黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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32話 決断の時

ガサゴソ

 

緑谷は部屋の荷物を整理している。

敵(ヴィラン)連合に襲われ、敵にオールマイトの弟子であること、ワン・フォー・オールの所持者だとバレてしまった為、敵(ヴィラン)連合との決着がつくまでの間、母親と共に特別な施設に保護されることになった。保護施設に持っていく物を段ボールに詰めていく。

 

緑谷はオールマイトのフィギュアの整理で手が止まる。緑谷の部屋には大量のオールフィギュアが並んでおり、お小遣いやお年玉を貯めて買ったり、母親から誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントとして買って貰ったりした物だ。フィギュアは大体、自分で買ったり母親から貰ったりした物であったが、一つだけ白部から貰ったオールマイトの水着姿のフィギュアが目に入る。

 

「.........」

 

それを手に取った緑谷は無言で見詰める。

生まれて初めての友達。もしくは、少し歳上の姉的な存在。親身に話を聞いてくれたり、いつも差し入れを持ってきてくれた人。

 

そんな人の蓋を開ければ、ヒーローを恨み、人間を恨み、世の中を恨んで敵(ヴィラン)連合に入る程、堕ちてしまっていた。

いつかキキとウィズが言っていたことを思い出す。

 

 

「この世界は可笑しい」

 

 

二人が口を揃えて言う。

始めは異世界人だから、考え方が違っても仕方ないのことだと、考え方を変えることが出来なかった。自分から常識を変えたいと決意したとしても。

間違いだったと認めるということは...それは...

 

 

長年悩んでいた悩み事自体が馬鹿馬鹿しいものとなる。

"無個性"だと馬鹿にされても、ヒーローに成れないと呆れられても、嫌な思いをしながらも疑うことはしなかった。それが常識だから従った。我慢をすることが当たり前だと思っていた。

 

しかし、キキとウィズの意見は正しかった。

生まれて初めて出来た友達みたいな存在である白部は、ヒーローが大嫌いであった。その理由は、"無個性"のクラスメイトを自殺まで追い込んだ人がヒーローに成ってしまい、ヒーローと敵(ヴィラン)の戦いで人質が殺されたところを目撃をしてしまって、狂ったようにヒーローを憎む。

 

彼女の悲痛な叫びは緑谷の全てを否定する。

憧れのヒーローに成ろうとする人は最悪な人であり、趣味のヒーローと敵(ヴィラン)の対決の観戦は悪趣味。

 

キキとウィズにもよく否定されることはあったが、自分と同じ世界に住む人からの否定は初めてだった。

キキとウィズは、ヒーローの敵(ヴィラン)の戦いを観に行くことを否定しても、ヒーローに成ることは否定をしなかった。けど白部は、ヒーローに成ることさえも否定をする。

 

自分と同じ世界に住む人間だからこそ、共感をしやすく、気持ちは伝わりやすく、言い逃れは出来なくなる。それどころか...

 

自分も"無個性"として虐められていた経験から、自殺をした"無個性"のクラスメイトの気持ちが痛い程伝わり、趣味として観ていた事実が重くのし掛かる。

 

緑谷は今度こそ...

 

 

常識と向き合わなければいけなくなった。

 

 

「ねえ...。レイラドルさん、ウィズさん...」

 

「どうした?」

 

「どうしたのにゃ?」

 

護衛として来ていたキキとウィズに、緑谷は話を掛ける。

 

「レイラドルさんと...ウィズさんは...初めての異世界に行った時、自分達の常識が崩れていって、何をどう思った?」

 

緑谷はキキとウィズの目を見詰めながら真剣に尋ねる。緑谷の気持ちはキキとウィズに伝わる。キキとウィズも緑谷の方を向き、真剣な表情で質問に答える。

 

「そうだね......。生き残ることや目の前のことで必死で...考えたこともなかった」

 

「私もそうだにゃ」

 

「何も...考えて...いなかった......?」

 

思いもよらぬ答えに緑谷は戸惑う。

 

「うん。正確には考える暇はなかったよ」

 

「そうだにゃ。異世界の出来事は奇想天外で、敵は物凄く強くて、生き残ることに必死だったにゃ。しかも、私達が異世界に行く回数は多くて月に二回、少なくとも月に一回は異世界に行くにゃ。元の世界に戻ってもまた、違う異世界に行くことがあるから、考える余裕なんてないにゃ。だから...」

 

 

「異世界には異世界の考え方がある。そういうものだと、考えることをやめたにゃ」

 

 

「考えるのをやめた...?」

 

?を浮かべる緑谷にウィズは説明を続ける。

 

「そうだにゃ。異世界のことを考えるのをやめて、ありのままを受け入れることにしたのにゃ」

 

「だったら...!!なんで!?この世界の考え方を否定したんだ!?」

 

説明に納得がいかなかった緑谷は怒る。

 

「それは君達のやっていたことが誰かを傷付けていたからにゃ!私達は基本的に異世界のやり方に文句は言わないにゃ。けど、誰かを傷付けたり、迷惑を掛けるようなことだったら力付くでも止めるにゃ!実際に出久は"無個性"で虐められ、私達は世界に文句を言ったことで周りの人達と一緒に酷い目に遭って、白部は社会を恨んで敵(ヴィラン)に堕ちて、そのクラスメイトは自殺していて...」

 

「一体この世界のどこが正しいのにゃ!?絶対に間違っているにゃ!それでも正しいと言うのなら...反論をすればいい」

 

「.........」

 

ウィズの心からの叫びに緑谷は何も言えなくなる。

 

「ほら、結局何も言えなくなっているにゃ」

 

ウィズは呆れ返る。

暫くの間、ウィズの睨み続ける。俯いていた緑谷の口から、次第に本音が零れる。

 

「......だったら...なんで...僕は......」

 

 

「こんなにも苦しい思いをしたんだ!?」

 

緑谷は今までの苦しみが重みになって泣き叫ぶ。

 

「"無個性"だと馬鹿にされてきた十年間はなんだったんだ!?」

 

「ヒーローに成れないと嘲笑われてきたことはなんだったんだ!?」

 

「それに大人しく従ってきた僕はなんだったんだ!?」

 

「自分でも認めてしまった僕はなんだったんだ!?」

 

「十年間の痛みも、苦しい思いも、辛い思い出は全て無駄で!しかも!僕はそれに従ってしまったから!余計に苦しんで!立ち向かわなかった僕は馬鹿じゃないか!!!」

 

長年溜まっていた不満や悲しみが涙となって、緑谷を頬を濡らし、止まらない思いは叫びになって喉を潰す。

キキとウィズは様子を見守る。緑谷の叫びが終わった頃を見計らってからキキは話出す。

 

「出久の苦しみや辛い思い出には同情する。けど...」

 

 

「十年間の辛い思い出は無駄であるべきだ!」

 

「......!?!?」

 

キキのキッパリとした言い方に、緑谷はショックを隠しきれなかった。

 

「無駄じゃないといけない!"無個性"だからといって馬鹿にするのは違うし、ヒーローに成れないからといって嘲笑うのは違う。こんな、理由を付けて誰かを嫌がらせをしたり、傷付けることを正当化することは、本来あってはいけないことだ!認めてしまったら...駄目だ!」

 

「じゃ、じゃあ!?この辛い思い出はどうすれば良いんだ?!」

 

「その辛い気持ちも、理不尽にされた思いも、立ち向かう為の勇気にすれば良いにゃ!」

 

緑谷の叫びにウィズが叫んで返す。

 

「昔の出久には立ち向かう為の勇気も力が無かったから仕方ないにゃ。けど...今の出久は違うにゃ!」

 

「ヒーローに成るって決意をしたにゃ!」

 

「決意はしたけど...それとこれになんの関係があるんだ!?」

 

話の流れが分からなくなってきた緑谷は困惑をする。

 

「関係あるにゃ!ヒーローは困っている人を助ける。差別で苦しんでいる人達も助ける対象にゃ。出久は今まで受けた苦しみのお陰で他人の苦しみを共感が出来る筈にゃ!辛い思いのお陰で、この可笑しな考えを人一倍をなくしたいと思っている筈にゃ!今までの受けた理不尽を......」

 

 

「踏み台にして、ヒーローへの道を進むのにゃ!」

 

ウィズは力強く叫ぶ。

その姿はまるで、苦難なんて乗り越えるべきだと、目の前の壁をなんともないように簡単に言い切る。普段から苦難を乗り越えているからこそ、力強くすまし顔で言い切れるのであった。

 

「この苦しみが...辛い思いが...理不尽だった過去が...誰かを救えられるの?」

 

そんな自信の無い緑谷は及び腰になる。

 

「そうだにゃ」

 

「こんな...僕でも?」

 

「そうだにゃ」

 

「出来るよ...かな...?」

 

「それはやってみないと分からないにゃ」

 

何度もしつこくなる程ウィズに確認を取る緑谷。

どうしてそんなに自信が無いのにゃ?と、ウィズが訊ねる前に緑谷が先に弱音を吐いた。

 

「出来ないよ...だって......!」

 

 

「僕は!苦しんでいた湖井さんを!すぐに敵(ヴィラン)扱いしてしまったんだよ!!!」

 

泣きながら過去の行動を恥じる。

白部が敵(ヴィラン)に堕ちた原因の一つに、"無個性"のクラスメイトが虐めにより自殺。緑谷自身も辛い虐めの経験が遭った。より心から同情出来る立場だった故に、寄り添わなかったことが、自分の失敗が、助かった安堵共に罪悪感が波のように押し寄せてくる。

 

あの時のことを鮮明に思い出した緑谷は泣き崩れ、その場に踞る。

 

「レイラドルさんのように説得を試みる訳でもなく!!ただ!ただ!敵として殴ることに!倒すことに!全力になって...!」

 

「あれ程仲良くしていた筈なんだ!!」

 

「友達だった筈なんだ!!」

 

「それなのに...!どうして僕は!」

 

 

「敵(ヴィラン)だからって!相手のことも理解しようとせずに!方を付けようとしてしまったんだ?!!」

 

緑谷は力いっぱい床を叩く。

大分気が滅入っているようで、下の階の住民の迷惑を気にせず、自分の気が済むまで殴り続ける。キキとウィズは、緑谷が落ち着くまでじっと待ち続けた。

 

青あざができて痛みを感じてからやっと止まる。

緑谷は荒くなった息を整える。どんなに整えようとしても、息は気持ちと同様に荒くなったままだ。塞ぎ込んでいる緑谷の背中にキキは語り掛ける。

 

「過去の失敗は取り戻せない。だけど、次からは失敗をしないようにすることは出来る。それだけ反省をしていれば、もう間違えないよ」

 

「.........次から失敗をしなくなっても...湖井さんの命は戻ってこないよ......」

 

「そうだね...戻ってこないね...。それでも、立ち止まってはいけない。立ち止まっていたら...本当に救える人も救えなくなるよ」

 

「............」

 

緑谷は無言のままであったが、その沈黙は肯定を示しているようであった。

 

 

 

痛ましい事件が起きたからといって、時は止まることなく、日常はいつも通りに訪れる。

だが...やはり...

 

緑谷の日常は大きく変わっていた。

芦戸、蛙吹、麗日、耳朗、葉隠、八百万、峰田の六人はヒーローを目指すことをやめてしまっていた。このまま転校してしまうかと思いきや、敵(ヴィラン)連合が捕まっていないことから、守る為に普通科に移動することになった。

 

また残っていたクラスメイト達も緑谷と余所余所しくなっていた。詳しく聞かれると思っていた緑谷は覚悟を決めていたが、誰も聞くことはなかった。その代わり、腫れ物扱いにされてしまった。それでも緑谷は、時間が解決してくれるだろう、と前向きに考えて様子見をする。

 

緑谷とクラスメイト達の間に、ギクシャクした空気が流れるが、それ以外は特に問題はなく無事に学校生活を過ごす。

職業体験が中止になり、期末テストが終わり、夏休みに入り林間合宿が始まる。

 

そして...また.....

 

 

林間合宿で敵(ヴィラン)襲撃事件が起きてしまい、緑谷と爆豪は誘拐されてしまうのであった。

 

 

 

「ようこそ、緑谷君、爆豪君、敵(ヴィラン)連合へ」

 

「あぁ!?寝言は寝て死ねや!糞どもが!!」

 

「僕達は絶対にお前達なんかに屈したりしない!!」

 

誘拐されてから一日目、緑谷と爆豪は敵(ヴィラン)に囲まれていた。しかも腕は拘束をされ、抵抗出来ない状態にされてしまっていた。

 

緑谷と爆豪の周りには取り囲むように、九人の敵(ヴィラン)が見張っていた。

死柄木弔、黒霧、体の各部に継ぎ接ぎがある男性茶毘【だび】、茶髪と八重歯が特徴的な少女渡我 被身子【とが ひみこ】、黒いラバースーツを纏っている男性トゥワイス、ヤモリのような男性スピナー、仮面を被った男性Mr.コンプレス、長髪で大柄な男性マグネ。彼らの真ん中には、身体中が傷だらけの男性が車椅子に座っていた。

 

車椅子の男性を見た緑谷と爆豪の本能が叫ぶ。あいつはヤバい!!と。

身体中傷だらけ、顔には生命装置のような物をつけ、車椅子に座っている姿は、見るからに弱っていると分かっているのに、本能が逃げろ!殺されるぞ!と、ずっと警告を鳴らし続ける。

 

「まあまあ、そんな怖がらないでゆっくりすると良い」

 

けど、外見に反して、車椅子の男性は緑谷と爆豪に紳士的に声を掛ける。寧ろこの場の誰よりも、優しく声を掛けて緊張を和らげようとした。

 

「先生、さっさとこいつから"個性"を奪えよ。俺はこいつを早く殺したいんだ」

 

死柄木が緑谷の首を手に掛けようとする。

緑谷は冷や汗を流し唾を飲む。死が迫り、絶体絶命のピンチになる。手が首を掴む後一歩のところで、意外にも先生と呼ばれた人物が止める。

 

「待ちなさい弔。そう慌ててはいけないよ」

 

先生に言われて死柄木は嫌々やめる。

止められた死柄木は、少し離れていた椅子に音を立てながら乱暴に座る。

 

「さて...僕の可愛い弟子は短気な者でね...。緑谷君、早速で悪いのだが、君の"個性"返して貰うよ」

 

先生が緑谷に近付く。

 

「く...来るなああぁぁぁぁぁ!!」

 

「そんな言い方は酷いじゃないか。その"個性"は元々僕のものだよ。借りた物は返して貰うのが、当たり前ではないか?ヒーローとして、人間として、きちんと全うに生きてきた人なら分かるよね?」

 

そう言って先生は緑谷の頭をわしづかむ。

すると、わしづかんだ先生の手から黒いモヤが緑谷の体を包み込む。

 

「う...うわあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

とてつもない激痛が緑谷を襲う。

数十秒間の激痛が緑谷には長く永遠に感じる。実際はすぐに手を離していた。

 

「先生、どうかなされましたか?」

 

落ち込んでいる先生を見て黒霧は心配をする。

先生は大きい溜め息を吐いた。

 

「これは...随分と厄介なことになってくれたものだね...」

 

「随分と厄介?それはどういうことなんだ?」

 

荼毘が尋ねる。

先生は暗い気分をなんとか持ち直して質問に答える。

 

「この"個性"...ワン・フォー・オールは...僕の弟の"個性を与える個性"と僕が与えた"個性"、"力をストックする個性"が混ざり合ったことで生まれたものだ。そのお陰で、人に与えることが出来るようになったの良いのだが...。どうやら...この"個性"...受け継いだ人の意思も一緒に受け継ぐようでね...その人達の意思のせいで奪えないようだ...。下手に"個性"を使って、ワン・フォー・オールの性質を変えたくないしなあ...これには困ったものだ...」

 

「だったら、そいつを殺すしかねえな!オールマイトの"個性"なんか要らねえし!」

 

死柄木は嬉々として緑谷に触れようとする。

だけど、またもや先生によって止められる。

 

「待ちなさい弔。僕に良い考えがあるから任せてくれないか?」

 

「はぁあ!?」

 

「弔お願いだ」

 

先生と死柄木は睨み合う。

睨み合いの末、死柄木が折れて先生の意見を認める。

 

「ありがとう弔」

 

死柄木は返事もせず舌打ちをする。

先生は特に気にせずに話を進める。

 

「ワン・フォー・オールを奪えないのなら...彼を...敵(ヴィラン)連合に迎え入れることにしよう!」

 

「はぁあ!?俺は絶対に反対だ!!こんな奴、要らねえよ!!連合に入れやがったら、俺がこいつをすぐ殺す!!!」

 

「お前達の仲間に誰がなるもんか!!!」

 

緑谷と死柄木は同時に叫ぶ。

 

「えっ!?出久君を敵(ヴィラン)連合にですか!?賛成です!今すぐ入れましょう!」

 

「おいおい...そんなのありかよ...。...意外とありかもな!」

 

「そうでしょう!ありですよね!嬉しいなあ!出久君が仲間になってくれるなんて!今日はなんて良い日だね!これでいつも血だらけの出久君が見れて...うふふ、嬉しいねぇ...!」

 

「トガちゃん!ほんと良い趣味してるのねぇ!そんなところも素敵だぞ!」

 

大激怒している緑谷と死柄木を無視して、渡我はトゥワイスと一緒にはしゃぎ出す。

 

「でも...良いのかしら?彼はあの平和の象徴の弟子よ...。そんな簡単に敵(ヴィラン)に堕ちるとは思わないわ...」

 

「ステイン様の意思に反してしまうから駄目だ!平和の象徴を継いだ彼には、オールマイトと同じ道を辿って欲しい」

 

「俺もだ」

 

「え~!別に良いじゃないですか!」

 

マグネは不安から、スピナーと荼毘はステインの意思の元に反対をする。自分の思い通りに行かない渡我は怒って頬を膨らませる。

 

「私は...どちらでも構いません」

 

「俺もどちらでも良い」

 

黒霧とMr.コンプレスは中立派だった。

話がバラバラになる前に先生は、無理矢理でも話を進める。

 

「君達の意見は聞かせて貰った。まずは...弔」

 

「あっ!?なんだよ!」

 

「弔...逆にこう考えてはみないかね...。あのオールマイトの弟子が敵(ヴィラン)になって...民衆を不安にさせたり、恐怖に陥れたら...面白いと思わないかい?愉快だと思わないかい?」

 

「それは...そうだけど...」

 

かなり機嫌の悪かった死柄木が、あっという間に懐柔されていく。

 

「次は...荼毘、スピナー」

 

名前を呼ばれた二人は自然と背筋を伸ばす。

 

「確かに...君達が信仰をしているステインの意思を反することになるだろうね...。しかし、この世界は正しいと思うのかい?君達二人、この社会の被害者だから分かるとは思うけど、このままで良いと思うのかな?」

 

「絶対に間違っている!こんな似非ヒーローどもが蔓延る世の中は可笑しい!似非ヒーローどもを全て、粛清せればならん!」

 

「ああ...スピナーの言う通りだ...」

 

「だったら、この世界そのものを変えなければいけないね。似非ヒーローが要らなくなる世界にね...。それに...正義というものは、必ず勝つから正義ではない。勝った者が正義なんだ。この社会を壊して、差別を無くして、次世代の者を住みやすくする...。これもまた、ヒーローの行いではないか?信念のある者の行動ではないか?」

 

「ああ...!良いねえ、その考え気に入った!似非ヒーローどもが生きていけねえ世界に変えてやる!」

 

「...やる価値はあるなあ」

 

「ならば...少しでも人手はあった方が良いよね」

 

スピナーと荼毘の説得を終える。

 

「最後に...マグネ」

 

「は、はい!?何かしら!」

 

緊張をしたマグネはテンパる。

 

「君は...緑谷君が...敵(ヴィラン)堕ちをしないと考えているようだけど...」

 

「は、はい!だ、だって、あの平和の象徴のオールマイトの弟子よん!早々簡単に堕ちる訳...」

 

「大丈夫、僕に任せれば良い。策はある」

 

マグネが言い終える前に先生は話を終わらす。

 

「えっ?俺は?無視?先生!俺への説得はまだー?」

 

「トゥワイス、君は...始めから反対をしていなかったのではないのかね?」

 

「あ、バレた?」

 

おちゃらけているトゥワイスを無視し、先生は黒霧に話し掛けて先に進める。

 

「黒霧。緑谷君がこれ以上、僕達の印象が悪くなる前に、適当な場所に解放させてあげなさい。拘束器具は...そのままで良いよ。助けてくれた誰かが取ってくれるだろう...」

 

「はい。分かりました」

 

「僕は何があろうと!絶対にお前達のように敵(ヴィラン)堕ちたりなんかしない!かっちゃんもすぐに、オールマイトや他のヒーロー達に助け出される!その時がお前達の終わりだ!!」

 

黒霧に帰らされる前に緑谷は宣戦布告をする。けれども、先生にとっては子犬の鳴き声となんら変わりはなかった。

 

「ああ、一つ誤解しているようだが...帰る前にその誤解を解いておこう...」

 

「君を敵(ヴィラン)堕ちさせるのは...僕ではないよ」

 

「......えっ...?」

 

緑谷は予期せぬ答えに呆けてしまう。

 

「その答えは嫌でもすぐに分かるさ」

 

先生は固まっている緑谷に近付き耳打ちをする。

 

「君は...敵(ヴィラン)堕ちを絶対にしないと言っていたが、それは違うね。だって......」

 

 

 

「ヒーローに成りたがっていたのに君は、オールマイトに出逢うまで何もしなかった。そんな君の精神は、他の人より弱いのだからね...」

 

「...!?!?」

 

「さあ、黒霧。彼を帰らせてあげなさい」

 

「承知いたしました」

 

何も言えず、何もできずに緑谷は帰らされる。呆然と黒い霧に身を任せることしかできなかったのであった。

 

 

 

「さて...爆豪君...。君は、ヒーローなんかやめて、敵(ヴィラン)連合の仲間にならないか?」

 

「......はぁあ!?」

 

先程まで爆豪は無視されていたのにも関わらず、友好的に勧誘が始まる。

 

「死んでも!お前らの仲間になってやるか!この糞が!」

 

「そう......分かった...。彼の勧誘はここまでにしよう」

 

「な、なんだと!?」

 

「先生、良いのかよ」

 

「ああ...彼の役目はこれからだからね...」

 

拍子抜けしている爆豪を放っておいて、敵(ヴィラン)連合のこれからの話をしていく。

 

「という訳で、君達は...ヒーローが来た次第に逃げてくれたまえ...この戦いで今代同士は終わらせる。君達次世代は、私がいなくなった後も、僕の代わりに、この社会に恐怖を与えなさい。特に弔。君は次世代の恐怖の象徴だ」

 

「先生...」

 

「君はもう、僕の手から離れないといけない時だ。君の活躍を...。例え、遠くから見ることになったとしても...僕は楽しみにしているよ。...黒霧」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「ヒーローが来るまでの間、爆豪君の面倒をみなさい。こればかりは...弱き者達には頼めないからね...。間違って頼んでしまったら、彼はヒーローが来る前に、殺されてしまう。良いね?」

 

「承知いたしました」

 

爆豪は助けが来るまでの間、敵(ヴィラン)連合のアジトで過ごすことになったのだが、特にされることもなく、腕が拘束される以外危害を加えられずに過ごす。

そんな生活が二日間程続き...

 

 

『ニュース速報です。今日、午後六時に、生徒が敵(ヴィラン)連合に誘拐された件について。雄英高校が謝罪会見を開くもようです』

 

ニュース速報を観て先生はニヤリと笑う。

先生の周りには死柄木達はおらず、どこにでもいる一般人しかいなかった。彼らは真剣にテレビを見詰める。

 

先生は大袈裟に立って演説をする。

 

「遂に始まったようだね...。さあ、弱き者達よ!今こそ、立ち上がりなさい!この社会が間違っていることを!この世界のせいで君達のような弱者が居ることを...」

 

 

 

「教える時が来た!」

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