「はあ...」
昨日は散々であった。
オールマイトが後継者を選んだと聞いて、キキは変装をする時間を惜しんで、急いでウィズを連れて目的の場所に走って行ったのに、後継者となる人物はがっかりもんであった。
始めはこの少年に見覚えがあるような...という曖昧な感覚だった。
曖昧な感覚に釣られて、少年が不快に感じる程見詰めてしまう。少年が不快に感じようが、悪いと思いながらも思い出したかったし、どうしても確認をしたかった。それは彼がオールマイトから与えられる"個性"に耐えられるかどうか。
何度見ても、彼の体は貧弱で耐えられそうにはなかった。
実は見た目と力強さが必ずしも比例する訳ではない。
他の世界の話だが、自分よりも華奢な体型の人が、自分が持てない重たい物を軽々と持ったり、辺りを破壊尽くす程の力を持っていたりすることはある。だから少年にも見た目が貧弱なだけだと思いたかったが...
駄目だった。
見た目通りの人であり、少年からは、そういった人達特有の覇気などの力強い雰囲気を感じることはなかった。やっぱり見た目通りの人と思ったキキとウィズは怒りに支配され、感情の流れのままオールマイトを問い詰める。あの時の怒りは身を焼き付くす程だった。
キキとウィズが怒るのには理由があった。
キキが使う精霊魔法。普段何気なく使っているあれも、自分のレベルに合ったものを使わなければ、召喚された先のものに殺されたり、異形の怪物に成り果てる。他の魔道士が力に溺れて、そのような結末を迎えたところをもう何度も見た。
その度にキキが倒す。元人間であっても。この話は何もクエス=アリアスだけではい。他の世界でも同じようなことが起きている。だから身に余る力は危険でしかないことを痛感をし、オールマイトにも、こっちがどんな気持ちで戦ったのか!とか、人の命を舐めているの!?と手が出そうになってしまった。
まあ、事情を聞けば、ワン・フォー・オールは体を鍛えれば宿主を傷付けないと聞いた。
それはそれでキキとウィズからすれば、随分と都合の良い"個性"だと感じた。強力な力を手に入れるのには厳しい条件があったり、選ばれたほんの一部の素質持ちぐらいだったりとする。とは言え、この点の話はこの世界では例外だったと言うことで終わらせることは出来るのだが......
しかし、まだ問題はあった。それはオールマイトがちゃんと彼にワン・フォー・オールについて、話をしていなかったことだ。
クエス=アリアスの精霊魔法のように、素質と魔力があれば誰でも出来るならともかく、世界で一つだけの力でありながら、世界トップクラスを誇る程の強烈な力である。
しかも、因縁のAFOとの決着がまだ終わっていないと聞いている。自分が信用して選んだのだから、話すべきものであり、話さなければ、もし何かあった際に何も対処が出来なくなる。......と言うか...これから訓練をするのに、教えるヒントになる筈の先代のことすら教えないことにキキとウィズは疑問を抱いて頭を抱える。信用した相手ぐらい話をしてあげなよと。
そんなこんなでオールマイトに怒っている内に、今度は何故か緑谷が怒り出しまった。
キキとウィズが呆然気味に話を聞いているうちに気が付く、緑谷はオールマイトに怒鳴ったことで怒っていたのだ。師匠を想う気持ちで、キキは何処となく緑谷とシンパシーを感じる。しかし、緑谷のこの後の発言でシンパシーに感じたことを後悔する。
"オールマイトに迷惑を掛けている君達が"
この言葉はキキとウィズの心を大きく抉る。
好きで迷惑を掛けている訳ではない。キキとウィズからしてみれば、こちら側が完全な被害者だ。ヒーローとして頑張っていても、軽い被害ですれ違いざまに悪口、酷い時は罵倒やゴミが飛んでくる。更に自分が住んでいるだけで関係のない児童養護施設にも被害が飛び、子供達は外で虐められ、大人達も嫌がらせを受ける。そんな仕打ちがあったキキとウィズは緑谷の発言に怒り狂う。
キキとウィズは怒っている最中に、緑谷がこの世界で初めての戦闘を見ていたことを思い出す。
彼はあの時、泣いている女の子を目もくれず、魔法にしか興味がなかった。本当にヒーローに成りたい人であれば、未知の力に興味を持たず、目の前の苦しんでいる人にしか目が行かない筈だ。彼があの時の事件の傍観者だと気が付いたキキとウィズの怒りは天まで上がる勢いとなる。
ヒーローとは苦しんでいる人に親身になって寄り添う者。アレイシアが行動でそう教えてくれた。それに対して緑谷は......最低最悪だった。
苦しんでいる人を無視するヒーローはいらない。
そもそも、憧れのヒーローを目指さなくなる程酷い目にあったのに、他人の痛みや悲しみや苦しみに興味ないって酷すぎる。
結局彼は力を思い切り振り回しだけの、憧れただけの、力に溺れた人に過ぎない。唯一の幸いは憧れのヒーローになって、人助けをする気持ちがあること。でも彼の場合は...皮だけのヒーローにしか成れないだろう。何故ならば......
人を助けたい、救いたいと言う言葉が一言も出なかったからだ。
その言葉が緑谷自身の言葉として出ない限り、彼は本物のヒーローに成れないだろうとキキとウィズは強く思っていた。そして...そんな彼を選んだオールマイトの評価は地に堕ちた。師匠としてすべき説明はしないし、何よりもどうして緑谷を選んだのかが分からない。いくら事前に、誰かを助けに行ったと聞いたとしても、ここまで酷いと信じられなくなる。
本当は彼らとはもうあまり会いたくないレベルだ。
けど、後継者を一緒に鍛えると約束してしまったから。それに...
ウィズとあることを決めたからには、行かなければならないのだ。
頬を叩いて気持ちを切り替え支度を始める。
顔を洗い、歯を磨いて、寝巻きから青いジャージに着替える。着替え終えると、世間にバレないように変装の支度を始める。バブルピンク色の髪の毛は金髪のカツラで隠して、髪と同じ色の瞳もカラコンで青い瞳に変える。
「...よし!」
声をいつもより甲高くして確認をする。
キキは仕上がりに満足すると、ポケットにカードを入れて、ウィズをペット用の持ち運びバックに入ってもらって、準備を終らせて目的の場所に向かうのであった。
空は雲一つもない晴天。
海はゴミで見えないが波の音が聞こえ、カモメが空を飛んでいる。昨日と何も変わらない多古場海浜公園に辿り着く。
「ウッ....!!うぬぬぬぬ!!」
変な叫び声を上げて粗大ごみを運ぶ緑谷。
(...こうして見ると、頑張っている少年にしか見えないのに...。何が彼をあそこまで歪ませたのか...。"無個性"はそんなに悪いこと?何やっても否定されるとはどういうことだ?私生活では"個性"を使ってはいけない筈だから...普通に生きていれば、"個性"持ちも"無個性"もなんにも関係ない筈なのに...)
キキが緑谷を思い思い眺めていると、誰かが自分のことを見ていることに気が付く。
キキは知っている相手だったから、後ろを振り向かずに話し掛ける。
「...オールマイト、隠れて見ていることは分かっているよ。普通に出てくれば?」
キキがそう言ってもオールマイトは出て来ない。
やはり昨日の件でかなり気になっているみたいだ。何度か空咳をしていたり、頬を叩く音が聞こえてくる。やがてトゥルーフォームのオールマイトが姿を現す。
「や、やあ!レイラドル少女!いや、今の君は、レイチェル少女だったね!えっと!...昨日は...!」
「緊張しなくてもいいよ」
「そ、そう!?まあ、その方がありがたい」
動きが挙動不審のオールマイト。
彼は一安心して頭を掻いている。でもホッとしてられるのもわずかの間だけだった。
「単刀直入に言う。なんでオールマイトは彼を選んだの?」
オールマイトの動きがピタッと止まる。
ずっと動きが止まったままのオールマイトを、キキは何も言わずに見詰め続け、ウィズも鞄の隙間から様子を伺う。
風が彼らの体を撫でるように通りすぎて、何匹かのカモメが見守るように近くに下り立つ。
オールマイトはゆっくりと深呼吸をしてから、キキと真正面で向かい合う。
「最初に言った通り、彼が困っている人を助けに行ったからさ!」
オールマイトはいつもの笑顔で答える。
その回答にキキとウィズに変化は起きない。その様子にオールマイトは二人はまだ怒っていると思って焦ったが、内心を出さないように冷静を装う。キキとウィズが一番怒っているところを共感しながら語り出す。
「確かに彼はまあ..."個性"飢えているね。けどね...それは仕方のないことなんだ」
「仕方のないこと?」
「そう、仕方のないことだ。....私も昔は"無個性"だったからね。彼の気持ちがよく分かるんだ」
「そうなんだ」
「驚かないの!?なんで?!」
オールマイトの告白にもキキとウィズの様子は変わらない。
その様子にオールマイトは変なポーズになる程驚いていた。あまりにも変なポーズにキキとウィズの目が一瞬見開くが、持ち直したキキは苦笑いしながら応える。
「なんて言うか...。オールマイトの過去はそんなに興味がなかったから言われても、へぇー、そうなんだ。ぐらいにしか思わなかった。....もしかして、ワン・フォー・オールを受け継ぐことを出来るのは"無個性だけ?」
「いや...。そうでもない...。先代は"個性を持っていた。"無個性""個性"持ちも関係ないな」
「そうなんだ。...じゃあ...オールマイトも昔は..."無個性"で虐められていた?」
キキは相手の嫌な過去に触れる為、気まずそうな顔付きになる。
だけど、どうしても聞きたかったので、真剣な表情でオールマイトを見詰める。オールマイトは自分を気遣う姿に優しく微笑む。けど過去のことを思い出して、眉をひそめる。
「そうだね...。緑谷少年みたいに追い詰められる程じゃないけど...私もヒーローへの道を進んでいた時は、よく否定されていたなあ...」
「だったら!」
キキが反論しようとしていたが、オールマイトは言いたいことは分かっていたのでスルーをして話を進める。
「否定されて悲しかったけど、私は、否定してきた人達の意見に同意している。特にヒーローとして活動をしてから、よく痛感しているよ。...この世界の"無個性"は、他の世界の"無個性"のように強くはない。だから...一回目の緑谷少年に否定したことは正しいと思っている。だけどね...緑谷少年は...」
「力がないって否定されても!困っている人を助けに行く姿は!あの場にいる誰よりもヒーローだった!」
「追い詰められた後でさえも、誰かを救いに行ったから、彼が相応しいと認めたのだにゃ?」
ずっと黙っていたウィズが口を開く。
急に話し出してオールマイトはびっくりしていたが、直ぐ様切り替え直して元の状態に戻す。
「そうだ!」
「そうなのにゃ。...今度は...彼...出久と話してみたいにゃ。それぐらいの時間を使っても構わないよね?」
「構わないが....」
「なら、決まりにゃ!行くにゃ!」
「えっ!?ちょっと!」
ウィズはさっさと緑谷の元に向かう。
キキはウィズの後を黙って着いていく。オールマイトは彼女達の後を慌てて追い掛けた。
「え、えええっ!?な、なんで!?僕の名前を知っているのですか?!」
変装したキキにいきなり声を掛けられて、運んでいた物をその場に落としてしまう程慌てる緑谷。
他人と話すのが苦手なのか、目線は関係ないところを見ており、顔を大きな動きで右左を交互に向いていた。それでも落ち着かなくて、指と指を絡ませたり指をいじっている。虐めている訳でもないのに酷い状態なった緑谷を見て、いたたまれなくなったキキは、声を元の状態に出来るだけ早く戻して話し出す。
「ボクは黒猫の魔法使いのキキ・レイラドルだよ。今はバレないように変装をしてこの姿になっているだけだよ」
「へ...変装...?」
「そう変装。だから、今のボクのことはレイチェルと呼んでね」
「な、名前呼び!?」
「そうだよ。それがどうかした?」
名前で呼んでと言った途端、緑谷の様子が更に可笑しくなる。
何故名前を呼ぶことになっただけで、こんなにも慌てるのだろう?とキキが首を傾げていると、ウィズが代わりに話を進める。
「何をそんなに戸惑っているにゃ?」
「だ、だって!僕は今まで!女性と碌に話したことがないんだよ!それなのに!いきなり名前呼びからなんて...」
「名前を呼ぶのだけなのに...。そんなに照れることかにゃ?」
「照れるよ!!」
「じゃあ...なんて呼べば良いのかにゃ...?」
呆れたウィズが疲れたそうに聞く。
緑谷は指をもじもじさせながら要望を言う。
「え、えっと...。名字は...名字はありませんか...?」
「名字?名字は作っていなかった。せっかくだから、作っておくか...。名字は...オールでいいや」
「オール...。なんだかワン・フォー・オールを思い出します」
この頃聞き覚えのある単語に首を傾げる緑谷。
キキは何ともないように笑顔で応える。
「だって、君のことを見ていたら、ワン・フォー・オールを思い出してね。そこから名字にしたからね」
「えっ!?そんな理由!?ま、まあ...バレなきゃいいや...」
オールマイト的には嫌そうだったが、特に反論せずオールを名字として認めるのであった。
気が引き締まらない空気だったが、ウィズの質問で場は空気が一変とする。
「君は...出久は..."無個性"だったことで、どれだけ虐められていたのにゃ?」
ウィズの質問に緑谷の眉をひそめる。
ただ昨日みたく怒っているのではなく、嫌なことを思い出して不愉快になっているだけであった。
「答えないと...いけないのですか?あまり...思い出したくないのですが...」
「そうだね....。辛いのは分かるにゃ....。けど!これから、ヒーローとして活動していく上で、大事なことなるのにゃ!」
「ヒーローとして?」
「そう、ヒーローとしてにゃ」
「僕の過去とヒーロー...。一体なんの関係があるのですか?」
「それは今は言えないにゃ。ただ、質問に答えれば自ずと答えは出るにゃ」
「質問に答えるだけで?」
「そうだにゃ」
ウィズとのやり取りで緑谷は理解していないものの、ちゃんと応えようと思い、目を閉じて考えをまとめ始める。
二分間程考えた後にゆっくりと語り出す。
「僕が虐められ始めたのは五歳の時だった」
「四歳の時!?中々酷いにゃ!と言うか、今は何歳なのにゃ?」
「今は十五歳です」
「十五歳と言うことは....十年間も!そんなに酷かったの!?」
驚きを隠せない一同。
特にキキとウィズはすぐに声に出る程であった。緑谷は苦笑いしながら様子を見ていた。
「まあね...。僕の場合は"無個性"だけではなくて、何やっても出来なかったから....」
「そんなの理由にならない!何も出来ないから...虐めるって...酷すぎる!」
突然話し出し拳を握るキキに緑谷はビクッとする。
怯えながらも笑みが消えてなかった。
「そんな風に...怒ってくれるなんて...初めてだ...」
怒ってくれている彼女達の姿を見て、緑谷は涙を浮かべて呟く。
そんな緑谷を見かねてオールマイトは気にかける。
「緑谷少年...君の辛さはよく伝わったよ。だから...」
「オールマイト、話を続けさせてください」
「良いのかい?緑谷少年」
「はい!大丈夫です!」
緑谷はオールマイトの気遣いをあえて無視して話を続ける。緑谷の中でキキとウィズの好感度がかなり上がったからだ。
「僕はずっと...ヒーローになりたかっただけなのに...かっちゃん達に馬鹿にされて虐められていて...」
「...かっちゃん?君は友達に虐められているのにゃ?」
「いや...友達じゃなくて...。幼馴染みというか...腐れ縁みたいなものなんだ」
「そうなんだ」
「で...話を元に戻すけど、最近進路志望で雄英のヒーロー科に受けようとしたことがバレてね...」
「なんで雄英に受けたらいけないの?」
雄英と言う単語にキキは引っ掛かりを感じたが、取り敢えず今は質問をせずに話を進める。
「そりゃあ、雄英が日本で一番のヒーロー高だからね!有名なヒーロー皆、雄英高校出身なんだ。例えばNo.1よオールマイト、No.2のエンデヴァー、ベストジーニアスを八年間受賞したベストジーニスト...他にも有名なヒーローがたくさんいるんだ!」
「それと雄英を受けてはいけないことは何か関係あるの?」
「要はヒーローを目指すだけでも生意気なのに、有名な学校を受けようとすることは、もっと生意気な奴だと、思われてしまったということにゃ」
理解していないキキに説明するウィズ。
その説明に緑谷は大きく首を縦に振る。
「そんなの個人の勝手なのに...。...ところで、なんで出久が雄英に受けることはバレたの?」
「それは...担任が皆の前で...バラしたから...」
「「「.........えっ....?」」」
思いもよらなかった答えにキキとウィズとオールマイトは呆ける。
自分が責められた訳ではないのに、緑谷は恥ずかしそうに頭を掻きながら語る。
「ぼ、僕だけではなくて、皆の進路志望の紙をばらまいたんだ...。皆、ヒーロー科だよねって言って...」
「...学校というのを詳しくは知らないけど...そんなのありなの?」
「いや、駄目だから!」
首を傾げるキキに必死に否定するオールマイト。
緑谷は困ったような笑みを浮かべることしか出来なかった。
「それで..."無個性"は無理だろ。とか、勉強が出来ても意味はない。とか...クラスの皆に馬鹿にされて...」
「そうなんだ...。...!?ちょっと待って!」
「はっはい?!...近い...!!」
悲しそうにしていたキキだが、何か思い付いて緑谷に詰め寄る。
女性慣れしていない緑谷は、顔を真っ赤に染めてそっぽを向く。
「どうかしたのかね?レイチェル少女」
困っている緑谷を助ける為、オールマイトがキキに話し掛ける。
キキは緑谷の様子を気にも留めず話を続ける。
「クラス全員、ヒーロー目指しているのだよね?!」
「う、うん!そうだけど...」
緑谷が返事をすると、うんざりしたキキは溜め息を吐き捨てる。
緑谷はビクッと怖がっていたが、怒っているキキは気にする余裕なんてなかった。
「せっかくヒーローを好きになってきたのに...これではまた嫌いになりそうだ...」
「....えっ?なんで!いきなりそんなことを言うのですか!?」
信じられないと緑谷は思わず叫ぶ。
キキはゆっくりと息を吸い込んで、目を閉じて気を落ち着かせる。気持ちを落ち着かせたキキは、目をカッと開いて言い聞かせるように話し出す。
「ヒーローはね!困っている人、苦しんでいる人、悲しんでいる人を助ける人なんだ!」
「なんですか...急に...。そんなこと、言われなくても分かっていますよ...」
「君のクラスメイト...ヒーローにはなってはいけない人達だ!」
「えっ?なんですか?」
キキの話に着いていけない緑谷とオールマイトは首を傾げる。
ウィズだけは頷いて同意をする。分かっていない二人に、キキはがっかりして様子を隠さず大袈裟にため息を吐いた。
「ヒーローは...人を救うのが目的だよね?」
「はい...そうですけど...」
戸惑いながらも応える緑谷。
緑谷の同意を聞いたキキは、キッと二人を睨み付けて言う。
「人を傷付け、差別をする。...そんな人達が、ヒーローになってはいけない筈だ!」
「でも....!"無個性"のまま、ヒーロー目指すなんて無茶なことだし...」
「馬鹿にすることはいけないが...否定されるのは仕方のないことだ」
「その考えが気に食わない!」
散々傷つけられてきたのに、世間の考えに納得をしている緑谷。オールマイトも緑谷と同じ意見だ。
そんな二人を気に食わなかったキキは指を指す。彼らがドキッとして話せなくなったうちに、キキは一気に畳み掛ける。
「例えオールマイトの言う通り...この世界の"無個性"はヒーローに成れないのかもしれない。...けど!"無個性"を馬鹿にして良い理由は一つも存在しない!この世界では、ヒーローに成れない"無個性"は、欠陥品なのか!?それは違う!こんな下らない考えを壊そうとは思わないの?!」
「僕だって!変えたいよ!...けど!それが常識だから...!オールさんには...分からないと思うけど....」
「ふざけるな!」
ウジウジした緑谷の態度に腹が立ったキキは叫ぶ。
緑谷がどんなに苦しい状態になっていても、この考えを譲れないキキは止まらない。
「その価値観でどれだけの人が苦しんでいると思っているの?!..."無個性"だけじゃない!道を間違えてしまってやり直そうとしている人でさえも!酷い目に遭っているんだよ!それにまだ、話の段階で始まってもいないのに出来ないと決め付けるのは速い!」
「でも!どうやって!!」
まだ納得をしていない緑谷は疑問を問いかける。
「今からその方法を考える為にこの場に来たのだよ。昨日あれだけ言い合ったのに、ノコノコ来るのは何か可笑しいと思わないの?...後、ウィズが質問した意味は分かる?」
あれだけ嫌な気分になったキキとウィズが来た理由は、この世界のいかれた常識を壊す為に、緑谷とオールマイトにも手伝ってもらおうと、昨日家に帰ってから話し合いで決めたからだ。そう決めていなかったら、もう二度と会いたくない程怒っていた。
「そ、それは...」
問い詰めるキキに、おっかなびっくりな様子で首を横に振る緑谷。
今までの様子を呆れながら見ていたウィズは、キキと同じく溜め息を吐いてから答える。
「全く...君は...。あれだけ苦しめられていて、よくこの考えに納得出来るもんだにゃ。...まあ、色々言いたいことがあるけど、今は置いておくにゃ。過去を振り返って嫌な気分になった筈だにゃ。オールマイトにも気を遣われていたしにゃ。...で、君は、君のように苦しめられた人を、救いたいと思わないのにゃ?」
「それは...でも、そんな方法があるのですか?」
「今は方法よりも、君の気持ちを聞いているのにゃ。方法はその後にゃ」
ウィズに聞かれて緑谷は俯いて考える。
キキとウィズとオールマイトに見守られる中、必死に考えて決意を決めようとする緑谷。波が何十回、何百回の寄せては返すを繰り返した後に、緑谷は拳を握って決意を固める。
「変えられるのなら....変えたいです!」
緑谷の決意にオールマイトは、腰が抜かりそうになる程驚く。
「み、緑谷少年...」
オールマイトがここまで驚くのは仕方のないことだ。
そもそも常識を疑うこと自体かなり難しい上、常識に歯向かうだけで敵を作ることになる。例え何も悪いことをしてなくても。しかも緑谷は、キキとウィズと違ってこの世界から出ることは出来ない。それ故に常識に歯向かったことで、これから独りぼっちになってしまう可能性だってあるのだ。
今は...それでも...
立ち向かうことを誓った。
「HA...HAHAHAHA!!若いのは良いね!大きな壁に立ち向かう姿は....うん!とても格好いいよ!道はとても険しくなるけれど、私も出来るだけ手伝うよ!」
「オールマイト!」
緑谷の決意に心動かされたオールマイトは、マッスルフォームに変身して、地平線まで響くような笑い声で手伝うことを宣言をする。
オールマイトも手伝うと言う宣言に、緑谷は泣いて喜ぶ。
「じゃあ決まりね。これから宜しくね」
「こちらこそ、宜しくお願いします!」
笑顔で握手を求めるキキに緑谷も笑顔で応える。
「あっ...でも...常識に歯向かうって、どうやってやるのだろうか?ただ訴えるだけで伝わるのだろうか?オールマイトはともかく...僕やオールさんの話を聞いてくれる人はいるのだろうか?どうやって話を聞かせるようにするのかな?被害に遭っていた僕でさえも、中々共感を得なかったからなあ...。満足している人どころか、普通に生活している人でさえも、不可能に近いぞ!」
緑谷のいつものブツブツ呟く癖が始まる。その様子に先程まで笑顔であったキキとウィズも引き気味だ。
だが、険悪で終った昨日とは違い今は、穏やかな空気が流れ、仲良くなった彼らを祝福するかのように太陽が彼らを照らす。
異世界から黒猫と魔法使いがやって来て、無力だった少年はこの世界に問題を知る。問題を知った無力な少年はが、この世に抗い、最高のヒーローを目指す物語の幕が上がる。