カンッー
硬いもの同士がぶつかり合う音が鳴り火花が散る。
その音の正体は、展開した防御障壁が魔法使いの首を狙うナイフを防いだ時に発した音であった。
殺されかけた魔法使いは平然としていても、市民の方は、街中で白昼堂々とナイフを振り回す人物が現れて、パニック常態に陥ってしまう。
このまま放っておけば、二次災害を引き起こしても可笑しくはない状況だ。
しかしー
「大丈夫だ。ヒーローが居るからな」
エンデヴァーは力強く言う。
すると市民のパニックがおさまり、立ち止まって様子を伺い始めた。No.2の実力と実績を持つからこその信頼である。
失敗した黒フードの人物は、忌々しそうに舌打ちをする。
確実に逃げられる為に市民に手を出そうとしたが、エンデヴァーが壁のように立ちはかだっている。敵わないと思った黒フードの人物は走って逃げ出そうとする。
「逃がさないにゃ!」
魔法使いは、黒フードの人物が逃げ出す前にカードを取り出して魔法を唱える。
魔法使いが唱えている姿を見て、無防備だと感じた黒フードの人物は、逃げるのではなく逆に近付いて、ナイフでもう一度襲い掛かる。だが、魔法使いに振りかざす前に氷魔法が発動し、黒フードの人物の足を凍らせる。
それでも黒フードの人物は諦めずに振りかざすが、ナイフはかすることはなかった。それどころか、両足が動けない常態で振りかざすものだから、ろくにバランスを取れずに、顔面から地面に倒れそうとなる。
相手が身動き取れない間に、素早く背後に立ったエンデヴァーが、首に向かって手刀を食らわせる。
意識を失った黒フードの人物は眠るように倒れ込む。
「確保」
エンデヴァーは凍った足を溶かしながら、黒フードの人物を縄で縛る。
市民の人達が安堵している最中、空からすっとんきょうな叫び声が聞こえてくる。
「ヒャッハハハアアァ!」
その場にいた全員が見上げてみると、足がバネになっている敵(ヴィラン)が空を跳んでいた。
その敵(ヴィラン)の目は血走り、明らかに尋常ではない様子だ。また、手には真新しいそうな刃物を持っており、これから人に危害を加える気満々だった。
「ウヒヒヒャャアァ!」
何が面白いのか常に笑っている敵(ヴィラン)。でもその顔はおぞましかった。
常に笑っているせいで口から涎を垂らし、血走った目は瞬き一つもしない。誰から見ても異常だと伝わるものであった。
被害が出る前に魔法使いは別のカードを取り出す。
詠唱が短くて済む弱い雷撃の呪文を唱える。威力は弱いが、それでも人間相手には充分だ。
「...っひぎゃ!?」
雷撃は直撃し、そのまま痺れて動けなくなり、地面へと落ちていく。
さらにエンデヴァーは、退けるついでに追い討ちをかける。
「赫灼熱拳ヘルスパイダー!」
エンデヴァーは指から糸状の炎を繰り出すと、敵(ヴィラン)の体を巻きつけて、勢いよくコンクリートの地面に叩きつけた。
「グェ..!!」
潰れた蛙のような声を最後に敵(ヴィラン)は動かなくなった。
一先ず、戦いの幕が閉じるのであった。
緊迫した雰囲気が消えると、市民は何事もなかったように元のありふれた日常に戻り、魔法使いとエンデヴァーもまた、敵(ヴィラン)二人を警察に引き渡してパトロールに戻ったが...
「..........」
「......はぁ...」
魔法使いはずっと溜め息をし、エンデヴァーはいつもよりも眉間にシワを寄せて、不機嫌そうな態度を隠しはしない。
彼らを見た周りの人達はぎょっとして後退りをしても、気が付かない程疲れていたのであった。
「....最近、やけにヴィランが多いね」
魔法使いが愚痴を呟く。
理由は知らないが、この街に赴任したばかりの魔法使いでさえも、実感する程敵(ヴィラン)の数が増えていた。
相手はそこまで強くはない。だけど、数が多く、いつどこから現れるか分からない故に、ずっと気を必要以上に張っていないといけないのだ。
このことが疲れを塵の山のように積んでいく。
「...何かの前触れでなければいいにゃ」
ウィズの意見に同感だった魔法使いは頷くが、エンデヴァーは違った。
「...フン。どうせ、馬鹿が暴れたいだけだろう。考えっていたって切りがない」
ばっさりと切り捨てるエンデヴァー。
「....本当にそうなのかにゃ?」
「...何が言いたい?」
しかしウィズは真剣な表情になって考え始める。
「だって...敵(ヴィラン)の様子がおかしかったにゃ。それに...エンデヴァーはNo.2に選ばれている程の実力者、キキはオールマイトと共に戦っていた実績があるにゃ。それと、他にもヒーローはいっぱいいるにゃ。...それなのに、わざわざ戦いを挑むのにゃ?見た感じだととても強そうには見えなかったにゃ。何か目的があるようにしか見えないにゃ」
「大方麻薬などの違法薬物に手を出したのだろう。だから...そうか、お前達が来たから何かしらの異変があるのか...ならば、後で警察にでも話を聞いておくとするか」
「そうだね。そうするにゃ...で、いつ話を聞きに行くにゃ?」
「...そうだな...。二、三日は予定は入っているからな。それ以降だ」
「オッケーにゃ」
エンデヴァーの発言に反論したいが、事実なので苦笑いすることしか出来ない魔法使い。
そんな魔法使いを余所に、ウィズとエンデヴァーはこれからの話をする。
そんな時だった...
「きゃあああ!引ったくりよ!誰か捕まえてーー!」
少し離れた場所から、絹を裂けるような女性の叫び声が聞こえてくる。
「行くぞ。魔法使い」
「うん」
魔法使いとエンデヴァーは気を引き締めて、急いで現場に向かうのであった。
現場は少し走った先にあり、そこには被害者であろう女性がへたり込んでいた。
幸いにもバックを盗んだ敵(ヴィラン)は逃げきっておらず、走れば間に合う距離だった。
「大丈夫か?」
「...は、はい...」
エンデヴァーが被害者に寄り添い、魔法使いが敵(ヴィラン)を追い掛ける。
「待つにゃ!」
ウィズの叫び声に反応した敵(ヴィラン)が振り向く。それでも敵(ヴィラン)は止まることなく走り続ける。
さらに魔法使いはスピードを上げて追い掛ける。だが、敵(ヴィラン)も追いつかれられないように、さらにスピードを上げる。
そんなおいかけっこをしている最中に予期せぬことが起きてしまう。
曲がり角から、事情を知らない親子がこちらに来てしまったのだ。
このままでは、あの親子が人質にされてしまうのは時間の問題だ。
魔法使いは急いであるカードを取り出す。
そのカードの実用性を知ったのはウィズに言われてからだ。それ以来、魔法使いはそのカードをいつでもSSを使えるようにしている。
魔法使いは急いで唱えた。
『見せてみなーーてめえの牙を!』
吸血鬼のような格好をしたオレンジ色の髪の青年が浮かび上がる。
「せっかくだ。サシでやろうぜ!」
すると鎖の幻影が現れ、敵(ヴィラン)の背中を突き刺す。これ自体にはダメージはない。ただの幻だ。
魔法使いの変な発言、力強い男の人の声が聞こえてきた敵(ヴィラン)は、驚いて一瞬だけ立ち止まって周りを見渡すが、何の異常が起きていないと分かると走り出す。
魔法使いは走るペースを落として、いつでも迎撃ができるように準備をする。
後ろを振り向いて敵(ヴィラン)は、遅くなった魔法使いを見て喜ぶ。
調子に乗った敵(ヴィラン)は勝率を上げる為、前にいた子供に腕を伸ばす"個性"を使って捕まえようとする。
がーー
伸びた右腕は子供には向かわず、なんと魔法使いの方に向かう。
「なに!?」
それどころか、体の向きも親子の方ではなく魔法使いの方に向く。
戸惑って隙を見せる敵(ヴィラン)。魔法使いはその間も着々と、対処していく。
伸びてきた腕は防御障壁でとめ、問に答えて火と闇の丸弾を放つ。
放たれた丸弾は真っ直ぐに敵(ヴィラン)に向かう。
「なっ...!こんなもん!」
腕を元に戻し、体を少し右にずらして躱そうとする。だが、丸弾も敵(ヴィラン)と同じように右にずれる。
「う、嘘!!?」
敵(ヴィラン)は驚いて動けずにもろに当たる。ちょうど鳩尾に入り、体をくの字にさせた。敵(ヴィラン)はその場でバタンと倒れると、ピクリとも動かなくなっていた。
敵(ヴィラン)を拘束する為、魔法使いが確認をすると気絶していた。
目覚める前に縄で縛りを終えた魔法使いは、放り出されていた女性のバックを掴む。その際に周囲の安全確認をする。
被害はなく無事に終えることが出来た魔法使いは、安堵の息を吐き、改めてこのSSの有用さを実感する。
今使ったSSの名は『決闘』。
その効果は、相手か自分が倒れるまで、互いに攻撃をぶつけ合うもの。自分の攻撃が必ず当たる代わりに、相手の攻撃も必ず当たる。
本来このSSの使い方は、他のカードを敵からの攻撃に守る為ものである。
この使い方を思いついたのはウィズだ。ヒーロー活動を頑張っている魔法使いを見て、少しでも力になれるようにと考えてくれたのだ。
自分の攻撃が他の関係ない人に当たる心配をしなくて良い。それどころか、相手の攻撃が必ずこちらに当たるから、周囲に人がいても流れ弾の心配もしなくて良い。
一番のメリットは、人質を作れなくするところだ。
触れることは出来てしまうので、敵(ヴィラン)に捕まってしまうが、傷付けることは出来ない。そうとなれば、人質を作っても意味はない。
でも、デメリットもある。
相手の攻撃も必ず当たる。耐えられなければ、最悪死んでしまう可能性があるのだ。
見極めが必要だが、それでも、この世界ではかなり有効だ。なんせこの世界の住民は、危機管理能力が低く逃げるのが遅い。
魔法使いが決闘の効果について色々と考えていると...
ドッスン!!
地面が揺れ、不安になった周囲の人達は何だ何だとざわめく。その原因は直ぐに判明する。
「よくも!オデの兄貴を!!」
なんと山のような巨体のヴィランがいつの間にか立っていた。はじめからいましたと主張しているようだった。
何の音もなく現れて魔法使いは吃驚する。
少し焦ってしまったが、よくよく考えてみると、他にも仲間がいても当然のことである。大きな巨体は突然現れたのではなく、"個性"を使って大きくなっただけ。
捕まえられたヴィランを助ける為に、巨体な腕をこちらに伸ばしてくる。
まずい!と魔法使いは焦る。
防御障壁を展開してもずっとは耐えられない、それにあの巨体が少しでも動けば、ガラスが割れたりして周りへの被害は尋常ではない。
魔法使いはありったけの魔力を込めて耐えようとする。
がーー
「ぼけっとするな!魔法使い!」
空を飛んでいるエンデヴァーに大声で怒鳴られる。
いち早く敵(ヴィラン)の出現に気がついたエンデヴァーは、コンクリートの壁を溶かしながら登っていき、大空高く飛び上がっていた。
「赫灼熱拳ジェットバーン!!」
足裏から炎を噴出しながら、敵(ヴィラン)との距離を詰めて、相手が倒れるまで、灼熱に燃え上がる炎の拳を振りかざすのであった。
あれからも敵(ヴィラン)による犯行が何度もあったが、無事に仕事を終えた魔法使いとエンデヴァー。
二人は黙って事務所に向かっていると...
「あっ...お疲れ様です。エンデヴァーさん、魔法使いさん、ウィズさん」
スーツを着た白部と偶然出会った。
笑顔で挨拶する白部。
しかし魔法使いは、無視するかのように突然辺りを伺い始める。
ウィズもまた魔法使いと同じ行動を取る。
白部は吃驚してキョトンとしてしまい、エンデヴァーは呆れ顔をする。
「....何をやっている」
「周りに人がいないのか確認」
「何故だ?」
「...ボクが嫌われすぎて、周囲の人達に影響が出たからね...」
苦笑いする魔法使いに、エンデヴァーはくだらなそうに息を吐き捨てる。
「フン。そんなもん気にする方が馬鹿馬鹿しい」
「自分だけなら気にしないよ。でも、他の人達が酷い目に遭うのは...」
オアシスの子供達や職員への嫌がらせを思い出して、苦虫を噛み潰したような顔をする魔法使い。
ウィズもそのことを思い出して声を荒げる。
「まったく!私達に文句があるのなら、直接言ってくれればいいにゃ!私達は逃げも隠れもしないにゃ!」
「だから白部も、ボク達と仲良くしてくれるのは嬉しいけど、周りに人がいないか確認してから......白部?」
石像のように固まっている白部を見て魔法使いは心配する。
暫く白部は固まっていたが、声を掛けられたことに気が付くと、白部は慌て出す。
「す、すみません!ボーとしてしまって....」
「それはいいけど、大丈夫?」
「はい...大丈夫です!心配してくださりありがとうございます」
白部はいつもの笑顔で応えた。
「しかし...魔法使いさんはとても大変な状況にいらっしゃるのですね...。もし、私で良ければ、御相談に乗りますが...」
「ありがとう。でも大丈夫。自分で何とかするよ」
「そうですか...。一刻も早く、問題が解決出来るよう、祈りますね」
「ありがとう。あははは...」
思わずやけくそ気味な笑いが出てきてしまう魔法使い。
だってこの問題は解決できる問題ではないからだ。
魔法使いの価値観とこの世界の価値観が合わなすぎるのが問題だ。しかも、価値観なんてそうそう変わるものではないうえ、互いに変える気もない。つまり、一生平行線だ。
そんな状態で、何も事情を説明出来ない白部に言ったって、ただ愚痴を語ることしか出来ないのだ。
「...本当に大丈夫ですか?」
魔法使いのやけくそ気味な笑いを見て訝しげる白部。
「う、うん。本当に大丈夫だよ。本当だよ」
慌てて取り繕う魔法使い。
白部は納得してはいないものも、これ以上踏み込むべきではないと、悟って何も言わなくなった。
エンデヴァーの事務所まである程度歩くと、白部には用事があるらしく、途中で別れたのであった。
ウィズが興味本位で尋ねると、どうやら、お洒落なバーで飲みに行くらしい。行きますか?と誘われたたが、仕事がまだ残っていると、魔法使いは断った。
「エンデヴァー」
「何だ」
「今日のヒーロー活動とてもやり易かった。ありがとう」
いきなりお礼を言う魔法使いに、面食らうエンデヴァー。
黙っていたが、直ぐに馬鹿馬鹿しいという感じで、息を吐いた。
「まったく、戦闘中にぼけっとするとは情けない。よくそんなんで、生き残れたものだな」
「そのこともあるのだけど、今日はそうじゃなくて...」
「エンデヴァーがいたお陰で、陰口を叩かれることもなく、ゴミを投げられずに、無事に終わらすことが出来たよ。本当にありがとう」
エンデヴァーの指摘を受けて苦笑いしていた魔法使いが、本来の笑顔をみせる。
「私からもお礼を言うにゃ」
感謝を伝える魔法使いとウィズを見ても、エンデヴァーはつまらなそうに息を吐いた。
「お前達が舐められ過ぎているだけだ」
そう言って、エンデヴァーは先に行ってしまう。
魔法使いはその後をゆっくりと追い掛けるのであった。