黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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10話 平穏な一時

この世界のキキは"無個性"のキキ・レイラドルと黒猫の魔法使いのキキ・レイラドル。この世界では別々の存在として生きていた。

世間には特に問題なく欺けられているのだが、施設にはある程度の期間帰ってこなくなると、怪しまれることになるので、一定の期間が経つと施設に戻らなければならなくなっていた。ただでさえ再就職は難しいのに、今の状況で仕事が見付かりましたと言っても真実でもらえないからだ。

 

例え仕事が見付かったと言ったところで、マスコミが嗅ぎ回っている影響により、キキ含め非正規の職員は騒ぎが収まるまでの間は辞めるにも、辞められなくなってしまっていた。

マスコミ騒動が終わるまでキキは、ヒーロー活動と施設の職員、二つの生活を掛け持ちしなければいけなくなってしまったのであった。

 

 

迷惑を掛けてしまった分、仕事で汚名返上をしようと張り切って仕事に向かうキキ。

 

「おっはよー!」

 

職員室に向かう途中、キキの後ろから元気よく舞梓が挨拶をする。

 

「おはよう」

 

キキも微笑んで挨拶をする。

 

「お帰り。キキちゃん」

 

「ただいま」

 

「就職活動お疲れ様。...キキちゃん、やっぱり今は...急がなくても良いんじゃないの?他の職員の人達だって、マスコミ騒動が落ち着いてから行動をしようとしているよ。特にキキちゃんは、黒猫の魔法使いとそっくりなんだから、施設で働いていた方が良いと思うよ?」

 

就職活動という名目で出掛けているキキに、舞梓がキキの様子を探りながら心配をする。

 

「ありがとう。でも、大丈夫。やりたいことがあるから」

 

キキは笑顔で安心させようとする。

 

「そう?無理しないでね」

 

舞梓もキキの笑顔を見て言うのを止める。

そんなこんなで職員室に辿り着くと先に着いていた他の職員からお帰り、久し振り等の挨拶で歓迎されているキキだった。

今日の説明を受けて、仕事を始める前に朝食を食べるようと思っていたのだが─

 

 

「お帰りなさい」

 

「おう、帰ってきたのか。お疲れさん」

 

キキは人気者になっており動けなくなっていた。キキが帰ってきたのが分かると職員の誰もが、労いの言葉と挨拶をしに来るからだ。

敵(ヴィラン)と戦っていたり、市民から嫌がらせを受けていたキキにとって、職員の人達の挨拶と労いの言葉は心が浄化される程癒されるものとなっていた。

 

キキがここまで人気があるのは二つの理由があった。

 

一つ目の理由は、敵(ヴィラン)とヒーローの戦いの観戦に対して怒ったこと。

子供達の中には敵(ヴィラン)による被害で、歳関係なく、今でもトラウマで苦しめられ、夢にまで出て夜も眠れない子。忘れたくても、たまにふとした瞬間に思い出してしまう子、ストレスで自傷をしてしまう子、似たような場面で体調不良を起こしてしまう子がそれなりにいる。

職員の人達は被害に遭った子供達が、ここまで苦しんでいるのを知っているからこそ、ヒーローと敵(ヴィラン)の戦いをライブ感覚で見ることに腹を立てていた。でも、世間の考えに立ち向かえる者は誰もいなかった。

けれども、キキとウィズが、職員の人達に代わって自分達の意見のように怒ってくれた。異議を唱えるだけでも、彼等にとっては飛び上がる程嬉しいものであるのに、キキとウィズは本気で怒り、世間から酷い目に遭っても意見を変えない。自分達が出来ないことをやってのける、彼女達を応援したくなる気持ちは当然のことだった。

 

二つの理由は敵(ヴィラン)を庇ったこと。

この意見を聞いて、非正規の職員と敵(ヴィラン)から産まれた子供達は感涙の涙を流す程喜んでいた。世間にとって元敵(ヴィラン)や、敵(ヴィラン)の子供は差別の対象だ。敵(ヴィラン)の子供は悪いことをしていなくても学校で虐められ、一度でも敵(ヴィラン)になってしまった者は知り合いや友達からは縁を切られ、親からは勘当をされる。名も知らぬ赤の他人から、一生言われ続け蔑まれる。敵(ヴィラン)を庇う者などおらず、庇った人も敵(ヴィラン)扱いをされる。それでも庇い続けるのは、凄いことなのだ。

 

その二つの理由から彼等にとって、キキとウィズは救世主にも近い存在になっていた。

だから、赤の他人だとしても、姿と声がそっくりのキキを大事にする。

 

キキとウィズはヒーローとして嫌われていると思っているが、苦しんだことがある人、他人が苦しんでいる姿を見たことがある人、今なお苦しめられている人にとってはここの施設限らず、密かに人気があることを知らなかった。

 

 

色々な理由が重なって施設の職員には人気者のキキ。

挨拶を終えたキキは食堂に辿り着き、食事を自分で用意して席に座る。隣には舞梓が座っており、他にも今日はお休みだと言う香、キキをマスコミから守ってくれた紫色の髪の毛の三十代前半の男性、指標 天意【しひょう てんい】がキキの近くの席に座っていた。

 

キキは味噌汁を飲んでから、子供達の様子を香に尋ねる。

 

「最近、子供達の様子はどう?」

 

「ええ、大丈夫ですわ」

 

「良かった」

 

一安心をするキキであったが、念の為に舞梓が困った笑みを浮かべながら訊ねる。

 

「やっぱり、学校休ませて正解だった?」

 

「え、ええ。...そうですわね...」

 

良くない内容が以心伝心したらしく、香もまた困った笑みを浮かべる。

 

施設の子供たちが通う学校でも、キキについての話がよく話題になっているらしい。

外の子供達もキキが本物だろうが、偽者だろうが関係なかった。気の弱い子を狙って嫌がらせをしてくるのだ。そのせいで、子供たちの気が病んでしまい、感情を上手く制御出来ない子供は、八つ当たりとしてキキを嫌っていた。

 

この理由もまた、児童養護施設オアシスが世間と上手くいっていない理由でもある。

偏見に満ちた人や、意地悪な人達が施設の子供達を虐めてくるのだ。そのせいで、数年前自殺してしまった子供もいる。学校や保護者に問い詰めても認めない。虐めていない、そんなのそっちの思い違いだ、と言い捨て聞く耳を持たなかった。

響明の"個性"を使えば簡単に判るのだが、プライバシーの侵害、少年法、未成年だからと言われ、手を出すことは出来なかった。

 

非正規も同じく弱い立場であった。

せっかく社会復帰が出来ても、前科持ちだということがバレてしまい、嫌がらせをされ、またここへ戻ってきてしまうパターンがそれなりに多い。

 

施設側が上手くやろうとしても無意味であった。外の方がちょっかい出してきて上手くいかないのだ。

 

「学校なんて、元々、碌でもないところじゃん。行かなくたって何も問題ねぇよ。そもそも冬休みが近かったからな。休むが増えるだけだし」

 

嫌な雰囲気を吹き飛ばすかのように、ケラケラと笑いながら言う天意。しかしながら、世間への隠憎しみをしきれていなかった。

困り顔で笑みを浮かべるだけで何も反論しない香。プーと頬を膨らませて何か言いたそうな舞梓。

 

微妙な雰囲気になっていく。

キキは雰囲気を変える為、気になっていたあることを質問をする。

 

「世間の人達はヒーローと敵(ヴィラン)の観戦を好んで観ているけど...ここの人達はそのことを駄目なこととして認識をしている。...そのような考えになったのは理由があるから?それとも初めから嫌だった?」

 

キキの真面目な質問に三人は顔を見合わせる。

キキがずっと気になっているのも当然だ。殆どの人達は世界のあり方に疑問を感じない。それでも疑問を感じるとしたら、何か大きな出来事が起きたからである。何が切っ掛けで、目を覚ますことが出来たのかを知りたいと思うのは当然のことだ。

 

「私は......恥ずかしながら、ここで働くまでの間は、特に疑問を感じていませんでした...」

 

香は過去の自分を悔やみ、手で顔を隠して泣き出してしまう。

周りの人達がこちらのテーブルに注目をする中、舞梓が明るめの声で香を励ます。

 

「あたしだって!ここに働くまで気にしたことなかったもん!だから、花野さんがここまで気にすることはないよ!」

 

「...悪いと思っているんなら、そこまで気にする必要はないと思うぞ」

 

「責める為に聞いた訳じゃないよ。どうしたら目を覚ますのかを聞きたいだけだから気にしないで」

 

キキと天意がやんわりと香を宥める。

皆に説得をされた泣き止む香。香がまた自分のことを責めてしまう前に天意は話し出す。

 

「俺は......ここに来る前はよく虐められていたからか...人質が虐められている俺と重なって...それで虫酸が走る程嫌になったんだよなあ...。......けど...世の中にはまだ気が付いていない馬鹿が!たくさんいるから、そこまで気にすることはなくね...」

 

馬鹿!と強調をしながら、天意は最後照れくさくなりながらも香を庇う。

舞梓はそれに続くように語り出す。

 

「あたしは...高校生の時に行ったインターンの時のことだけど...。あたしがインターンで行った事務所のヒーローが...子供だけは助けられたけど...子供の両親は間に合わなくて...。それで、子供が泣いて、事務所のヒーロー達を責めている姿を見てね...その姿が忘れられなくて...ううん!忘れてはいけないの!忘れないように、この施設に就いたのだけど...思っていた以上に助けられていない子供達がたくさんいて...それからかな、助けられていないパターンが多いのに、なんで喜んで観ていられるのかなぁ...と嫌になったの」

 

キキの疑問が場を暗くする。

場を暗くしてしまったことに責任を感じたキキは、急いで話を変える。

 

「舞梓はヒーローだったんだ」

 

「うん、そうだよ。今年デビューしたばかりの新人ヒーロー乱舞。応援、よろしくね♪」

 

暗い雰囲気を吹き飛ばす為、舞梓はわざと茶化して挨拶をする。

 

「ところで、舞梓はなんでヒーローに成りたいと思ったの?」

 

キキはこの中で一番テンションが高い舞梓に話を振る。

 

「あたしがヒーローに成りたかった理由?う~~ん......あんまり考えたことはないかも...格好良いから目指した訳だしなあ...」

 

「へぇー...そうなんだね...。香と天意はどうしてここで働くことを決めたの?」

 

命懸けの仕事なのに意外にも理由は軽かった。

何とも言えない気分になったキキは、香と天意に話を振って尋ねる。

 

「私は...ヒーローに成れなくても、人の役に立つお仕事を探しておりまして...。丁度その時、ボランティア活動でここを知りまして、応募をしたのですよ」

 

「俺は...自分自身が困っている子供だったから、やっぱり見過ごせないし、助けたいと思ってな。だからこの仕事に就いた」

 

真面目な雰囲気で質問を答える二人。

この後は暗い雰囲気になることはなく、楽しく話をしながら朝食を食べるのであった。

 

 

 

朝食を終えて仕事を始める。

それから暫く経って仕事が落ち着いた時、キキはある作業を開始する。

 

赤や白などのペンキ、筆、大きめの木の板。

仕事の合間、職員全員で祭りの準備をするのであった。

 

切っ掛けはキキが送ったプレゼントだ。

実は鍋を食べた後、キキは迷惑を掛けてしまった子供達に、みんなで遊べるプレゼントを買おうと考えていたのだ。キキは借金してまでも買おうとしたが、オールマイトが全額払ってくれたのだ。オールマイトが贈ったプレゼントは、子供達や施設の職員達に大いに喜んでもらえ、そのプレゼントを活かす為に、お正月に祭りを開くことになった。祭りの準備はキキが戻ってくる前には始まっていた。

 

キキが袖をまくって準備に取り掛かっていると...

 

「...お姉さん。まつりのじゅんびをしているの?!」

 

一人の少女が興味津々と近付いて来る。

声をかけてきた少女の後ろから、二、三人の少年少女がぞろぞろとやって来た。

 

今のキキはなんとか子供達の機嫌を取り戻せていた。

プレゼントの効果であったり、時間が解決をしてくれたり、職員の人達が頑張ってくれたお陰で、理不尽な目に遭った子供達もキキのことを嫌うのを辞める。

 

「そうだよ」

 

「やっぱり!」

 

キキが返事をすると目をキラキラと輝かさせる子供達。

 

「やらせて!やらせて!」

 

「うん、良いよ」

 

キキが了承すると子供達は喜んで作業を始める。

カラフルにぐちゃぐちゃに塗りたくられていく看板。

手も服も顔もペンキで汚しながら、作業を進めていくうちに、子供達の中で一番歳上そうなおさげの少女が訊ねる。

 

「ねぇ、お姉さん」

 

「なあに」

 

「お姉さんって、黒ねこのまほうつかいにそっくりだね。本当は黒ねこのまほうつかい?」

 

「ボクは"無個性"だから違うよ」

 

「ふ~ん。そうなんだ」

 

「うそだ!そっくりじゃん!」

 

元気いっぱいな丸坊主の少年は信じてもらえなかった。

 

「そうだよ!」

 

髪の長い少女も丸坊主の少年と同じ意見だ。

 

「だったら、測定さんや杞奥さんに聞いてみるといいよ。あの人達が証明してくれるから」

 

「しょうめい?」

 

髪の長い少女は首を傾げる。

 

「証明はね...それが本当だよって、教えてくれるもの」

 

「...ふーん、そうなんだ」

 

髪の長い少女は曖昧な返事をする。

 

「まあ!何でもいいや!それより、まつりだ!」

 

丸坊主の少年は祭りの方が大事で作業を再開する。

 

「うん、そうだね!ゆい姉もやろうよ!」

 

おさげの少女も作業の続きを促す。

 

「うん!」

 

髪の長い少女もまた喜んで作業を再開する。

子供達の作業を見守っていると...

 

「おう!お前達もやっているか?」

 

豹朗が子供達を連れてやって来る。

 

豹朗の服もペンキで汚れており、完成した看板を脇に抱え込んで運んでいた。

子供が書いたのだろうか、大きい歪んだ字には、わたあめ屋と書いてあった。

 

「うん、やっているよ。けみやさん」

 

おさげの少女が返事をする。

 

「そうか!そうか!で、何の看板を作っているんだ?」

 

豹朗が屈んで聞く。

 

「金魚すくい」

 

「わなげや!」

 

「クレープやさん」

 

子供達全員の意見がバラバラだった。

 

決めていなかったんだ、とキキは少し呆れる。

キキは道具を用意しただけで、子供達がやりたい、と言ったものだから、後は任せるつもりだったので何も知らなかったのだ。

 

豹朗は困った笑みを浮かべながら頭をかく。

 

「...あ~~...金魚すくいは...生き物を用意するのは難しいって、言われなかったか?輪投げも、景品を用意するのはちょっと難しいって、言っていた筈だぞ。クレープ屋は昨日、真理が終わらせたって言っていたぞ。知らなかったか?」

 

「だって、やりたいから!」

 

「おれもわなげしたい!」

 

「クレープやは、わたしがやるってきまっていたもん!....なのに!なのに!...うわーーん」

 

豹朗は泣き出した長い髪の少女の頭を撫でた。

 

「あー...それは、災難だったな」

 

豹朗が頭を撫でて宥めている。

だが、結局三人の意見は元からバラバラで、また揉めそうだと、ある意味考えてはいけないこの先のことをキキは考えてしまう。

 

考え込んでいるうちにある疑問が浮かび上がる。そこでキキは、眼鏡をかけた賢そうな少年に話を聞く。

 

「少し、話を良いかな?」

 

「...なんでしょう?」

 

「こういった喧嘩って、よくあるの?」

 

その質問に少年はあからさまに呆れ、大人ぶった表情で語り出す。

 

「よくありますよ!せっかく集まって、決めたのに、勝手にやり始めたり、もめてけんかをしたり、あれがやりたいと泣き出す。...みんなもう、子どもなんだから...」

 

頑張って背伸びをして話をしている少年の姿にキキは、君も子供だろう、と思ってしまう。

 

「あー!今、ぼくのこと!子どもあつかいしたな!けんかをして、足を引っぱったりするほど子どもじゃないぞ!」

 

「大丈夫。分かっているよ」

 

取り繕っても納得してもらえず、背中をポカポカと殴られてしまう。

 

「いーーや、ぜったいに分かってない!」

 

顔を真っ赤にして叫ぶ少年。キキは恥ずかしがる少年を見ながら思う。

平和だからこそ何でもないことに全力に取り組み、笑い合ったり、時には喧嘩が起きてしまう。

 

だけどそんな平和な日常に、キキは暖かみを感じるのであった。

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