黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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16話 黒い怪物とヒーロー殺し 前編

ビルは燃えて、木は折れて、車は乗り捨てられ、瓦礫があちこちに散らばっている。

あれ程賑わっていたのに人の声は消えて、火の燃える音と時折崩れる瓦礫の落ちる音だけが響く。一時間程前までは平和だったのに、今はその面影は跡形もなく消えていた。

 

「酷い有り様だにゃ....。キキ、一旦エンデヴァーと合流するにゃ!」

 

あまりの惨劇に、一瞬意識が飛びそうになってしまう魔法使い。

それもその筈、ここはあのNo.2であるエンデヴァーの管理下だからだ。生半可な敵(ヴィラン)ではあっさりと捕まり、それなりの強さを持っていたとしても、ここまで被害が出ることはない。

ウィズに指摘されて、慌てながら魔法使いは無線機を取り出して連絡を試みる。

 

「...連絡が取れないよ」

 

「やっぱりにゃ...。被害は酷いけど、彼等はヒーローだからそう簡単にはやられはしないにゃ。それよりも、一般市民の方が心配だにゃ」

 

「そうだね。皆を探しながら守っていくしかないね」

 

連絡が取れないと分かると、直ぐ様魔法使いは街の中心に向かって走り出す。

 

 

 

度重なる戦闘によるものか地面は抉れ、炎に包まれた瓦礫を時々避けながら、懸命にスピードを落とさないよう走り続ける。エンデヴァーやそのサイドキック、他の事務所のヒーロー達が頑張っているお陰か、逃げ遅れた一般市民はいなかった。

 

「皆、どこに行ったのだろう?」

 

「音が鳴る方は...こっち...にゃ!?」

 

 

ドスン!!

 

突如黒い物体が空から落ちて、魔法使いとウィズの行く手を妨げる。

落ちた衝撃で地面は割れ、砂ぼこりが舞う。魔法使いは片手で顔を守って様子を伺う。

 

砂ぼこりが収まると黒い物体の正体が露となる。

それを見た魔法使いとウィズは困惑をする。生物として守るべき脳が剥き出しになっていたからだ。更にその生物は、悪意も無ければ敵意も無い。ただ魔法使いをじっと見詰めるだけ。魔法使いも相手が見詰めている間に表情や様子を伺い、念のため防御障壁を展開する。それでも何らかの反応を示さない。

魔法使いとウィズは直感で、この怪物が街を壊した犯人ではないかと訝しげたが、人形の様にの何も感じない姿に困惑をする。

 

しかし、睨み合いはあっという間に終わる。

 

黒くゴツゴツした丸太の様な腕を、躊躇無く魔法使いに向かって振りかざす。

防御障壁はあっさりと破壊かれ、風圧で枯れ葉の如く数十メートル先まで吹き飛ばされてしまう。地面をゴロゴロと転がりながら、何とか受け身を取り立ち上がる。防御障壁のお陰で傷一つつかなかったが....

 

黒い筋肉質の巨体がもう魔法使いの目の前に迫っていた。

圧倒的な腕力、圧倒的なスピード、その能力はオールマイトを連想させる。恐怖で目を瞑っても魔法使いは腕でガードをし、少しでも衝撃に耐えられるよう身構える。

 

けれど、衝撃が来ることはなかった。

 

誰かが魔法使いをかっさらったからだ。

その人はとても小柄な人であった。黄色のマントを羽織ったヒーローであり、魔法使いとウィズも見知った人物であった。

 

「えっ...!?あの時のお爺さん?!」

 

「にゃにゃ!?ヒーローだったのかにゃ!...とてもあの時と同じ人には見えないにゃ」

 

その人は先程まで会っていた老人であった。

あの時の様な頭がボケて弱々しいお爺さんではなく、頼もしく力強いベテランヒーローになっていた。あまりのギャップに、魔法使いとウィズは驚くことしかできず、本来言うべきお礼が言えなかった。

 

「老人だから仕方ないだろ。この歳になると、覚えられるものも覚えられん。...まあ、わしのことは一先ず置いておいて...。取り敢えず、間に合って良かった!さっさと皆のところに合流するぞ!」

 

老人は言い訳がましく叫んでいたが、プロとしての顔付きに戻る。

ウィズは気になっていたことを必死に叫んで聞く。

 

「今皆はどうなっているにゃ!この状況はどういうことにゃ!あの怪物は何なのにゃ!一体何が起きているのにゃ!」

 

「そう矢継ぎ早に質問したら、答えられるもんも答えられなくなるぞ。...どうしてこうなったのは知らん。ただわしが街に戻った時には、あの怪物が急に空から襲い掛かって来たのじゃ。あやつは...何て言うか..."個性"を複数持っているようじゃ...」

 

ウィズの様子に老人は苦笑いをしていたのだが、敵のことを思い出す度、苦虫を噛み潰したような顔になっていく。

 

「"個性"が複数...どういうことにゃ?」

 

「あやつは...オールマイトと同じようなパワーとスピードを持ち、いくら傷付けても再生をし、エンデヴァーの火力にも耐えられる程火に耐性があるのじゃ」

 

「そう、なのにゃ....。何だか、ここら辺を襲うのに都合のいい"個性"にゃ。と言うか、"個性"って一人一個の筈だけど...。それと、"個性をたくさん持っているから、あんな見た目になるのにゃ?」

 

ウィズの言う通りであった。

この街の主力はエンデヴァーの事務所だが、そこに集まっているサイドキック達は何故か、エンデヴァーと似たような火に関する"個性"持ちが多いからだ。

対策済みと言うことは、この奇襲は前から誰かが計画していたのだとウィズは察する。それと同時に、異形の怪物ような敵の姿に疑問を感じた。

 

「そんなことわしが知るか!そんなに知りたいのなら、お前さんのパートナーに聞けば良いだろ!複数"個性"持ちみたいなものだろ!」

 

「にゃにゃ!?そ、それは...」

 

「二人とも、そんな悠長に話をしている場合ではないよ。それよりも....こんな状態では皆の元には戻れないと思う。ところで、敵は一人だけ?他にもいる?」

 

ウィズと老人は真剣に話を進める。

だがウィズの疑問を切っ掛けに、言い争いが始まってしまった。そこで魔法使いは老人が疑問に思う前に話を変える。

 

「いや、他にもおる。わしが見ただけでも六人はおった」

 

「そんなにもいるのか...。で、お爺さんのことを何て呼べば良いの?」

 

「わしのヒーロー名か?ヒーロー名はグラントリノじゃ」

 

「グラントリノ。よろしくね」

 

魔法使いはこれから共に戦う老人に挨拶をする。

老人も黙って頷く。

 

小柄な爺さんことグラントリノ。

魔法使いはグラントリノに救われ、グラントリノは敵から出来るだけ距離を取る。敵はオールマイトのようなスピードを活かして、殴りかかる。敵は何も考えてはいないのか、ただ自分と距離が近い方に拳を振るう。魔法使いは風魔法と精霊強化の魔法を駆使して避け、グラントリノは足の裏から空気を噴出させる"個性"を使って避けている。敵の攻撃を避けながら情報交換をする。

 

魔法使いとウィズが分かったことは、敵がやけに強くて数もそれなりにいるということ。

だからといって、諦めたりする気はない魔法使いは、懐からカードを取り出して構える。ウィズも真正面から見詰めて、敵の様子を探る。何か突破口がないかと。

 

だが敵のスタミナも半端なく、攻撃は止まらない。

魔法使いとグラントリノは、懸命に魔法や"個性"を駆使して避け続ける。そんな時だった...

 

「ヒヒヒィーーンンン!!」

 

鎧を来た馬のような人が敵に突進をする。

 

黒い巨体は勢い良く吹き飛ばされ、地面を数回バウンドをした後、吹き飛ばされた先の建物を壊す。

壊れた衝撃で煙は立ち込めて見えないが、特に動きはないようだ。馬のような人はその間に魔法使い達の側に駆け寄る。

 

「ヒヒヒン!」

 

馬の人は魔法使いに背中に乗れと合図をする。

実はこの人はエンデヴァーの相棒(サイドキック)である。現場に来るのが遅い魔法使いを迎えに来たのだ。だけど、魔法使いとウィズは首を振って断る。

 

「今は...無理にゃ。そう簡単にあのヴィランは、やられないと思うにゃ。あの敵(ヴィラン)を倒さない限り、皆の元には行けないにゃ」

 

「ヒヒン!!ヒヒン!!」

 

ウィズが説明しても、彼は納得せずに一生懸命に首を振りまくる。

どうしても魔法使い達には現場に向かわせたいみたいだ。

 

「グラントリノ、現場はどうなっている?」

 

魔法使いは話せない彼に聞くのを止めて、現場を知っているであろうグラントリノに話を振る。

質問されたグラントリノは一瞬呆け顔になるが、現場を思い出して焦り出す。

 

「急がんといかんかったのじゃ!黒猫の魔法使い!現場には怪我人が大量におってな、お前さんの力が必要じゃたのじゃ!」

 

「そんな...!他に回復系の個性持ちはいないの?!」

 

「いても数が足らんのじゃ!怪我人の中には、命の危険がある人もおる。だから、早めに来て欲しいのじゃが...」

 

「もう、敵が動き出すにゃ!」

 

話をしている最中に敵が動き出す。敵の動きに気が付いたウィズが叫ぶ。

魔法使いとグラントリノと馬の人は左右に別れると、敵は丁度真ん中に拳を振るう。拳を振るった場所は隕石が落ちたように、大きなクレーターが出来ていた。

 

「こんな状態では戻れないにゃ!」

 

「そう言われてもな!わしらだって、お主らを連れて行きたいのじゃ!...そうだ!現場に向かいながら戦うぞ!」

 

「敵が一般市民の方に向かうかもしれないから、無理にゃ!」

 

「いや、そうでもない。あの敵(ヴィラン)は何も考えてはなさそうだから、民間人には手を出さんと思う。だからそこをついて、ある程度は現場に向かった方が良い。勿論、直接向かわん。...わしがあのヴィランを足止めしてお主らを先に行かせれば良いのじゃが、力不足でな...。ほんま歳は取りたくないもんじゃ!」

 

「仕方ないよ。敵はオールマイトみたく強いのだから...それに、現場には回復系の個性持ちがいるのでしょ?だったらその人達に任せて、ボク達でさっさとあの敵を倒そう」

 

現場の惨劇を知っているグラントリノは自分を責める。

その声色にはやりきれない悲痛な思いの叫びが入っていた。魔法使いとウィズもその声を聞いて、現場が大分酷いことになっていることを悟る。

 

魔法使いとウィズもできれば現場に向かいたかったし、はっきり言うと、大概のヒーローのことを信じていなかった。そもそも最初の印象が悪すぎた。"個性"の相性が悪ければ戦わないし、魔法使いを邪魔者扱いしてろくに連帯を取ろうとしない。

だけど、ここまで走ってきて、逃げ遅れた一般市民がいないっていうことは、力を合わせて的確な行動をしたという証明になっていた。だったら彼等を信じて、ここで敵を倒した方が良いと判断をする。

 

「いや、お前さんは現場を知らんからそう言えるだけだ。...まあ、お前さんの言う通りじゃな。倒さんといかんし...。だったら、その馬の様な奴の背に乗らんか!この戦いが終わったら、早よ現場に向かえるように!」

 

「分かった」

 

グラントリノの意見で魔法使いは馬の人の背に乗る。

相手も乗せる前提だから、乗りやすい体勢にしてくれる。魔法使いが背に乗る頃には、敵の攻撃が来て不安定な体勢になってしまったが、懐からカードを取り出して反撃を開始する。

 

『縁日の遠い幻 古き友』

 

「お祭りを楽しみましょう!」

 

ウィズを抱え、こちらに手を向ける着物を着た少女の姿が浮かび上がる。戦場には似合わないのんびりとした声が聞こえてくる。

 

「ヒヒン!?」

 

「お祭りじゃと?!こんな状況で...何を...!?」

 

抗議の声が上がる彼等に淡い光が包み込む。魔法使いは彼等の様子を気にせずまた魔法を唱える。

 

『X-Derive:AegisResoIution』

 

「私だって、シェルアークを救いたいんだ!」

 

防御障壁らしきものを展開する白髪の少女の姿が浮かび上がる。先程の少女とは違って、決意に満ちた力強い声であった。彼等にまた淡い光が包み込む。

 

「ヒヒン!!」

 

「力を...感じるぞ...」

 

これらの魔法は全て精霊強化だ。

相手がオールマイト並みに強いのなら、こちらも強くなればいい。どの世界でも通用するからこそ思い付く、黒猫の魔法使いの十八番。

 

力が漲ったことでグラントリノと馬の人はやる気に満ちる。どちらもニヤリと笑い、グラントリノは敵に蹴りかかる。

 

ガンッ!!

力強い蹴りが敵の背に当たる。けど...

 

「やっぱりこいつ、効いていないぞ」

 

「にゃにゃ!?効かないなんて...」

 

蹴りの衝撃で体勢が崩れても、ダメージがなかった様に立ち上がる。様子を探っても、背中をさするなどの痛そうにしている気配はない。その様子にウィズは怖じ気立つ。だってその魔法は、必殺技みたいなものだからだ。

 

「まあ、だからって諦める気はないが...。これは体が軽くなって、戦い易いなっ...と!」

 

愚痴っていてもグラントリノの攻撃は止まらない。

魔法の効果で体が軽くなり、更に"個性"を使って敵を翻弄させながら、蹴り続ける。

 

「ヒヒン!」

 

馬の人は四足歩行になって魔法使いを背に乗せる。

時折避けながら、強烈な蹴りを入れたり、足元の瓦礫を蹴って敵に当てる。

 

『マター・エンド』

 

「私が解決します!」

 

魔法使いも呪文を唱えて攻撃をする。

 

赤い派手な衣装を着た金髪の少女が浮かび上がると、元気いっぱいな声と共に、並みの人間よりも大きい雷の球体が現れる。

雷の球体は敵にぶつかり、ほんの僅かの間だけ痺れさせる。その間も蹴りや瓦礫、電撃などの攻撃は止まない。それでも、攻撃を受けた箇所が凹んだり、少し焦げるだけで、直ぐ様再生されてしまう。

 

「再生がとても速いにゃ...。あれだけ痛みつけたのに、全然痛そうにしていないにゃ。もしかして...これも"個性"なのかにゃ?」

 

「ああ、その考えはあり得るだろうな...っと!」

 

グラントリノに敵の拳が迫る。

グラントリノは足の裏から空気を出して、体をわすがに反らして避ける。振り向き様にカウンターを入れる。

 

「しかし再生は厄介にゃ。限界とかあればいいのだけど...」

 

観察眼に優れているウィズは、敵の些細な変化を見逃さないようにする。

 

「そうだな...。まあ、力も漲っておるから大丈夫。ただ...切れたらヤバイな。時間制限とかあるだろ?あと、どんぐらいだ?」

 

「あるよ。けど、また掛け直すから大丈夫」

 

「それは頼もしいなあ」

 

魔法使いはニカッと笑って言う。

その様子にグラントリノも笑顔になる。

 

敵の攻撃は単調とはいえ、一撃一撃がかなり重い。当たれば即死ものだが、恐怖を感じることもなく、果敢に挑むのであった。

 

 

「いつになったらこやつは倒れるのじゃ!」

 

あれから、どれくらい時間が経ったのかは分からないが、何十何百の攻撃を受けても、敵はけろっとしていて倒れる気配が無かった。

グラントリノの愚痴が全員の気持ちを表していた。

 

「分からない。でも...相手の再生スピードは落ちているにゃ!」

 

敵をじっくりと見ていてられたウィズが気が付く。

蹴られた箇所の凹み、電撃での焦げの治りが遅くなる。痺れて動きが鈍くなったり、膝をつきそうになることも、ちらほらと出てくる。やはりどんなものでも、限界はあるのだ。魔法使いがそこに止めを刺す。

 

『X-Derive:GravitonRuIer』

 

「三角はね、広がっていくよ」

 

二本の長剣の従わせた少女の姿が浮かび上がる。ゆったりとした声と共に、剣、盾、ハートなどのマークが敵の上空に現れ、光線が敵に直撃する。

 

「!?!?」

 

敵は光ごと呑み込まれたのであった。

 

 

 

光線の衝撃で砂塵が舞う。

砂塵は風に流されて収まったが、魔法使い達は警戒をして直ぐには動けなかった。一番身軽であるグラントリノが確認に行くと、敵は巨大なクレーターの中で倒れていた。

 

足でちょんっとつついても、何も反応は無かった。

 

「これは...生きとるよな...。まあ、いい!黒猫の魔法使い!お前さんは現場に行け!わしはこやつを縛ってから、追い掛ける!」

 

「分かった!」

 

「ヒヒン!」

 

魔法使いとウィズはグラントリノに後を任せて、現場に向かうのであった。

 

 

 

現場に辿り着くと、別の仕事があった馬の人と別れる。現場は酷い有り様だった。悲鳴は鳴り止まず、呻き声が聞こえてくる。エンデヴァーの事務所に怪我人を集められていたのだが、全員は入りきらず、軽症者は外で手当てを受けていた。

グラントリノの言う通り、魔法使いは早く現場に向かわないといけない立場であった。

 

自分の選択に後悔を魔法使い。

けど、後悔していても意味は無いと、自分の頬を叩いて気持ちを切り替える。

 

エンデヴァーの事務所に向かおうとした瞬間...

 

「おい!黒猫の魔法使い!今まで何をやっていたの!」

 

相当怒っているバーニンに肩を捕まれる。

バーニンが怒るのも無理はない。だがそれと同じくらい、ウィズも怒っていた。

 

「そうは言っても、こっちだって敵と戦っていたにゃ!」

 

「だったら、無線機で伝えなさいよ!」

 

「そっちが教えなかったにゃ!!」

 

ウィズとバーニンの言い争が始まる。

ウィズが怒っている理由は、バーニンに遅いと言われたからではない。バーニンを含め他の相棒(サイドキック)達が、無線機の番号を教えてくれなかったからだ。無線機の番号を互いに知っていれば、現場の状況をいち早く知れたし、敵に襲われた時も援軍を呼べる。そうすれば、怪我人の元にもっと早く行けたのだから。

 

「いやいやアンタ!エンデヴァーさんから、私達の番号を聞いていないの!?」

 

「いや、聞いて....」

 

バーニンの指摘に、ウィズと魔法使いはとあることを思い出して、顔を真っ青に染め上げる。

 

実はちゃんとエンデヴァーから全員分の番号を聞いていたのだ。ただ魔法使いとウィズにとって、他のヒーローの印象が悪すぎて、手伝ってくれないと思っていたのだ。互いに嫌っていても、プロとして、最低限のコミニュケーションを取れていれば、こんな結果にはならなかったのだ。

 

バーニンは長いため息をつく。

 

「もういいわ....。ただし!後で絶対説教だからね!早く行きなさい!怪我人が待っているわ!急いで!」

 

バーニンは魔法使いを急かす。

その背中を見て呆れていたが、自分達にも責任があったことに、気が付いてはいなかった。

 

 

 

緑色の淡い光が薄暗がりの中輝く。

魔法使いはこれで何人目かは分からなくなっていたが、まだ他にも怪我人はたくさんいた。回復魔法を唱えても唱えても切りがなかった。魔法使いの他にも"個性"で回復出来る人がいても、かなり数が足りないのだ。

 

部屋の隅には死体になっている人達が集められていた。その中では特にヒーローが多く、その次に子供や老人が多かった。彼等を見て魔法使いとウィズは、自分達の不甲斐なさに怒りを感じる。こういった大惨事を止める為に、異世界に来ているのだからだ。

 

感情に囚われても時間の無駄になるだけと、魔法使いはそう自分に言い聞かし、回復魔法をまた唱える。

そんな時に無線機が鳴る。魔法使いの代わりにウィズが無線機を取る。

 

「黒猫の魔法使い!今どこにいる!」

 

「エンデヴァーの事務所にいるにゃ」

 

無線機の相手はエンデヴァーであった。

無線機の向こう側は、何か重たい物を殴る音や蹴る音、火が燃える音、人々の怒号が聞こえてくる。こちらも同じ現場にいるような気にさせる。

 

「そうか...。なら仕方ないな。怪我人を優先にしろ!俺達は俺達で何とかする」

 

「なら、何で呼んだのかにゃ?」

 

魔法使いが治癒にあたるのは想像しやすいのに、エンデヴァーはそれでも魔法使いに来いと命令をした。

その様子にウィズは、何かあったのではないか?と悟った。エンデヴァーは数十秒間黙った後、ゆっくりと話し出す。

 

「実は...他のヒーローにも声を掛けたのだが...誰もこちらに来やしない」

 

「まさか?!」

 

「あの敵(ヴィラン)に殺られたのであろう。想像に難くない」

 

「今いる人達で大丈夫にゃ!?」

 

「お前に心配されなくても、こんな奴ら...燃やし尽くしてやる!」

 

エンデヴァーが暗い声で応える。

その様子にウィズはますます心配をする。

 

「そうなのにゃ...。でも、何かあったら呼ぶにゃ。私達も駆け付けるにゃ」

 

「フン!お前達の助けなんかいらん。それよりも、怪我人をどうにかしろ!」

 

「...分かったにゃ」

 

ウィズが返事をすると無線機は一方的に切られる。

作業をしながらも魔法使いは話を聞く。

けど想像以上の自体に、血の気が引いてしまう。話が聞こえていた他のヒーローも、顔を青ざめていた。

 

「これって...大分まずくない...」

 

「そうは言っても...怪我人が多すぎるから、行かないでほしい」

 

「だからって、元を断たないと切りがないぞ!」

 

「一体、何があったんじゃ?」

 

「どうかした?」

 

雰囲気が悪くなったところ、グラントリノとバーニンが現れる。

ウィズがエンデヴァーの状況を説明すると...

 

「成る程...そういうことか...」

 

「それは大変な状況だわ...」

 

「なあバーニン。状況はどうなっておる?」

 

「それがねえ...。こっちも最悪な状況なのよ。他の街の地区から助けを呼んでも中々来ないのよ。みんなあの敵(ヴィラン)に手こずってしまっているのよ。怪我人を運ぼうにも、敵(ヴィラン)が街を破壊しまくったからさあ。道路が滅茶苦茶で、救急車も通れなくなってしまったわ。この辺りの病院は既に壊滅状態だし...。オールマイトがいれば...」

 

バーニンは愚痴をこぼしてしまう。

オールマイトと聞いて他のヒーロー達も気が滅入る。誰もがオールマイトの助けを待っていた。ただグラントリノだけは違っていた。

 

「居ない者に頼っては駄目だろ。この場に居るわしらだけで、やるのじゃ」

 

「気持ちは分かるけど、私達は諦めちゃ駄目にゃ!」

 

魔法使いはウィズの言葉に頷く。

ウィズと魔法使いも落ち込み気味だが、心の炎は消えていなかった。

 

「と言う訳で...治癒が間に合うのなら、こいつを借りるぞ。...大丈夫か?」

 

グラントリノは魔法使いに指を指して問う。

この場にいた回復系のヒーロー達は考え込み話し合う。その結果...

 

「厳しいですが...行ってきてください。ここもいつ襲撃されるか分かりませんし、怪我人もずっと待たせる訳にはいきません。だから、ここは私達に任せて、敵(ヴィラン)を倒してきてください」

 

「よし、分かった。さっさと倒しに行くぞ!黒猫の魔法使い!バーニン!」

 

「了解!」

 

「おう!」

 

グラントリノの号令で、魔法使いとウィズとバーニンはエンデヴァーの元に向かうのであった。

 

 

「こっちよ!」

 

この街に詳しいバーニンが先頭になる。

近道として路地裏を走っていると...

 

「血生臭いにゃ....」

 

鉄の錆びた匂いが路地裏中、どこに行っても匂いが漂っていた。

四人は嫌な予感をしたが、スピードを落とさず慎重に進んでいく。とある路地差し掛かると、

 

 

「「「「なっ.....!?」」」」

 

四人の目に衝撃的な光景が入る。そこには...

 

 

頭が転がっていた。それも一人だけではなかった。

 

 

首と胴体が別れていたり、胸の中央が刃物らしきもので貫かれていたり、滅多刺しにされている死体であった。ある者はもたれ掛かるように死に、ある者は地面に寝転ぶように死んでいた。死んだ者は皆派手な服装をしていることから、ヒーローだと思われる。

 

「一体...誰が...」

 

「こんなことを...」

 

「何よこれ!」

 

「さあな...。って言うか、あれ、今までの戦っていた敵(ヴィラン)と、攻撃のやり方が違う...。もしかすると...!!皆下がれ!」

 

ヒュン!

 

グラントリノが叫ぶのと同時に、一本のナイフが、先頭にいたバーニンの顔を狙う。

バーニンは体を後ろに反らして避ける。投げられたナイフは、バーニンから僅か離れた場所に落ちる。ナイフを投げた犯人は、隠れもこともなく四人の前に堂々と現れる。

 

体格的には男性だと思われる。

顔には包帯状のマスクを着けて、首には赤いマフラーとバンダナを巻いている。動きやすいように防具は、プロテクターだけだ。武器は日本刀とナイフ。禍々しい雰囲気を放っている。

 

「ハァ...社会を歪める贋物は...」

 

 

「俺が粛清する....”正しき社会の為に”!」

 

最悪のタイミングで、最悪の敵(ヴィラン)、ヒーロー殺しが暴れていたのであった。




なんか、エンデヴァーのサイドキックで馬みたいな人の印象が強すぎて、勝手に個性を想像してしまいました。
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