やっと事件の中心地に戻る。
体の自由を取り戻した魔法使いは、急いで爆豪に回復魔法を掛ける。傷は直ぐ様塞がったのだが、意識を取り戻すことはなかった。魔法使いは起きない爆豪を抱え、一先ず安全な場所に連れて行く。爆豪を狙う"弱き者"をオールマイトとグラントリノが止めに掛かる。
「お前さん方!馬鹿な真似はよすんだ!!」
「あいつの言葉を聞いてはいけない!!君達が思っている程、あいつは良い奴ではない!寧ろ、あいつは君達を弄ぶだけだ!だから!こんなことはやめたまえ!」
「そんなことはどうでもいい!俺達は糞ったれ共を殺すのならなんでもいいんだよ!!」
「先生がいくら悪人でも、私達からすればあんた達の方がよっぽど悪人よ!あんた達ヒーローは名ばかりで何もしない!先生の方がよっぽど良い存在よ!」
オールマイトとグラントリノの声はやはり届かない。赤毛の女性敵(ヴィラン)とコオロギ風の男性敵(ヴィラン)は、爆豪を殺しに襲い掛かる。
赤毛の女性は大剣を振りかざし、コオロギ風の男性敵(ヴィラン)は翅を使って飛び掛かる。魔法使いは防御障壁で二人の攻撃を防ぐ。攻撃を防げているとはいえ、いつまでもこうしている訳にもいかず、助けを求める為に今も蹴られているシンリンカムイに呼び掛ける。
「シンリンカムイ!いつまでもそんなことをしている場合ではないにゃ!」
「そんなこと言われたって...」
「だったら!私達が叫んでいた時に改めるべきだったにゃ!今更遅いにゃ!」
「そうだとしても...」
「ふざけるにゃ!そんなに落ち込むのならはじめから戦えば良かったのにゃ!君がこうして落ち込んでいる間にも、勝己に被害が及んでいるにゃ!さっさと立ち上がるにゃ!」
「でも...でも...!」
「いい加減にするのにゃ!そうやってずっと項垂れているのはやめるのにゃ!そんなことをしていたら、守れるものも守れなくなるにゃ!これで勝己が死んでしまったら、両親になんて説明をするのにゃ?!またそうやって項垂れるのにゃ?!」
「それは......」
「つべこべ言わず立ち上がるのにゃ!また罪を増やす前に!これ以上誰かを泣かせる前に!早く立ち上がるのにゃ!!」
ずっと項垂れ、サラリーマン風の男性敵(ヴィラン)の暴力を甘んじて受け入れていたシンリンカムイ。ウィズの説得でぼろぼろの体を鞭を打ち、殴る蹴るなどの暴力を受けながらも立ち上がる。
「今更遅い!お前みたいな屑が立ち上がったところで、私の妻と娘は帰ってこない!!もう遅いんだよ!!それに私は、お前達屑共の助けは要らない!!貴様ら屑共に助けられるくらいなら!!死んだ方がマシだ!!!」
立ち上がったシンリンカムイに腹が立ったサラリーマン風の男性敵(ヴィラン)は、ヒーロー達の決意を必死に否定をする。
「ほら、やはり君達ヒーローには人を救うことは出来ない。僕のような敵(ヴィラン)の方が人を救える。君達は苦しみを我慢させるだけ、本当の悪人は見逃す。そんな君達には無理なんだよ、傲慢なヒーローさん。...ところで黒猫の魔法使い。君は僕にあれ程啖呵を切ったのだから、彼らを救ってみなよ。現実を見ない絵本主義のヒーローさん」
AFOはヒーロー達を小馬鹿にした言い方で挑発をする。
勝利を確信をしているかの如く、車椅子から動かずに口だけで相手の精神を逆撫でる。AFOの態度に魔法使いは苛つき、絶対に一泡吹かしてやると誓う。
AFOの挑発に乗って"弱き者"に生半可な説得をしてしまっては、相手を傷付け、怒らせるだけであることは目に見えている為、慎重に言葉を選ばなければいけない。
魔法使いが言葉を選んでいると、またもやAFOがちょっかいを出してくる。
「そんなに悩むことなのかい?そこまで難しく考えることはなかろう。君が思い浮かぶヒーロー風に言えばいいのだから。まあ...君が思い浮かべるヒーローは、存在していないだろうけどね」
その言葉に頭に来た魔法使いは、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
AFOの挑発に乗らないように、相手の心に響かせる言葉を考える。答えが思い付いた魔法使いは空気を精一杯吸い込む。空気を吸い込んだだけの魔法使いにAFOは嘲笑う。
「おや、黒猫の魔法使いが何か言いたそうだね。皆黙って聞いてあげようか。きっと僕達を泣かせてくれるに違いない。人の話はちゃんと聞かなければいけないものだしね」
動きを止めて"弱き者"はニヤニヤと嗤いながら、魔法使いを注視をする。
「ええ、楽しみですわね」
「本当ですね」
「あんたなんかの言葉なんて聞きたくないけど、その言葉!真っ向から聞いて否定してあげる!」
「どんな陳腐な言葉を言い放つのだろうね!」
「言葉なんて...今更遅すぎて意味ありませんわ」
どんな言葉も届きはしない。"弱き者"の受けた痛みは言葉では消えない、解決はしない。解決をしていない問題だからこそ、"弱き者"の言葉に反論が出来ない。
何十、何百、何千年も続いていても終わらない問題。終わらない問題故に何も出来ない言葉は嫌われ、綺麗事は吐き気を覚えさせ心に痛みを与えるだけだった。言葉だけで解決するのなら、とうの昔に解決をしている。だから魔法使いとウィズの言葉は一番嫌われている。児童養護施設オアシスや他の世界が出来ていることを知っていたとしても。
場は静まり全ての視線が魔法使いに集まる。
その時を待っていました、と言わんばかりに魔法使いは、溜め込んでいた空気と共に苛立ち、迷い、共感などのありったけの感情を叫びに変える。
「だっしゃしょかあああああ!!!」
「......はあ...?」
「...えっ......?」
「何それ...」
「えっ...と......」
「お前さん......何を言っておるんだ!?」
「その叫び方...まさか?!」
魔法使いの奇怪な叫びに一同は驚いて放心してしまう。
だが、魔法使いの叫び方に心当たりのあるウィズとオールマイトは目を見開く。
魔法使いは、自分が一番ヒーローだと思った人物の叫び方を真似をしたことにより、頭の中のもやもやが無くなりクリアになる。
奇怪な叫びは伝えたかった言葉は自然と纏めさせる。
「"個性"などで決め付けるこの世界は可笑しく、君達がこの世界を嫌うのは当然だ。ボクもこの世界が大嫌いだ。追い詰められて壊したくなる気持ちも分かる。助けてくれなかったヒーローを嫌うのも当然の結果だ」
「虐めで死んでしまった少年も、"個性"の相性で見捨てられてしまった妻と娘も、君達のことを大切に思っている人達も、この世界を壊したい、君達のことを傷付けた人を恨んでいると思う。だけど......」
「君達の手を血で染めるようなやり方は望んでいない!誰かに恨まれることも望んでいない!それに!関係のない人達を傷付けてしまったら...!」
「君達は君達のことを苦しめた人と同じになる!」
「そんなのは駄目だ!だから...!」
「うるさい!うるさい!うるさい!うるさあああいいぃぃいいい!!!」
「だからなんだて言うの!!?」
激しく取り乱した赤毛の女性敵(ヴィラン)が割り込み、魔法使いの話を中断させる。
「あんたみたいな良い"個性"を持っている人が決め付けるなああ!!先生から聞いているけどあんた、その"個性"のお陰で過保護に育てられ、友達もたくさんいるようね?!そんなあんたが"無個性"の苦しみが分かるわけない!!!」
「"無個性"がどんな扱いなのか知っている!?たかが"個性"を持っていないだけで、何をやっても否定されて、"個性"を持っているだけの無能に勝つ為に勉強やスポーツに打ち込んで勝ったとしても、"無個性"のくせに生意気だ!と罵られ、更に虐めが酷くなるのよ!!それが当たり前だから誰も助けてくれない!!しかも私以外にも、私のことを産んでくれたお母さんさえも蔑みの対象になるのよ!!」
色々な人達に決め付けられた怒りが、今までの不満が、理不尽だった人生が、勢い付いていた魔法使いを尻込みさせる。
「何もかも順風満帆なあんたが偉そうに言うんじゃないわよ!!!」
魔法使いの言葉は届かず、赤毛の女性敵(ヴィラン)はその場で泣き崩れる。
その様子にAFOは勝ち誇った嫌らしい笑みで告げる。
「おや残念。やはり、君のような恵まれた立場の人間が言っても無駄のようだね。さて...上手くいかなかったようだけど、次はどのような行動を取るのかな?」
魔法使いの次の行動を待つAFO達。
因縁のあるオールマイトには目もくれず、魔法使いのことばかり目の敵にしてくるAFO。そんなAFOに魔法使いは疑問を感じ、考えることに夢中になってしまいそうになるが、カードを取り出して戦闘に集中をする。
"弱き者"達の説得に失敗をした魔法使いは魔法で強い風を生み出し、彼らを出来るだけ傷付けないようにする。
無防備になったところをウィズが叫ぶ。
「シンリンカムイ!」
「...!...ああ!先制必縛ウルシ鎖牢!」
シンリンカムイの腕から枝を伸ばし、空中で浮かんでいる"弱き者"達を素早く捕縛する。
「放して!」
「その薄汚い手で私を触るな!!」
主婦とサラリーマン風の男性は捕まったのだが、赤毛の女性、コオロギ風の男性、案内人の男女は難なく枝の縄を避ける。
「それが君の答えか....君達ヒーローは暴力で解決をするのだね。...はあ...君達が暴力的だから、僕達も暴力的になるのだよ。そもそも、君達が偏見、差別的な思考を持っているからこんなことになっているのだよ。それなのに君達は殴って、吹き飛ばして、血を流して、暴力でしか解決をしようとしない。言葉で解決をしようとしないのかい?まあ、君達ヒーローの張りぼてのなんの意味のない綺麗事は、こんなものだろうけど...」
「シンリンカムイ!彼らを連れて逃げるのにゃ!」
ウィズがAFOの言葉を掻き消すかのように指示を出す。
「ああ、承知した」
シンリンカムイは爆豪と捕まった"弱き者"を一緒に連れて、戦場から離脱する。
AFOや"弱き者"達が攻撃をする前にオールマイトが動き出す。
「テキサスマッシュ!!」
オールマイトのパンチとAFOの"個性"がぶつかり合う。
強烈な衝撃波で生まれた風が魔法使い、ウィズ、グラントリノ、"弱き者"達を吹き飛ばそうとする。
「オールマイト、君の力はこんなものなのかい?だとしたら、大分衰えてしまっているね」
「その奇妙なマスクを着けている貴様の方こそ、弱くなっているぞ」
強風にびくともしないオールマイトとAFO。
二人はまだまだ余裕なようで互いに挑発をしあっている。
「...!!君!防御障壁を張り直すにゃ!このままだと建物が持たないにゃ!グラントリノも戦闘が激しくなる前に彼らを捕まえるのにゃ!」
「分かった」
「お、おう!」
しかし周りは持ちそうにない。オールマイトの一撃の余波だけで並んであった酒の瓶は割れ、壁は剥がれ、机などの重たい家具が枯れ葉のように持ち上がる。
いつ建物が崩壊をしても大丈夫なように、魔法使いは周囲を囲むように防御障壁を作り出し、グラントリノは嵐の中を飛び回り"弱き者"達の無力化を図る。
「このマスクを着けさせる切っ掛けを作った君が、何を言っている。それにしても...オールマイト......」
「まだ逃げ切っていない人達も居るのに、そんな大技を出してもいいのかい?君達ヒーローという生き物が守るべき市民が残っているよ。僕達の戦闘に巻き込んでしまったら彼らは死んでしまうよ。それでもいいの?流石暴力だけのヒーロー。市民のことも気にしないみたいだね」
「HAHAHA!残念だったなAFO。貴様の挑発にはもう乗らない!私達以外のヒーロー達が市民の避難をさせている。逃げ切っていない市民などどこにもいないのさ!」
「オールマイト...」
AFOの挑発に笑顔で乗らないと宣言をするオールマイト。
笑顔で宣言をするオールマイトにAFOは何故か、頭が残念な人を見てしまったかのように哀れみを視線で見ていた。
「君は本当に、この事件のことを分かっていないようだね」
「何!?」
AFOの哀れみの視線にオールマイトは慌てふためく。
「良いかいオールマイト。この事件はね......」
「こんなもんではないよ」
「なっ...!?貴様の言葉など!」
「今までの話をちゃんと聞いているのかい?オールマイト。彼らと似たような恨みを持っている人はたくさん居る。暴れているのはここだけではない。この事件は全国各地で行われているのさ」
AFOは小さい子供に説明するかのように、優しくゆっくりと語り出す。
「いいかい、オールマイト。彼らのように苦しんでいる人はたくさん居る。数にして年間約四万人にもだ。その数を味方にしてしまえば、あっという間に僕の軍隊の完成だ」
「君の言う通り、ここら一体の一般市民は逃げられたかもしれないね。だけど、他の場所で暴れている。君達ヒーローでは絶対に止められない騒ぎがね。ところで、オールマイト......」
「ここに元一般市民が居るのだけど。彼らは敵(ヴィラン)になったのだから助ける価値はない?」
「そんなことはない!!」
「そう?君が心にそう思っていても、行動は全然違うじゃないか。僕が君の攻撃に耐えられても、他の人達は耐えられない。死んでしまうよ。分かっている?行動で示さなければ伝わないし、意味ないよ。本当に分かっている?」
「貴様を倒すには...」
「僕を倒す為なら何をやってもいい?他の人達を捲き込んで殺しても?それが正義の味方のすることかい?正義の正は正しいという意味だろ、その行動は正しいのかい?正義の為なら人を殺してもいいのかい?」
「それは...」
「あのNo.1ヒーローでさえも反論が出来ない!ああ!なんて気持ちいいのだろう!やっぱり正論で人を責めるのは楽しいね!誰も僕に反論が出来ない!邪魔だったヒーローを言葉だけで凪払う!ヒーローなんて口先だけの暴力装置!たった今ここで、証明をされたのだ!」
オールマイトは論破され拳を振るうことしか出来なくなり、その様子を愉快そうに嗤うAFO。
その満面たる笑みは吐き気を催す程邪悪だった。
オールマイトとAFOがますます激しくなり、建物が崩れ砂埃が舞う。砂埃が舞っている最中誰かが指を鳴らす。
指を鳴らしたその瞬間ーー
地面が揺れ、黒い煙が何もかも覆い、赤い炎が猛烈な勢いで辺りを燃やす。
状況を把握出来ていない内に凄まじい爆発が起こる。
空高く昇る黒い煙は、"弱き者"の怒りを表しているようであった。
魔法使いが続けたかった言葉は
「君達がそうなる前に止める!」
です。
なので"弱き者"を、誰かを傷付ける最低な人扱いをした訳ではありません。