パリン!!
ガラスが割れたような甲高い音が鳴り響き、その後に続くかのように、ケホケホと黒い煙を吸い込んでしまった人達の咳払いの音も鳴り響く。
「全く...防御障壁なかったら皆死んでいたにゃ!」
ウィズが愚痴る。
もし魔法使いが防御障壁を張っていなかったら最悪の場合、オールマイトとAFO以外の全員が死んでいたのかもしれなかったからだ。
「全く!俊典の奴め!敵の言葉に乗せられておって!!あの愚か者が!!」
そのことに気が付いていたグラントリノも怒っていた。
そうこうしている間にも戦闘は進んでいく。
戦闘に夢中になったオールマイトとAFOはどこかに行ってしまい、魔法使い、ウィズ、グラントリノ、"弱き者"だけがこの場に残っていた。
「あの二人をどうするにゃ?もし避難が済んでいない一般市民がいたら死んでしまうにゃ!」
「様子を見に行きたいのは山々だが......」
「彼らがわしらを逃がしてはくれんからな」
ウィズとグラントリノが話をしている間に、"弱き者"達は武器を持ち直して体勢を整え終えていた。
「お前らはここで殺す!」
「ヒーローなんて死んでしまえ!」
赤毛の女性、コオロギ風の男性、バーテンダーの格好をした男女の計四人が立っていた。他のカメラを持っている人達は戦う気がなかったことが唯一の救いだった。とはいえ、彼らも守るべき存在故に戦いづらくなる原因にもなっていた。
「...四人だけなのか...?今のところは戦う気はないのだろうか...。まあ...いつかは戦わないといけないんだが...」
「あの人達は一体何が目的なんだにゃ?」
ウィズとグラントリノの疑問は当然誰も答える訳はなく、"弱き者"達が襲い掛かってくる。
オールマイトとAFOの戦闘が盛上がるのと同時に、"弱き者"達との戦いも始まるのであった。
赤毛の女性敵(ヴィラン)がメカニックな大剣で斬りか掛かる。
「はぁああ!」
叫びと共に今までの恨みが込められ、全てを斬り捨てようとする。
グラントリノは"個性"を使って飛んで避け、魔法使いも距離を取って避ける。
「この野郎!!」
グラントリノが飛んで避けた先に、コオロギ風の男性敵(ヴィラン)が後ろから蹴りを入れようとし、魔法使いの方も案内人の男女が左右から武器を持って襲い掛かってくる。
グラントリノはわざと落ちて蹴りを難なく躱し、防御障壁と金属がぶつかり火花を散らす。
「...チッ!!」
ナイフが当たらなかったことに舌打ちをする案内人の女性敵(ヴィラン)。案内人の男性敵(ヴィラン)の方は冷静に体勢を整えようとする。
相手が体勢を整え終える前に魔法使いはある魔法を唱える。
『エアリアルテンペスト』
「〝勝利の旋律〟(フィニッシュコード)で決めたげる!」
夜空を飛ぶ夜空色の瞳の少女が高らかに叫ぶ。
もう一度呪文を唱えると赤色と黄色の球弾が"弱き者"達に向かう。一度目は避けられたしても、二度目の弾幕が容赦なく襲い掛かる。
それでも魔法使いの攻撃に耐える"弱き者"達。
そうそう簡単に倒れる訳もなく、各々と立ち上がり魔法使い達の方に走り出す。
「そう簡単には倒れないか...。これはかなり厄介だな...。というか、あいつらは...やけに戦いなれているみたいだ。...この時の為に訓練をしていたのか?」
「それについては分からないにゃ。ただ、それだけ想いが強かったということにゃ」
ウィズとグラントリノの話が終わり、魔法使い達と"弱き者"達がまさにぶつかろうとした瞬間ーー
「『指砲』+『エネルギー放出』+『威力増大400%』......君達だけではなく僕も交ぜてくれないか?」
両者の間に赤黒い光線が走る。
その光線はAFOが放ったものであった。彼は片手でオールマイトをあしらい、もう片方の手で光線を放っていた。AFOはニヤリと嗤いながら参戦をする。
AFOの乱入により戦闘が更に激しくなっていくのであった。
「『空気を押し出す』+『筋骨条発化』+『瞬発力×4』+『膂力増強増強×3』」
AFOの腕がバネのようになりオールマイトを吹き飛ばす。その余波で動けなくなった魔法使いの元に、砂鉄でできた剣を持った案内人の男性敵(ヴィラン)と赤毛の女性敵(ヴィラン)が同時に攻める。
魔法使いは咄嗟に防御障壁を張り攻撃を防ぐ。
防御障壁が敵二人の攻撃を止め間に新たな呪文を唱える。
『夜空に溶けゆく心の音色』
「こういうのはどーお?」
夜空色の瞳を持つ少女が、バイオリンを弾きながら語り掛ける。
呪文の効果により、魔法使いが使っているカードが更に強くなる。強くなった火の玉と雷の連撃は"弱き者"を狙わず、AFOに集中的に狙う。狙われなかった"弱き者"達は魔法使いを一斉に攻撃をしたのだが、グラントリノがまとめて相手をする。
「『物質操作』+『巨大化』+『耐久力増加』」
火の玉と雷の連撃の対処として、AFOは右手を地面に置いて土の壁を作り出す。
土の壁は火の玉と雷の連撃に一度は耐えられてしまったが、二度目の連撃で土の壁の大部分を壊して役目を果たせなくする。無防備になったところをオールマイトが殴り掛かる。
「デトロイトスマッシュ!!」
だが、オールマイトの渾身を込めたパンチは虚しく、片手で軽々と受け止められるしまう。
「『衝撃反転』」
「...なっ?!しまっ...!」
逆にオールマイトの渾身の力は利用されてしまい、ビルを何棟も壊しながら遥か彼方まで吹き飛ばされてしまう。
「怒りに囚われている人間の扱いなんて簡単だね。さてと...夜はまだまだ長い、ゆっくりと戦おうではないか」
絶対王者として君臨をしたAFOは、何もかも嘲るような嗤いで全てを見下す。
戦いはまだ始まったばかりだった。
大地は抉れ、周囲の建物は悉く崩れ、煙が夜空を覆い見えなくする。この世の地獄を表しているようだった。
ぽたっと、誰かの血が流れる。互いを見つめ合う静寂な時間に血の流れる音だけがやけに強調される。AFO以外の全員はどこかしらに傷を負っていた。
「ほう...中々頑張るね。特に黒猫の魔法使い」
涼しい顔をしてAFOは挑発気味に言い放つ。魔法使いは苦々しく睨み返すことしか出来なかった。
AFOは敵味方関係なく攻撃を放っていた為、敵も防御障壁で守らなければいけなかったからだ。そのせいでいつもよりも魔力消費と疲労が溜まっていた。
「お前...!!わざと味方ごと撃ってはおらんか!!」
グラントリノの怒りに対してもAFOは何ともないように言う。
「それがどうかした?別に彼らはこの戦いで死んでも構わないと思っているから大丈夫。それに...君達だって彼らをよってたかって攻撃をしているのではないか。僕とどう違う?」
「それは...」
AFOからの問いにグラントリノは答えられなくなる。
「フッハハハハ!!!ああ!!本当に気持ちが良い!今日はなんて最高の日なんだ!!この高鳴る気分のままに君達を殺してあげよう!」
AFOが片手を振りかざし、魔法使い達が絶体絶命になったその時ーー
「その戦い!ちょっと待って!!」
一人の女性ヒーローが他のヒーローを連れて参戦をしてくる。
「......えっ?」
「......なんでにゃ...」
思いも寄らない人物に魔法使いとウィズは驚く。しかもヒーロー達の中には、コスチュームではなくボロボロのジャージを着た一般人もいた。魔法使いとウィズは急いで止めに行こうとしたが、他のヒーローは特に気にしている様子はなく、その人もあまりにも堂々と居るものだから、一先ず止めずに様子を見ることにした。
AFOも他のヒーローが来ると思っていなかったのか、先程の悠然とした状態からかなり腑抜けた状態になる。
「...うん?君達は一体...そこに居るのはエンデヴァー、ベストジーニスト...。...ということはヒーローの集まりらしいね。こんな所で油を売っていても良いのかい?僕達なんかよりも一般市民を助けたら?それとも、一般市民のことはどうでもよくて、僕を倒す方が大事?だからヒーローは暴力装置と呼ばれ...」
「それなら大丈夫!だって......」
「止めてきたからね!」
AFOの言葉を遮って誇らしげに宣言をする女性ヒーロー。暗い雰囲気を茶化して飛ばしたあの時の姿と重なる。
「止めてきた...?何馬鹿なことを言っている。そんな嘘に僕は惑わされないよ。大体、あの騒ぎは君達への恨み、社会への恨みでいっぱいだ。そうそう簡単に消えはしない。まあ、君達ヒーローと言う名の暴力装置だから、彼らの悲しみを聞かずに吹き飛ばしたのだろうね」
「力ずくということは認めるけど...。悲しみを聞いていないのは違うよ」
「いいや、力ずくで止めたのなら同じさ。暴力で解決したことと何の変わりはない」
「勝手に決め付けるのやめてくれない。そうやって勝手に決め付けていたら、貴方達を嫌がらせをした人と一緒じゃないの?だから、先生...貴方の話、不愉快で聞きたくなくなちゃった」
「僕の話が不愉快?本当のことを言っているだけなのに?それは不愉快ではなくて、耳が痛いだけの話ではないか?」
「ほらまたそうやって決め付ける。これでは話は進まないよ。話し合いで決着をつけたいのでしょ?だったら、相手が話しやすいようにしないと駄目じゃない。それに......」
「あたし達にまだ、そのマイクを向けられていないの。皆に話を求めていたのなら、あたし達にも話す機会をくれるよね?先生」
赤い和服のコスチュームを着た若い女性ヒーローは大胆不敵に笑う。
これまでAFOが率いる"弱き者"達の悲しみ、嘆き、怒りに誰一人反論を出来なかった質問に立ち向かう。しかもAFOの話は不愉快だと切り捨てて。
そんな少女の態度にAFOは怒りを覚えていなかった。それどころか、感心をして面白がっていた。
「ほう......。今の状況を知っていても尚、そんな口を叩けるとは大したもんだ。余程の大馬鹿なのか、状況を全然把握していないのか、被害者の声なんてどうでもいいのか...。それは話し合いの末に決めよう。お嬢さん、君の名前は?」
「乱舞。あたしのヒーロー名は乱舞。ヒーロー名だけで充分でしょ」
「それで充分だ。では乱舞、君の望み通りに話し合いに戻ろうではないか...という訳で君達、その武器を仕舞いなさい。...そう焦ることはない。何の道、口論で君達に勝てる者はいない」
中途半端に戦いを止められて不満を感じる"弱き者"達。はじめは武器を収める気はなかったのだが、AFOに説得をされて大人しくなる。
「お前さん何をしておるんじゃ!!?あいつらの口論に敵う訳なんて...!!」
「グラントリノ、彼女に任せてみよう」
言い返せなかったグラントリノは必死に止めようとするが、魔法使いが割り込んで止めに入る。
「しかし...!」
「あれだけ自信があるのなら大丈夫。彼女を信じよう」
「キキの言う通りにゃ。彼女に任せてみるにゃ。それに...乱舞と一緒に居た他のヒーロー達は止めに入っていないし、焦ってもいないにゃ。きっと何か策があるにゃ」
魔法使いとウィズの説得、乱舞の自信満々な態度、誰も反論が出来なかったのに止めもしない周囲のヒーロー達。それらを踏まえてグラントリノは黙って見守ることにする。
激しくなった戦闘の幕は一旦閉じて、またもう一度話し合いが始まる。
カメラはAFOと乱舞に向けられる。
二人は話しやすいようにマイクを持っていた。
「では乱舞。君はこの話を聞いてどう思う?」
「その前に、これまでのお復習を兼ねて質問をしてもいい?」
「構わないさ」
先程までの戦闘が嘘だったかのように穏やかに話が始まり、驚きを隠せない一同。自信があるAFOは余裕を持って紳士的な対応を取り、乱舞も普通に会話を始める。ただ...苛ついていたのか時折眉をひそめていた。
「ありがとう。...コホン...。貴方達の話って..."個性"による虐め、相性で戦わないヒーロー、身内に敵(ヴィラン)が出たことにより迫害...。過去に誰かを傷付けて、これらの問題を見て見ぬ振りをして、心の傷を疎かにしたあたし達ヒーローは、誰かを救う権利もないし、正義を振りかざす権利もない。あたし達の方が悪である...だよね?」
「そうだ」
「だから、貴方達は、あたし達を悪として倒す...そう言いたいのよね?」
「勿論そうだ。ちゃんと分かっているのではないか。で...君の答えは?」
「そうね...あたしの答えは......」
意を決めた乱舞は目を閉じて深呼吸をする。
たった数秒間だけ筈なのに、待っている人達にとっては途方もない時間に感じさせる。
色々な人達を待たせる最中、彼女の出した答えはーー
「先生、貴方も言う権利もないよ!!」
それはAFOの否定だった、拒絶だった。短い一言で増悪を表していた。
その答えに"弱き者"達は怒って手を出そうとしたが、AFOは片手で制して止める。
「ほう...それが君の答えか...。僕を否定したところで彼らの心の傷は消えない。それに僕は、悲しんでいる彼らの為に行動をしているのであって、僕を責めるのは論外...」
「だったら!なんで!!今年の冬、東京を襲ったの!!?答えて!!!」
AFOが言い切る前に乱舞は叫ぶ。
「彼らのような被害者を出さない為さ」
「貴方が襲った人達が、そんなことをする屑だと言う証拠はどこ!証拠があるんだったら教えて!!」
今まで勝ちを確信をしていたAFOが揺らぐ。
ヒーロー、一般市民関係なく過去をほじくり返して優位に立っていたAFO。だが皮肉にも、同じことをされて足をすくわれる。言い淀んだAFOに乱舞は畳み掛ける。
「被害者を出さない為!!?だったら!なんで!今みたいに彼らの存在を教えなかったの!!?知ってもらわないと意味ないじゃない!!貴方がやったことは街を破壊して、他人の命を奪っただけよ!!」
「あの事件のせいで親を亡くした子供達が増えたのよ!!今も泣いているのよ!!誰かの心を救う為なら、誰かの幸せを踏みにじっていいの!!?心を壊していいの!!?貴方も同じことをしているじゃない!!そんな人が正義ヅラをしないで!!」
現場に居た魔法使い達も乱舞の叫びを聞いて思い出す。いくら正論を言っていたとしても、AFOが過去にした悪事を振り返せば、彼もまた言えない立場であることを。"弱き者"の叫びを聞いてすっかりと忘れていたのだ。
「しかも人体実験で脳無を作っていたでしょ!どんな理由があれば人体実験をしていいの!!?人の命を粗末にしていいの!!?...ねえ!答えてよ!!」
叫びきった乱舞はAFOを睨み付ける。
黙っているAFOの代わりに"弱き者"が叫び出す。
「ふざけるなあ!!!お前達も人のこと言えねぇじゃねぇかあ!!結局俺達を暴力で押さえ付けるだろうが!!」
「そうだね...そのことは認めます...。言葉で止められるのなら止めたいけど...」
AFOの時とは打って変わって優しく、悲しげに"弱き者"達に向き合う乱舞。
「だったら言葉で止めて見せろ!!暴力者どもが!!!」
「言葉で止める...。それで貴方が止まるのならいくらでも付き合います。でも、貴方達はあたし達のことを殺したいぐらい憎いのでしょ。憎んでいるあたし達に可哀想だね、辛かったねって、言われても嬉しくないでしょ?寧ろ殺したくなるだけだよね?違う?あたし達からの労りの言葉で満足をしてくれるますか?それでこの暴動をやめてくれますか?」
乱舞からの問いに"弱き者"達は何も言えなくなる。
「そうだよね...止まらないよね...だから......」
「貴方達と同じ立場だったけど、無事に過ごしている人達の声を流します。それで...この暴動の件を...少しでも考え直してください。貴方達が思っている程、現実はそんなに悪くないものだよ」
泣いている子供をあやすように言いながら、乱舞は携帯を取り出す。
「聞いて!皆の声を!!」
マイクを携帯に向ける。
誰がどれだけ否定しても、立ち直れた人がいる限り、世界を信じて動き続ける。良い方向に向かうと信じて。