「他の世界.........?」
根津の出だしに怒り狂っていた"弱き者"は放心をし、絶対王者のように余裕を持っていたAFOはアホ面を晒す。他のヒーロー達も拍子抜けて突っ立っていた。
「............"個性"が無くなってただの鼠に戻ったのか?」
『そう言いたくなる気持ちは分かるよ。けど、これは本当のことなんだ』
AFOが呆れ果てていたが、根津はAFOの状態を気にも止めずに話を進める。
彼らの様子を一々気にしていたら、一生話が進まないからだ。
「私達のことを話すことは別に構わないにゃ。けど!この方法は...!」
『ウィズさんの言いたいことは分かる。それでもやるしかない。彼らの親玉であるAFOを言い負かすのにはこれしか方法はないんだ。AFOを言い負かせなければ、この事件を止めたとしても、解決したことにはならないんだ。それとね...この常識を壊さなければ幸せにはなれない』
ウィズの言葉を遮って静かに力強く言い切る根津。電話越しからでも彼の気迫が、覚悟が、伝わる程だった。
そこで魔法使いは根津の決意に応える為、話に乗ることにする。
「分かった。でも、どうやって信じさせるの?」
『簡単だよ。君の使っているカードは何か話す時があるのだろう?それを利用するんだ。証人はオールマイトとエンデヴァー。No.1とNo.2の発言力はかなり強いから大丈夫さ。それに......AFOにも手伝って貰うから』
根津の言い分に一理あった。
この世界ではヒーローが全てと言っても過言ではない。そんな世界で頂点を取ったNo.1とそのNo.2の発言力は強いのは確かだ。また、カードが話すのも事実である。話す内容によっては異世界特有の単語もあり、そこをつけば良い。とはいえ、AFOが手伝ってくれる保証はないのだが...。
「.........えっ?僕にも......!?」
『当たり前だよ。公平に話を進めたいのなら、君にも頑張って貰わないと。君が持っている"個性"の中には嘘か真実かを見破れる"個性"があっても可笑しくはない。勿論、無かったら無理強いはしないさ』
「......そういった"個性"は有るが...」
素の状態であった為、思わず答えてしまうAFO。
気が抜けているAFOをチャンスと言わんばかりに、根津は畳み掛ける。
『なら出来るね。まさか...出来ないの?あれだけ啖呵を切ったのに?魔法使いのことを絵本主義と、馬鹿にしたのだから、話し合いなんて余裕だよね?それとも......論破されるのが怖くて出来ない...そんな訳は...ないよね?』
放心状態のAFOを挑発する。
怒りによりAFOは素に戻る。怒りに囚われることもなく、余裕を持って対応をする。
「良いだろう......。君達の話、最後まで付き合ってあげようではないか」
「では、これより、審議を開始する」
全てを消し去るような眩い白い光が、AFOの掌に集まり、その掌を魔法使い、ウィズ、オールマイト、エンデヴァーに向ける。
『ちょっと待って』
"個性"を使って何かする前に根津が止める。
「君達が願った通りにしているのに、まだ文句があるのかい」
『当たり前だ。これを機に、話し合いが終わったとしても、"個性"を使って動けなくするのだろう。そのようなことはさせないさ』
「おやおや...。早速絵本主義をやめてしまったようだね。敵(ヴィラン)のことを無下にして...」
『無下にはしていないよ。ただ信用をしていないだけ。それに...いくら絵本主義で、元敵(ヴィラン)とかを許していたとしても、信用を勝ち取るまでは普通に疑うからね』
おどけるように口撃をするAFOを軽くあしらう根津。
根津が来てからというもの、形勢が逆転をしようとしていた。その流れを終わらせない為にも、魔法使いとウィズは言い争う前に決断をする。
「......はぁ...やれやれだにゃ。本当はこのやり方は嫌だけど仕方ないにゃ...。私が皆を代表をして受けるにゃ」
「いや、ボクが受けるよ」
「君達が受けるのか!!?相手はあのAFOなんだぞ!信じてはいかん!!」
魔法使いとウィズの決断に大反対をするオールマイト。
魔法使いは安心させるように笑って答える。
「皆がいるから何があっても大丈夫だよ。それに...驚きすぎて何も出来ないと思うから」
魔法使いの挑戦的な言葉にAFOは更に黙ってはいられなくなる。
「いつまでその軽口を叩けるのやら......。精々みっともなく足掻けばいい。『饒舌』+『審判』+『罰』」
オールマイトが止めようとしてきたが、魔法使いが防護障壁を張って拒む。
魔法使いとオールマイトがやり取りしている間にも、容赦なくAFOの"個性"が魔法使いとウィズに降り懸かる。白い光は魔法使いとウィズの頭から爪先まで包み込むと、何事もなかったかのように消える。
「その"個性"は僕のお気に入りでね、よく尋問をする時に使うんだ。君達はその"個性"の影響でお喋りとなり、聞かれたことには全て返事をすることになる。勿論、嘘をつくのかは君達の自由。その代わり...嘘をつけば想像を絶する程の痛みが君達を襲う。怖ければやめても良いんだよ」
「怖くはないよ。嘘をつく気はないからね。そんなことよりも...大人しく捕まった方がいい。この話を聞けば皆、心が壊れてしまう!」
AFOの挑発に乗らず、魔法使いは大人しくすることを再度進める。魔法使いもウィズと同様、この方法は一番やってはいけないことだと分かっていた。だから、最後の話し合いが始まる前に必死になって止めようとする。
だが、返ってきた答えは、吹雪のように冷たく何もかも否定をするようなものだった。
「心が壊れる!!?はぁあ!!?今まで私達の心を壊していたくせに!!今更何!善人ぶって!!!」
「そうですよ。今更寝言を言わないで下さい。貴方方ヒーローが、今まで人の心を気にしたことがありまして?」
「貴方達に捕まるぐらいなら、死んだ方がましです」
「そうだそうだ!!」
「やっぱり嘘がつくのが嫌で説得をするのかい?無駄だよ。僕の"個性"からは逃げられない。さて早速、尋問を始め...」
『ちょっと待て。僕からも言いたいことがある』
魔法使いの説得が失敗に終わった時、根津が急に話に割り込んでくる。
「......いい加減にしてくれないかな。僕は、君達の我が儘に応えてあげているのに、これ以上何を求めるんだ?」
『我が儘もこれで最後さ。"個性"を持っているのか、持っていないのかどうかは、僕が決めさせてほしいのさ』
「.........?何を言っている。なんでそんなことを決めなければならないのだ?異能の力は例外なく全て、"個性"だ」
『いいから僕の言う通りにしてほしい。証拠として...試しに......黒猫の魔法使いに対して、君は"個性"を持っていますか?と、質問をすれば良い。そうすれば僕の言いたいことが分かるさ!』
「.........は?......はあ?君は僕のことを馬鹿にしているのかい?」
『馬鹿にはしていないよ。僕の言っていることが正しいかどうかは、君が質問をして確かめればいい』
暫くの間、誰も動かず黙っていたが、痺れを切らしたAFOから動き出す。
おちょくられていると勘違いをしたAFOは、全ての鬱憤を晴らすかのように魔法使いに問い掛ける。
「黒猫の魔法使い!君は"個性"を持っているか!!」
AFOからの問いに魔法使いは覚悟を決めて、AFOの目を真正面から受け止めてしっかりと答える。
「ボクは......"無個性"だ!」
「..................はい.........?」
AFOの腑抜けた声だけが溢れる。
怒りで暴走をしている"弱き者"達も、味方である他のヒーロー達も、電話越しで話をしていた人達も、この場面を見ている人達も皆、呆気に取られる。シリアスな空気が一変とし、出来事全てが茶番な喜劇のような雰囲気となる。
「............僕の聞き間違いかな?.........僕も大分いい歳だからね......。もう一度言ってくれないかい?」
「"個性"は持っていない。"無個性"だ」
「......ふざけるのも大概にしてくれないかい。この状況を分かっている?」
「ふざけてはいない。自分は"無個性"だ」
「僕達を馬鹿にしているのか?」
「していない」
「.....................付ける"個性"を間違えたのかな......。ああきっとそうだ、そうに違いない。歳を取るのは本当に嫌なもんだねえ.........。『饒舌』+『審判』+『罰』」
魔法使いとのやり取りにAFOは頭を抱える。
気を取り直すと腕を伸ばして"個性"を繰り出す。白い光が再度魔法使いとウィズを包み込む。
「では...今度こそ......ふざけないで貰おうか...。黒猫の魔法使い、君の"個性"は一体なんだ?」
AFOからの問いに魔法使いはある決断をする。
「ボクは......"個性"を持って...??!!!!」
「キキ!大丈夫にゃ!!?しっかりするにゃ!!」
「魔法使い!」
魔法使いが嘘を付いた瞬間、耐え難い痛みが襲い掛かる。ウィズとオールマイトの心配した叫びが何度も聞こえてくるが、返事をする余裕もない。
爪を剥ぎ取られ、舌を引き抜かれ、骨を折られ、焼鏝を押し付けられ、溺れて呼吸が出来なくなったような痛みが同時に襲い掛かってくる。
あまりの痛みに魔法使いは、叫ぶことも出来ずにのたうち回る。猛烈な吐き気と頭が割れるような頭痛を覚えていたが、その痛みさえも忘れてしまう程の強烈な痛みで、常人であれば死んでしまっても可笑しくない程だった。
身体中の擦り傷を作りながら、弱々しく立ち上がる魔法使い。そんな魔法使いをウィズが叱る。
「キキ!無茶は駄目にゃ!!」
「ごめんなさい。けど......ここまでしないと、話が進まないと思ったから」
"個性"の発動のタイミングにAFOは驚きを隠すことも出来ず、公衆の面前で阿保面を醸す。今までのAFOの態度からではあり得ないことだった。
「なっ......!!??!!そんな馬鹿な!!"個性"の発動のタイミングが可笑しすぎる!普通逆ではないのか!!!」
『本当に可笑しいよね。でも、だからこそ、彼女達が異世界人だと証明が出来るのさ。というか...黒猫の魔法使いの"個性"を見て、強すぎると思わなかったのかい?攻撃も、防御も、味方を強くすることも、回復さえも出来ることも。君でさえも回復出来る"個性"を持ってはいないのに。可笑しいと疑問を感じることはなかったのかい?』
根津はAFOが取り乱したタイミングで話し掛け、最後の一押しを押す。
「そ...それは......」
『"個性"をいっぱい持っている君なら、この異常さを分かってくれるよね。頭が追い付けないと言われても、君達が認めてくれないと話は進まないんだ。そのお気に入りの"個性"を信じて、彼女達が異世界人だと認めたらどうだい』
「..............馬鹿馬鹿しいが......信じる他は無さそうだ.........」
AFOがやっと魔法使い達が異世界人だと認める。
AFOが認めたことにより"弱き者"達は戸惑う。何か言いたそうであったが、自分達のボスが認めた以上、黙って従っていた。
「......だからといって、信じるにはまだ弱い。他にも証拠はないのかね?」
AFOの要望に魔法使いは自信満々にカードを取り出す。
取り出したカードに魔力を込めてマイクを向ける。
「あなたにはいつも世話になってるわね、魔法使い。異界から来てくれたのがあなたで良かったって思うわ、ホント」
「異界とは面白いものだ。教えてくれたまえよ、貴君のおすすめはどの異界かな?」
「カムラナがどうしてあなたを呼んだのか、私もその理由は知りませんが、本当に、あなたで良かったと思います!」
「色んな異界に行ったからには、色んな料理を食べてきたんでしょう?思い出深いものはある?…『ダークサンブラッド』?それ、食べ物の名前?」
「別の世界にいてもね、あなたとのつながり、ずっと感じてるよ。ありがとう」
「ありとしある全ての異界が平和でありますように。生きとし生ける者全てが幸せでありますように」
「魔界のひと達に会いたくなることはあるけど、魔界に帰りたいとは思わないかも。苛酷な世界だからね」
「108もの異界があるとは驚きですね。それだけ異界があったら、私のような人間が他にいてもおかしくなさそうです」
「いて欲しくないんですけど」
カードから男女の声が流れる。
話す内容は異世界があること、別の世界から来たことを示しており、認めざるを得ないものだった。普通だったら質問責めになる筈なのだが、理解が追い付かない為に誰もが黙る。
『......まあ...と言う訳で......"個性"があるかどうかは僕が決めさせて貰うよ。力があるかどうかは、この話にあまり意味はない関係ないから良いよね。では...話を始めようか。先ずは...一番始めに話し出した少女の居る世界にしようか』
根津は軽く咳払いをする。
この場を支配していると言っても過言ではなかった。
『一人目の少女...その少女の名はルミスフィレス。彼女は人間ではなく妖精だ』
『彼女達が住んでいる世界には独自の言葉がいっぱいある。今は......フェアリーコード、吸血鬼、コードイーター。この言葉だけが重要さ』
「フェアリー......コード.........。フェアリーは妖精って分かるけど、コードは一体何?コードイーターも何?」
一番始めに我に返った舞梓が尋ねる。
驚きすぎて呆けてしまっていたのだが、どんな人とも仲良く出来る人達の話が聞きたくて気力で立ち直る。
『フェアリーコード、それは...人や動物などの心があるものが織り成す音色』
「.........??.........何それ?」
『そうだね......なんて言うか......その...ルミスフィレス達の居る世界は、音でできた世界であり、フェアリーコードはそんな世界を守る為の音なんだ』
「音で......できた.........世界............」
また理解出来なくて呆然とする舞梓。
根津はそんな舞梓を労りながら話を続ける。
『そのぐらいの認識で良いよ。で...ここからが本題なんだけど...そのフェアリーコードを壊す為に生まれてきた存在が吸血鬼。別名コードイーターさ』
「......そうなんだ...。けど、それが何と関係あるの?」
「そうだよな......。その吸血鬼、コードイーターが敵で、倒したと言う話なんだろ......」
舞梓の質問に天意が呟く。
「殺したと言う話だけでしょ」
「世界を壊す存在なんだろ?だったら、倒して終わったのだろ。やはりヒーローとしても、放置する訳にはいかないし...」
天意に続いて正気に戻った他の人達も意見を述べる。皆々が倒したとしか考えておらず、魔法使いとウィズはそんな彼らに怒りを覚える。
怒った魔法使いは、怒りと悪しき常識を吹き飛ばすように、息を吸い込んでから叫び出す。
「全然違う!!」
「そうだにゃ!全然違うにゃ!!」
「はあ?全然違うって何が!?」
「世界を壊す存在なら、殺されて当然ではないのか?」
「じゃあ...殺さない以外の方法があったのか?」
「それはあり得ません。少しの違いで差別するのが人間ですから...。それにこの場合は殺して正解なんでしょう」
魔法使いとウィズの怒りに他の人達はきょとんとする。
「ほう...全然違うと...。何が違うのかい?教えてくれないか。君達の話ではどうせ、彼は迫害されて、辛い日々を過ごし、その後に真の仲間に出会って立ち直る。そんな下らないお涙頂戴な話なんだろ。それと何が違うんだ」
復活したAFOが面白そうに問い掛ける。彼もまた殺されている、又はオアシスの人達と同じ結末だと思っていた。
仲間の存在を否定されて、魔法使いは怒りに支配されてしまいそうになるが、その怒りをマイクにぶつける。
「彼はそういった生まれだけど悪さなんかしていない!普通に生きている!その力を使って仲間と一緒に戦ったり、ファミレスに集まって話をしたりして仲がいいんだ!」
「「「「.........えっ......?えーーー!!??!!」」」」
魔法使いの返事に絶叫をする一同。
その音量に負けないぐらい、今度はウィズが言い返す。
「そうだにゃ!皆と仲良く過ごしているにゃ!!君達みたいに肩書きだけで批判しないにゃ!大体、根津が悪さしたって一言でも言ったのかにゃ?!」
『ウィズさんの言う通り、僕は一言も、彼が悪さをしたなんて一言も言ってはいないよ。そういった存在が居ると言っただけさ。なのに君達は、早とちりをして勝手に、悪い存在だと決め付ける。駄目じゃないか。同じ世界の住人の方が、よっぽど人間としてできているよ。彼が世界を壊す為に生まれた存在だと知らされた時、かなり驚いていたけど、その後は何事もなかったかのように接していたのだからね』
『ねえ、ヒーローの君達、偏見で決め付ける君達はヒーローなのかい?彼の正体を知って普段通り接している人達の中には、女子高生、男子高生、OLといった、一般人として過ごしている人達も居るんだよ。それなのに...君達は...人を守る仕事のことを本当に分かっているのかい!!』
根津の問いにヒーローは黙り、その様子を"弱き者"達は嘲笑おうとしたが、根津は隙を与えなかった。
『君達も君達だ。君達もこの世間を変える為に、僕達のことを殺す割には、君達が嫌っているヒーロー達の考えと何一つ変わらないのではないか!それでは世間は変わらない!!変えたいのなら、異世界の人達と同じように、自分達が出来ていないと意味ないじゃない!その様な考え方の時点で、一生この世間の考え方を変えることは出来ないんだ!!』
根津の言い分に"弱き者"達は我を忘れて怒り狂う。
「何よ!!私達は被害者なのよ!!この考えに囚われても仕方ないじゃない!!!」
「そうですよ!!私達の考えは貴方方のせいで変わらないのですよ!元を辿れば貴方方の責任です!!」
「責任転嫁をしないで下さい!!!」
「俺達のせいにしているんだよ!!」
『その考え方が僕達のせいだとしても、この話は他の世界の人達の話なんだよ。他の世界の人達は君達を傷付けたことはないし、会ったことすらもない。だから君達の考えを押し付けるのは大分失礼だよ。ちゃんと出来ているのに。それに...僕は始めに言ったよね。この世界では出来なくて、他の世界では出来ていると。せめて君達と関係ない所ではその考え方をやめるんだ。でないと、一緒になってしまうよ。それで良いの?』
根津の返しに俯いてしまう"弱き者"達。
根津は大きな溜め息をつく。
『......まだ一人目の時点でもうこれなんだね...。まだ一応本題に入っていないのだけどなあ......。疲れるのだけど......これ、ちょっと、話を進めるのはかなりきついなあ...。しかもこの手のタイプはそれなりに居るのに...。君達の為に話をまとめると、この手のタイプの場合の反応は一緒になって驚いて、その後は何事もなかったかのように受け入れる。皆そんな感じだ。じゃあ...話に戻ろうか』
『その彼には娘が居た。その娘が先程言った...自分力のせいで母親を殺してしまった少女だ。では...問題。この少女はこの後どうなってしまったのでしょうか?』
根津の質問に誰も答えない。
『そうだよね。分からないよね。答えはね......』
『娘も何事もなかったかのように受け入れた。娘がやらかしたことを知っていても。今度は暴走をしないと信じて』
「嘘だ!!」
『本当のことさ。ねえ、黒猫の魔法使い、ウィズ』
「うん、そうだ」
「そうだにゃ」
魔法使いとウィズは、泣いて必死に否定する男性の目を真正面から見て肯定をする。
「嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ!!絶対に嘘だーーー!!!!!」
彼は今までカメラマンとして黙っていたようだが、自分と似たような境遇なのにも関わらず、受け入れられている少女に嫉妬のあまり壊れてしまっていた。
彼は一言も自分の境遇を語ってはいないのだが、その壊れて叫び続ける様子から誰の目にも分かる程だった。
彼だけではなく、舞梓の携帯からも女性の啜り泣く声が聞こえてくる。
「こうなると分かっていたからやりたくなかったにゃ...」
ウィズの呟きに魔法使いは首を振る。
どうして二人がこうなると分かっていた理由は、緑谷の態度だった。
緑谷はヒーローになって人を救いたい。けど、常識に囚われていた。そのことに腹を立てた魔法使いが問答無用で語り出した。その結果......
緑谷は異世界の話を聞く度に、そっぽを向いたり直ぐ様耳を塞ぐようになってしまった。
特に"無個性"が"個性"持ちに戦う話には拒絶反応を見せる程だった。緑谷曰く、自分が何も努力をしてこなかったと否定されているようで、嫌になるらしい。魔法使いとウィズがそのことを否定している訳ではないと、何度も言っても理解してはくれなかった。とはいえ、必要な時は問答無用で話すが......。
その経験から事態がこうなると予測していた。
だから、拒絶されると分かっていても、最後まで降伏をするように頼み込んだのだ。
魔法使いとウィズが考え込んでいると、嫉妬で壊れた男性が指を指して叫び出す。
「そうだ...!!証拠は!!!証拠はどこにある!!証拠が無ければ、俺は信じないぞ!!!!!」
魔法使いを彼を悲しそうに見詰めながら、カードを取り出して魔力を込める。
「ユリカには、背負わせない」
男性の声がマイクによって広く鳴り響く。
「これが証拠だよ」
「何をだ!何を背負わせないんだ!!!」
「...お母さんを...殺してしまったことについてにゃ」
「それだけが証拠なんて...!!」
『カードではそれだけかもしれないけど...敵の手によって暴れさせられてしまった後、娘に抱き付いてごめんね、ユリカって謝ったりしていたよ。......まだまだ色々とあるけれど......聞く?』
どれだけ言っても聞き入れられない男性に追い討ちを掛ける根津。本人は反論をしているだけのつもりなのだが、端から見ればとどめを刺しているようだった。
反論された男性は涙を流しながら狂ったように笑う。
その様子を見て根津は提案をする。
『ちょっと、落ち着くまで...休憩をしようか』