黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

37 / 69
36話 神野区事件

「貴方方の質問に答えましょう」

 

時は遡り、雄英高校記者会見の場に戻る。

ただならぬ雰囲気にイレイザー・ヘッド達は身を寄せ合う。

 

「これは一体...どういうつもりかね...」

 

「どういうつもり...それは...う...うひゃひゃやや!うひゃうひゃや!あっはははあーははは!!いっーひっひひひ!!」

 

「なんだこいつ!?」

 

根津が尋ねる。

先程まで質問を投げ掛けていた記者が、高らかに狂ったように笑い出す。その様子にイレイザー・ヘッド達は立ち上がって戦闘態勢に入る。

 

「すみませんね~大声で笑ってしまって~。...いや~こんなにも事が上手く進むとは思わなくて...」

 

「事が進む?どういうことだ?」

 

「携帯で観れば分かりますよ。貴方方の記者会見はもうとっくの昔に終わっていますから、好きに観て下さい」

 

「記者会見が終わっている...?」

 

「一々説明するのは面倒くさいので早く観て下さい」

 

記者に言われるがまま、イレイザー・ヘッド達は携帯を取り出してニュースを観る。

 

驚きのあまりイレイザー・ヘッド達は息を呑む。事件を知れば知るほど顔を真っ青に染め上げていく。

イレイザー・ヘッド達の顔が真っ青に染め上げる程、記者達の嗤いは止まらなくなり、手を叩いたり嗤い転がっていく。

 

ニュースが終わるまでの間、イレイザー・ヘッド達は呆然と立っていることしか出来なかった。

 

「雄英の皆さん、貴方方の回答、とても模範解答で助かりました。私達の話を認めてくださりありがとうございます。この世界の問題を認めてくださりありがとうございます。人間の心が醜いものだと認めてくださりありがとうございます」

 

満面な笑みでトドメを刺す記者。

その笑みにイレイザー・ヘッド、ブラドキングの二人は何も言えなくなる。だが...

 

雄英の校長である根津だけは違った。

根津はなんと席から離れ、質問を投げ掛けていた記者に無防備に近付く。

 

「?なんですか?」

 

「僕からも君達に話がある」

 

「話ですか?いくらでもどうぞ。今更どれだけ反論をしようとも、この世界は腐っていることは変わりませんからね」

 

「そのことに関しては事実だから反論をしないよ。ただ一つ言いたいことがある」

 

「なんですか?」

 

根津はゆっくりと深呼吸を行う。

イレイザー・ヘッド、ブラドキング、記者達は根津の様子を片時も目を離さずに見詰める。

 

三回目の深呼吸を終えた根津は口を開く。

 

「僕達、ヒーローが綺麗事をほざく偽善者ならば...君達は......」

 

 

「憎悪に囚われた憐れな人達だね」

 

「......はあ...?」

 

根津の思いよらぬ言葉に記者達は呆けてしまう。

イレイザー・ヘッド、ブラドキングは火に油を注ぐ言葉に慌てて止めようとするが、根津の勢いは止まらない。

 

「だって君達のやろうとしていることは、これから人殺しをするのだろ?そんなことをしても意味は無い。それに......」

 

 

「何も関係ない人を殺すのだろ?」

 

記者達は黙っている。

根津はその沈黙を肯定として受け止めて話を続ける。

 

「世界を変えたい割には人を殺す?そんなやり方では駄目だね。人殺しの話なんて誰が聞く?世直しと言われて、家族や大切な人を殺されたら、君達は殺した人の話に耳を傾ける?聞かないでしょ。それと同じだよ。後、全うに生きていた人を殺した瞬間、君達の言葉は何の意味を持たなくなるよ」

 

「君達は偽善者と罵るけど、僕から言わせて貰うと君達は、人間の悪いところしか見ようとしない盲目者だ。そんな状態では変えられるものも変えられなくなるよ」

 

「この"個性"ハイスペックを持って、答えて上げよう。はっきり言って......」

 

 

「一生賭けてもこの手の問題は終わらないよ」

 

「君達は、問題を見て見ぬ振りをしている世界を許せないと言っているけど、君達だって、原因を殺して終わりではないか。それは見ようとしていないと一緒だ。原因を叩いて終わる世間と何も変わらない。君達も文句を言える権利は無いよ」

 

「私達のやっていることが無駄?ハッ!そんなことを言われましてもね、もう動き出していますし、動くことすらしていない貴方達に言われたくはありませんよ」

 

記者は鼻で笑う。

 

「動く?殺人が世界を変える?そんなやり方では変わらない。人を殺して世界が変わるのなら、一回目の戦争で世界は良くなっているし、差別は無くなっている筈だ。価値観の違いによる衝突も無くなっている。君達のやっていることは結局、臭い物に蓋を閉めるか、間引きをしているだけの違いだ」

 

根津も涼しい顔で言い返す。

 

「ほう...ですが、悪いことを人になんの罰を与えないのは問題大有りですよ」

 

「それは問題だね。だけど君達の場合は飛躍しすぎているのだよ。刑務所までなら問題ないけど、一気に殺すことを認めるのなら、誰だって止めるに決まっている。君達だって気に入らないものを排除しようとする。批判している先の人達と、何一つ変わらないじゃないか」

 

「ふざけるな!私達は被害者だぞ!!何もしてこなかったお前達が文句を言うな!!!」

 

怒り狂った記者は根津の首元を掴んで持ち上げる。

 

「校長!!」

 

「校長を放しやがれ!!」

 

イレイザー・ヘッドとブラドキングが根津を助けに駆け寄る。だけども、根津が片手を上げて止め、息苦しいまま話を続ける。

 

「...そう...やって......感情の...まま...動くから.........争いは終わらない...。問...題を......終わらせる方法は......一つ.........」

 

 

「己の感情と向き合うことだ!!」

 

根津が叫ぶ。

叫び声に驚いたのか、それとも気迫に押されたのか、記者は掴んでいた根津の首元を放す。

 

「己の醜い部分と向き合えないからこうなる。憎しみ、嫉妬、怒り、蔑み等の負の感情を恥じるあまり、その感情を無かったことにする。けど、見えない振りをしているのが難しいから、その感情を抱かせた相手を排除しようとする。...逆に言えば、その手の感情を認め、自分の中でコントロールが出来ればこんなことは起きない。悪事を責めるのは簡単だけど、感情を否定することは誰にも出来ない」

 

「で...今の君達は何だ?感情のままに僕を殺そうとした。その姿は、君達が嫌っている人達と何も変わりはしないかい?」

 

根津は喉の調子を気にせず話を進める。

記者は怒りで手が震えていたが、我慢をして手を出さずにいた。

 

「だから、人を殺しても意味は無いよ。自分の負の感情を向き合えない限り、この手の問題は終わらない。先延ばしにするだけだ。君達は自分の感情に向き合ったことはあるかい?」

 

「それと...さっき...君は...僕達が何もしてこなかった、と文句を言ってきたけど......」

 

 

「君達も碌に動いていなかったじゃないか」

 

根津がまたもや火に油を注ぐ。

堪忍袋の緒が切れた記者が殴りかかる前に根津は叫ぶ。

 

「だったらなんで、君達は、黒猫の魔法使いを手伝わなかったのかい?」

 

その言葉に記者の動きが止まる。

 

「彼女達だって、君達と同じ意見であった。...いつからテレビ局を乗っ取っていたのかは分からない。だけど、君達は、黒猫の魔法使いとウィズをテレビで散々変人扱いをして、馬鹿にしていたじゃないか。それはどうして?視聴率の為?君達は、自分達の利益の為だったら、大嫌いな世間の考えに乗るのかい?本当に変えたいのなら、自分達の嫌いな人の手でさえも取るよ」

 

「手を取りたくない程ヒーローが嫌いなら、名も無き一般人として訴え続ければ良かったのに。弱者の声は聞かないなんて言う言い訳は通用しないよ。現に聞きまくっているじゃないか。それに...僕からしてみれば、君達が慕っている先生とやらは......」

 

 

「“弱者を労る振りをして自分を良く見せよう”とする他人の心を利用する悪党だね」

 

根津の言い方に記者は怒ろうとするが、根津の勢いは誰にも止められない。

 

「だから黒猫の魔法使いとウィズに、早く行動をしろ、と言われるのだよ。僕としても、テレビ局を乗っ取った時点で訴え続ければ良かったのに。虐めの問題は学校とかで自殺者が出て、少しの間しか取り扱っていないから、いつまで経っても終わらないのであって、ずっと取り扱えば問題は今よりも良くなるよ」

 

「テレビ局を乗っ取り出来たからと言われましても...私達が前からテレビ局を乗っ取っているという、証拠はどこにあるのですか?」

 

怒りを抑えながら記者は反論をする。

根津は指を三本立てながら説明を始める。

 

「理由は三つある。先ず一つ目、どのテレビ局も騒ぎが起きていないこと。携帯でニュースを観た後、気になったから調べたんだ。そしたら、どのテレビ局もその周辺すらも、何も問題は無かった。テレビ局というやり方によっては、人々を洗脳すらも出来る場所。敵(ヴィラン)に乗っ取られないように厳重に注意をするのは、当然のことのさ。何か異常があれば、すぐに現場に近いヒーロー、警察が駆け付けるようにしている。君達がいくら情報制限をしても、こちらにはヒーロー独自の連絡手段が合ってね、様子を知ることが出来るのさ。現地のスタッフを"個性"で何とかしようとしても、既に対策済みさ」

 

「二つ目の理由は君達が乗り気なところ。これは一つ目の理由と繋がるのだけど、"個性"で操られているのなら、何らかの異常が見える。だけど君達は特に異常は見られない。じゃあ、大切な誰かを人質されていて、無理やり従わせたとする。そうだとしても普通の人は乗り気にはならない。被害を叫んだ人、僕達に質問攻めをした人、一般市民に質問攻めをした人、皆凄く乗り気であった。それに...もし人質がいるのなら、こうして僕が話をしている間にも、人質が気になってそわそわしている筈だ。だけど君達は平然と僕の話を聞いている。この事件自体、予め計画をしていたみたいだね?」

 

「三つ目の理由はAFOのことをオールマイトづてに聞いているからだ。オールマイト曰く、AFOという人は物凄く頭が切れてずる賢く、人を人として思っていない残虐な人だと聞いている。僕としても、これだけ大きな事件を気付かれずに行った時点で、頭が切れる人物だと認めざるを得ないよ。そんな頭の切れる人が周囲の人達に気付かれないように、事を進めるのならば、時間を掛けてゆっくりと徐々に進めればいい。しかもAFOは、その"個性"の影響で長生きが出来、超常黎明期から生きているから時間はたっぷりとあるさ。人手だって、この手の問題はどの時代にもあるから、困らないだろうし...。僕の予測だけど...もう何十年前にはテレビ局を乗っ取っていたのではないか?」

 

「僕の言い分に何か反論はある?」

 

根津は用意されていたお茶を優雅に飲む。

 

「......はあ...流石"個性ハイスペック"......見事に先生の考えを当てましたね。いつから、テレビ局を乗っ取りが成功をしていたのかは私には分かりませんが...ですが、ここで私達を言い負かしたところで、貴方達の敗けは決まっておりますしね...。それに貴方方は"個性"の相性に関して碌に説明をしておりませんし、爆豪君に関しては差別とかの問題はどうでもいい、糞野郎と確定しましたし...そんな彼を入れた雄英はもう終わりですよ」

 

勝ちを確信している記者はあっさりと認める。

更に嫌な笑みを浮かべて根津を追い詰めようとする。

 

「そうかな?爆豪君に関しては君達のやり方が大分悪いだけだと思うよ」

 

それでも根津の態度は変わらない。

 

「はあ!!?彼の暴言を聞いた後でもそんなことが言えるのですか!?まだ惚けていられるのですか!!」

 

根津の言い分に記者は激情に駆られる。

根津はこれも余裕綽々で言い返す。

 

「うん、君達のやり方は大分悪いよ。だって......」

 

 

「寝起きで話を聞かせておらず、誘拐されている極限の状態で、しかも質問を投げ掛けてくる人は自分やクラスメイト達を二度も襲撃を行い、殺されかけられたのだよ。そんな人と話をちゃんと出来る?君達が全く同じ状況で出来るのなら、批判をしていいよ」

 

記者達は黙ることしか出来なかった。

 

「ほらね。批判をするのは簡単だけど、自分がいざやれ、と言われると何も出来ない。...本当にやり方が汚い。君達のやり方はまるで、戦争を起こしたいが為に、少女に偽りの言葉と涙をやらせる偉い大人と同じだよ。...で、君達は人を批判出来る立場なら、宣言出来る筈だ。ちゃんと僕の目を見て宣言をしてね......」

 

 

「虐めとか差別の現場を見たら、見て見ぬ振りをしません。絶対に止めてみせます、とね。...君達の仲間が必死に言っていたのではないか。君達は出来るから言わせようとしているよね?これで出来ないって言ったら......」

 

 

「君達が殺そうとしている世間の人達と何も変わりはないじゃないか」

 

記者達は少しだけ俯いてしまう。

その隙に根津は畳み掛ける。

 

「虐めはそうそうやる人はいないから文句は言えるけど、見て見ぬ振りをしてしまう人は結構多い筈だ。見て見ぬ振りをしてしまった人はこの中でも結構多いのではないか?」

 

「君達は出来もしない綺麗事を嫌っているけど、君達も見て見ぬ振りをしてしまった時点で、何も文句は言えないよ。文句を言っていいのは......」

 

 

「綺麗事をどんな時でも行える者だ」

 

「僕はオールマイトも、ウィズも、黒猫の魔法使いも、あの様な場で綺麗事を言い切った。その様な人達なら文句を言っていい、文句を言える人と言うのはね......」

 

 

「その行いをどんな時でも行える人だ。出来ない人が言っても、君が言える立場なの?と文句を言われるだけだ。ちゃんと出来るようになってから文句を言おうね。で...早速...君達に有限実行をして貰おうではないか!」

 

根津は記者達に指を指して宣言をする。

 

「この事件が終わるまで君達を暴れさせない。僕が頑張って言葉で止めるから、君達も止まってよね。君達が慕っている先生も言っていたよね、暴力ではなく言葉で止めてみせろ、と。だったら君達も言葉で止まってよね。君達が止まってくれないから、僕達も暴力に頼ることしか出来ないんだ。先生の思惑通りにしたいのなら、先ずは君達が実践する番だ」

 

「...ふーん......。私達を止めたところで他の人達は暴れているから、意味はないですよ」

 

「意外とそうでもないよ。戦力を少しでも戦力は減らせるからね...さて相澤君...」

 

「なんでしょう?」

 

根津は今まで黙っていたイレイザー・ヘッドに話を振る。

 

「僕がここで彼らを止めるから、君は外の人達を止めてくれないかい?君の"個性"は人を傷付けることはないし、君の使っている武器も傷付ける物ではないしね」

 

「しかし...!」

 

「僕は大丈夫。管【かん】君には僕の護衛として残って貰うから...管君も構わないよね?」

 

「それは...構いませんが...」

 

驚きながらもブラドキングは了承をする。

 

「分かりました...行かせて頂きます...。彼らを引き留めるのは構いませんが、無茶はしないで下さい」

 

「分かっているよ。だから早く行ってあげて、イレイザー・ヘッド」

 

イレイザー・ヘッドは頷くと直ぐ様部屋を出ていく。

イレイザー・ヘッドが部屋を出たのを確認をすると、根津は記者達ともう一度向き合う。

 

「さて...話をしようか...。ところで、何で僕が世間の人の肩を持つ理由を教えてあげるよ。僕がヒーローを育てる校長だけだからではない。僕は昔......」

 

 

「この"個性"のせいで酷い目に遭っていた。それも実験動物をさせられていてね...。だから人間のことは恨んでいる。だけどね......」

 

 

「僕のことを助けてくれた人がいたんだ。その人のお陰で僕は今、雄英の校長として生きている。もし君達が言う、人間全てが自分と違うものを認めなれないのなら、個性"を持った動物という、前例がない不気味な存在の僕を助けてくれる人はいないよ。それにね......」

 

 

 

「君達が思っている世界なら、君達が望まなくても、とっくの昔に人類は滅んでいるよ」

 

 

 

 

どこかの街でも騒ぎが起きていた。

ニュースが終わり、一般市民達は慌てふためていた。

 

「オールマイトが...負けるなんて...」

 

「心の痛みの代わりに...私達を殺す!?冗談じゃない!殺すのなら、自分達を痛みつけた人にしなさいよ!!私は真っ当に生きていたわよ!!」

 

「そうだそうだ!!虐めをしていた人や"個性"の相性で戦わないヒーローを殺せよ!!」

 

「これって..."無個性""や異形型の"個性"の人は対象にはならないよな...だとしたら?!!」

 

「じゃ、じゃあ!そそ、そういう奴らがやっぱり!襲ってくるのか!!?」

 

「これ!?真っ当に生きていた人も対象になるの!?ふざけるじゃないのよ!!」

 

「俺には関係ね......グハッ」

 

俺には関係ない、と言った瞬間、背後から刺され殺されてしまう。

背中に刃物を刺されたまま男性は倒れ込む。男性が倒れると、犯人の姿が見えるようになる。

 

男性を刺したのは二十代の女性。

長い黒髪が野暮ったい印象を与え、お洒落に無頓着な服装が更に地味な印象を与える。両腕は返り血で赤く染め上げていた。

 

「そうやって......自分は関係ない、と目を逸らす奴は大嫌い!!死ね!!!死ね!!!死ねえぇぇーーー!!」

 

女性は男性の背中に刺さった包丁を無理やり引き抜くと、馬乗りになって何度も力任せに包丁を刺す。

 

「き......きゃーーー!!!」

 

他の女性の絹を裂ける悲鳴で他の人達は我に返る。

他の人達はパニックになりながら、蜘蛛の子を散らすように我先に逃げ出す。

 

血に濡れた革命はまだ始まったばかりだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。