黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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2話 ヒーローじゃなくても

敵(ヴィラン)が巨体とは思えない速度で、キキに突撃をする。

キキは直ぐ真横に避ける。

 

ドッッン!!

 

敵(ヴィラン)が拳を降り下ろした衝撃で風が発生し、ローブをなびたかせる。

降り下ろした腕は女性のウエストよりも太く、あんなのに殴られればで身は持たないだろう。と、冷や汗を流す。見た目通りに力が強く、鋭い爪は深々と地面に突き刺さる。

 

敵(ヴィラン)は地面から爪を抜くと襲い掛かる。

 

この速度で動き続きられると魔法の発動が間に合わなくなるかもしれないと悟り、キキは苦虫を噛み潰した表情になる。

 

キキの使う魔法ー精霊魔法。

 

精霊魔法とは、108の異世界の人達の力を借りる魔法。未来、過去とわず、契約さえしていれば何時だって、力を借りることが出来る魔法。

精霊の力を借りるには、108の世界を繋ぐ全の円環ー叡智の扉を開かなくてはならない。叡智の扉を開くには、問われる問いに正しく応えること。

 

精霊魔法はかなり強力だが、問いを応えないといけない為に時間がかかる。簡単な問いなら数秒程度で済むが、戦場ではその数秒ですら命取りだ。

 

特に素早い敵は苦手で、接近戦に持ち込まれたらあまりよろしくない。一応、接近戦は出来るが、命懸けの戦いでは、自分が一番得意とする闘い方を出来るだけ持っていかなければならない。

 

だから...

 

人が軽く吹っ飛んでしまうくらいの強い風を発生させ、空高く自分を飛ばし敵から遠ざけた。

 

キキは空中で難なく体勢を整え、敵(ヴィラン)から少し離れた場所に着地する。

 

キキが様子を伺っていると。

 

「テメェーーー!!何!逃げてんだ!!かかってこいや!この!臆病者が!!!」

 

敵(ヴィラン)はキキが離れたことに、怒りを感じ怒鳴り声を上げ罵倒する。

 

「キキ、敵(ヴィラン)が君の魔法を受けてみたいらしいにゃ」

 

ウィズが耳元で悪戯っ子のように囁く。

 

「そうみたいだね」

 

キキもウィズのように笑うと、カードを取り出し魔力を込める。

そこから火球をくり出す。

 

「はぁああーーー!?」

 

敵(ヴィラン)は驚いたままで、逃げようともせず、受け身をとろうともせずに思い切り当たる。

 

敵(ヴィラン)はまだまだ戦えそうだが、体から白い煙がもうもうと立ち、焦げ茶色の毛が焦げて少し黒くなる。

 

辺りの人達から賛美の声が上がる。

 

「スゲー!良いぞ!!もっとやれー!!」

 

「あいつ、ヒーローだったのか...。いけーー、このまま倒しちまえ!!!」

 

「ヒーロー!ヒーロー!」

 

「お姉ちゃん、がんばれーー!!」

 

「あの子の"個性"は何だろう?」

 

「"個性"が三つも有るぞ!」

 

「何て強力な"個性"なんだ。僕が見た限りだと、風を発生させたり、空中に浮かんだり、火の玉を出したりする。あの風だけでもかなりで強力だ。人を簡単に吹き飛ばせてしまうぐらい強力だ。例え吹き飛ばせなくても、足元を悪くするだけでこちら側が有利になる。あれ以上の威力を出せるのだろうか?そして、もっと細かく調整が出来るのだろうか?そういえば、あの人見た事ないなあ。今日ヒーローデビューしたのか...それにしてはなんで逃げたんだろう?...ああやって火も出せるなんて羨ましい。...それに、あのカードは一体なんだろう?カードから光を放っていたし...」

 

「ここはお前に譲ってやるぜ!」

 

「"個性"が不利な俺達の代わりにやっちまえ!!」

 

 

「にゃにゃ!?」

 

「何だ?これは」

 

キキとウィズは驚きのあまり目を白黒させ、思ったことをそのまま口に出してしまう。

 

先程前までの態度から一変し自分達の事を賞賛する。

あの時戸惑っていた少年でさえ、何やら人のことをブツブツと呟きながらノートに書いている。正直に言って止めてほしい。

 

敵(ヴィラン)は、今のところ自分達のことしか見ていないが、何時矛先が変わっても可笑しくはない。それなのに、誰も逃げ出そうとしない。それどころか笑顔で応援をして、楽しんで観ている。応援をされたことはあるが、こんなに楽しそうではない。それに、黒や白などのフォナーのような物を何故か此方に向けている。

 

「......この状況って...」

 

「うん、闘技場みたいなことになっているにゃ。キキの戦いをただの娯楽だと思っているにゃ」

 

「でも、闘技場みたく壁とかなくて危ない筈なのに...随分と余裕だね...。危機感無いの?」

 

「確かににゃ。でも、今の雰囲気は闘技場で戦った時そのままにゃ」

 

「そうだけど......。もし、そうだとすれば...」

 

 

「あの泣いている女の子でさえ娯楽感覚だった?」

 

キキは苦渋に満ちた表情になる。

 

「....それが本当なのかは解らない。...けど、もし、そうだとしたら...最低にゃ!!」

 

ウィズも人集りに対し激しい怒りが沸き起こり、侮蔑を込めた視線で睨む。

 

「ははっ。おい、何だよそれ。おーい、オマエラ。みんなを守るヒーロー様が俺様を放っておいて、喋る猫とお喋りしてるぜ。それどころか、俺様を睨むんじゃなくて、守るべきオマエラのことを睨んでいるぜ!」

 

始めはウィズが話をしていることに驚いて固まっていたが、敵(ヴィラン)は何もしないと分かると、キキと人集りを交互に見てゲラゲラと愉しそうに嗤う。

 

「はぁ!?おい!ヒーローのくせに!何睨んでいるんだよ!さっさと!敵(ヴィラン)を倒せよ!!」

 

「そうだー!そうだー!」

 

「さっさとやれよ!使えんなぁ!」

 

「......お姉ちゃん...」

 

「何見てるのよ!子供が怖がっているでしょうが!!」

 

またあの時ように罵倒が始まる。

あの助けた女の子でさえも母親にすがり隠れている。

 

「ガッハハハハ!!これが、ヒーローか?ヒーローが増えすぎて、こんな奴でも成れるもんだな!!」

 

 

 

敵には煽られ、守ろうとした人達には文句を言われ、助けた女の子には怖がられその母親には睨まれる。

 

キキはあまりにも嫌になって涙が少し浮かべてしまう。自分はなんで、戦っていたのだろう?と、疑問が少しずつ芽生えてしまう。

 

 

それでもー

 

それでもー

 

キキはー

 

 

「お前達の方こそ、いい加減に...しろーーーーーーーーー!!!」

 

叫ぶ。

 

「「「...はぁ?」」」

 

 

キキのことをヒーローと勘違いしている彼らからしては、完全な逆ギレであった。

彼らは直ぐ様文句を言おうとするが、キキは鬼のような形相で睨んでそんなことをさせなかった。本来ならば、部外者であるキキはその世界の在り方、考え方に文句をつけられない立場だった。

 

どんなに考え方が変わっていても、それがその世界の在り方で、その人達の生き方。

 

でもー

 

 

この考え方にはー

 

 

納得できない!

 

 

「ボクは何で!今!戦っていると思っているんだ!!

 

泣いていたあの子を救ける為に戦っているんだ!!断じて、お前達を!楽しませる為の戦いではない!!あの子は...あの子は....どんなに苦しんで!怖くて!それでも!誰も助けてくれなくて!泣いたことか?!母親はそんな我が子の様子を見たくないのに!助ける力が無い自分が歯がゆくて!悔しくて!助けを求めても!誰も!手を差し伸べてくれない!...下手していたら、あの子は死んでいたんだよ!!あの子が死んだら!どう責任取るんだ!ずっと泣いて!生活してろってか!!そんなことにならないように!守る為の戦いを真剣にしているんだ!

 

遊びで観るな!!邪魔だから帰れ!!

 

後、そこのヒーロー?!戦えないなら、そこの人達をどこか安全な場所に連れていくとか、何かやれよ!!そんなことも出来ないのなら辞めちまえよ!!!」

 

キキはありたっけの想いを叫んだ。

 

 

誰も彼もが黙り辺りをシーンとさせる。

その中で誰かが泣き崩れて、声がうまく出てこなくて嗚咽となる。

 

キキは言いたい事を全部言い終わると、右腕の袖で乱暴に涙を拭うと敵(ヴィラン)を睨む。

 

「...ハッ!言いたいことはそれだけか?そんな偉そうに説教してるんじゃねーよ!目障りだ..」

 

 

「目障りはお前の方だ!!!消えろ!」

 

敵(ヴィラン)の話の途中に、軍服を着たあの強そうな人が眼で捉えられない程のスピードで割り込み、右ストレートアッパーで敵(ヴィラン)を天高くぶっ飛ばした。

 

割り込んで来た時のスピードは凄まじく足下には小さなクレーターができていた。

殴り飛ばした本人は空を見上げている。キキは凄まじいスピードとパワーに驚いてまじまじと見詰める。

 

ドオオオォォォーーーーーーンンン!!!

 

敵(ヴィラン)は数十秒後物凄いスピードで地面に落ちた。その衝撃で衝撃波が生まれ強風となり、辺りの人や物を吹き飛ばそうとする。

 

「くっ...!!」

 

「にゃーー!!」

 

「きゃあ!!」

 

「ウオオッッ!」

 

 

 

風は数秒程度で収まり戦闘は呆気なく終わった。

敵(ヴィラン)は大きなクレーターの中心で倒れていた。警察と役に立たなかったヒーロー二人組が、恐る恐る確認してよく解らない拘束道具で捕まえて連れていかれた。

 

キキはどさくさに紛れて逃げ出そうとしたが、腕を掴まれて逃げられなかった。

 

「...どこに行こうとしているんだ?君には話があるのだけど」

 

「...話って何ですか?」

 

キキは覚悟を決めて向き合う。

あの強そうな人は見た目だけではなかった。ピリピリと肌を焼くような威圧感が長年戦ってきたことを証明していた。

 

「君は何でさっき逃げ出したんだ?敵(ヴィラン)と勘違いさせる行動は止めなさい」

 

こちらの目をじっと見つめてくる。

 

(さて、どう説明するか......)

 

キキが悩んでいると...

 

「...そんなことも説明出来ないことかね?後、君はヒーローではないだろう?!何でこんなことを...」

 

男性が怒り説教しようとするが...

 

「やめて!!...お姉ちゃんは!!...お姉ちゃんは!!私のヒーローなの!!」

 

あの時助けた女の子が、泣きながら男性の足に抱き付いて止めようとしている。

 

「そうです!彩希の言う通りです!!この人は私達のヒーローです!!誰も彩希を救けてくれなかったのにこの人だけは救けてくれた!私達のことを真剣に考えて怒ってくれて...ねえ!貴女はプロヒーローですよね?!」

 

「お姉ちゃんはヒーローだもんね」

 

「では、免許証を見せてもらおうか」

 

母親はキキにすがり付くかのような視線で見る。

母親の発言もあってか、少女は目をキラキラさせながら嬉しそうに言う。男性は手を差し出して催促する。

 

(...え~。何か凄い状況になってきた。ていうか、この世界って、戦うにも免許が必要なの?アレイシア達がいる世界みたいに?今みたいな状況でも駄目でもなのか?アレイシア達と似たような世界なら正当防衛になる筈だが...これで敵(ヴィラン)扱いされたら最悪だ...。悪いことには使っていないのだけど...。どうしよう...。ヒーローって嘘ついても、免許証持っていないしなあ。家に有りますって言っても調べられたら終わりだし。...あの速さで追い掛けられたら簡単に捕まる)

 

キキは考えるのを必死のあまりに脂汗を流す。

ウィズも必死に考えている。キキとウィズはゆっくりと目と目を合わせると互いに頷く。

 

(...ここは正直に言うか..)

 

キキはゆっくりと一呼吸して...

 

覚悟を決めた。

 

「うん。ヒーローじゃないよ」

 

「えっ!ヒーローじゃないの!?」

 

「じゃあ!何で!!彩希を!娘を!救けてくれたんか!?あんな酷いことをしたのに!!うぅ...うぅ」

 

男性が何か言う前に、感情が高ぶった母親が泣き叫んだ。そのまま泣き崩れて座り込んでしまう。

 

重苦しい雰囲気になり誰も喋らなくなる。

 

キキは少し考えるとしゃがみ、母親と同じ目線となる。

 

「...人を助けることに理由なんて必要かな?..強いて言うなら...人助けが好きだからだよ」

 

「それだけですか!?」

 

「うん。それだけだよ」

 

「本当に!それだけですか!?」

 

「うん。そうだけど...そんなに理由はいる?....それよりも...もう...あのように見るのは止めて。そっちの方が嫌だ」

 

「...分かりっております。...本当に私達の為に戦って下さったのに...。貴女が来たことで安心しきって、他人事のように感じてしまって...。あんな酷いことを言ってしまって..。本当に本当にごめんなさい!!」

 

「お姉ちゃん、ごめんなさい」

 

母親はキキに対して土下座をした。

少女も謝る。

 

「ほう...。君はヒーローに向いている」

 

キキの言葉に感心した男性は、顔から怒りが消えて微笑んだ。

 

「そうですか...でしたら...この件に免じて見逃して下さい」

 

「それは無理だ...。...というか...ヒーローに向いていると言われて嬉しくないのか?」

 

「特に何も思わない」

 

キキの淡泊な反応に男性は、眉間に皺を寄せて訝しそうな表情になる。

ヒーローになろうが、敵(ヴィラン)にもなろうが、誰かの為に行動を出来るのならどちらでも良く、特に拘りなんてないキキ。

 

「全く...。もう、行くぞ」

 

男性は少し呆れて、溜め息をつくとキキの腕を引っ張り連れていく。

 

「待って下さい!このことで刑務所に入れさせられるのは止めて下さい!!罰金ならいくらでも払いますから!だから!だから!」

 

男性に抱き付いて母親が必死で懇願をする。

 

「....厳重注意ぐらいで済むと思うのだが、この子から話を聞かないと分からない」

 

男性は淡々と話す。

その姿はまるで安心させるようだった。

 

「...これで牢屋行きにならなければ良いのだけど...」

 

「それはこれからのお前さん次第だ」

 

安堵したキキに男性は注意をする。

 

着いて行こうとした

 

 

その時ー

 

 

「助けてくれてありがとう。お姉ちゃん!お姉ちゃんがほんとのヒーローじゃなくても!!私の中ではヒーローだよ!!私!お姉ちゃんみたいなヒーローになる!おじさん!お姉ちゃんにひどいことをしないでね。約束だよ!」

 

 

「.....ああ、約束する。だからもう、安心をしていいよ」

 

男性は一瞬呆けるが、キキの腕を一旦離すと叫ぶ少女のところまで行く。

そして、少女の前でしゃがみ頭を優しく撫でた。

 

「ほんと?」

 

「ああ、本当だ。約束する」

 

「じゃあ、ゆびきりして!」

 

「ああ」

 

 

男性と少女が小指と小指で何かしている間に、ウィズはこっそりと囁く。

 

「...ふぅー、何とかなったにゃ。けど、まあ。あの人普通に良い人そうだけど...。ただ、これからどうなるのかが問題だにゃ」

 

「戦ってはいけないみたいだけど...放っておくことは出来ない。それに..."個性"が不利だと動かないヒーローがいるのは大問題だ」

 

「そうだにゃ。君の性格上戦闘を避けられないのに、"個性"の相性で戦ってくれないのなら、また同じことが起きるにゃ。というか...戦うって決めた割には戦わないとは凄く情けないにゃ!!他もそうだけど、ここと似ているアレイシア達がいる世界でも相性が悪いからって逃げたりしないにゃ!というか...これからどうなってしまうのか考えると少し不安だにゃ。正直に話をしても、どこまで信じてもらえるかは分からないにゃ...」

 

キキとウィズは思わず溜め息をつく。

 

 

「待たせたな。では行くぞ」

 

話し終えた男性は、もう一度キキの腕を掴みどこかへと連れていく。

 

お辞儀をする母親と元気よく手を振る少女。

キキは引っ張られながらも、苦笑いで手を振ることしか出来なかった。

 

キキとウィズは誰も見えなくなったところで、これからのことを考えて、胸が押し潰されそうな不安を溜め息を長く吐いて、気を紛らわすことしか出来ないのであった。




自分が思っていることを書いたらこうなりました。

説教くさくなるかも知れませんが、間違っていることは間違っている。会話の時は楽しそうに書く、戦闘の時は格好よく書こうと思います。

それでも良ければ、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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