時はまた遡り、今度は児童養護施設の場面へと変わる。
神妙な顔付きでテレビを観る非正規の職員の人達。
テレビから流れていく被害者の悲痛な叫び、涙をすすり上げる音、泣き崩れて立ち上がれなくなった姿、世間を罵倒をする声が木霊する。
非正規の職員の人達は項垂れた後に立ち上がる。
「......遂に来たか...。君達が来ることは分かっていた」
軍服風のヒーローコスチュームを着た刃を中心にし、この施設に正規で働く他の職員達も門の前に立ち塞がる。
身から溢れる威圧感で怯えさせようとも、長年の戦で鋭くなった目でどれだけ睨み付けても、非正規の職員達は一歩たりとも退いたりはしない。それぞれの武器を抱えてシュッツ達を見詰める。
先に折れたのはシュッツの方であった。
「...お前達......」
「気持ちは分かるが、行ってはいけない」
「何故ですか!?行かせて下さい!お願いします!」
「私達には無視はできません!」
「行かせて下さい!お願いします!」
「お願いします!!」
非正規の職員達は一斉に頭を下げて許可を求める。
「駄目だ。免許を持っていないのに戦闘の許可は出せない。君達を鍛えたのは、いざという時に敵(ヴィラン)から子供達を守る為であって、自警団(ヴィジランテ)の真似事をさせる為ではない!」
シュッツが否定をしても...
「あの人達は過去の私達の姿なんです!放っておくことは絶対に出来ません!!」
「俺達が止めなければ誰が止めるのですか!?はっきり言って!他のヒーロー達では力で無理やり止めることは出来ても、本当の意味で解決することは出来やしない!」
「我々も世間に恨みを持っている。けど!ここにいる子供達のような犠牲者を生み出したくはない!」
「あの人達の苦しんでいる姿はもう見たくないし、これ以上の罪を重ねる前に止めに行かせて!!」
猛反発をして一向に止まる気配は無い。
実はこの施設で働く非正規の職員達は実は、今暴れている"弱き者"とあまり大差はなく、"弱き者"と似たような理由で敵(ヴィラン)となり、ヒーローに捕まって牢屋で反省をし、社会復帰を目指してこの施設で働く。明確な違いは“救われていた”のか“救われていなかった”だけの違いだけだ。
だから暴れている人達の気持ちに共感をする。けれど、被害者である子供達の涙を知っているからこそ、新たな被害者が生まれることを望まない。そしてこれ以上の罪を重ねさせたくないと強く想う。
シュッツは腕を組みながら考え事をする。
(彼らの言う通り...この事件を止められるの彼らのような弱い立場になったことがある者だけだ...。だからとはいえ、彼らを止めに行くことを認めてしまったら、敵(ヴィラン)として捕まり...いや、それだけではない...。最悪の場合、"弱き者"と勘違いをされて殺されてしまう可能性もある...。そんな状態で彼らを送り出すことは出来ない!)
シュッツが自分の中で決断を決めていると、児童養護施設オアシスの施設長である竜田創平がやって来る。
「施設長......」
誰かが呟く。
創平は正規の職員に目をくれずにいきなり話し出す。
「君達......」
「本当に行く覚悟はあるのかい?」
創平の問いに非正規の職員達は...
「勿論!覚悟はあります!」
「この件でクビにされるのは承知です!死んでしまうことになっても悔いはありません!寧ろ動かなければ、この後の人生一生後悔します!」
「私達はどんな目に合ったとしても助けに行きたいです!」
「見捨てるという選択肢はありません!!」
非正規の職員達は自分達がどれだけ危険な目に遭おうとも、どれだけリスクを背負うことになっても、世間から攻撃をされる可能性も合っても、彼らはこの事件を見逃すという選択肢は無かった。
創平は彼らの気持ちを分かっていたが、敢えてもう一度、気持ちの確認をする。
「私からもはっきり言って...この事件を止められるのは、"弱き者"の心を理解出来る君達だけだ。...だが...これから行う君達のやり方が、自警団(ヴィジランテ)のようなものでも、敵(ヴィラン)と変わらないはないからヒーローに捕まるのは当然のことになる。それでも良いのか?」
「はい!構いません!!」
「そうか..."弱き者"を助けるとならば...君達の過去をぶつけることが必要だ。しかし...過去を一般人に知られてしまったら...今の状況では"弱き者"と勘違いをされ、殺されても可笑しくはない状況だ。そんな状況で本当に行くのかい?」
「はい!そのような可能性も重々承知をしております!それでも私達は助けに行きたいです!」
「......本当に分かっているのか?」
「はい!!」
息をピッタリと揃えて答える非正規の職員達。
一糸乱れぬその姿は見る者を圧倒させる。現に創平をはじめとした正規の職員達は何も言えなくなっていた。彼らの決意を認めを得ざることになった創平は、深呼吸を何度も繰り返して覚悟を決める。
「そうか...ならば.........行ってきても良い」
創平の決断に正規の職員達は驚きの声を隠せず、非正規の職員達はその場で喜んで叫んでいた。だが、シュッツだけは待った、と反論の声を上げる。
「ちょっ!?施設長!!?待って下さい!彼らを行かせるのだけは駄目です!施設長が許しても、私は絶対に認めません!!」
創平は特に返事をせず、シュッツの腕を掴むと無理やり皆が居る場から離れる。
他の人達全員が付いて来ようとしていたが、付いて来ないで、と創平が手で合図をして皆を止める。皆は渋々動きを止めて創平達の様子を必死に伺う。
シュッツが何か言う前に創平は話し出す。
「諸橋さん」
「何焚き付けているのですか?!そんなことをしないで下さい!彼らをどうするおつもりなのですか!?竜田さん、貴方のやっていることは殺すようなものですよ!!」
有無を言わせぬ口調ではなしをしていたのだが、シュッツは雰囲気に呑まれずに怒鳴って否定をする。
シュッツの怒りは並外れており、自分の上司にも関わらず怒鳴り散らすが、シュッツの怒りは至極当然のものであった為創平は特に気にせず話を先に進める。
「そうだね。諸橋さんの意見が正しいね。だけど、実は......」
「もう一人、この事件を止める為に、施設を無断で出ていった人がいるのですよ...」
「な、なんだと!?その人は一体誰だ!」
シュッツは大慌てで尋ねる。
その質問に創平は大きな溜め息を吐きながら答える。
「指標さんだよ......」
「なっ...!?あいつ...!勝手な行動をして...!!」
心配と怒りが同時に込み上げたシュッツは、掌が血だらけになる程爪を食い込ませる。その様子に創平は同情をするかのように吐息を吐く。
「...という訳で彼らの行動を認めた方が良いと思うよ。......一度も戦ったことがない私は偉そうに言うのはなんだけど、彼らは強いから大丈夫だと思う。そうそう簡単に死なないことを私は信じている。勿論、全員を外に出すのは認めはしない。子供達を守らないといけないからね。...後...この考えは黒猫の魔法使いとウィズに影響されたものなんだけど......」
「世界を変えるのなら、その世界に住んでいる人しか変えられない。この事件で苦しんでいる人達には悪いけど、この事件を機に変えるべきなんだ。どんなに綺麗事を言ったところで、黒猫の魔法使いとウィズは異世界人故に届きはしない。例え、他の世界で綺麗事が出来たとしても、この世界では関係はない。だから......」
「彼らを信じて送り出そう。この事件を本当の意味で止められるのは彼らしかいない。私が責任を取るからさ」
穏やかな笑顔で言い切る創平。
だけどその笑顔は更なる怒りを買うだけだった。
「責任を取るとかの問題ではありません!責任を取ったところで、死んだ人の命は帰ってきません!彼らを鍛えたのは敵(ヴィラン)が多いご時世だからであって、無茶はさせる為ではありません!!とにかく!彼らを外に出すのは反対です!!」
納得のいかないシュッツは怒鳴り続ける。だけど怒鳴っている最中に、誰かが背中を叩いてきて無理やり止めさせる。機嫌の悪いシュッツはムッとした顔で振り返る。
シュッツの背中を叩いてきてのは舞梓だった。
赤い着物のヒーローコスチュームを着た舞梓は、真剣な表情でシュッツ達を見詰めている。彼女もまた深呼吸をしてから話し出す。
「彼らの代わりにあたしを現場に行くことを認めて下さい!」
「布里さんが代わりに...?布里さんには代わりにはならないよ。この問題は布里さんだけではなく、弱い者の立場になったことがない人には無理だよ。...確かに布里さんは色々な人の過去を知って仲良くすることが出来ているけど、それでも説得をすることは出来ないよ...」
困り顔で答える創平。
プロヒーローである舞梓が現場に出てくれるのはありがたいが、それでも本当の意味で解決をすることが出来ない為、素直に送り出す気持ちにはなれなかった。
創平の頭の中では黒猫の魔法使いとウィズの話が思い浮かぶ。
説得をすることはかなり難しく、出来る人も限られており、成功すること自体ほぼまれである。そんな話を知ってしまったから二人は申し出を受け入れられなくなってしまっていた。
プロヒーローである舞梓に頼むのは簡単だ。とはいえ、それでは本当の意味で解決をすることは出来ない。
舞梓が"弱き者"にある程度理解を示しているとしても、彼女も黒猫の魔法使い達同様説得力が無い。力任せで解決をすることしか出来なかった。この現状では力任せで解決をすることが最善策なのだが、それではまた同じ事件を繰り返すことが目に見えていた。それに、非正規の職員達の辛い過去を知っている二人は、どうしても円満な解決方法を探してしまっていた。
素直に待っていた舞梓。しかし、時間が経つにつれて、事情を知らない舞梓は不甲斐ない態度の二人に怒りを感じ、想っていたことを怒鳴り気味に叫んでしまう。
「あたしだってプロヒーローだよ!こういう時に動かなかったらいつ動くの?!あたしはまだ...プロヒーローに成ったのは一年も経ってはいないけど...。けど!ここで動かなかったら!プロヒーローに成った意味がないじゃない!!あたしがプロヒーローに成った理由は......」
「間に合わなかった人を間近で見たからなんだよ!!あたしはもうそういうところを見たくないの!だから!あたしはプロヒーローに成って守りたいと誓ったんだ!!」
涙を流しながらかつての想いを語る舞梓。
二人は黙って舞梓を見ていると今度は豹朗が語り出す。
「シュッツは長年ヒーローやってるから慎重になるのも分かるし、施設長の言い分も合っている筈だ。当然、二人の意見が食い違い喧嘩になるのも分かる。だがな、今は喧嘩をしている場合ではない!さっさと決断を決めるべきなんだろうが!」
「俺がこいつらを守りながら連れていく!それで良いだろう!!」
獣特有の低い唸り声を上げながら宣言をする豹朗。
「私は...。戦えない私が言うのはなんですが...連れていった方が良いと思います。......私の甘い考えなのですけど...似たような境遇の人なら止められると思ってしまって...。こんな時に夢みたいな話をしてすみません。ですが、私は信じてみたいのです」
「オレは反対ッス。ルールを破るのもそうなんですが、この混沌とした状況で似たような人を入れるのは、殺せてと言っているようなもんッスよ」
香が創平と豹朗の意見に賛同をし、ガンマン風のコスチュームを着た二十代後半の男性は反対をする。
反対派の意見もちらほら出ていたが、周囲の雰囲気は賛成派の意見に傾き、賛成派の意見に空気が呑まれる。観念をしたシュッツは決断を下す。
「.........分かりました......。非正規の職員達を外に出すことを認めましょう...。但し!今は無事とはいえ、この施設を守る為に人員を削減することは出来ません!ヒーロー二人と、非正規の職員達は四人までが限度です!それ以外の人達はこの施設で大人しく待っていて下さい!それと...」
「絶対に!必ず!生きて帰ってきて下さい!!それが最低条件です!良いですか!!」
「はい!!!」
全員の息が揃う。
そうと決まれば全員がテキパキと手早く準備に取り掛かる。準備を終えたシュッツが外に出ようとした時...
「待って!あたしが代わりに行く!」
舞梓がシュッツを止める。
「いいや、布里さんはここに残って皆を守っていてほしい。それに...今の布里さんには無理だ。相手はあのオールマイトの因縁の相手。新人の君では死にに行くようなものだ。だから...」
「そんなことを言っていたら!"個性"の相性で戦わないヒーローと何も変わらないじゃない!!どんな強い敵にも立ち向かうのがヒーロー!!あたしはそんなヒーローはヒーローに成りたいのです!止めないで下さい!それとね、あの奥さんと娘を亡くしてしまった男性を止めに行きたいのです!!あの人を止められないとあたし、ヒーローに成る決意が無駄になる!」
死に行くような発言にシュッツは舞梓を止めようとするが、そこに待ったと豹朗が止めに入る。
「ここは布里に行かせた方が良いんじゃねえの?そもそもあの先生とやらは誰が戦ったって、勝てる確率は低い。だったら、その"弱き者"を止められる可能性が少しでも高い布里が行った方が良いんじゃないか?お前さんだって死ぬ確率は高いんだぞ」
「それは分かっている...だけど!」
「死ぬなって言った奴が死に行くんじゃねえよ!!自分が約束守れなくてどうするんだ?!ああ!?それに布里はあの大ボスを倒しに行くのではない!"弱き者"を止めに行くんだ!"弱き者"を止めたら、暴走したあいつを一緒に連れて離脱をすれば良いんだよ!!あのヤバい奴の相手はオールマイトやらがやる。俺達は俺達で出来ることをやりゃ良いんだ!」
「そうはいっても!離脱出来るなんて...」
「じゃあ!自分が布里の代わりになるのかあ!?」
「そうだよ!そんな弱気な状態で行っちゃ駄目だよ!!まだあたしが行った方が良いよ!」
舞梓と豹朗に反論にたじたじになるシュッツ。
強大な相手に弱気になってしまっていたシュッツをどんどんと追い込んでいく。
「あたしだって勝てないってことは分かっているよ!それでも止めに行くよ!」
「弱気になっている奴が行くなよ!まだ布里の方がよっぽど良いに決まっている。約束を守れなそうなお前が残れ!」
「私は死に行く気は無い!ただ!少しでも生き残れる方を考えたのであって!」
「そうだとしても弱気になったら駄目だろ。やはりここは布里の方が良いと思うぞ。あいつの熱意なら止められる筈だ。それにお前さんには大事な役目がある」
「大事な役目?」
シュッツは豹朗の話の意味が分からなくて疑問を抱く。
「そうだ。お前さんにはこの施設を守るという、大事な役目があるじゃないか。それにもし、あいつらが説得成功させれば、この施設は最後の砦となる。パニックになっている人で溢れるだろう。そこで指揮官となるお前さんが必要だ。パニックなった人は何やるか分かんねえからな」
「そうだとしても......」
それでも渋るシュッツに舞梓が最後の人押しをする。
「大丈夫!後援に回るから!!平気平気!あたしだってあんなヤバく奴に勝てると思っていないから無茶しないよ!とにかく!ここでまた言い争いをしていても時間の無駄だから、あたしは行かせてもらうね!...あ、でも、その前に...」
「施設長さん、非正規の職員の皆さん。ちょっと力を貸して。あたし、良い考えを思い付いちゃったの」
舞梓がとびっきりの笑顔で振り返るのであった。
「行くぞ!お前ら!くれぐれも無茶すんなよ!!」
「はい!!」
豹朗が先頭になって外に飛び出していく。
その後ろには四人の男女が、それぞれの武器を持って後を追い掛ける。黄緑色の髪の毛を後ろに軽く結んだ二十代後半の男性風下 隼人【かぜした はやと】。黒の髪の毛の真ん中に白い線が入り、髪の毛と同じようなデザインの尻尾が生えている三十代前半の女性穴尾 戸穴【あなお ひあな】。長い黒髪をポニーテールした二十代後半の女性生人 明日香【いくと あすか】。茶色の髪を乱雑に切ったガタイがいい三十代前半の男性桐崎 進【きりさき すすむ】。この四人が皆を代表をして外に出ることになった。
炎と混沌に包まれた街に自ら飛び込んで行くのであった。
「お前ら!悪いけどここで避難活動を手伝ってくれ!いつもの訓練通りにやればなんとかなる!俺は助けに行かないといけないからな!くれぐれも!無茶すんなよ!!」
街の中をある程度進むと、プロヒーローであるため豹朗は事件解決に行かなければならなくなった。
置いてけぼりになった彼らは豹朗に悪いと思っていても、言うことを聞くことはなく、互いに顔を見合わせて頷き合ってから、各々に勝手に行動を始めるのであった。
「人間なんて大嫌いだ!!皆死んでしまえ!!」
「い...嫌!誰か助けて!!」
泣き叫んで後退りをする女性を一人の男性が追い詰める。
隼人は"個性"を使って女性と男性を間に入る。
「やめろ!!」
男性の使っていた包丁をナイフで受け止める。
「なっなんだ!?お前は!まさか...!お前はヒーローなのか?!」
「ああ...ヒーロー...」
隼人の飛び入りに男性が戦慄をし、女性は安堵の涙を流す。男性が様子見をしている最中、隼人は自分の目的を言う。
「俺はヒーローではない!ただ君達を止めに来たのだ!」
「何!?...うん?ちょっと待てよ...ヒーローじゃないなら...お前は一体なんだ?」
女性は驚いて何も言えず、男性は疑問を感じて思わず質問をしてしまう。
「俺は......」
「君達を止めに来た元"弱き者"だ!!」
隼人は長い深呼吸をしてから告白をする。
「えっ......?貴方はヒーローではないの!?助けに来てくれた訳ではないの!?」
「"弱き者"って...俺達の仲間ではないか!なんで俺の邪魔をする!?お前は仲間じゃないのか!?」
「仲間だから止めに来たんだよ!!俺はもう、君達にこれ以上罪を重ねてほしくないんだよ!!」
「罪を重ねてほしくない...だと!?ふざけるなあ!!!罪は人間の存在自体なんだよ!!大体、罪なんて人間が作り出したものだ!!なんでそんなもんに従わないといけないんだよ!!」
「そうだよな...。人間の存在自体が罪みたいなもんだよな...」
「そうだろ!!だから!」
「それでも俺はこの社会を庇う!」
隼人は男性の意見を同意しながら話を進める。
唖然としている男性を気にも留めず、隼人は自分語りを始める。
「俺も前までは...君達と同じ意見であった...。俺が世間を嫌った理由は、ヒーローに恋人を見殺しにされたからだ...」
「俺もあの男性と同じく、見殺しにしたヒーローに"個性"を使って襲い掛かり、半殺しにしたせいで牢屋に入ることになった。...はっきり言って、あいつを殺しかけたことは後悔はしていない。なんなら殺してしまったとしても、俺は反省をすることはないだろう。俺の彼女を襲った敵(ヴィラン)と、見殺しにしたヒーローに関しては、どんな不幸な目に遭っても腹を抱えてざまあみろと、今でも笑い転げる自信はあるよ。それでもな......」
「俺はこの社会を庇うよ」
「なっ...!?」
隼人の誓いに男性は驚く。
「俺は見てきたんだ!俺も昔はヒーローは"個性"の相性で戦わない屑野郎と思っていた。一般人もそのことを気にしていなくて、阿保だと思っていた。...だけど!!あの施設で働いてからずっと!守れなかった子供達を悔やんでいる人達の姿を!見てきたんだ!!ヒーロー関係なく全員が、強くなろうと鍛えている姿をな!反省をしながらも前に進む姿を!だから...!俺は...!!」
「このクソったれな世界を守る!俺達と同じ抗っている人達が居ることを信じて!」
「この裏切り者!」
「ああ!俺も裏切り者だ!この社会の実態を知っていながらも、社会復帰なんだといって動かなかったからな。でもこれからは、この事件を機に変えてみせる!!」
隼人はナイフを持ち替えて構え、女性の方をチラリと見ながら気にかける。
「という訳でそこの人、自力になるが逃げれるか?」
「............は.......はい!なんとか...」
「なら行ってくれ。俺はあの人を止めなければならないからな」
女性は返事もせずによろけながら立ち上がり、そそくさと逃げる。男性は後を追おうとしたが、隼人に止められて動けなくなる。
「そこを退け!裏切り者!!」
「退くか!!お前の相手は俺だ!!!」
激情に駆られた男性は隼人に襲い掛かる。
"弱き者"と元"弱き者"の戦いが今、幕が上がる。
「私は子供だろうが容赦はしない!!どうせあんた達もいつかは屑人間になるでしょうからね!いや!子供の時ですらも!人を傷付けることに躊躇なく、残酷な生き物だわ!!今すぐ殺すべきだわ!!」
女性は掌に光を集めて少女を殺そうとする。
恐怖のあまり少女は何も言えなくなり、泣いて身を縮こませることしか出来なかった。
「...やめて!」
そこに戸穴が自身の爪で切りかかり、女性の注意を自分に向けさせる。間一髪のところで女性は戸穴の攻撃を避ける。
「何すんのよ!?邪魔しないでちょうだい!!」
女性は怒鳴り声に一瞬怯えてしまう戸穴。それでも戸穴は少女の前に立って逃げずに立ち向かう。
「...そ、そんなことをし、したら...駄目ですよ...!」
「うるさいわね!いいわ!あんたも一緒に殺してあげる!」
「ま...待って!貴女に...話があるの!」
「話!?あんたなんかに話なんか無いわ!」
聞く耳を持たない女性は攻撃をしようと走ってこちらに近付く。臆病な戸穴は言葉を詰まらせてしまうが、勇気を振り絞って自分の過去を話し出す。
「わ、私は...!昔、この"個性"のせいで!人を殺しかけてしまいました!」
「......はあ...?」
戸穴の過去に驚いた女性はその場に立ち止まる。生まれた隙を逃さなぬように戸穴は話を始める。
「私の"個性"は...見ての通りの異形型の"個性"で...詳しく言うと...スカンクみたいなことならなんでも出来るの...。でもそのせいで...私...子供の時から...ずっと...虐められていて...。しかも...スカンクってね...臆病だから...防衛反応が出やすいの...。後は分かるよね...?私の出したオナラのせいで...人を殺しかけてしまったの...」
あまりの恥ずかしさに戸穴は顔を真っ赤に染め、エプロンを握り締めて、真剣な場面に似合わない行動をしてしまう。
呆気に取られている女性の顔を見られないまま、話を進めていく。
「相手が悪いのに......。...今でも思い出すと...凄く恥ずかしいの...。それで私は...少年院に入ることになったわ...。少年院に入っている間私は..."個性"の制御を頑張り...そのお陰で...ちゃんと制御を出来るようになった...。これで家に帰れると思った矢先......」
「家族は私を置いてどこかに行ってしまった」
戸穴の瞳から涙が零れ、涙を見た女性は息を呑む。
「私がどんなに泣き叫んでも家族は帰ってこない。私はもう敵(ヴィラン)になってしまったのだから......ううん、私の家族はあの人達ではない、今住んでいる場所に居る人達が家族なの...。...ごめんなさい、下らないことで泣いてしまって...」
「...............いいえ...。気にしていないわ......」
「ありがとう...。話に戻らせてもらうね...。行く場所が失くなった私は...施設に引き取られることになったの...。正直に言って...嫌だったわ...。施設が嫌と言うよりも、他人との集団生活が嫌だった。...その頃の私は...人間不信だったからね...。誰とも付き合いたくはなかったの...。私は死ぬことすらも考えていた...けど...施設の職員の人達が気にかけていて...私には...自殺をすることが出来ない状態であった。...憂鬱とした生活が続く日々...」
「施設の生活でも、私のことをからかってくる男の子二人組がいたの...。嫌だなあと思っていても...私は...諦めていて聞き流していた...そんな時だった......」
「職員の人がすぐに来て怒ってくれて...私への嫌がらせを止めてくれたの...」
「今でもあの日のことを鮮明に覚えているわ...。だって怒られた後は謝りに来てくれて、しかもそれ以降は、嫌がらせはピタッとなくなって...仲良くすることが出来たのですもの...。誕生日プレゼントすらも貰えたのよ。この尻尾の毛に合うブラシをね...。うふふ...おっかなびっくりでプレゼントを渡してくれる...あの姿は...今でも笑ってしまうわ...」
優しく笑いながら自分の尻尾を愛おしく撫でる戸穴。
「だから...私は......」
「教育次第では真っ当な人間に育てられることを信じているの」
「そんなの!嘘よ!貴女は騙されているのよ!たかが、一回の良かったことで、全てを水に流してしまうなんて貴女は甘いわ!」
「ええ...そうでしょうね...。でもね...」
「私の...私達が育てた子供達が施設から巣立っているの子供達皆、それぞれの道を歩んでいるの。...卒業をした後も手紙をくれてね...。ここに就職をしたとか、家族ができたとか、遊びにも来てくれる人がいるの。だから...」
「あの子達の未来を!これから出ていく子供達の居場所を失いたくはないの!貴女の気持ちには同情をしています!だけど!あの子達の為にこの世界を守ります!」
「嫌なら掛かってきなさい!私がいくらでも相手をします!」
爪を伸ばして勇ましく宣言をする戸穴。
一度は社会に傷付けられ、死を考えていた者が、救われて守るべきものが生まれたことにより、かつての自分と対峙する。
「死ね!!」
憎悪に満ちた男性が、スーツを着た男性の上に股がって首にナイフを突き立てようとする。
絶対絶命のピンチに明日香が持ってきた銃をデタラメ方向に撃って牽制をする。
「...あっ...?なんだよ姉ちゃん...ヒーローか?なら...お前も殺しの対象だ!!」
邪魔をされ激怒をした男性は、スーツを着た男性を放置して明日香に襲い掛かる。
明日香はすかさず男性の左足に狙い撃つ。
「...ぐっ!?」
狙いは見事に当たり男性はその場で倒れ込む。
明日香はスーツを着た男性を助けると、今度は自分が打った男性を助けようとする。
「おい!そいつは危ない人だ!近付いては駄目だ!無差別に人を殺そうとする奴だ!離れろ!」
「こっちに来るなあ!!!」
撃たれた男性はナイフを乱暴に振り回す。
しかも男性二人の叫び声に釣られて、逃げていた周囲の人達が集まってきてしまう。明日香は手短に走りながら自分語りを始める。
「私は"無個性"のせいで、この二十七年間虐められてきたり、差別をさせられてきました」
明日香の告白に撃たれた男性は驚いて固まる。
明日香はその隙に男性に出来る限りの手当てを行う。
「そのせいで私は人が嫌いになりました。話すのもはっきり言って苦手です。知らない人と話す時どもってしまいます...。そんな私は学校にあまり通えず、学歴は高校を中退してしまったので...中卒どまりです...。働こうにも学歴はなく、人と話すのが苦手な私には面接はまるっきり駄目でした...。だから私は...生きる為に犯罪を犯してしまいました...」
「お前さん...まさか...?!!」
「刑期を終えた私は、とある施設で働くことになりました。...正直に言って...私に務まるのか...凄く不安でした。人と接するお仕事だったから...。だけど、我が儘をいっていられる余裕はなかったので、我慢をして働くことを決意しました...」
「そこでの生活は楽しかったものですよ。どんなにどもってしまったり、緊張をして変な行動を執ってしまっても、皆さん理解がある方だったから気にする人はいません。寧ろ、大丈夫?と声を掛けて下さるのです。あの場所に働いていく内に私は、普通の人と同じように過ごせるようになりました。...普通の人と同じように生きていける、それだけで私の中で達成感が満たされました」
「私の働いているあの施設では、私の他にも犯罪者を入れて社会復帰を目指しています。その中では無事に社会復帰を出来ている人もいます!」
「お願いです!その人達の為にも!その武器を捨てて下さい!お願いします!!」
怪我の手当てを終えた明日香はお辞儀をして頼み込む。
時間だけが流れていく最中、明日香の足元に何かが落ちてくる。
「えっ...これは...イタ!!」
明日香が足元に落ちてきた石を眺めていると、また違う石が投げられて頭に当たってしまう。
「お前!"弱き者"だな!?よくもこんなことをしてくれたなあ!!!」
「いくら過去に酷い目に遭ったからって!!俺達をこんな目に遭わせやがって!!!」
「そうよ!!あんた達の方が酷い人だわ!!」
「私の夫を返してよ!!私の住む場所を返してよ!!」
野次馬になっている人達が、明日香と撃たれた男性に目掛けて石が投げられる。投げられてくる石の勢いは止まらず、増えていく一方だ。
男性を守る為に明日香は一歩を引かなかったが、痛みと恐怖で泣いていた。
(こんなの酷いよ!酷いよ!!!なんで私まで石を投げてくるの!?私が"無個性"で"弱き者"の立場だから!?怖い怖い怖い怖い痛い痛い...逃げたいよ...!...でも!!この男性を放っては逃げられないよ...。こんな展開になるかもとは思ってはいたけど...辛いよ...。...やっぱり世間の人達なんて大嫌い!!)
明日香が暗い感情に落ちそうになったその時ーー
「君達やめないか!!!」
明日香に助けられたスーツを着た男性が庇う。
その男性は明日香達の前に立ったお陰で石投げは止まる。
「この女性は私のことを助けてくれたのだ!!」
「"弱き者"が...」
「助けてくれた...?」
「そんな馬鹿な!!」
「あり得ないわ!!」
「いいや!!本当だ!私のことを助けてくれた!」
「なんで!?なんで!助けてくれたの!!?世間を恨んでいるのでしょう!!」
「えっ、えっ、えっ、えええっとそれは......」
一転とした雰囲気に戸惑った明日香はどもってしまう。
何も言えなくなった明日香の代わりに男性が話をする。
「...話を聞く限り...どうやら...説得......をしに来たようだ。取り敢えず!その人は味方だから攻撃をするな!!大体、私達がそうやって痛み付けるから!!こんな事件が起きるのだよ!!!助けてくれたそこの女性!」
「は、はいいい!」
有無を言わせぬ口調に思わず明日香は背筋を立たせる。
「私を襲った...そこの男性を助けたいのだろ!だったら手を貸すよ!」
「えっ...えっ...良いのですか...?」
「ああ、当たり前だ!お前さんはなんだって私の命の恩人だからな。命の恩人の為に頑張るのは当然のことだ!それに男の力で運んだ方が速い!...この人を運ぶのは癪なんだが...お前さんがそこまで必死になるなら、手伝うしかないだろう」
「あ...ありがとうございます!!ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
男性の手伝いの申し出に明日香は首が取れる程の勢いで頭を下げる。
「そんなにお礼は要らないよ。私の方こそ、お礼を言いたい。さあ、こんなところにいつまでもいられない。先に進むぞ!」
「はい!」
明日香とスーツを着た男性の二人三脚で"弱き者"を運び出す。
弱い立場にいた者の勇気ある行動が人々を伝染させていく。
「お前!なんのつもりだ!!」
「なんのつもりって...助けに来たのだが」
「そういうことじゃない!!何故"弱き者"の立場である"無個性"が!一般市民を助けに来ているのだ!」
「ああ、そのこと?」
襲われていた少年を守る為進は、アルマジロような異形型の"個性"の男性と対峙をしていた。
"個性"を使わず少年を助け出したところ、敵に"個性"を使わないのか?と馬鹿にされたので、進は自分が"無個性"だ、と伝える。相手が困惑をした状態で話を始める。
「俺も昔は...まあ...ヒーローを目指していたからな」
「はあ!?あの腐ったヒーローに!?やめとけよ!!大体"無個性"は"個性"を持っていないから不利なのに...」
「不利?"個性"の相性で戦わないヒーローがいるのに?今更関係ある?普通に考えれば、そんなの関係ねぇよな。なんで俺達は...あんな馬鹿な考えに従っていたのか...。今だって道具を駆使して上手くいったのによ...。ほんと馬鹿らしい...」
呆れ過ぎて溜め息を吐く進。
「ほんとそうだよなあ...。なんで俺もあんな奴らの言うことを聞いてきたのだろう...って!!いや!違う!お前はなんで腐ったヒーローを目指していたんだよ?!!」
途中まで同意をしながら尋ねてくる男性。
その質問に今日の天気を答えるかのように軽々しく答える。
「うん?ヒーローを目指していた理由?どんな時もめげずに自分の意思を貫いて、人を助けるヒーロー。そんなヒーローが格好いいじゃん。だから成りたかった。それだけだ」
「そんなヒーローなんて!」
「ああ、いないだろうね。俺が目指しているヒーローは、現実のではなくてアニメのようなフィクションのやつだもん。...まあ...いたことはいたけど...」
「お前...!考えが...!可笑しいぞ!!」
「可笑しいことは自覚している。...この可笑しいな考えと、"無個性"が相俟って親に捨てられたからな...。いつまでもそんな下らないことを考えているのよ?と...。まあ、世間の考えの方が可笑しいから、俺はこの考えで生きていくけど。......とはいえ、今日ぐらいは...」
「ヒーローと名乗っても問題ないだろう?」
怯えている少年を自分の方に寄せる。
「お前は何故...酷い目に遭ったのに...」
信じられない、と見詰めてくる男性に進はあっさりと言う。
「酷い目に遭ったからだ。だから余計に俺と同じ目に遭わせたくないし、俺だけでも変わらないっとな。こんな世界に何を期待すればいい?大切なものを守るなら、強くならないといけないよな?それに俺は...」
「こんな世界でもヒーローに憧れていた男だ。世の中を良い方向に持っていきたい、と思うのは当然のことだろ?」
「............」
呆気に取られる男性。
そんな男性を無視して腰にさしていた剣を持ち構える。
「という訳で俺はお前を止める。今ここで止まってくれるのなら、戦わずに済むぞ。痛いのは嫌になるからそうしてくれるとありがたいなあ...。...それでも納得が出来ないのなら掛かってこい。俺が不満を受け止める。そしたら頑張って生きていこう。何心配するな。現実でも場所によっては楽園はある。そこで一から頑張ろう...ぜ!!」
穏やかに話し掛けながらも、相手が戦闘態勢を解かないことに気が付いた進は剣で相手の攻撃を受け止める。
"無個性"の男性が少年を守る為、相手を止める為、自ら不利な戦いに挑むのであった。
それぞれの場所で"弱き者"と"弱き者"に該当をする人達の戦いが起こりつつある。
人間が生まれてからずっと、どの歴史でも途絶えることもなく、続いてしまった負の一面が世界を壊す時。
これまた世界に傷付けられ、一部の世界で救われた人達が止めに来るという、奇妙な応戦の幕が上がるのであった。