の自由を奪って」
「…⁉︎」
おちゃらけた風に言うと冨岡さんの表情が強張る。それを聞いた権兵衛君は再び驚き、目を見開く。
「冨岡さんもですか…?」
「あぁ…少し事情があってな」
「そうですか…。理由はともかく、ありがとうございました」
言葉を濁す彼に深々と頭を下げる権兵衛君。–––さて、そろそろ本部に向かわないと間に合わなくなりますね。
「それじゃあ本部に急ぎましょうか、冨岡さん」
「あぁ」
「それじゃあ自分は蝶屋敷の方へ向かいます。–––お二人とも、竃門兄妹の事、どうかよろしくお願いします」
その言葉を背後に私と冨岡さん、権兵衛君とで別の方向へ走り出す。–––彼の心配している事にならないことを確信しつつ、私は本部へと足を早めた。
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––––––小屋内権兵衛の目の前には、白いお皿に載せられた団子が置かれている。
竹串に連なる四つの丸は綺麗な球体を保ち、絹の如き白さを讃えている。更にその上には黄金もかくやと思しき金色のみたらしが満遍なく塗られ、琥珀色に輝いている。––––これは、間違いなく美味しい団子だった。
ここがどこかの茶屋で出されたものであるならば、権兵衛は脇目も振らずに団子を頬張っていたであろう。しかし、件の権兵衛はその団子を見るだけでじっと耐えている。それは、ここが茶屋ではないからだ。
––––––鬼殺隊本部 産屋敷邸。それが権兵衛が現在留まっている場所の名前である。
(この団子は食べて良いのだろうか…いや、目上の人に振る舞われた物を一目散に頬張るのも行儀が悪いか……?)
途中で鞘を回収し、蝶屋敷への道を軽快に走り抜ける最中に鴉に召集が掛けられて本部に連れてこられた次第の彼。目隠しをした後に多くの隠によって経由され、手拭いを外したら既にここに居た為どうやってきたのかは分かっていない––––鬼に居場所を知られないための安全策だろう。
そうやって産屋敷に誘われた権兵衛だが、通された客間にはその時既に団子が正面に鎮座しており、それ以降権兵衛の視線を釘付けにしている。
(なんでここに呼ばれたかの理由によっては遠慮なく食べるんだけど…)
彼自身、自分が本部に呼ばれた理由を測りかねていた。多くの鬼を殺した褒賞なのか、それとも鬼殺の妨害をした事による罰を与えるためなのか。それが見えないからこそ、明らかに美味しい団子を前に彼は耐えているのだ。
(これは食べて良いお団子なのか?それとも食べると不味い団子なのか?わからない…わからない…)
こうして用意されているのだから食べても良い団子とも思える–––しかし、彼は鬼殺隊の頂点に立つ柱の面々がどれだけ規格外で常識知らずかを把握している。よって、それらを統括する本部の人がマトモな人間だと思う方が無理がある。
ここに用意された団子が、実はこれから来る偉い人の物だとしてもなんら不思議はない。
(それとも、これから首を斬るんだからせめて最期くらい美味しい団子を食べさせてあげようという粋な計らいとか…?)
答えのない自問自答は彼の正常な思考能力に異常を来し、やがてとんでも無い方向へと思考が飛んでいく。
(そもそもここは本当に本部なのか?鬼の血鬼術によって作られた空間とかじゃ無いのか?それじゃあこの団子は毒なのか?いや、こんな美味しそうな団子が偽物なわけがない。では本物…つまりここは鬼の血鬼術によって作られた空間に置かれた美味しい団子って事か…?)
–––––––普通に考えればその仮定がおかしい事に気づくが、前述の通り彼は度重なる自問自答の結果正常な思考能力を失っている。故に、そんなあからさまに間違っている仮定を基に自分の行動を定めていく。
(それじゃあこれから鬼を探さなければならない訳だ、つまりこの団子を食べて英気を養う必要がある)
やけに力のある視線で団子を見つめる–––当然だが、ここに鬼がいる筈も無く、その決意は全くの無駄に終わるのだが。
(それじゃあ早速…)
自らの勝手な憶測で勝手に納得した彼はお皿に載せられたお団子を手に取り–––––––。
「–––やぁ、待たせてしまって済まないね」
頬張る直前に、無慈悲にも襖は開かれるのであった––––––––。
__________________
「………」
持ち上げていたお団子をそっとお皿の上に戻し、開けていた口を閉じる。–––––横に控えている子供達の視線が痛いからだ。
そのまま正面に向き直り、頭を伏せる。
「初めまして、私は小屋内権兵衛と申します。今は鬼殺隊にて鬼狩を勤めさせて頂いております」
「そんなに畏まらなくて良いよ。呼びつけたのはこちらだからね」
穏やかな口調の人物–––それが自分の第1印象だ。穏やかな容姿に分不相応の火傷の様な痣が額に走っているが、その顔立ちはとても整っている。火傷が無ければさぞ有名な女泣かせになったに違いない、と見当違いな事が頭に浮かぶ。
すると横に控えている童が彼に耳打ちをする––––そうしたら心配そうな声色で口を開く。
「団子が好物と聞いて用意したんだけど、お口に合わなかったかな?」
「いえそんな…。お恥ずかしい話ですが、団子には目がないものでして」
–––ここを鬼の血鬼術の中だと思っていました、なんておくびにも出さず平静を装う。明らかに人間の気配がする目の前の男性を見て、自分の馬鹿さ加減に自分で頭を痛める。
「それは良かった。あまり気難しい話じゃないから、食べながら話をしようか」
そう言いお皿の上に載せられた団子を勧めてくる–––という事は、この団子は食べて良い団子だったのか。
「それじゃあ、頂きます」と一言置き、団子を大きめに開いた口に放り込む。–––––その時、身体に電流が走った。
「こ、これは…!」
丸く整えられた団子はモチモチと最高の状態で口の中に迎えられ、絶妙な口当たりを演出する。それを包むみたらしもまた絶品で、適度に焦がされたタレが仄かな苦味を表現し、みたらしのタレ特有の甘じょっぱさをより際立たせている––––長々と説明してしまったが、要はとても美味しい団子という事だ。
「気に入って貰えたようだね、良かった」
「はい。とても美味しいです–––しかし、こんなに美味しい団子はどこで?」
次々と団子を口の中に放り込み、一串分を平らげた後疑問を口にする。自慢ではないが、自分は全国各地の名所で団子を食べてきた身。ここまで美味しい団子を取り扱う茶屋ならば覚えがあってもおかしくはない。
「あぁ、それは自分の妻が作った物だよ。気に入って貰えたなら嬉しいね」
「そうなんですか…。とても美味しかったとお伝えください」
「わかったよ、伝えておこう」
言葉もそこそこに、瞬く間に団子の半分を平らげ、童に差し出されたお茶を一口啜る。
「さて、先ずは自己紹介をしようか–––私は産屋敷 輝哉、こんな身で恐縮だけど鬼殺隊の当主を務めているよ」
産屋敷輝哉と名乗る男性–––柱の方々から聞いていた身体特徴である額の痣を見て、彼が鬼殺隊の当主本人である事を認識し再び頭を下げる。
「改めまして…鬼殺隊所属、階級甲、小屋内権兵衛と申します。こうして謁見の機会を賜り、光栄です」
「私はそんなに畏まられるような人物じゃないさ。だからもっと気楽で良いよ」
「そういう訳には………」
どこか心に染み込んでくる声色を聞き、感情が落ち着いていく感覚を覚える––––不思議な感覚だ。
「さて…まずは君にお礼を言わないとね」
「お礼、ですか?」
「そう––––多くの鬼を殺してくれた事、心からありがとう。権兵衛」
そう言って頭を下げるお館様に、こちらも頭を下げる。
「自分がこうして鬼を狩る事が出来るのも、全て鬼殺隊という組織あっての事です。お礼を言うのであれば、それはこちらから伝えるべきかと存じます」
「……どうやら、柱の人たちから聞いていた通りの人物らしいね」
彼が頭を上げるのを見計らい、自身も頭を上げる。そこには穏やかに笑う姿があった。
「柱の方々から、ですか?」
「君の事を色々と聞いたよ。融通の利かない奴だってね」
「……柱の方々に慕って貰えて何よりです」
苦笑いを浮かべながらそう答える。–––恐らく宇髄さんと小把内さんが言った言葉だろう。相変わらず口煩い二人だ。
「そんな君だからこそ、一年で二百もの鬼を殺す事が出来るかもしれないね–––本当に、君には感謝しているよ」
「感謝される事ではありません。自分は自分にでき得る範囲で鬼を殺した、それだけですから」
穏やかな口調に、どこかこちらを思い遣る感情が入る事を感じる。
「––––辛くなかったかい?権兵衛」
「…辛い、ですか?」
疑問符を浮かべた自分にお館様が言葉を重ねる。
「この一年の間に、君は多くの鬼を殺してきた。それと同時に多くの地獄を見て、聞いてきただろう–––それは、とても辛い事の筈だ」
「私の様な、見ているだけの者が言う言葉じゃないけどね」と悲しそうに笑う当主–––その様子を見て、過去の自分を振り返る。
–––彼の言うように、この一年の間に自分は数え切れない惨劇を、地獄を見てきた。
村一つが焼き滅ぶ様を見た、幼子を残して両親が鬼に殺されるところを見た、鬼になった母親に子どもが喰われる場面に出くわした、自分以外の隊士が皆殺しにされる事もあった。––––それはきっと、当主の言う通り辛い事なのだろう。
–––––しかし、それを辛いと言う一言で片付けるのも、また違うと思った。
「–––それは、自分にはわかりません。客観的に辛いと思う場面は確かに多く経験しましたが、それ以上に不甲斐ないと思う自分が居ました」
「不甲斐ない、かい?」
疑問符を浮かべる彼に「はい」と一度頷き、ためを作って口を開く。
「–––自分はいつも、肝心な所で間に合いませんでしたから」
『助けて!助けてくれぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎』
燃え盛る家屋に押し潰され、徐々に炭になっていった人を見た。
『あうー?あー』
両親の流した血に浸った赤ん坊を、夜の中抱き上げた。
『嫌だ!死にたくない‼︎死にたくな–––––』
自分の目の前で、干からびた死体に成り果てた隊士を見た。
––––自分の無力が原因で起こった悲劇で、自分が辛いと言うのは無責任だと思うからだ。
「–––––泣いてるのかい、権兵衛」
「……えっ?」
目元に手を当てるが、涙は出ていない。すると「私は目が見えないよ」と当主が言う。
「では、何故私が泣いていると…」
「そう感じたのさ。それに、瞳から涙を流す事だけが泣く事じゃない。–––心が泣く事だってある」
「心が、泣く…」
自分の胸に手を当てる––––自分は今、泣いているのだろうか。
「権兵衛は、立ち止まろうとは思わないのかい?」
「立ち止まる、ですか?」
「そう」と言葉を区切ると、続けて口を開く。
「そんなに辛い思いをしたのに、それでも刀を置こうとは思わないのかい?」
「…思いません。自分はこの身崩れ落ちるその時まで、鬼を殺し続けようと考えています」
はっきり断じた後、懐から紫の御守りを取り出す–––––助ける事のできなかった少女の髪の毛。自らを戒める、象徴。
これがある限り、自分は走り続けるのだろう–––地獄を幾度見ようとも。
「–––強いね、権兵衛は」
それだけ言うと、ふぅと息を吐く。先程から見ていると、やはり体調は良くないようだ。
「君は知っているかもしれないけど、現役の柱の皆は君を柱に推薦している。そして私も、君になら柱を任せられると思っている」
「どうかな?」と聞いてくる当主に一拍起き、良く通る声で口を開く。
「自分は、柱にはなれません」
「…やっぱり、か」
どこか残念そうに笑う当主に、こちらも苦笑いを浮かべる–––お館様の誘いを断ったと知れれば、柱の方々から苦言を呈される事が目に見えるからだ。
「はい。申し訳ありません」
「決意は固いようだね…。理由は聞いても良いかな?」
「色々とありますが–––––大きな理由は身勝手なものですよ」
「身勝手な理由?」と聞いてくるお館様に「はい」と一つ頷く。
「責任がある身分では、命を安易に捨てる事が出来なくなりますから」
その言葉を皮切りに、畳の間に静寂が訪れる。ある程度それが続いた後、お館様が静かに口を開く。
「–––命を捨てよう、と考えているのかい?」
「いえ、違います。僭越ながら、自分は生き残る戦法を得意とします。それは、自分の命を最大限使い切るためです」
「それなら…」
「しかし、命を優先するだけではどうしようない事態がある事も、また知っています」
命を落とさないよう最大限力を尽くす。それは当然だ。–––しかし、それではどうにもできない事だってある。
「私はそんな場面に遭遇し、これは自分の命を賭すに値すると判断した場合は、躊躇いなくこの命を燃やしたいと考えています」
「………」
「ですからその時に躊躇わなくて済むよう、背負うものは成る可く少なくしておきたいんです」
「柱という身分を背負った命は、安易に捨てる事は出来ませんから」と区切る––––鬼殺隊を背負うものが、安易に斃れる事は許されないと考えるからだ。
いつ如何なる状況に於いても最善を尽くし、多くの鬼を滅殺するのが鬼殺隊の柱–––であるならば、その役割は荷が重い。
「–––そうか。それが君の考えだと言うのなら、私はその考えを尊重しよう」
「ありがとうございます、お館様」
「ただ…」
「ただ?」
「出来れば君には死んでほしくないかな」
そう言って微笑むお館様に、思わずキョトンとしてしまう–––––自分が思っている以上に、この人はお茶目なのかも知れない。
「私からの話は以上だけど…何か聞きたいことはあるかな?」
「では、一つよろしいでしょうか」
「何かな?」
「竃門兄妹についてです。彼らは今どんな状況に置かれているのでしょうか」
本来なら聞かない方が良いのだろうが、ここは疑問を口にする。–––悲惨な結果ならば、なるべく早いうちに消化したかったからだ。
しかし、自分の予想とは裏腹にお館様は穏やかな笑みを浮かべて口を開く。
「それなら心配いらないよ、彼等なら今しのぶの所で怪我を治している筈だ」
「そうですか!それは良かった…」
自身の心配が杞憂に終わった事に安堵し、胸を撫で下ろす。
「–––最も、君が助かったかはわからないけどね」
「……?」
どこか意味深に笑うお館様に疑問符を浮かべると「さて」と切り替える。
「那田蜘蛛山から帰ってきたばかりなのに、呼び立てて済まなかったね。権兵衛」
「いえ、それくらいは」
「君はこれから蝶屋敷に行くのだろう?隠に伝えておくよ」
「恐縮です」
残った団子の一串を一口に頬張り、お茶を飲む。出されたものが全て空になった事を見計らって立ち上がり、頭を下げる。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「こちらこそ話を聞けて良かったよ。–––君が死なない事をここから祈っている」
「ありがとうございます。しぶとさには自信がありますので、精々死に物狂いで生き抜いてみせます」
そう言って笑うお館様にこちらも軽口を零す。そのまま襖を開けて畳の間から出る––––不思議な雰囲気の人だったと思う。
いつのまにか正面に居た黒髪の童の誘導に従い、産屋敷の外に出る。
「–––眩しいな」
空から見える太陽は、眩しいくらいに輝いていた–––––––。
_____________________
「–––––とても強い子だった」
黒髪の少年–––––小屋内権兵衛が立ち去った事を見計らい、輝哉が言葉を零す。感嘆に満ちたその声色は、本当にそう思っての言葉だと伺える。
彼が権兵衛を評価するのは一年という間で200に及ぶ鬼を滅殺した事、それではない。
彼を強いと評したのは、その心の在り方なのだ。
側に控えている子供に手を引かれ、その場を後にする。その際にも、権兵衛が零した言葉が輝哉の頭の中を巡っていた。
(『間に合わない』か…それは違うよ、権兵衛)
自分の事を『間に合わない』といった権兵衛を、頭の中で否定する。
(普通の人ならその現場に辿り着く事すら出来なかっただろう–––けど君は間に合った、間に合ってしまったんだ)
普通ならば遭遇する事の無かった悲劇––––––それを彼は見てしまったのだ。決して手の届く事のない望遠の悲劇を、彼は見る事ができるのだ。しかし、先も言った通りそれは見る事は出来ても、手を伸ばす事は出来ないのだ。
悲劇に間に合うように、今度こそ手を伸ばせるようにと走った脚は、却って手の届かない悲劇を多く見てしまう–––それは、これ以上ない皮肉だろう。
誰かを助ける為にと走った脚はたしかに多くの人を救ったのだろう–––しかし、その結果見なくてもいい惨劇とも遭遇してしまった。
この世はやはり地獄なのだと、輝哉は一人思う。
(けど、彼はそれでも走り続けている)
自らを間に合わない者だと罵りながらも、自分を諦めずに磨き続けて多くの鬼を屠ってきた彼。決して投げ出さず、逃げず、見て見ぬ振りをしない事は、尋常ではない覚悟が求められる。小屋内権兵衛という少年は、あの若さでその覚悟を持ってしまったのだ。
「…しのぶには感謝しないとね」
権兵衛を蝶屋敷に少しの間置いた彼女の判断を賞賛する。目が見えない輝哉だからこそ、表面上はうまく取り繕っている権兵衛の疲労を見抜いていたからだ。
この一年で途方も無い戦闘経験を積んだ権兵衛は柱と比べても遜色ない実力の持ち主であり、同時に回復の呼吸の達人でもある。そんな彼だからこそ一週間や二週間程度は休息を取らなくても鬼に遅れをとる事はないのだろう。しかし、それが一月を超えると事情が変わってくる。
全集中の呼吸は人の身でありながら鬼と同等の身体能力を得る事ができるものだが、当然万能ではない。本来睡眠を必要とする所を呼吸で誤魔化した所で、いつかガタが来るのは明白である。
(出来れば無理はして欲しくないけど……)
当然そんな無茶をする彼の事は輝哉も憂慮している。–––しかし、権兵衛の活動はその討伐数を見ても鬼殺隊の中核を担っている事がわかる。万年人材不足の鬼殺隊がここ一年間は余裕を持って回せている事実も、偏に彼の成果でもあるからだ。
(彼の安全か、鬼殺隊の生存率か…)
輝哉は多くの隊員と権兵衛との天秤にかけた辺りで思考を無理矢理止める。そして、権兵衛が柱の皆んなに構われている事実を再認識する––––確かに、彼を放って置いたら最期、どこか遠くに行く事が簡単に想像できる。
団子を食べる時のあどけない少年の顔と、懺悔を零す罪人の顔。どこか不釣り合いなそれは、小屋内権兵衛という少年にとっては分相応な感じがすると輝哉は思う。
(どうか君が、自分の道を見失わないように)
妻の作った団子を食べて喜んでいた彼の様子を思い出す。彼がなにも気にする事なく笑えるよう祈って、輝哉は未来へ想いを馳せた––––––。
小屋内権兵衛(激情)
血液の循環を意図的に早める事で体温を急激に上昇させ、通常ならざる身体能力を持った状態。日光街道で遭遇した増殖鬼との戦闘で覚えた感覚を四ヶ月の戦闘を得て形にした、所謂高体温形態。本来起こりうるであろう反動だが、持ち前の回復の呼吸によってこれを無理矢理抑え込み、長時間この状態を維持する事が出来る。
文字数について
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文字数が多すぎて読みにくい
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丁度読みやすい程度の文字数