事件が終わったと実感すると、みんなで急いで爆豪を探し出す。口田の"個性"とオールマイトの超スピードのお陰ですぐに爆豪が見付かる。重症でかなり危険な状態であったが、幸いにも息はしており、淡い緑色の光が緑谷達を包み込む。
一番ボロボロになっている緑谷と爆豪には、念入りに癒しの魔法を掛ける。
「助かりました!ありがとうございます!」
「傷の手当てありがとうございます!」
みんなを代表をして切島と飯田がお礼を言う。
「しかし...随分とあっさり引き上げるものだな...」
オールマイトが黒霧が消えていった先を睨み付ける。
「そうだね...」
オールマイトの意見に同意しながら、キキはある方向を見詰める。
その方向には──
白部が立っていた。
戦闘が終わったことに気が付いたので戻ってきたのだ。
「なっ...!?!?」
骨がまる見えの白部に驚愕をするオールマイト。
男性陣が白部を取り押さえようとするが、オールマイトによって止められる。だけど、オールマイトも何かを感じ取ったようで一歩前に出て様子を探る。相手が怪我人だと思わせない程の警戒心をみせる。
そんな中キキは気にせずに近付いて、癒しの魔法を唱えて白部の傷を治す。
「貴女が黒猫の魔法使いなんですね......」
「そうだよ...」
白部は疲れからか、前からキキの正体に勘づいていたのか、驚きすぎて何も言えなくなったのかは分からなかった。抵抗することもなく、無反応でされるがままに治療を受けていた。
「ねえ...黒猫の魔法使い...彼女はもしかして...」
傷だらけで平然と立つ白部にオールマイトは疑問を抱く。
「うん、敵(ヴィラン)の仲間だったよ。でも、もう捕まえようとしなくても大丈夫だよ」
キキはあっさりと認める。
「...捕まえようとしなくても大丈夫?それは...どういことだ?!」
「見ていれば分かるよ。任せて」
驚いたオールマイトは構えていたが、動くことはなく緑谷達の前に立って様子を見守る。
「話をしようか」
「.........」
白部は無言のままだ。
気が付けばキキは白部と対峙していた。
キキは己を研ぎ澄まし、相手を見極める為に目を鋭く。
白部は涙で視界をぼかし、向き合わないように目を瞑る。
必ず会うと決めた約束が、皮肉にも敵対することになってしまった。その現実に向き合える勇気がない白部は、しゃがみ込んで固まっていた。
それでもキキは向き合う為に、真実を知る為に、口を開く。
「ねえ、白部...。君はなんでこんなことをしたの?」
キキの質問に白部は何も答えない。
「そっか.........。答えられないんだね」
白部は何も答えない。
「人には教えたくない、教えられない秘密が一つ二つはある。それは分かっている。だけどね...。教えてほしい...」
「君がここまで追い詰められた原因は何?」
「えっ.........?私が......追い詰められた原因...?」
批難され、罵倒されると思っていた白部は驚いて思わず顔を上げる。
キキの瞳は鋭いままであったが、敵意や身を凍り付かせるような咎める視線ではなく、全てを受け止める優しさで満ち溢れていた。
「そうだよ。君が何故こんなことをしてしまったのか、そこには何かしらの原因がある筈だ。そうでなければ、白部はこんなことをしない人間だと...ボクは...」
「信じている」
キキは白部を善人だと今も信じていた。
キキが白部は善人だと信じている理由は友達だからと、贔屓をしている訳ではない。他人の心から心配をする人であったからだ。
二度目に海での出逢い、訓練で怪我をした緑谷を気にかけ、喧嘩別れしてからの電話、どれも心配をしていた。他人のことを心配を出来る人間は悪人ではない。
本当の悪人は自分のことしか考えない、自分良ければ他人が犠牲になっても目もくれない、他人の痛みを気にしない人間だ。
「............」
そのことを知っているキキは自信満々で答えるが、思ってもいなかった言葉に白部は唖然とする。
「おい!ちょっと待て!」
暫くの間黙って聞いていた轟が反論をする。
「何?」
キキは振り向かずに聞く。
「いくら過去に何かあったとはいえ、犯罪は許されないことだろう」
「そうだね。だけど...何があって、こんなことになったのか、知らなければならない。原因を見付けないといつまでたっても終わらないよ」
キキは話をさっさと切り上げて白部と向き合う。
「白部が過去に何が起きたのかは知らない。話をしたところで苦しかった過去、辛い思いは消えることはないと分かっている。だけど...」
「独りで抱え込まないで」
白部の肩がビクッと震える。
「立ち直るまでずっと傍にいる。何か困難ことがあれば共に立ち向かい、解決するまで手伝うよ」
「.........」
「助けを求めることがどれ程難しいかは分かっている。しかも一度酷い目に遭って助けてもらえなかったから、他人を信用できないと思う。それでも...」
「その手を伸ばして。絶対に離さないから!」
「......!?!?」
キキは一区一区切りをしながらゆっくりと語りかける。
白部は立ち上がり近づく。一歩近付いて止まる。
白部が出した答えは──
「......なんで...神様...」
「あのような人と出逢えるのが...こんなにも...遅かったのですか...」
嘆きであった。
「世の中...みんな...あのような人だったら...私も...あの子も...笑って生きていられたのかな...」
「私は...道を間違えずに生きていたのかな...」
「誰かが泣かずに過ごせる世界になっていたのかな...」
「私が...望んでいた世界だったのかな...」
ぽつりと葉っぱから雫が零れ落ちたかのように、嘆きが、後悔が、羨望が零れ落ちる。一度外に出た想いは止まらず、濁流のように押し流す。
「なんで!?なんで!?なんで!?私はこんな世界に産まれてしまったの!?私はこんな汚い社会で生きたくなかった!!」
「なんで!?みんなは他人のことばかり気にするの!?なんで!?みんなは他人を躊躇なく傷付けることが出来るの!?傷付けるぐらいなら放っておいてよ!!」
「ヒーローも...誰も...泣いている人に手を差し伸べてくれなかったの!?苦しんでいる人達はたくさんいるのに!!」
泣き叫ぶ白部にキキは同情と共感を覚える。
キキはこの世界の出来事を思い出す。
危ないのに、少女が人質にされて苦しんでいるのに、楽しんで見ている人達。"個性"の相性で戦わないヒーロー。敵(ヴィラン)はただの稼ぎ。世間に文句を言えば、自分だけではなく周囲まで嫌がらせをする。他にも元敵(ヴィラン)や、"無個性"や何らかの"個性"の差別。本当に馬鹿馬鹿しくて、何度も嫌になって、帰りたいと思ったことは何百回もあった。
もし...それが...
白部にも似たようなことが起きていたのではないか?と、キキは先程の会話から推測をする。
そうだとすれば...
闇落ちしても仕方ない。
「そっか...それが白部の溜まっていた想いなんだね...。その気持ち、凄く分かるよ」
「でしょう!!私の気持ち理解出来ますよね!?私が敵(ヴィラン)になって当然ですよね!?...こんな世界壊れてしまえば良いのよ!!人間なんて死ねば良いんだよ!!ヒーローなんか要らないのよ!!!」
「それは思ってはいけないよ!」
「なんでですか!?こんな腐った世界なのに!?壊した方が良いに決まっていますよ!!」
キキからの否定に白部は、突き放された子供のように泣きじゃくる。
キキはしゃがみ込んで白部と同じ目線にし、幼い子供に教えるように優しく諭す。
「壊してはいけないよ...だって...」
「白部の大切な人が困ってしまうよ。それでも良いの?」
キキは白部がどうやって世界を壊すのかは知らない。
けど、壊すということは、今の日常を失うことになるのは明白であった。誰にでも大切な人が存在しており、ヒーロー嫌いの彼女にとって大切な人は一般市民であると容易に想像が出来る。そして日常が壊れて真っ先に困るのは力を持たない一般市民だ。
キキはその点を踏まえて説得を試みる。
「それは......!!」
大切な人という言葉で白部は動揺をする。
「大切な人がいるのだよね?だったら世界を壊してはいけないよ。この世界は意地悪な人達が多くて生きづらい世の中だけど、世界を壊したら大切な人も生きていけないよ!」
「だけど...!!私は...!!それでもこの世界が大嫌いなの!!誰かを傷付けることに躊躇無く、他人のことばかり気にして、自分のことは棚に上げて、罪に問われなかった加害者が笑って過ごせる世の中なんて大嫌い!!!壊したい...!!壊したいよ!!!」
「白部...」
白部は想いを天に向かって叫ぶ。
その叫びは人間に傷を付けられ、仲間を失った獣が月に向かって叫ぶ姿と思い浮かばせる。
キキとオールマイトは白部の想いに同情をし、緑谷達は剥き出しの感情に困惑をする。
「この世界は本当に可笑しくて、酷い部類に入ると思う。だからといって壊すのは駄目だ。時間は掛かるけど穏便に変えていこう」
「...穏便に変える...?」
「そう穏便に変える」
「どうやって?!」
「自分の意思を貫いたり、駄目なことは駄目って伝えていこう」
「......そんなやり方で...世界は変わります?」
白部は信じられないと、胡散臭いものを見たかのようは疑惑の視線でキキを睨む。
当然の反応にキキは苦笑いになる。
「変わるよ。だって......」
「この世界を変えたい人がいるから」
キキは緑谷をチラッと見てから言う。
キキの目線に気が付いた緑谷は大きく目を見開く。けど緑谷はそっぽを向く。キキはその場で文句を言いたくなったのだが、大きな溜め息で我慢をして再び白部と向き合う。
「それにこの世界に不満を持っている白部だけじゃない。苦しんでいた全員が力を合わせれば、この世界は変えられる」
「全員で力を合わせる...?どうやって...?」
白部の質問にキキは悩む。
異世界で色々な人達と仲良くしてきたとはいえ、改めて聞かれると分からなくなる。キキはおでこに手を当てて自分なりの答えを探す。
「......気持ちかな...」
「気持ち?」
「そう気持ち。この世界の変えたいという想いが、皆を一つに出来る!」
「そうなの...?」
「そうだよ」
今までの経験を基にキキは笑顔で言い切る。
周りに人がいないかのように話すキキと白部。
緑谷達と話をしていた時と打って変わって、敵意や憎しみは消え、穏やかに話をする白部。その様子に緑谷とクラスメイト達は驚きを隠せなかった。
「ところで...人を嫌いなった理由は分かったけど、ヒーローの嫌いなった理由は何?」
「逆に質問をしますが、オールさん...いえ、黒猫の魔法使いさん。なんで私がヒーローを嫌いになったのだと思います?」
白部は悪戯っ子のような笑みを浮かべて質問をする。
「"個性"の相性で戦ってもらえず、大切な人が死んでしまったとか?」
キキは当たり障りのない答えを言う。
「それはちょっと違うかな...。まあ、その手の問題もありますが...」
「えっ!!!?」
白部の返しに皆が驚く。
けど、当の本人は気にしていなかった。話はみんなを置いて進んでいく。
「別に私の大切な人は死んでおりませんよ。それも理由のうちに入りますが...。私がヒーローを大嫌いなった理由は...あの子を虐めて自殺に追い込み、私を犯人仕立てた奴が...ヒーローに成っていたからですよ!!!」
白部の顔が増悪に染まる。
キキとオールマイトは今までに見たことのない表情に驚き、緑谷達は先程の戦いを思い出して脅えたり、戦闘態勢に入ったり、泣き出してしまっていた。
「白部...」
「そんな...」
「酷すぎる...」
「そんなの酷すぎるよ!」
「そんな酷いことがありましたなんて...」
「胸くそ悪い話だ...」
「チックショウ!そいつはヒーローじゃねぇ!!」
キキは呟く。
その後に続き、クラスメイト達も白部の怒りに同意をする。けど、白部は彼らの同意は気に食わないようであった。
「うるさい!!そんなヒーローを目指している奴らに同意されたくない!!」
「おい!ちょっと待てよ!!だったら、黒猫の魔法使いだけ特別扱いなんだよ!?同じヒーローだろ!?何が違うんだよ!!」
思わず上鳴は反射的に反論をする。
白部は直ぐ様怒鳴る。
「うるさい!!」
白部の怒鳴り声に緑谷達は黙ることしか出来なかった。
「貴方方の考えは!私の大嫌いなヒーローと何も変わっていない!だから大嫌い!!!」
「黒猫の魔法使いは女の子が人質になっている時、"個性"の相性で戦わないヒーロー、ヒーローと敵(ヴィラン)との戦いの見物人に本気で怒ってくれた!!けど!貴方達は!ヒーローと敵(ヴィラン)の戦いを面白がって見ているじゃない!!」
「黒猫の魔法使いは敵(ヴィラン)だからって差別をしない!!けど!貴方達は!敵(ヴィラン)をどうでもいいって考えているじゃない!!」
「黒猫の魔法使いは敵(ヴィラン)になった私に手を差し伸ばしてくれた!!けど!貴方達は!違うでしょう!!」
「おい!ちょっと待てよ!手を差し伸べてくれなかったって!!麗日達は手を差し伸べようとしたし!それに俺達を殺そうとしたし!麗日達との思い出の物を踏んづけて壊したじゃねぇか!!」
「それは...」
上鳴の反論に白部は俯く。
キキが白部の行動にたしなめながら言い返す。
「白部...なんでみんなとの思い出の物を踏み潰したんだ?そんなことはしては駄目だ!それと電気...この場にいる全員に言っておく...」
「戦いというものは、己の想いをぶつけ合うもの。自分の想い、願い、意思を貫く為に行う。相手が例え苦楽を共に過ごした仲でも、大事な仲間だったしても、自分の思いを貫く為なら躊躇いもなく行うことだってあるんだよ」
「友達だった人とも戦わないといけないの...?」
芦戸が目に涙を浮かべながら聞く。
「そうだね。辛いけど、戦うと決めたのなら、そういった相手とも戦わないといけないね」
キキ自信も辛くなっていたが、芦戸の目を見てきっぱりと言い放つ。
「ヒーローと敵(ヴィラン)との戦いを見ていたことが...そんなに悪いことだったのか...?」
切島が申し訳なさそうに言う。
「悪いことに決まっているでしょ!!過去に死者出しているのに、いつまでこんな下らないことをするのよ!!」
白部は感情のまま叫ぶ。
「下らないって...!?」
緑谷が驚く。
「そうよ!これは下らなくて、悪趣味よ!こんなことを続けているうちは、ヒーローなんて暴力装置にしかすぎない!!緑谷君は知っている!?ずっとこっちを助けてと、見詰めてくる人質の目を!面白がって見ている人達の不愉快な視線を!"個性"の相性で戦うのを諦める、情けないヒーロー姿を!あんな戦いを面白がって見れる人は、全員、大大大嫌いだ!!!」
驚いた緑谷に白部の怒りが頂点に達する。
「ちょっと待ってくれ!!」
キキと白部と緑谷のクラスメイト達の問答の最中に、オールマイトが間に割り込んで中断をさせる。
「何!?」
不機嫌な態度を隠さない白部。
「君の話を聞いている限り...」
「本当に人間が嫌いなのか?」
オールマイトに迫真をつかれた白部は黙る。
「君の話を聞いてみたところ、怒っている理由は最もなことであるし、人の為に怒っている。人間が嫌いならどうでもいい筈だ。そんな君が敵(ヴィラン)になるとは思えない。今だって苦しんでいた人質のことで怒っていた」
「......」
「勿論、君があの敵(ヴィラン)と協力をしてやったことは許されないことだ。だが、君は若いし、根も良い人だ。充分やり直せる筈だ」
「.......」
「もう一度やり直さないか?」
「......もう...」
オールマイトは大きい掌を白部に向ける。
白部は何も言わずに黙って見詰める。その答えは──
「遅い」
機械のように淡々とした答えだった。
懐から腕時計を取り出して時間を確認をすると、そのまま事故報告のように無感情で述べていく。
「私は若くて根が良いからやり直しが出来る?そんなのは無理ですよ。オールマイトは知らないのですか?一度敵(ヴィラン)認定された人を、敵(ヴィラン)認定された人の家族はどうなるのか知っていますよね?」
「そ、それは...」
オールマイトが尻込みをする。
答えを知っているからこそ、下手な言い訳は出来なくなる。
「だから私は刑務所には行けません」
「そんなのは駄目だ!悪いことをした人は...!」
「ええ、真面目な飯田君の言う通り、悪いことをした人には罰が必要です。勿論...私用の罰もちゃんと用意しております」
「..........えっ.......?」
飯田の当たり前の意見に白部は笑顔で肯定をする。
いつものような朗らかな笑顔、自らの罰を用意するという衝撃的な発言に皆は声を失ってしまう。
「罰を用意するって....!!どういうことなの!?湖井さん!」
「そのままの意味ですよ麗日さん。自分で自分用の罰を用意したのですよ」
動揺した麗日が尋ねると、いつもの笑顔と語りで答える白部。
だけど、みんなの動揺は収まっていなかった故に、白部の身体が微かに震え、涙声になっていることに気が付けなかった。
「じゃ、じゃあ!湖井さんが自分で用意をした罰って!?」
「自分で用意をした罰ですか?それは......」
「死ですよ。死。これから私は死にます」
「そんなの...!ただの逃げじゃないか!!」
緑谷の問い詰めに白部は優雅に笑う。
「そうですね。緑谷君が言っていることの方が正しいのでしょう。ですが...」
「私をここまで育ててくれた家族には迷惑を掛けたくはないのですよ」
「貴方方は知っているかどうかは知りませんが...黒猫の魔法使いとオールマイトは知っていますよね?敵(ヴィラン)認定された人の家族は酷い目に遭ってしまうことを...。私一人ならともかく...いや...それも嫌です。だって...私がここまで堕ちてしまったのも、この汚い社会と人間のせいですから...」
「けど!遺された家族は悲しんでしまうじゃないか!」
緑谷は精一杯の反論をする。
「ええ、悲しませるでしょうね...それでも...」
「私の大切な家族を傷付けたくはないのです」
「私はこの世界を、この社会を、人間を、ヒーローを殺したい程憎んでいるのと同じくらいに...いいえ、それ以上に守りたいものがあります」
「それは一体...?」
「私の家族であり、共に苦難を乗り越えた同じ志を持つ人達であり、友達です」
白部は胸に手を当てて、大切な宝物を抱えているかのように語り出す。
「私を大切に育ててくれたから、生きてこれました。同じ考えを持っている人が傍にいるから、自信を持って生きていけました。私はその人達の為ならなんだって出来ます。私が敵(ヴィラン)になると、その人達が酷い目に遭ってしまいます。そんなのは嫌です。だから......」
「私の自殺を許して、敵(ヴィラン)に殺されたことにしてくださいね」
「そ、そんなのは駄目だよ!!素直に自首をしようよ!私も手伝うからさあ!ねえ!」
芦戸が必死に説得を試みるが...
「芦戸さん、私の家族を偏見から二十四時間守れますか?人々の悪意から私の大切な人を二十四時間守れますか?」
「えっ...それは...」
「無理ですよね。ですが、芦戸さん。これは誰にだって無理なことですので、そう落ち込まないでください。このことに関しては、誰にも期待していませんので」
落ち込む芦戸を励ます白部。
芦戸以外の女性メンバーも説得を試みようとするが、四六時中、白部の大切な人を守ることは不可能であった為、何も言えなくなる。
キキと緑谷も説得は無理であった。キキは周囲に被害を出してしまっており、緑谷は自分自身の身を守れていなかった。
「だから、私の死が必要なのですよ。それに.........」
「私には心残りがいっぱいあります。家族ともっといたいこと、友達と仲良くなれないこと、まだ見ぬ未来に見れずに死ぬこと...これらの想いがあるから、罰になるのです。さて...最後の仕上げに行きますか...」
白部は泣きながらしわくちゃになった紙を取り出す。
『雄英高校の一年A組の皆様、生きておりますか?僕は...敵(ヴィラン)連合の長と名乗っておこうかな。』
「その手紙の主は...まさか...!?!?」
心当たりのあるオールマイトは仰天をする。
『今回の襲撃事件で誰が生き残ったのか、誰が死んだのか、ワン・フォー・オールは回収できたのか...。まあ、今の僕にはどうでもいい。けど、取り敢えず、生き残った者はおめでとう。やはり、将来有望な子達だね。胸に誇っても良いと思う。だからといって...』
『僕達はまだ本気を出していない。』
『僕達が本気になれば、君達はオールマイトが駆け付ける前に死んでいるからね。』
『大体、可笑しいと思わなかったのかい?僕達の仲間とはいえ、一般人の湖井白部に指揮を取らせるなんて。脳無がオールマイト級とはいえ、一体しかいないなんて。黒霧がほぼ何もしなかったなんて。』
『そう、今回の襲撃事件はあくまでもお遊びさ。どう楽しめたかな?』
緑谷達の喜びは谷底まで突き落とされた気分になる。愕然として開いた口が塞がらなくなる。
『これは、僕なりの嫌がらせであり、宣戦布告さ。』
「宣戦布告だと!?」
『オールマイト、そして次の代の緑谷出久。君達二人には...』
『いずれ、そう遠くない日に僕と戦うことになるのだろう。』
「なんだと!?」
オールマイトが叫び声を上げるが、手紙の内容が気になり過ぎて誰も気にも留めなかった。
『その時はこんなちんけな場所ではなく、もっと相応しい場所を用意しよう。もっと大勢の観客を招待しよう。たくさんのヒーローを巻き込もう。その時に決着をつけようではないか。その時に...』
『オールマイト、君の次の代である緑谷出久も...』
『殺してあげよう。ワン・フォー・オールを取り戻してみせようではないか。』
『その時だ。本当の決着をつけよう。』
『あ...そうそう、雄英高校の一年A組の諸君。僕から教えたいことがある。授業を始めよう。』
『この手紙を読んでいるの頃には、彼女は、湖井白部の命はもうあと僅かだ。僕が"個性"で午後七時に丁度に死ぬことになっている。』
頭の中が真っ白になる。
誰もがなんて声を掛ければいいのか、分からなくなる。
『彼女の死は君達にとって大きな経験になるだろう。ヒーローには悲劇が必要だからね。』
『彼女が死んだ時、君達はどんな反応をするのだろうか?泣き叫ぶのだろうか?嘘だと叫ぶのだろうか?それとも...殺しに来た彼女の死に喜ぶのだろうか?それで...彼女が死んだ後も責めて、彼女の大切な家族を傷付けるのだろうか?...僕にとってはどんな反応が見れるのか楽しみだ。遠くから君達のことを見ているよ。』
『さてと...話が長くなってしまったようだね。授業に戻ろうか。』
『僕から教えることといえば、死と、何も出来なかった無力感と、どうしようもない現実だ。』
『生き残った君達はどんな決断を下すのかな?目の前でそれなりに親しかった人が死んでも、ヒーローを目指すのかな?ヒーローを目指すのをやめて一般人に戻るのかな?僕に復讐を誓うのかな?君達がどんな決断を下すのか...』
『この心地好い世界で見ているよ。』
『もう...そろそろかな?時間だ。』
『その惨めな骸を抱いて、束の間の平和を楽しむが良い。』
『さような...ら......』
白部が糸が切れた人形のように倒れ込む。
「白部!」
白部の体が完全に地面に落ちてしまう前に、急いで走って抱き抱える。
キキが嘘だと思って確認をしても...
「死んでいる...」
現実は非常であった。
敵(ヴィラン)連合の長と名乗る者の"個性"によって、殺されてしまっていた。
「こんな...結末なんて...」
「...酷すぎますわ!!!」
「ケロ...なんで...こんな酷いことが出来るのかしら......」
「酷いよ...!!酷すぎるよ!!!!」
「なんで!?!?こんな結果になっちゃったの!?」
「これが...ヒーローになるということ...?ウチが成りたかった...ヒーローって...」
麗日、八百万、蛙吹、芦戸、葉隠、耳朗が呆然と泣き崩れる。
「そんな...ヒーローが...人を守れなかった...だなんて......」
「こんなことが出来るとは...人間とは思えん...悪鬼羅刹か...」
「酷すぎるだろ...これ!!」
「ヒーローって...こんな目にも遭わなきゃいけねえのかよ!?」
緑谷、常闇、上鳴、峰田も本音を溢し出す。
「AFOめぇ!!」
オールマイトの叫びは皆の泣き言を書き消す。
「いつも人の心を嘲笑いやがって!貴様の思惑通りになるもんか!ヒーローはこんなところで立ち止まらない!!」
「貴様の挑戦受け立つ!!」
オールマイトは一人天高く拳を上げて決意を表す。
皆は黙って様子を見ていたが、キキもその後に続くように呟く。
「そうだね...。なんでこんなことになったのか、調べて原因を終わらせないと!そして...AFOの企みを止めなければいけない!!」
キキも叫んで決意をする。
無事に二度目の襲撃事件を乗り越えたものも、相手はお遊び程度しかなかった。勝利を噛み締める間はなく、いつか来る決着までに強くならなければと決意をする。
今回の事件で、現実はそう甘くないと、少年少女達は知ることとなった。
嬲っていただけだったのも、簡単に黒霧が脳無を連れて帰った理由も、AFOからの宣戦布告だったからです。彼にとっては軽い嫌がらせです。
ここから先も独自の考えで原作に絡んでいきます。それでも宜しければ、これからも宜しくお願い致します。