キキと緑谷の母親が黒霧に拐われてしまったが、時は雄英体育祭が終了したばかりの頃に遡る。
雄英体育祭が無事に終わり、それぞれが体育祭について語っている中、白部が打ち上げを提案をする。誰もが名案だと盛り上がっていたが、爆豪だけは参加する気がなかった。だけど、白部が奢ると言うと、爆豪は渋々だが付いて行くことを決めたようだ。最終的に、緑谷とそのクラスメイト全員が参加をすることになった。
夕日を背に彼らは歩く。沈みかけた夕日の光が、大事な戦いを終えた彼らの体を労るかのように、優しくオレンジ色に染め上げる。
白部以外、ここにいる者は皆、身体中に傷だらけであった。特に緑谷は両腕を骨折をしていて見るだけでも痛々しい印象を与える。
それでも彼らはずっと笑っていた。
傷は勲章に、疲れは達成感に。
気分に身を任せてスキップをしていた芦戸が、白部の方を振り返って質問をする。
「ねぇねぇ、湖井さん!そのバックは何?」
白部が持っていた大きなバックが気になってしょうがないようだ。白部はニコッと笑ってから答える。
「このバックの中には、皆さんとの思い出が入っていますよ」
「皆との思い出...つまり!写真!?ねぇねぇ、梅雨ちゃん!私、ちゃんと撮れたかな?!表情とかさ!」
「ケロッ...動きで伝わると思うけど、表情は撮れていないと思うわ」
「写真ですか...とても良い物ですわね。アルバムを作っていたことを仰っていただければ、私がプロのカメラマンをご用意致しましたのに...」
「流石!お金持ちやわ!」
「いつの間に写真を撮っていたんすか...」
「写真かあ...。俺!格好よく写っているか!?」
「普段から格好良ければいけるんじゃね?」
「じゃあ、上鳴は駄目じゃん」
「どういう意味だ!」
「僕の煌めきは写真でもバッチリさ☆」
「いつの間に撮っていたんだ...ウチ、ちょっとだけ恥ずかしいなあ...」
「写真でも胸は...って!?ぎゃああーーー!!」
賑やかに騒がしく目的地を目指す一行。
突然、後ろの方にいた白部が走り出して先頭に出る。いきなり走り出したものだから、緑谷とクラスメイト達は驚いて立ち止まる。
みんなより前に出ると白部は勢い良く振り返る。
いつもの笑顔なのに、何故か緑谷の心に強い印象を残す。
緑谷が白部の笑顔をじっと見ていると、何を思ったのか一転をして真面目な表情になる。
「......皆さんに質問があります...」
「ああぁ!なんだよ、そのテンション差は!気持ち悪!」
会ったばかりの爆豪が大変失礼な罵倒をする。
「爆豪君!君はなんて失礼なことを言うんだ!!」
「おい!爆豪!そんな言い方はあんまりだぞ!」
飯田や切島が爆豪に注意をする。
他の人達も加わり、緑谷も注意をしようとするが...
爆豪から微かな違和感を感じ取る。
いつもならふてぶてしい唯我独尊の彼が、真っ向から睨み付け、白部の様子を伺っている。いつもの爆豪を知っている緑谷にとっては驚きでしかなかった。普段の爆豪
だったら、気持ち悪いと一言だけ言って後は無視だ。
「そうですよね...。へらへら笑っていた私が突然、真面目な雰囲気に変わったら気持ち悪いですね。すみません...。ですが、今日は雄英体育祭という、学生からしてみれば、この先、ヒーローとなる大事な一歩を歩みましたのでしょう。だから、そんな皆さんに聞きたいのです」
爆豪の罵倒を笑って許す白部。
白部が許しても飯田の気が済まなかったが、白部は話を真剣な方向に進める。
白部の問い掛けに、先程までの楽しい雰囲気は消えて、授業を受けるような姿勢になる。
真面目な雰囲気を察した白部は話を始める。
「ヒーローとはなんですか?」
「敵(ヴィラン)とはなんですか?」
よくある質問であり、答えがある質問であった。
飯田が手を上げて答える。
「ヒーローとは困っている人を助ける者であり!敵(ヴィラン)とは"個性"を悪用する者であります!」
飯田の模範的な回答にみんなが頷く。だけど...
緑谷だけは違うことを思い出していた。
「ねえ、出久」
「なんですか?」
「なんでこの世界の人達は敵(ヴィラン)を叩くんだ?」
それはキキが過去に緑谷にした質問のことだった。
緑谷は何でそんなことを質問するだろうか?と、驚いていたが、キキが異世界から来た人だったことを思い出す。
「それはやっぱり......。悪いことをしたからだと...思う」
「そうだね。彼らは悪いことをしたね。けど、被害者と関係なさそうな人も怒っているのはなんで?」
「それは悪いことをしたからであって...」
「だからって叩く必要があるだろうか?被害者の家族のだったり、友達とかだったら恨んでやってしまうのは分かるけど...」
「そりゃあ。敵(ヴィラン)が暴れたことによって、街が破壊されたりして、皆を色々と困らせるから...」
「えっ?あれ困っていたの?楽しんで見ていたじゃないか」
キキが嘲るような言い方で吐き捨てる。
緑谷は膨れ上がる感情に任せて反論をしたくなったが、価値観が合わなさすぎて話し合っても無意味だと悟り、何とか我慢をして黙る。
緑谷が怒っていること気が付いたキキは、緑谷の表情を探る。緑谷は気まずくて、気晴らしに海を見詰めていたのだが、先にキキが沈黙を破る。
「出久は困っている人を救けている姿のヒーローが格好良くて、そんな風に成りたいからヒーローを目指しているのだよね?」
「.........」
キキは話を変えたのだが、緑谷は応える気力はなかった。何を言ってもまた否定されると思ったからだ。
キキは緑谷の態度を気にしておらず、話をどんどん進めていく。
「もし...誰かを救うことになったら、肩書きとか、血とか、力とか、"個性"とかで判断するのではなく、その人の本当の姿を見て」
「じゃないと、本当に救えない。...いや、それでも、救える方がかなり少ない。納得をするのはあくまで、本人だから」
「...何で急に、そんな話になったのですか?」
「出久がさっきの話を聞く気がないから」
不機嫌な緑谷にしれっと答えるキキ。
緑谷が余計にむくれているが、キキは気にも留めない。
「出久はさっきの話を聞きたくないでしょ?だったら、違う話に変えた方が良さそうだからね。それに...。話を聞いてみると今の出久には、人を救うことはできないと思う」
「やる前から否定かよ!!そんなの、やってみないと分からないだろ!!!」
今までの不満をぶつけさせるかのように緑谷は怒鳴る。けれどもキキは、緑谷から目を逸らさず、真剣な表情で告げる。
「今の話だと、出久は、敵(ヴィラン)は悪いことをした人だから、何をやってもいいって感じたよ。けどさ...」
「何で敵(ヴィラン)になったのか、考えたことはある?」
「......」
「ないみたいだね。一般人のまま生きるのならそのままでいいよ。誰かを傷付けなければ。けど、人を救うヒーローに憧れているのでしょう?だったら、相手の立場を考えないと。困っている相手に手を差し伸ばしたいのなら、何で困っているのかを分かるようにならないと」
キキが話を続けても何も言わない緑谷。
その様子にキキはため息を思い切り吐く。
「...まあ、納得できないのなら、今はそのままでも良いよ。いつか...」
「その手の問題にぶつかると思うから」
キキは言うだけ言ってその場を立ち去る。
釈然としないまま緑谷も訓練に戻るいつもの光景。
(何で...今更...こんなことを思い出したんだ!?湖井さんは敵(ヴィラン)でもないのに!どこにでもいる一般人なのに!かっちゃんが普段と違う行動を取ったから!?大体、湖井さんの質問はヒーローとは何か、敵(ヴィラン)とは何かという質問なのに...!....あれ?そういえば、確か、この話には続きがあって......)
「じゃあ、オールさんは敵(ヴィラン)についてどう思うんだ!?」
不満が爆破した緑谷は、キキにいちゃもんをつけるかのように怒鳴って質問をする。
キキは緑谷のところに戻る。
「悪人でもないし、悪人でもある」
「はあ?!悪いことをしたのに!?」
キキの答えに緑谷は苛立ちを更に募らせる。
「悪いことをしているとは思っている。けどね...」
「理由によっては悪人に思えないこともある」
「そんなの!言い訳にならないよ!!」
「そうだね。言い訳にはならないね」
緑谷の怒鳴り声にも、キキは幼い子供に優しく諭すように話を続ける。
「どんな理由があったとしても、悪いことをしたことには変わらないから止めるよ。だけどね...」
「悪いことをするって決断した人の中には、誰にも助けを求められなくて、苦しんだ末に選んだ人もいるから、そのことを忘れないでね」
緑谷は、何故かこの時、悲しんでいるキキの顔を忘れることはないだろう。と、確信をしてしまうのであった。
「緑谷君、何か考え事をしているようですが、緑谷君なりの考えがあるのですか?」
白部が考え耽っていた緑谷を現実に引き戻す。
「緑谷君、何か考えがあるのかい?せっかくの機会だ。言ってみればいいじゃないか。俺の回答が当たっているとも限らないし、是非、君の考えも聞かせてほしい!」
飯田と緑谷に話すよう促す。
緑谷は言うつもりがないのに自然と口が開いていた。
「僕は...これは、僕の知り合いの考えなんですけど...」
「知り合い?それは...オールさんのことか?」
常闇が尋ねる。
「うん...まあね...」
誰も理解してもらえないと思っていた出久は、言いづらそうにしていたが、白部はとても気になっているようで話すように雰囲気で促す。
「オールさんが言うには......敵(ヴィラン)は悪人だけど、悪人とも思えないって...」
「なんだそりゃあ!?敵(ヴィラン)は悪い奴だろ!」
「敵(ヴィラン)は悪い人ではない...?それはどういうことだ?」
「えっ?普通に犯罪しているけど...」
「...前に、デク君がオールさんの価値観が変わっているって言っとる意味が分かったよ」
切島が熱く反論をし、障子と尾白が首を傾げ、麗日が呆れながら緑谷に同意をする。他のクラスメイト達も似たような反応だ。だけど白部は呆れることもなく、今も興味を持っていた。
「へぇー......。不思議な考えですね。ですが、彼女は何故、そう思っていたのですか?」
「それは...」
緑谷はなんて言うか迷っていたが、あまりにも価値観が違いすぎて上手くまとめることは出来なかった。うろ覚えながらも緑谷は話をする。
「えっと...オールさんが敵(ヴィラン)を悪人だと思えない...理由は...人によっては、誰にも助けを呼べなくて!苦しんだ末に選んだからだって!!」
面倒臭そうに叫ぶ緑谷。
「そんなことでは言い訳にならない!皆、何があっても悪いことをせず、頑張って生きているんだ!そんな人達を裏切らない為にも、悪事に言い訳をつけてはならない!」
「俺も飯田の考えに賛成だ。...って言うか、あれだ、過去に敵(ヴィラン)にでもなったのか?」
「私も飯田さんと同じ考えですわ。理由をつけて許してしまうのは...何か間違っていると思います」
飯田の力説に上鳴と八百万は同意をする。
他の人達も同じ意見であった。
「オールさんは一体何を考えているだろうね?...湖井さん?」
葉隠の問い掛けにも白部は何も反応を示さない。
疑問を感じた葉隠は白部の様子を伺う。だが、伺おうとしても、白部は黙って俯くだけで、読み取ることはできなかった。
他の女性メンバーも心配をして、声を掛けようとした時だった──
「......もう...」
「話をしている余裕はないですね...」
白部が一気に顔を上げる。
笑顔であったが、いつもと変わらない笑みではなく、他人を嘲笑うような、見る者を不快と不安に誘う笑みであった。
「湖井さん......?」
一番付き合いが長かった緑谷が、何とか気力を振り絞って話し掛ける。呼び掛けても白部は応えない。
「ここで...何もかも...終わらせてしまいましょう...」
白部はみんなの様子を無視して話を進めていく。
「....黒霧さん...。後はよろしくお願いします」
「えっ....?」
緑谷達は黒い霧に包み込まれていく。
強制移動をさせられる前に彼らの瞳に映ったものは...
いつも通りに笑う白部の姿であった。
「ここは....どこ....?」
黒い霧が晴れて、視界を確保出来た緑谷は辺りの様子を確認をする。
クラスメイト全員が呆然と立っていた。
雄英高校襲撃事件の時みたく、離れ離れになっていなかったことに一先ず一安心をする。仲間がいることで少し余裕を持てた緑谷は周囲の状況を探り出す。
波の音と磯の香りが漂い、自然は手付かずのままだ。どこから流れてきたゴミが浜辺に放置され、緑谷はここは無人島ではないか?と推測を立てる。考えていても進まないので目の前の人物を睨み付ける。
目の前に立っているのは仲良く話をしていた白部、敵(ヴィラン)連合と名乗っていた黒霧、オールマイトとやり合った脳が剥き出しの怪人脳無。
「湖井さん......逃げて!!」
「湖井さん!」
「湖井さん!今助けに行く!!」
「ケロッ!」
白部の身を案じた芦戸、麗日、葉隠。"個性"を使って助け出そうとする飯田と蛙吹。他の人達も白部の元に駆け寄ろうとするが...
爆豪が掌で爆発を起こす。
爆破音に驚き、助けに行こうとした者の動きが止まる。芦戸が一番始めに口を開いて爆豪に文句を言う。
「ちょっ!?いきなり何するの!?湖井さんを助けに行かないと!!」
「はぁあ!?馬鹿かてめぇらは!!あいつは敵(ヴィラン)なんだよ!」
「爆豪の言う通りだ。あいつは敵(ヴィラン)連合の仲間だ。...だが...お前は緑谷達と仲良かった筈だ。それなのに何故裏切った?何故このタイミングを選んだ?」
爆豪に同意しながら轟は冷静に尋ねる。
白部はその質問につまらなそうに応えた。
「ああ...そのことですか?貴方方のようなヒーロー、ヒーローの卵が大嫌いだからです。死んでほしいと願う程大嫌いです。だから、私も殺しに来ました。タイミングは...遅ければ遅い程良いですし、友情は出来るだけ作って来た方が良かったのでしょう。だけど今日は...雄英体育祭というくだらない行事のお陰で、とても集めやすくて...。現に簡単に集まってくれて助かりました。打ち上げという、安い言葉だけで...それに...」
白部は緑谷を意味深げに見て嗤う。
「強い人程ボロボロになって殺しやすいですから」
「皆さん、本気になって戦いますからね~。上位に行けば行く程戦う機会は増えますから、怪我も疲労も増えて私達敵(ヴィラン)が有利となりますし。まあ...緑谷君の場合は勝手にボロボロになっていますが...何でしょうか?...理由なんて知る機会は私には一生無いですけどね。貴方方はこれから死ぬのですから。...取り敢えず、この話は放っておいて、今すぐベットで寝たい程疲れていますよね?そうでしたら、私達にお任せください...」
「永眠させてあげますから」
ぞっとする程冷たい笑みで宣言をする白部。
「勝手に決め付けんじゃねえよ!糞が!てめぇらなんか殺して、返り討ちにしてやる!!」
「あらあら、とてもヒーローらしい良い笑顔ですわ♪」
爆豪のキレ顔にもおどけるだけの白部。
並大抵の人間なら怖がっても可笑しくはないのに、白部は恐ろしい程清々しい笑顔で対応をする。白部が一般人の仮面を被っていたことを痛感させる。
「...まあ、散々、殺すと宣言をしたばかりなのですが...私はまだ敵(ヴィラン)でもないのに、そちらも殺す気満々ですか...。流石ヒーロー!認められた暴力装置です♪」
まだ挑発を続ける白部。
「んだとこらあぁ?!!お前は敵(ヴィラン)連合の仲間だろうがあ!!」
「はい、仲間ですよ。ですが、私は未だ敵(ヴィラン)ではないですのよ。その理由、分かりますか?」
「知るかあ!!」
「爆豪君、本当に入試で一位を取ったのですか?先程まで皆さんで答えを言っていましたのに...」
「敵(ヴィラン)は"個性"を悪用した者...」
「はい、そうです。良く出来ました~」
緑谷が答える。
白部は幼児に対する褒め方で馬鹿にする。
「私は"個性"を使って犯罪をしておりません。なので...今はまだ、一応、敵(ヴィラン)ではありません」
「けどよ!結局は敵(ヴィラン)じゃねえか!!!」
峰田の反論に白部の様子は変わらない。
「はい、そうです。結局私は敵(ヴィラン)です。言い訳も出来ませんよね。ですが...これでも、今まで悪いことをしていませんよ」
「....(ヴィラン)なのに悪さをしていない...それはどういうことだ?」
緑谷が一歩前に出て訊ねるが、端から見れば、真っ向から白部に戦おうとしているようにも見える。
実際に戦う準備をしていた。
頭の中に入っている思い出は走馬灯のように駆け巡らせ、覚悟の決意を始める。
初めて出会ったあの夏の日も、自分の長い話をずっと頷いて聞いてくれていたことも、訓練の後の差し入れをくれたドリンクの美味しさも、合格をした時自分のことのように喜んでくれた姿も、...最後に見せたあの笑顔のことも。思い出が音を立てて崩れていく。
(何で...!湖井さん...!!貴女みたいな人が敵(ヴィラン)に堕ちてしまったんだ!?あの笑顔は嘘だったのか!?僕達をずっと騙していたのか!?だとしたら......)
緑谷の中の白部に対する親愛が憎悪に変わっていく。
(ここで、倒すしかない!!)
緑谷の中で覚悟が決まる。
「私は今までやってきたことを言えば、普通に働いて、ヒーローやその候補生と仲良くして、敵(ヴィラン)連合に情報を教える。私、何か悪いことをしましたか?」
緑谷達は何も反論が出来なかった。
いや、何て言えば良いのか分からなくなっていた。だが、その反応に気を良くした白部は饒舌に語る。
「私、私達は、犯罪者ではありませんが、かといって一般市民でもありません。...簡単に言ってしまえばスパイですね。とは言っても、映画のように華やかではないし、あんな難しいことは私達には出来ませんですが...。...それよりも峰田君、ここで死ねることになって良かったですね。大人になってヒーローに成った時、私の同士が、貴方の恋人になって殺しに来るのですから...」
「ひぃいいいい!!」
「それはどういうことだ!答えろ!!」
情けなく叫ぶ峰田の代わりに緑谷が声を荒げる。
もう彼女のことは親しき仲の知人ではなく、厄介な敵(ヴィラン)としか見ていなかった。
「そんなこと...簡単なことですよ」
白部は緑谷達のことを、まるで道端に落ちていた犬の糞を見付けた時の如く、不愉快そうに見下す。
「ヒーロー、この世界、社会。...いや、人間そのものを嫌っている人がたくさんいるからですよ。敵(ヴィラン)連合にはそのような人達が同士になって、この薄汚い社会を壊そうとしているのですよ。そして...貴方方のような、この世界になんの疑問を持たないお馬鹿さん達を殺す手伝いをするのも、私達、同士の仕事です。戦力が無くて殺すことはできなくても、隣人として寄り添い、仲良くなって心を壊します。もっと簡単に伝えますと、貴方方を殺す為なら、心を壊す為なら、何でもやりますってね♪」
おぞまし過ぎる計画に緑谷達は吐き気を催す。
「あ、そうそう、やっぱり緑谷君には質問があります」
白部が尋ねても緑谷は黙ったままだ。
「その"個性"...」
「ワン・フォー・オール。オールマイトの"個性"ですよね」
「はぁあああああ!?!?」
緑谷以外のクラスメイトは、驚きのあまり絶叫をしてしまう。
これには、今までついていけなかった人達も現実に戻される。
「オ、オールマイトの"個性"!?そんな馬鹿な!」
「オールマイトの"個性"...やはり緑谷はオールマイトの隠し子か...?!」
「ち、違うよ!」
轟が疑惑の目を向ける。
緑谷は必死に否定をするが、白部を無視して話を進める。
「証拠はちゃんとありますよ。...えっと...これです」
白部は持ってきていた大きなバックの中に手を入れて、ある物を取り出す。
「...えっ!?それは失くしていたのに...!なんでお前が持っているんだ!!」
緑谷は白部が取り出した物を見て取り乱す。それは...
緑谷の合格通知に使われた投影機だ。
「盗んだからです。オールマイトがあまりにも面白いことを言っていたもので...これは是非、敵(ヴィラン)連合に伝えないといけないと思いまして。で...」
「ねぇ、何で、オールマイトは、緑谷君が"個性"を発現したことを知っているのですか?あの伝説クラスヒーローのオールマイトが、一般市民程度の緑谷君に連絡出来なかったことを謝るのですか?普通だったら、気軽に連絡なんて出来ませんよね?」
「.........」
「流石ヒーロー!脳筋お馬鹿で助かりました。...まあ...今回ばかりは、緑谷の合格祝いのパーティーに参加させてもらえなかったら、分からなかったですけど...その点に関しては、緑谷君のお母様にはいくら感謝しても感謝しきれません!」
いつもの笑顔でお礼を伝える白部。
白部の裏切りだけでもかなり衝撃的なのに、オールマイトの"個性"に関する新事実に頭が回らず、疑問を聞くための口が開きっぱなしで動かせなくなる。
「......だ」
「だ?」
「黙れ!!!」
怒りのあまり緑谷だけは罵倒をするだけの口が開く。
「お前みたいな敵(ヴィラン)がお母さんに感謝するな!オールマイトの話をするな!」
「...それでは反論になりませんよ。肯定ということでよろしいですか?」
「黙れ!!!」
「そうですか...。緑谷君、貴方が、ワン・フォー・オールの後継者ですね。....その"個性"我々に返していただきませんか?」
「うっさい!!これは....!!」
「これは先生様のものですよ。返してください。その"個性"の生まれを知らないのですか?」
「......」
黙ることしか出来ない緑谷。
「その様子だと知っているようですね。だったら...本来あるべき持ち主に返してくださいよ。緑谷君、貴方が持っていても、上手く扱えることが出来ていないじゃないですか」
「.........」
「反論出来ないから黙っているのですか?それでも良いですけど...あ、そうだ!取り引きしませんか?」
「......取り引き...?」
笑顔で提案をする白部。
反応をしてはいけないと分かっていても、緑谷は呟いてしまう。
「ええ、そうですよ!取り引きです!緑谷君、貴方が受け継いだ"個性"ワン・フォー・オールを返していただければ、貴方だけは見逃してあげましょう」
「......えっ?何で!?いや!僕は絶対にお前達に屈指はしない!!」
緑谷の抵抗にも白部は気にも留めない。
「別に屈してほしいのでありません。貴方のお母様には大分お世話になったので、そのお礼にですよ。私を家に招待してくださなければ、真実にはずっと辿り着けませんでしたし...ならば、それ相当のお礼は必要だと思いますのよね。それに...」
「ヒーローを目指していた愚か者の末路として相応しくありませんか?共にヒーローを目指していた仲間を見殺しにして、後の人生を悔やんで生きる姿って」
無邪気な子供のような笑顔で言い放つ白部。
プチっ
緑谷の堪忍袋が切れる。
治ったばかりの足を犠牲にして白部に殴りかかる。白部に拳を当てようとした瞬間─
脳無が盾になる。
「もう、話はまだ終わっていませんよ。人の話は終わるまでちゃんと聞きましょうと、学校とかで習いませんでした?そんな悪い子にはお仕置きが必要みたいですね。脳無...軽く吹き飛ばしてあげて」
緑谷の体が藁のように吹き飛ぶ。
あまりのスピードに、吹き飛ばされてからやっと認識をする。何本かの木を巻き込んでからやっと止まる。お腹を殴られたダメージで血を吐き出し、たった一撃で動けなくなる。オールマイトの相手が出来る程の強さを身に染みて痛感をする。
「デク君!」
「緑谷君!」
「緑谷!」
「緑谷ちゃん!」
爆豪以外のクラスメイト全員が緑谷のところに駆け寄る。
その様子をつまらなそうに見守っていたのだが、白部は何故か急にバックを逆さまにして中身を落とす。
「あれは....」
バックの中身に見覚えがあったのか耳朗が呆然とする。耳朗だけではない。他の女性メンバーも呆然とする。
バックの中身は洋服、アクセサリー、小者などの女性が好きそうな物であった。
これらの物は全て、仲良くショピングした時に買った物だ。
バックの中身を全て地面に落とすと、白部は足で踏み潰す。それも何度も行って、綺麗な部分を残さないように踏んで汚していく。
「ひ、酷いよ...!!なんでこんなことをするの!?」
葉隠が泣き叫ぶ。
「あれ?話をちゃんと聞いていなかったのですか?私は敵ですよ。それとも...最後までくだらない希望とやらを持っているのですか?残念でした。私達は貴方方を殺しに来ているのですよ。体も心も殺しにね」
白部はそう言い切ると、ポケットからライターを取り出し、火をつけて燃やす。
燃えゆく物の姿は、まるで緑谷達と白部の友情が消えていくのを表しているようであった。
「さあ...こんなくだらない時間...さっさと終わらせてしまいましょう...」
白部の銀色の瞳が妖しく光る。それが戦闘の合図であった。
結構酷いことを言わせてしまいましたが、キャラが嫌いだからやったのではありません。展開上必要だったからです。
困難に乗り越えてこそ、強い人間に成長をしますから