黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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はじめから言っておきます。

バーニンのファンの方はすみません。

彼女は思った事をズバズバと言うタイプだったので、キツイ事を言わせております。

もし、嫌悪感を感じたら、ブラウザバックをオススメします。


12話 これからが本番

ドクンー

 

ドクンー

 

ドクンー

 

キキの心臓は緊張してしまったせいでおかしくなっていた。その動きはまるで、時を告げる鐘を誰かが不要に鳴らしてまくっているみたいだった。

あまりにも五月蝿くて思わず耳を塞いだのだが、自分の体から鳴る音だから意味はなかった。

 

落ち着かせる為に深呼吸を行い、ゆっくりと空気を吸って息を吐く。

それらを数十何回か行っているうちに、ウィズの声によって中断される。

 

「キキ。緊張するのは分かるけど、もう結果は分かりきっていることだから落ち着くにゃ」

 

「...そうだけど...」

 

ウィズの言い分は分かっているが、気持ちは収まらなくて深呼吸を止められないキキ。

暗い顔をしたまま突っ立っているキキを見ていたウィズは溜め息をつく。

 

「もう!くよくよしていたってしょうがないにゃ!だったら、少しでも明るく振る舞うように心掛ける方が、印象良くなる筈にゃ」

 

キキは言われた通りに笑顔を作ってみたが、どうしても緊張が抜けず苦笑いだった。

仲良くしないといけないと分かってはいるが、頭の中では言い争いをして拒絶される光景しか思い浮かばず、どうしても気が進まなくなる。

 

「おい、入れ」

 

キキが笑顔の練習をしている最中、エンデヴァーからお呼び出しを受ける。

キキとウィズは互いに数十秒間顔を向かい合わせてから頷くと、エンデヴァーとその相棒(サイドキック)が居る部屋に入るのであった。

 

 

「失礼します」

 

キキとウィズは恐る恐るではなく、堂々とここに居るのは自然だと言わんばかりに当たり前のように入る。

ゆっくりと歩き中央まで辿り着くと仁王立ちをし、キキの肩に乗っているウィズもキリッとした表情で前を見る。

 

キキとウィズが入った途端空気が一気に変わる。

相棒(サイドキック)達は驚きのあまりざわめき、近くに居る者同士でひそひそと話し出す。

 

その様子にキキは、誰にもばれないようにホッと安堵の息を吐いた。

なんでここに来るんだよ!と、この時点で拒絶される最悪の可能性を考えていたのだ。

 

エンデヴァーが注意しようとした瞬間、一人の女性が手を挙げた。

 

「質問いい?」

 

質問してきたのは白い軍服のような服を着た女性だ。

炎のようになびかせたネオングリーンの長い髪と、パッチリとしたつり目が特徴的な人で、見た目通りのハキハキした人だ。

 

「ああ、構わない」

 

エンデヴァーはあっさりと承諾する。

質問を承諾された女性は、はっきりと大きな声で話し出す。

 

「何で、アンタはここにいるんだ?アンタはオールマイトのサイドキックだったよね?オールマイトと共に戦わなくていいのか?」

 

女性の質問は相棒(サイドキック)全員の気持ちを表していた。

その手の質問をされることを予想していたキキは、予め用意していた答えを語る。

 

「オールマイトが自分と共に戦うだけではなく、他の人とも戦ってみることも良い経験となると言われ...」

 

「ふーん、実質クビじゃん!」

 

キキの説明が終える前に質問してきた女性が遮った。

一瞬ビックリして固まってしまったが、何事もなかったようにキキは説明を再開しようと口を開こうとするが...

 

「だって、アンタさ自分の発言で、市民に嫌われているもんね。流石のオールマイトも流石に手に負えなくなったのか?そもそも、ヒーローは何も言わずに市民を守る者でしょ!」

 

「だから!市民を守る為に、危ない場所にいたら注意するんだよ!」

 

女性のあまりにの言い草に、キキは用意してきた言葉を言う気力はなくなったが反論する気力は残っていた。

 

けれど意見を聞いてもらえることはなく、キキの意見に女性は眉を潜めた。

 

「そっちの方こそ分かってないよ!ヒーローの戦う姿ってね、市民を安心させる力があるのよ!それとね、ヒーローの力強さを見せれば、敵(ヴィラン)だってやる気を失くして、犯罪を減らすことが出来るのよ!現にオールマイトがいるところは、減っているから」

 

女性の意見にムッとするキキ。

キキの代わりににウィズが話し出す。

 

「確かに強ければ戦いを挑まれにくくなるけど、戦っている姿を見せることは、必ずその場で見せないといけない事なのかにゃ?テレビとかネットとかでは駄目なのかにゃ?......あれ?その場で見せなくても...」

 

「何言ってんの?ヒーローの傍にいる方が安全でしょ!」

 

「にゃにゃ!?」

 

ウィズは何か思い出せそうとするが、女性の大きな声ととんちんかんな言い分に、言いたいことが吹き飛んでしまって思い出せなくなる。

 

ウィズも口論に加わりそうになった。

その時やっと、今まで傍観していたエンデヴァーが炎を放出しながら怒鳴って話を止めさせた。

 

「お前らいい加減にしろ!」

 

周りが静寂に包まれるとエンデヴァーは喋り出す。

 

「そいつが優秀だったから、ここにいることを認めただけだ。お前達プロなのに揉め事を起こすのか?そんなに自分の意見が正しいと言うとなら実力で示せ!」

 

エンデヴァーの迫力に圧倒されるキキとウィズと相棒(サイドキック)達。

エンデヴァーは全員が大人しくなったところで指示を出す。

 

「今日の朝礼はこれで終わりだ。各自持ち場に就け」

 

そう言われた相棒(サイドキック)達は、直ぐ様自分達のやるべき仕事に就く。途中から参加したキキは何をすればいいのか分からず立ち止まっていた。

 

エンデヴァーは事務員に話し掛ける。

 

「水元、これから魔法使いと大事な話があるから、もし客人が来ていたら待たせるようにしておけ」

 

「はい、エンデヴァー様」

 

事務員の返事が終わらない内に、エンデヴァーはキキを別の部屋へと連れて行くのであった。

 

 

 

社長室に連れて来られたキキとウィズ。

キキとウィズはムスッとした顔で、エンデヴァーを見ていた。

 

エンデヴァーは腕を組んで溜め息をつく。

 

「お前らな、喧嘩をしないと約束をしただろうが」

 

「そんなことを言われたって、あんなことを言われれば誰だって怒るにゃ!」

 

ウィズは自分よりも遥か大きく、動物にとって苦手な炎を絶えずに放っているのに屈することなく言い返す。

キキもウィズの意見に頷いて同意する。

 

エンデヴァーはそんな二人を見て、思い切り溜め息を吐いた。

 

「では...今みたく、一々喧嘩をするのか?」

 

「それは...」

 

エンデヴァーの言葉に自覚あるキキ。

どんな人にでも譲れない想いがあるのは理解しており、何を言っても変わらないことは分かっている。それでも、こればかりは、一ミリたりとも認めたくないキキであった。

 

そもそも、敵は、自分の目的を叶えるためなら手段なんて選ばない。周囲に被害が出るのは当然のことであり、人質にされてしまうことだってある。敵の中には人を殺すことに躊躇しない敵もいる。そして敵は常に、勝つ為に相手が嫌がることをする。

それなのに、その場に戦えない者を残すのは危ないどころの話で済ませる問題ではなく、自殺行為そのものでもある。

 

もし、敵が自分より強かったらどうするんだ?しかもこの世界では"個性"の相性が悪いと戦わない人もいる。

黙り込んで考えているキキを見て、エンデヴァーは話を続ける。

 

「お前らがどう考えようとも勝手だが、ヒーローとして働くなら俺らの考えに合わせろ。でないと、一緒には戦えん」

 

「えっ...」

 

驚くキキを見ると、エンデヴァーは面倒くさそうに語り始めた。

 

「いいか、ヒーローは基本歩合制だが、実力だけではなく人気も必要だ。今のお前の状態では俺はともかく、他の相棒(サイドキック)の足を引っ張るだろう。だから国の方でも、一般市民と仲良くしろと言われるんだ。お前らの生活は保障されているが、他のヒーローは市民から支持されないと、食っていくのは難しい。仲良くなれない限り、相棒(サイドキック)と共に戦うことは出来ない」

 

「じゃあ、私達がここに来た意味ないにゃ」

 

ウィズが無駄足だったと溜め息をつく。

 

「それはない」

 

エンデヴァーがキッパリと否定する。

 

「何でにゃ?」

 

「話を聞いてなかったのか?俺は影響出ても大丈夫だと。だから、暫くの間は俺と二人で行動をする。今日みたく俺に用事があると、一人で行ってもらわなければならないのだが」

 

言い終えたエンデヴァーは無線機を渡す。

無理やり納得するしかなかったキキは、無線機を受け取りこれからのことを訊ねた。

 

「で、これからどうすればいいの?」

 

「時間までパトロールをし、異常があれば解決をする。それの繰り返しだ。もし要請が必要だったらこれで呼べ。こちら側も何かあったらお前を呼ぶ。分かったら行け」

 

説明が終えると、キキは半ば追い出されるようにして部屋を出る。

 

長い廊下を歩きながらこれからのことを考える。

キキは不満をウィズに話して発散したかったが、全身が鉛のように重たく、口を開くことさえも煩わしくなっていた。それにウィズに愚痴ったところで何も解決はしない。

 

キキは何度目か分からない溜め息を繰り返す。

 

だからこそ気が付かなかった。

くすんだ灰色の短い髪の若い女性とすれ違ったことを。

 

その女性はキキとウィズをチラッと見ただけなのに、息が止まりそうになっていた。

 

「ふ、ふふふ、ふふふふふふふふふえぇ!!?」

 

「にゃにゃ!?」

 

すっとんきょうな叫び声に驚いて立ち止まるキキ。

ウィズも女性の叫び声に釣られて少し叫んでしまう。

 

驚いて固まっているキキに、女性は遠慮なく近づき勝手に手を握る。

 

「お初にお目にかかります。黒猫の魔法使いさん、ウィズさん。私は湖井 白部【こせい しらべ】と申します」

 

キキとウィズの反応を後目に心底嬉しそうに語る女性。

女性のテンションについていけず、キキとウィズは固まってしまう。

 

キキとウィズが呆然としている間のことであった。

 

突然、女性の鏡のように透き通った美しい銀色の瞳が一瞬怪しく光る。

キキとウィズはその変化に気が付く。"個性"を使ったことは明白だった。気が付いたキキが、今何をした!と問い詰めようとする前に女性の様子が可笑しくなる。

 

女性の身体は吹雪の中を歩かされたように震え、身体中の血が抜かれたみたいに青ざめる。

 

「大丈夫!?」

 

キキは女性に声を掛けるが、口をガタガタと震わせるだけだった。

女性の目は頻りに目をキョロキョロさせてどこに向けているのか分からない。空気を漏らすことしか出来なかった口がやっと言葉を紡ぐ。

 

「..............む..."無個性"..........?う、ううううううううううう、ううううう嘘!?あ、ああ、あなたが、む、むむむむむむむ”無個性”だなんて!!嘘よ!!!.............嘘って!言ってよ!!!言ってよ!!!言ってよーーーーー!!!!」

 

話せたが発狂をして会話にならなかった。

頭皮から血を流す程かきむしり、獣のように吠える。瞳から涙は流れ、まるで母を求める迷子の子供のように泣き叫ぶ。キキとウィズは"個性"を使って勝手に何かしようとした怒りはすぐに消えて女性の身を案じる。

 

「おい!何があったんだ!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

そんな時だった。

叫び声を聞きつけたエンデヴァーとスタッフ達が駆け寄る。

 

「こっちの方こそ聞きたいにゃ。なんか"個性"を使ったと思えば急に叫び始めたにゃ」

 

ウィズが愚痴りぎみに語る。

 

「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!」

 

エンデヴァーは女性の身を覆い被せるようにしゃがみ込み、力強く声を掛けて気を確かめる。

 

焦点が定まっていなかった女性の目は、次第にエンデヴァーを見詰める。

 

「そうだ。目が覚めたか?ならば、深呼吸をしてみろ」

 

返事の代わりに深呼吸をしろと告げられた女性は深呼吸をして応える。深呼吸を繰り返しているうちに、体の震えは収まり引っ掻くのを止める。

 

「ご、ごめんなさい」

 

落ち着きを取り戻した女性は静かに謝ると、スタッフ達に支えられて、近くの部屋まで連れて行かれた。

後に残ったのはキキ、ウィズ、エンデヴァーだけだった。

 

「あの人はいったい何なんだ?」

 

キキはポツリと呟く。

 

「湖井か。誰にでも気安く話し掛ける人だ」

 

「それはさっき会った時の態度で分かるにゃ。それは良いけど...あの人"個性"をいきなり使ってきたにゃ。あの人は怪しい人ではないのかにゃ?」

 

いくら苦しんでいたとは言え、いきなり"個性"を使ってきたことに訝しげるウィズ。そのことに共感したエンデヴァーも頷きながらも仕方がないと庇う。

 

「俺もお前と同じく"個性"を勝手に使った際に怒ったことがあるが、その際にあいつは何度も謝りながら語っていた。あいつが言うには、真正面で一定の時間見つめ合ってしまうと発動してしまうものらしい」

 

「なんでちゃんと"個性"を制御できないのにゃ?」

 

「"個性"はヒーローや仕事以外使用禁止だからな。それで練習をしないのだろう。学生の頃の個性教育でも、限界はすぐ来る」

 

「でも、今みたく勝手に"個性"を使ってくる方が怖いにゃ。"個性"を制御するための練習くらい、許してあげてもいいんじゃないのかにゃ?」

 

「そうは言っても、それを悪用する奴はいくらでもいる。お前は、異世界人だからそういった発想が出てくるのだが、ヒーローとして働けば、敵(ヴィラン)がどれほど厄介なのか分かる筈だ。しかも数は多い」

 

今までウィズの疑問を応えていたエンデヴァーだったが、ウィズの発言にしかめっ面をする。何も分かっていない奴が何を言うと。

 

エンデヴァーのしかめっ面を見て、ウィズもまたしかめっ面になった。

 

「私達だって...短い間とはいえ今まで敵(ヴィラン)と戦ってきているし、そもそも他の世界でも戦ってきているから、敵の厄介さは身を持って分かっているにゃ。それと...敵の厄介さと力を使うことは関係ないにゃ。力を悪用する人は勿論いるけど、しない人はしないにゃ。力は結局、使うその人次第にゃ。下手に規制規制と言って、制御出来なくて誰かを傷つけてしまったら、本末転倒だにゃ」

 

「フン。この世界に住んで僅かばかりの奴が何を言う」

 

「だからこそ、気が付くことが出来るのにゃ」

 

ウィズの意見に頷いて同意するキキ。

誰だって、自分達の価値観はそうそう変わることはない。けど、第三者から見れば、結構可笑しいものであったりとする。

 

キキが所属する魔道士ギルドの掲げる“魔法使いは人々の奉仕者たれ!”という考えに、キキは全面的に同意し、如何なる時もその考えに従うが、エニグマサンフラワーが言うにはそれ、ブラック企業じゃん、と否定されてしまったのである。

 

このように傍から見れば、理解出来ないものだったりとする。

 

勿論、エンデヴァーが愚痴りたくなる気持ちをキキは共感していた。何故ならば、やけに敵(ヴィラン)が多いからだ。

彼は一日百件前後の事件に関わっているのだ。うんざりしてしまうのも仕方のないことだろう。

 

けど─

 

だからこそ──

 

 

どうして、こんなにも敵(ヴィラン)がいる理由を調べなくてはならない。そして、その理由を理解して、敵(ヴィラン)をこれ以上増やさないように努めなければならない。

 

 

そんな風に一人考え耽っていたキキだったが...。

 

「キキ。もう行くにゃ」

 

ウィズに呼ばれて考えを中断する。

 

「うん、分かった」

 

キキはウィズに言われるがまま外に向かう。

 

キキは前しか見ていなかったから気が付いていなかった。ウィズの顔付きが先程よりも、険しくなっていたことを。

エンデヴァーの事務所である大きなビルを出て、仕事に向かうのであった。

 

 

 

空がオレンジ色に染まる頃、一先ず仕事を終えたキキはエンデヴァーの事務所へと向かう。

 

仕事を終えたのにも拘わらず、キキとウィズの気分は最悪であった。

 

仕事自体は何にも問題はなかった。

一人で敵(ヴィラン)と戦っていても、魔法を駆使すれば余裕で勝てた。今日の敵(ヴィラン)はあまり強くはなかった。

 

原因は一般市民だ。

キキに注意されたことを未だに腹を立てているらしく、すれ違えば小声で悪口を言い、最悪の場合缶やゴミを投げてくる始末である。

 

いつもはオールマイトと共に事件現場に向かって、解決すれば、さっさと次の現場へと風のように向かう。

それの繰り返しだったから、実感することは殆どなかったのだ。ネットに書かれていたとしても、携帯などの電子機器の上手く扱えないキキにとっては見せない限り問題はなかった。

 

それでも、めげずに、いつも通りに人々の為に頑張れ良い問題ではなかった。

 

誰かの為に雑用をすればするほど、今更、おべっかかいたって意味ねえよと馬鹿にされる方が多かった。

 

しかも問題は一般市民だけではななかった。

 

他のヒーロー達もだ。

"個性"は基本一人一個だ。だからこそ、何でも出来てしまう魔法は嫉妬の対象だった。

 

キキが一人でヴィランと戦っていた時に、他のヒーローは手伝うこともなく、去って行った。寧ろ、獲物を取られたと舌打ちをする始末である。

 

今日は問題はなかったけど、もっと強い敵(ヴィラン)が現れたらどうするのだろうか?と、これで誰かが死んでも気にしないのだろうか?とそんな嫌な考えで頭の中を覆い尽くす。

キキは何もかも嫌になって、他にも人がいたが気にせずに深い深い溜め息を思い切り吐く。

 

ヒーローとして活動するならば、アレイシア達が居る世界でやりたかった。

あちらの世界でも、こき使われる前提だけど、ヴァンガードの皆は頼りがいがあり、安心して背中を預けられる存在だ。共に戦うのならば、そういった存在の方が良い。それにあっちの世界でも、他のヒーローと考え方ですれ違ったことがあったけど、独自の勝負で挑んで白黒はっきりつける為今みたく陰湿な嫌がらせはない。

 

一般市民だってパニックなどを起こさない限り、ちゃんと言うことを聞いて逃げてくれる。本当にこれだけでも有難い。勿論、悪口を言ってきたり、ゴミを投げてくることもない。

 

考えるだけで憂鬱になるので、考えないようにしていたが嫌なことが続きすぎて、どうしても頭の中に浮かんできてしまうキキ。

もっと疲れが溜まってしまったが、報告書を書く為に、エンデヴァーの事務所へと気力を振り絞って急いで向かう。

 

 

 

何とかエンデヴァーの事務所に辿り着いて、キキが少し休めると思った矢先待ち構えていた人がいた。その人は湖井白部だった。

白部の顔色はまだ少し悪かったが、それをかき消す程の真剣な目付きで見詰めてくる。

 

「どうかしたの?まだ何か用事あったの?」

 

キキは疲れもあってか淡々と尋ねる。

 

「先程は、本当に申し訳ございませんでした!」

 

白部はキキの態度を気にせずに謝罪をする。

九十度の深い御辞儀をしてから顔をあげた。途中目を逸らして、"個性"を発動させないように気を付けながらキキの顔色を伺う。

 

「いきなり"個性"を使ってきた私は、敵(ヴィラン)その者と変わりないことをしてしまったと自覚しています。...自己満足なのは分かっていますが、謝罪をしに待っていました...」

 

「...分かったにゃ。けど、説明はちゃんとしてほしいにゃ。どうして"個性"を制御を出来ない理由を」

 

「そうだね。説明をしてほしいね」

 

厳しめに聞くウィズを見て、白部はコクリと頷いてから説明を始める。

 

「はい。勿論、説明致します。...ですが、その前に、私の"個性"の発動条件を説明をした方が、分かりやすいと思いますので先に条件の方を説明します。私の"個性"は、私と相手が真正面で目を見つめ合うと、勝手に発動してしまうものです。体感的には数十秒後に発動してしまいます。それは、元々の話で、今は家で練習をしたかいがありまして、制御できるようになりました。...ですが、気持ちが高まったりしてしまうと、発動してしまうのです...」

 

「で、気持ちが高ぶって発動してしまったとにゃ」

 

「はい...。面目ありません...」

 

ウィズに指摘されて、恥ずかしくなったのか白部は俯いて指を絡めてモジモジする。

 

「でもなんで、気持ちが高ぶったの?」

 

キキが訊ねると白部の耳は何故か真っ赤に染まり、更に指を絡める。

一分間ぐらい沈黙が続いた後に、白部はゆっくりと語りだした。

 

「......あ、あの、実は...」

 

「実は?」

 

 

「わ、私!魔法使いさんのファンなのです!!」

 

「「...えっ?」」

 

白部の告白にキキとウィズの思考は停止してしまう。

 

「な、なんで?」

 

思わず質問してしまうキキ。

それは仕方のないことだった。今のキキは、一部の人以外ほぼ嫌われているからだ。何故好きなったのか、気になるのは当然だ。

 

しかし、質問をしても白部は恥ずかしいのか応えなかった。

なのでキキは自分なりに考えてみる。

 

この世界でキキに好感を持つ人は、何か訳のある人か、苦しんでいる人を間近で見ている人だ。そして白部との出会いを思い出すと辻褄が合うところがある。それは"無個性"という言葉にトラウマを持っているところだ。

いつ、どのようにして、そんな風になった理由は知らないけど、今でも恐怖を感じる程の出来事があったことは簡単に推測できる。

 

 

しかし──

 

だからと言って何故好きなったのかは分からない。

 

今まで世間に言った言葉は、危ないから現場から離れてと、敵(ヴィラン)だって元々はただの一般市民だと、"個性"の相性だけで諦めるなとしか言って言わなかった筈だ。"無個性"に関しては話どころか、単語すら一度も出てなかった。

 

なのに白部に好感を持たれた。

 

他にも理由があるだろうが、他の一般市民の行いのせいで納得はしずらかった。

 

けど─

 

 

「そうなんだ。ファンって言ってくれて嬉しいよ」

 

考えるのを止めたキキは、笑って白部に右手を差し出して握手を求める。

 

恥ずかしがっていた白部は顔をあげて呆然とする。

二十秒くらいポカーンとしていたが、握手に応じられていたことに理解すると慌てて応じた。

 

その様子にキキはクスリと笑っていたが、肩の上のウィズは小声でささやく。

 

「良いのかにゃ?はっきり言うけど、あの人なんか怪しいと思うにゃ」

 

「そうだね。...でも...それでもね...」

 

キキも白部に聞こえないように小声で返事をする。

 

「好意を持ってくれて嬉しいんだ」

 

「えっと、なにか言いました?」

 

白部に少し聞こえてしまったらしい。

けれど内容までは聞き取れてはいなかったらしい。

 

「ううん、なんでもないよ」

 

キキは誤魔化して握手を続ける。

 

 

確かに彼女は怪しい人かもしれない。

"個性"を説明してくれたとは言え、それがあっているかどうか確める術はない。

 

だけど─

 

初めて会ったあの時、彼女は心底嬉しそうにしていたのは本心だと思う。

 

だから─

 

受け入れる。どうせ、今は確める術はないのだから。

 

彼女だけが問題ではない。

 

他にも──

 

一般市民やヒーローとの関係もある。いずれ、解決しなければならない。オールマイトと共に戦っていた時よりも問題が山積みだ。

もしかして本番はこれからかもしれないと、思うキキであった。

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