黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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一気に時間を飛ばします。後、原作部分は大分省略をします。


27話 謝罪と母親の気持ち

キキが緑谷やそのクラスメイトと会わなくなってから、大きな事件が起こっていた。

 

雄英高校に敵(ヴィラン)連合が侵入をし、教師二名と生徒一名が重傷を負う大事件が起きた。しかも襲撃者の中には、過去に街を襲った黒い怪物もその場におり、脳無【のうむ】と呼ばれていた。

 

大喧嘩をした後とはいえ、流石に心配になったキキは緑谷に連絡をする。

緑谷の話によると、自分以外の生徒は特に怪我人はいないらしい。無茶をしたことにより大怪我を負ったのだが、オールマイトの"個性"がなければ、もっと被害は大きくなっていたらしい。

 

キキは結果的に、緑谷の"個性"譲渡を認めなければならなくなったのだが、複雑な気持ちになる。

"個性"はまだ制御出来ていないが、"個性"がなければ死んでいた。学生のうちだからといって安全の保証は出来なくなっていた。

 

素直に認められれば楽になれるが、キキの脳内で力に溺れた人物が異形の怪物に成り果てる姿が何度も甦る。

 

「.........分かった...。"個性"を引き継ぐことを認めるよ...。その代わり......」

 

 

「指導をするから、"個性"について教えてもらったことは、全部教えて」

 

キキが苦渋の決断をする。

本当はかなり嫌々どころか、認めたくはないけど、また襲撃されたら命の保証が出来ない。だったら、鍛えて調整を出来るようにするしかない。

 

キキの話が終わったが緑谷はずっと黙っている。

流石にあれ程喧嘩をして、今更虫のいい話に怒っているのかな?と、キキが考えていると...

 

「...あ、あの...その......。あまり......この"個性"のこと......知らないから...話せないです......」

 

緑谷が言いづらそうに伝える。

 

その答えにキキはー

 

心の中でー

 

 

あのアホ!!!

 

毒突いて、何もかも考えることを止めた。

 

 

 

キキが緑谷達と会えなくなっていた間、白部は彼らと仲良くなっていた。特に女子とはかなり仲良く、毎週会っているらしい。

キキが何故、白部と緑谷のクラスメイトと仲良いことを知っているかというと。キキが海岸去っていった姿を見ていた白部が心配になって、ちょくちょく会いに来ては、話をしたり様子を見に来るようになった。相当心配していたのだと、キキの心は胸を締め付けられる程苦しくなった。

 

やるせない気持ちになったのは白部のことだけではなく、緑谷のクラスメイトにもだ。

キキは襲撃事件で緑谷の"個性"譲渡を認め、会いに行けるようになったが、今更、どのような顔をして会いに行けばいいのか分からなかった。だが、心配を掛けてしまったので謝りに行くことにした。

 

白部にあの時いた全員を海岸に呼び出してもらい、キキは謝ろうとしたが...

 

「あの時はごめんなさい!」

 

麗日が先に謝ってきた。

 

「えっ....?」

 

「私、オールさんの気持ちも分からないのに、許してって、気軽に言って、ほんとにごめんなさい!」

 

麗日は深い礼をして謝る。

キキは心に穴がぽっかりと空く程罪悪感を感じる。

 

「こちらこそ、ごめんなさい!」

 

麗日が頭を上げる前にキキも頭を下げて謝る。

 

「....えっ?」

 

急な展開にこの場にいた全員が呆然としまう。

真剣に謝っていた麗日でさえも、頭を下げたまま呆然としていた。

 

「関係ない皆を巻き込んでしまいごめんなさい!心配を掛けてしまいごめんなさい!お茶子の想いを無下にしてごめんなさい!」

 

キキは麗日と同じくらい頭を下げる。

 

「なんで、オールさんが謝るの!?」

 

「そうですよ。オールさんが気にする必要はありません!」

 

「どういう事情かはよく分からないが、謝る必要はなくね?」

 

「そうだな。謝る必要はないな」

 

全員がキキの謝罪を否定する。

キキはそれでも頭を上げなかった。

 

沈黙が長い間続く中キキは頭を下げていたが、ゆっくりと頭を上げた。

 

キキの視界がピンク色に染まる。

 

「もー、オールさんは気にしすぎだよ」

 

キキの目の前に芦戸が立っていた。

 

「そうだよ!気にしなくていいよ!」

 

葉隠が芦戸の意見に同意をする。

キキは申し訳ない気持ちでいっぱいであったが、謝るのを止めないと先に進めない為、この件は終らすことになった。

 

こうして、緑谷とそのクラスメイトと普通に会いに行けるようになった。

 

 

 

そこからは会えなかった時間を取り戻すかのように、緑谷とクラスメイトと仲良くなっていく。

緑谷、尾白、切島、砂藤、障子と訓練をし、飯田を中心にしてゴミ拾いをてきぱきに行い、白部の作ってきた弁当に上鳴と峰田が大喜びをし、皆と写真を取ったりして過ごしていった。

 

そんな日々があっという間に過ぎて...

 

 

 

「遂に雄英体育祭!楽しみです!」

 

緑谷達が通う学校、雄英高校に体育祭が行われる日がやって来たのだ。

雄英体育祭とはー

 

一年に一度雄英で行われ、学年ごとに別れて互いに競い合う祭りだ。この祭りは日本のビックイベントの一つとも言われており、ここで良い結果を出して見込まれれば、プロヒーローからスカウトをされる。

 

学生にとっては、体育祭の結果で将来が決まる大事な祭り。観客にとっては、"個性"が飛び合う派手で激しい試合が心踊る、かつてのオリンピックのような一大イベント。

 

今年は襲撃事件で出来ないかと思われたものも、例年よりも五倍警備員を増やして安全性を確保し、行うことになった。

 

白部はカメラやらバックを持ってはしゃいでいた。

かなりの大荷物で重たい筈なのに軽々と運び、余程楽しみなのか、鏡のように透き通った銀色の瞳はキラキラと輝いていた。

 

なのにー

 

何故かーー

 

白部を見てキキは不安を感じた。

 

「どうかしたのですか?」

 

じっと見詰めるキキに白部は首を傾げる。

 

「白部は雄英の体育祭が好きなんだね」

 

キキは質問をして誤魔化す。

 

「ええ!勿論好きですよ!だって、未来のヒーローと契約出来るチャンスであり、私が目を付けた子の中には、トップヒーローになる子がいるかもしれない!その子と専属契約が出来れば会社は....」

 

「白部は仕事をしに来たの?」

 

想像していた楽しみ方が、思っていたものと大分違っていた。

 

「しかし...緑谷のお母さんから、雄英体育祭のチケットが貰えるなんて...感謝しても感謝しきれません!私が買おうとした時にはいつもチケットは売り切れていて、運が無いから...」

 

白部は感慨深く雄英体育祭のチケットを見詰める。ある程度見詰めると、チケットを大事そうにお財布の中にしまう。

 

「ところで...オールさん...」

 

「何?」

 

白部が真剣な表情をして尋ねる。

 

「オールさんは...平気なのですか?緑谷君の"個性"を見ても...」

 

白部はキキが"個性"に飢えている"無個性"と信じており、いくら仲直りをしたとはいえ、また傷付くのではないか?と心配をしていた。

白部の心配をする気持ちは、痛い程キキに伝わり、罪悪感に溺れそうになる。もっと良い言い訳を思い付きたかったと、激しい後悔に襲われるがもう遅い。どんなに心が痛んでも演技をするしかなかった。

 

顔を見れないキキは俯いて言う。

 

「大丈夫...。このことは...ちゃんと...向き合わなければ...いけないんだ...。だから...映像ごしから...でも観て...慣れるようにするよ...。それに...出久の母親に謝らないといけないからね」

 

言い訳をすること辛くなったキキは苦しそうに語る。

チラッと白部の様子を伺うが、白部は益々心配をしていたが何も言わなかった。

 

「そうですか...」

 

白部は曖昧な笑みで肯定をするだけであった。

 

 

 

特に話すこともなく、緑谷の住んでいるアパートに辿り着く。

キキがチャイムを鳴らして緑谷の母親を待つ。白部はキキを見守る為横に立っていた。

 

「はーい!今、開けます!」

 

ガチャ

 

チャイムを鳴らしてから数十秒も経たない内に、扉は開き緑谷の母親が姿がみせる。

 

「あら!湖井さん!それに...オ、オールさん!?」

 

キキの姿を見た瞬間、緑谷の母親は心臓が止まってしまうのではないか?と、キキと白部が勘違いをする程驚く。

緑谷の母親が何か言う前にキキは直ぐ様謝り出す。

 

「私のせいでパーティーを壊してしまい、ごめんなさい!」

 

キキはお辞儀をして謝る。

緑谷の母親は驚いて固まっていたが、恐る恐るキキのそばに寄る。

 

「あの...頭を上げてください...」

 

キキはゆっくりと頭を上げる。

緑谷の母親は苦笑いをしていた。

 

「私も..."無個性"の母親として...オールさんの気持ちが凄く分かるわ...」

 

緑谷の母親は胸に手を当てて語り出す。

 

「出久も"無個性"と診断されてから、最初のうちは必死になって、父の"個性"の真似をして火を吹こうとしたり、私の"個性"を真似をして物を引き寄せようとしたりして..."個性"を発現させようと物凄く必死だったから」

 

自分を責めるかのように緑谷の母親は過去のことを話す。

おばさんは何も悪くない!と、口に出そうになったキキだが、今のキキは"無個性"に苦しんでいる女性。何を言っても意味はない。またもや仮の設定が足を引っ張る。

 

キキと白部が真剣な眼差しで見守る。

語り終るた緑谷の母親は暫くの間黙っていたが、静かな笑みを浮かべるとキキに頼み事をする。

 

「オールさん、謝る代わりにお願い事があるけど...良いかしら?」

 

「構わないよ」

 

「実は...雄英体育祭を家で一緒に観てほしいの...。勿論!オールさんに用事が無かったらの話よ!」

 

話をしている最中に突然緑谷の母親は挙動不審になる。急に挙動不審になるものだから、キキと白部は苦笑いを浮かべる。

 

「用事は無いから大丈夫。一緒に観るよ」

 

「ありがとうございます。オールさん。私一人では、怖くて観れなくて...」

 

「怖くて観れない?」

 

「ええ...。出久が毎年雄英体育祭を楽しみにして一緒に観ていたのですが...私には怖くて....」

 

恥ずかしそうに語る緑谷の母親。

キキは安心させるように笑顔で語り掛ける。

 

「分かった。一緒に観よう」

 

「本当にありがとうございます。さっさ、中に入ってください。湖井さんも楽しんで行ってきてください」

 

緑谷の母親は扉を開けてキキを迎え入れる。

用件が終るのを見届けた白部は、チケットの恩を伝える。

 

「こちらこそ、本当にありがとうございます。チケットの恩は一生忘れません!」

 

白部は綺麗なお辞儀をしてキキ達から離れていく。

 

白部が廊下の間取り角に曲がろうとした瞬間...

 

 

 

「白部!」

 

「?」

 

キキは思わず大声を出して呼び止める。

急に大声を出して呼び止めたものだから、白部は不思議そうな顔をして立ち止まった。

 

「なんでしょう?」

 

いつも通りの笑顔で尋ねてくる白部。

見慣れた光景なのにキキの胸のざわめきが止まらない。この笑顔も今日で最後になってしまう、そんな予感が頭の中を過る。

 

何を話せば良いのか分からないキキは固まってしまう。

 

「...すみません。話が思い付かないようでしたら、また後にしてもらえませんか?開会式に間に合わなくなるので...」

 

呼び止めても何も言わないキキに、待ちくたびれた白部は立ち去ろうとする。

 

何も思い付けなかったキキ。

白部の立ち行く背中の手を伸ばすことしか出来なかった。

 

 

 

例え、何も言葉を思い付けなくてもーー

 

 

 

 

「また、会おうね!!」

 

 

 

約束をする。

 

 

呼び止めた割には、些細な約束だったので、白部と緑谷の母親はきょとんとする。

 

きょとんしていた白部だったが...

 

 

 

「はい、また会いましょう」

 

いつもの笑顔で約束をするだけであった。

 

 

 

白部と分かれてからキキは、緑谷のソファーで寛いでいた。

テーブルにはお茶と茶菓子が置かれており、先程の気持ちを落ち着かせる為キキは茶菓子をずっと食べていた。

 

テレビで放送されるまで落ち着かない緑谷の母親は、廊下を行ったり来たりしたり、茶菓子を補充をしたり、お茶を注いだりしていた。

 

〈さあ、始まりました!皆さんお待ちかねの雄英体育祭!当テレビ局では、一年生の部門を放送していきます!〉

 

つけっぱなしのテレビから雄英体育祭の始まりを告げる。

 

「つ、つつつ遂に始まったわ!」

 

言葉を詰まらせながらテレビを観る緑谷の母親。

キキの隣に座り体をガタガタと震わせていた。あまりにも体を震わせていたものだから、先程の気持ちが一時的とはいえ忘れさせる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「だ、だだだだだ大丈夫!い、出久の晴れ舞台ですもの!ちゃ、ちゃんと観なくちゃ!」

 

(後二、三回ほど出久は体育祭に出る度ことになるけど、大丈夫?)

 

キキが緑谷の母親を心配していると、開会式は始まっており、雄英の教師である長い黒髪の際どいコスチュームを着た女性が、司会者として進める。

 

〈選手宣誓!選手代表!爆豪 勝己【ばくごう かつき】!〉

 

色の抜けた金髪に目付きが悪い男子生徒が壇上に上がる。

 

〈宣誓ー〉

 

 

〈俺が一位になる〉

 

画面の向こうからブーイングの嵐が巻き起こる。

 

(宣誓って...そういうこと!?)

 

キキが驚いていると爆豪が更に問題発現をする。

 

〈せめて踏みの良い踏み台になってくれ〉

 

彼がそう言うと壇上から下りる。ブーイングの嵐が大きくなる。

 

(こんなのありなんだ...)

 

キキが呆れ返っている間にも、雄英体育祭は盛り上がっていく。

 

 

一番始めの障害物競争で緑谷はなんと一位になった。しかし、一位に贈られた一千万ポイントのせいで、次の種目の騎馬戦で誰とも組めなくなってしまっていた。

時間ギリギリでようやく緑谷は麗日、常闇、サポート科のピンク色の髪の少女発目 明【はつめ めい】と共に、騎馬戦を組んだのだが、緑谷に与えられていたポイントのハチマキが取られ、四位まで落ちた。

 

とはいえ、最終種目には出られるのであった。

 

 

最終種目はお昼休憩を取った後に行われる。

キキも緑谷の母親も始まる前に、お昼ご飯を食べていたのだが...

 

「体調悪いのですか?」

 

緑谷の母親の箸が止まっていた。

 

「ううん、体調は悪くないのよ。ただ...緊張をしてね。喉に入らなくて...」

 

「観ているだけなのに?」

 

「ええ...。雄英体育祭の第一種目と第二種目は毎年違うけど、最終種目は毎年同じで.....生徒同士が戦うの...」

 

いくら生徒同士でも戦うことに、心配で堪らないようであった。その気持ちにキキは同情をする。だからこそ....

 

(ヒーローは戦うことになるけれど...。出久は母親にも、ちゃんと安心出来るように説得をしないといけないみたいだ。もし...説得ができないまま、ボクの時みたいに勝手にヒーローになっていたら、本気で怒りに行くから)

 

緑谷のことを信用をしていないキキは、お茶を飲みながら決意をするのであった。

 

 

 

緑谷の母親は結局ご飯を食べることは出来なかった。

ご飯を一口も食べないまま、最終種目が始まる。

ガタガタ震える緑谷の母親を支える為、キキは手を握って観ていた。

 

〈さあ!始まりました!皆さん、お待ちかねの雄英体育祭の最終種目!ガチンコバトル!〉

 

一戦目は緑谷と、紫色の逆立った髪に目の下の隈がある少年心操 人使【しんそう ひとし】だ。

 

出久と心操が何か話をしている最中に試合が始まる。

心操の言葉が緑谷の心を逆撫でしたのか、我を忘れさせる程怒らす。しかし、攻撃をすることはなく、心操の"個性"で緑谷はアホ面になり、自らフィールドを出ようとする。フィールドから出ようとした瞬間突風が起こり、緑谷は指を二本犠牲にして心操の"個性"を突破する。

 

〈何をした!?〉

 

自分の"個性"が突破されると思っていなかった心操は、慌てふためく。緑谷は口に手を当てて応えなかった。

 

〈なんとか言えよ〉

 

"個性"の条件を満たす為か心操は語り掛ける。

 

〈指を動かすだけでそんな威力か。羨ましいよ〉

 

心操が話し掛けている間にも、緑谷は走って距離を詰める。

 

〈俺はこんな"個性"のお陰で、スタートが遅れちまったよ。恵まれた人間には分からないだろ〉

 

(..."個性"によっても馬鹿にされるの?なんでそんなことで?本当に理解できない。条件さえ揃えば、戦わずにして敵を捕まえられる。良い"個性"じゃないか...)

 

キキが心操について色々と考えているうちに、緑谷が背負い投げをして勝負が終る。

一回戦目の勝者は緑谷出久であった。

 

 

それぞれの一回戦が終り二戦目に入っていく。

緑谷の二戦目の相手は、同じクラスメイトの髪の毛が紅白になっている少年轟 焦凍【とどろき しょうと】。

 

スタートの開始と同時に氷が壁になって、緑谷を襲い掛かるが、指一本を犠牲にして氷を粉砕する。轟は自分の後ろに氷を作り出して、フィールド外に吹き飛ばされないようにする。何度も同じ攻撃を轟は繰り返すが、緑谷もその度に指を犠牲にして防ぐ。それを何度か繰り返すと、轟がトドメをさそうとするが、緑谷は壊れた指で防いだ。

 

〈......半分の力で勝つ!未だ僕は君に傷一つ付けられてもいないぞ!〉

 

緑谷は壊れた指でグーを作る。

 

〈全力で掛かってこい!〉

 

轟が緑谷に向かって走り出す。

けど、氷の弊害なのか動きが鈍っていた。近接戦でケリをつけようとした轟だったが、緑谷に腹を殴られてフィールドの端まで吹き飛ばされる。氷を作り出しても、そのスピードは段々と落ちていき、簡単に避けられてしまう。互いにボロボロになった時だった...

 

〈君の!〉

 

〈力じゃないか!!〉

 

緑谷が何故か叫ぶ。その結果...

 

 

轟から大きな炎が現れる。

轟は炎で体を暖めて霜を溶かして体調を良くする。体調を良くした轟は、この試合で一番でかい氷を作り出して襲い掛けるが、緑谷が足を犠牲にして飛び越える。轟は左手で炎を迎え撃ち、緑谷は腕を犠牲にして殴り掛かる。拳と炎がぶつかり合い、衝撃波を産み出す。衝撃波の威力は凄まじく、フィールドや観客を守る為に作られたコンクリートの壁が、あっという間に壊されていく。衝撃で粉々になったコンクリートが暴風に紛れ、視界を奪っていく。暴風が収まり立っていたのは....

 

緑谷出久と轟焦凍であった。だが...

緑谷は場外に吹き飛ばされ力尽きて倒れる。二回戦の勝者は轟焦凍であった。

 

 

「もう...!!観ていられない!」

 

緑谷の母親が片方の手で顔を隠す。

息子の無惨な姿に動揺をして泣き崩れる。キキはリモコンでテレビの画面を消して、話を聞く体勢を整える。

 

「体をあんなにボロボロにして...!!物凄く痛い筈なのに我慢して...!!いつ倒れても可笑しくないのに....!!戦うなんて可笑しいよ!」

 

「これが...!これが.....!!」

 

 

 

「ヒーローになる為の道なの!?」

 

まだ出会っても間もない、大事な息子にいちゃもんをつけてきたキキに、吐露してしまう程弱ってしまった緑谷の母親。キキは涙が溢れる瞳を黙って見詰めていた。

 

「あんな無茶をするのだったら...!!私は....私は....!!」

 

 

「出久がヒーローになることを認められない!!」

 

「出久がやっと掴んだ夢なのに....!!私は...認めたくない!」

 

一通り言い終わると緑谷の母親は、深呼吸をして息を整える。

何も映っていないテレビを眺めて、緑谷の母親はぽつりと呟く。

 

「ねぇ...出久...」

 

「これが...出久の夢なの...?出久はこんなボロボロになっても...夢が叶えられれば...幸せなの?」

 

 

「うん、幸せだと思うよ」

 

キキの言葉に緑谷の母親は絶句をする。

何も言えなくなった緑谷の母親を無視するかのように、キキは独り言のように話を続ける。

 

「何か想いがあったり、信念がある人は、例え死ぬようなことがあっても自分が選んだ道を進む。寧ろ自分が選んだ道を歩まなかった方が、後悔をする。自分の選んだ道を進んだ結果死んでしまっても、彼らには後悔はない、そういう人なんだ」

 

キキは異世界の出来事を思い出す。

例え敵わない敵であっても、かつての仲間と殺し合うことになってしまっても、世界を地獄に変わることになっても。大切な人への想いが、揺るぎない信念が、叶えたい願いが、彼らを突き動かす。その想いは凄まじく、敵を見れば逃げ回っていた臆病な男性を、自分より強い少女を守る為に死のギリギリの淵まで立ち向かわせる。

 

キキだってそうだ。

自分自身が死んでしまうことよりも、困っている人を放っておく方が嫌だ。

 

「そ...そんなのって!!可笑しいですよ!!!」

 

緑谷の母親が抗議の声を上げる。

 

「待っている私は...!旦那は...!もし出久が無茶をして死んでしまったら!遺された私達はどうすれば良いの!?出久の夢の為に我慢しろって!言うのですか!?」

 

「我慢はしなくても良いよ」

 

「......えっ.........?」

 

真逆に近い答えに緑谷の母親は、魂が抜けたように呆ける。

 

「そういう人は、自分の大切な人が悲しんでいる姿を見て、やっと立ち止まるんだ。だから......」

 

 

 

「泣いて無茶をしないようにさせて。悲しんでいる姿を見せて、後悔させて、もう無茶をしなくてもいいように強くさせよう」

 

「そんなの...ありなのですか......?」

 

「ありだと思うよ」

 

緑谷の母親は呆け気味になりながらも尋ねる。

暫く間キキの顔をじっと見詰めていた。

 

「けど...それだと...。出久の夢の邪魔になりませんか?」

 

出久の体の心配だけではなく夢の心配まで始める。

 

「無茶をして悲しませる方が悪い!」

 

キキはきっぱりと否定をする。

 

「大切な人を心配をして泣くのは当然のことだ!だから、おばさんが気にする必要はないよ。無茶をする出久が悪い」

 

キキが言い切ると、緑谷の母親の瞳から涙が止めどなく流れ出す。

キキはずっと泣き止むまで、緑谷の母親に寄り添うのであった。

 

 

 

「今日は来てくれて本当にありがとう」

 

泣き終えた緑谷の母親は晴れやかな笑顔に戻っていた。

 

「早速なのだけど...出久が無茶をしたことを怒りたいのだけど...オールさんも傍にいてもらってもよろしいですか?私だけだと、感情的になって言いたいことも言えなくなると思うから...」

 

「良いよ。...私も言いたいことがいっぱいあるしね」

 

キキは小声で出久への怒りを呟く。

 

「ありがとう。...あら?出久からメールだわ...もしかして!?」

 

緑谷からのメールに、何かあったと思った緑谷の母親は顔を青ざめる。しかし、メールの内容をよく読んでみると...

 

『雄英体育祭の打ち上げをするから、夕飯は要らないです』

 

普通のメールであった。

 

「出久......!!」

 

メールを見て泣き出す緑谷の母親。

キキはその様子に驚く。

 

「なんで、泣いているの!?」

 

「出久に友達が出来て...嬉しくて....」

 

嬉しさのあまりに泣いていたのであった。

 

 

 

 

午後六時、打ち上げが盛り上がっている頃、キキは緑谷の家で夕飯もご馳走になることになった。

キキは手伝おうとしたが、緑谷の母親がお客様はゆっくりとしていて下さい。と言われ、ソファーに座っていたのだが....

 

(また...胸騒ぎがする...。今日はなんでこんなにも落ち着かないのだろう...?)

 

険しい顔をしてキキは窓の景色をずっと眺めていた。

 

「オールさん、暇だったらテレビとか観てていいですよ」

 

眺めているキキに緑谷の母親が勧めていた時だった。

 

 

 

 

「こんばんは。敵(ヴィラン)連合の黒霧と申します。ここが緑谷君のお家でしょうか?」

 

「...!?」

 

黒い霧がいきなりキキの目の前に現れる。

礼儀正しく挨拶をしてくる敵(ヴィラン)。音もなく入ってきことにキキは驚くのだが、考える時間はなく、キキは緑谷の母親を守る為に、黒い霧と緑谷の母親の間に立つ。

 

「そこのお方は、中々と良い動きをしますね。...おっと、携帯とかで連絡をされては困ります。貴女方二人は、これから人質になっていただきますから」

 

キキがポケットからカードを取り出そうとした瞬間、黒い霧がキキと緑谷の母親を包み込む。

キキは何も抵抗が出来ないまま、視界が暗転していくのを受け止めることしか出来なかったのであった。

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