黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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45話 神野区事件10

根津の電話が切れてヒーロー達に動揺が走る。特に魔法使い、ウィズ、オールマイトは取り乱す。

 

「......えっ...?!電話が切れた!?彼に何をした!」

 

「一体何をしたのにゃ!」

 

「オール...フォー...ワーーン!!貴様ぁああああ!!!」

 

魔法使い、ウィズ、オールマイトに責められてもAFOは白々しい態度を...取っていた訳でもなく、本当に知らないようだった。彼も予想外の出来事に少し首を傾げていた。

 

「いやいや...僕は何もしてはいないよ。彼らが勝手にやっただけさ。"弱き者"達を怒らせることを言った彼が悪い」

 

「君の仕業ではなくて..."弱き者"達が勝手にやったと言うこと?」

 

「ああ、そう言うことさ」

 

嘘を付いている様子はなかった。とは言え、AFOの仕業ではないとしても、根津が危険な目に遭っていることは変わりない。魔法使いは根津を助け出そうと後ろを振り返るが、後ろには不安を隠しきれないヒーロー達がこちらの様子を伺っていた。

焦っている魔法使いにウィズは耳元で囁く。

 

「彼は助けを求めていなかった。だから、大丈夫にゃ。私達は彼を信じて、やるべきことを終わらせるにゃ」

 

伝え終えたウィズは、何事も無かったかのように話し出す。

 

「怒らせることを言ったと言われても...君達の質問に答えただけだにゃ」

 

「質問に答えた...ほう...。ではその答え方が悪かったのではないのか?」

 

「答え方が悪いと言われても事実を言っただけにゃ。本当に厳しい言い方だったら、私はもっと厳しい言い方をするにゃ」

 

ウィズの回答に"弱き者"達は鬼のような形相で睨み付けているが、ウィズは気にも止めずにAFOを睨み続ける。

 

「そう...。この話はここまでにしよう。本題に戻ろうではないか...」

 

根津の話をそこら辺に捨てるように切り捨て、AFOはウィズと魔法使いを睨み返す。

 

「フェアリーコード...メアレス...ガーディアン...審判獣...どれも意味不明な話なのだが...結局...どれも......」

 

 

「この世界と全然違う世界の話ではないじゃないか。これでは参考になりはしない」

 

AFOの反論にヒーロー達の勢いはなくなり、"弱き者"達は活気を取り戻す。

 

「ヒーローと敵(ヴィラン)...どんな暴力も正当化するヒーロー...一度でも悪さをしたら言われ続けるヴィラン...。そんな格差を作った世界に、君達の出会った人達のような人間性を持った人なんて......」

 

 

「いる!この世界と似たような世界でも、君達が望んでいるような人達は存在している!」

 

場が悪い方向に盛り上がっていたが、魔法使いは平然と自分が旅してきた冒険談を割り込んで語る。

 

「これは...アレイシア...ヴァンガードがいる世界の話」

 

場が騒然となっていても、話を聞く状態でなかったとしても、魔法使いは語り続ける。

 

 

 

 

 

「その世界にもヒーロー、敵(ヴィラン)がいる。けど、その世界には"個性"はない。代わりに、異能の力を持っている者を神話還り(ミュータント)と呼んでいる」

 

「ミュータント...また新しい単語か......。で、ミュータントとは一体何かね?」

 

もう驚くことはなかった。彼らは驚くことに疲れ果ててしまい、考えることを放棄していた。

 

「神話還り(ミュータント)は神話還りのことにゃ」

 

「......次は神話か......。で...その神話は僕達が分かるものか?」

 

「分かるものか?と聞かれても...」

 

「神の名を言え。そうしなければ、僕達に伝わることはない」

 

「......アレス、ハデス、ディオニソス、ポセイドン、アポロン、アフロディテ、アテナ、ヘパイストス、ゼウス、プロメテウス、ヘルメスとか...」

 

「.........ああ...成る程......異世界にもギリシャ神話があるのか......。その異世界はギリシャ神話に因んだ力を持っているのか......。とは言え、神話は作り話だ。だが......その神話の神の名を借り、神の力を自称しているなんて...とんでもない連中なんだね」

 

「とんでもない連中?!」

 

AFOの棘のある言葉に魔法使いとウィズは怒りを感じる前に、驚きすぎて思考が停止してしまう。

 

「ああ...常識を知らない黒猫の魔法使いとウィズ、君達に常識を教えてあげよう。良いかい、自分を神と偽ると言うことは...人々を騙し、金を巻き上げ、悪い方向に導く、ペテン師の教祖様って訳だ。大体......」

 

 

「神は存在していない。もし神と言うものが存在していたら、ここに苦しんでいる人達も、これから苦しむ人達も存在しなくなる。絵空事の誰かの心を救うヒーローの名を使っても、誰かを救えないどころか、誰かを傷付ける君達が、全てを救う神の名を名乗るのは...酷く傲慢だと思わないのか?皆もそう思うよね?」

 

AFOの問いに"弱き者"達は首がもげる程の勢いで頷く。

 

「ええ、先生の言う通りです」

 

「ああ、そうだ!お前達みたいな屑が!神なんて名乗るな!反吐が出る!!」

 

「......ぉぇ!まじで吐き気してきたわ......」

 

「あんた達みたいな存在が!神を名乗るなんて図々しいにも程があるわ!とんだ罰当たりね!いくらいない存在だからって、いい気になるのも限度があるわ!」

 

「誰も救えていねぇのに、神を名乗るは馬鹿じゃねえの?!!」

 

「ちょっと待って!この世界のヒーローとアレイシア達を一緒にするな!それに!神は...」

 

魔法使いの抗議の声も罵詈雑言に呑まれて掻き消される。その様子をAFOは愉快そうに眺めながら、手を叩いて止めに入る。

 

「まあまあ、君達。これ以上本当のことを言うのは可哀想だから止めてあげようではないか!クックッ......。で...話を本題に戻すが...この世界のヒーローと...君が必死に庇う、そのアレイシアとやらが何が違うのか、僕達にも分かりやすく教えて貰おうかね」

 

罵倒を止めた"弱き者"達はAFOと一緒になって嘲笑う。魔法使いとウィズは直ぐ様反論しそうになったが、彼らの信じない"神様"の話は避けては通れない道、話す時が来るまで黙っていよう、と一先ず二人は口を噤む。

AFOは状況を楽しみながら主導権を握る。

 

「では...先ず...この世界、そちらの似たような世界...明確な違いはなんだ?」

 

AFOの言われてなくても、魔法使いはアレイシア達がいる世界の違いを、この世界の可笑しな点をあげたい気持ちでいっぱいだ。

AFOの質問に魔法使いは溢れ感情のままに力強く応える。

 

「あっちの世界は!ここの世界と違って!ヒーローと敵(ヴィラン)の戦いを観戦したりしない!見世物にしない!」

 

「力の相性で逃げることはない!」

 

「敵(ヴィラン)になってしまっても!社会復帰が出来る!昔敵(ヴィラン)だからって......」

 

「「いやいや!あいつらは駄目だろう!!」」

 

オールマイトとエンデヴァーのの声が重なる。

オールマイト達の失言にヒーロー達は困惑をし、No.1とNo.2の失態にAFOは笑顔になり、魔法使い、ウィズ、"弱き者"達は怒りで二人を睨み付ける。特に"弱き者"達は視線で人を殺すものであった。

 

周囲の人達がどれだけ騒いでいても、二人には気にする余裕がなく、ただ己の考えをぶちまける。

 

「プロメトリックは復讐で人々を神々の戦争に巻き込もうとした!それに...あいつが居なければ...!!あの世界は混乱に陥ることはなかったんだ!」

 

「こいつと同じ考えは癪だが...プロメトリックといい...ヘルメスといい...こいつらは駄目だろう。特にヘルメスに関しては、見過ごしたことにより、神々が襲い掛かって来るかもしれんのに...全く...お人好し過ぎて正気ではなないな...」

 

二人の言葉に皆は唖然となり言葉を失うが、魔法使いだけはオールマイトを睨み付ける。

 

「部外者が文句を言うな!現地の人達が許しているから良いじゃないか!例え...パンテレイモンが神話還り(ミュータント)が生み出したせいで、社会に混乱を招いたとしても...それは力を悪用している人達が悪いのであって、パンテレイモンが悪いわけではない!」

 

エンデヴァーにも同じ行動を取る。

 

「人と神が戦うことはそれなりにあるから平気。それに、あっちの世界は力の相性で逃げたりしないから大丈夫!そもそも、メルクリアは嫌々やらされていて被害者だったんだ!」

 

魔法使いの敵(ヴィラン)を庇ったことよりも、AFO達は神様が本当にいることに気を取られていた。

 

「えっ......人々を神々の戦争に巻き込もうとした.........?本当に...神が......存在したと言うのか......」

 

「この世界に存在しているのか分からないけど、神は存在をしているのにゃ。君達が考える全てを救う神も、道を間違ってしまう神も、人々に危害を加える神も、色々な神が存在をしているのにゃ。もし...私達が嘘をついているのなら、今頃AFOの"個性"の効果で苦しんでいるにゃ。私達が平然と話をしているこの姿こそが、何よりも証拠なのにゃ」

 

魔法使いとウィズの様子を探り、苦しんでいないと分かってから、ウィズの言葉を信じてAFO達は正気に戻る。

 

「......神がいることは認めます...。話を戻しましょう...」

 

バーテンダーの格好をした女性が話を仕切り出す。

 

「貴女方は......元敵(ヴィラン)でも、社会復帰が出来て、酷い目に遭ってはいないと、仰っておりましたが......ですが!前の生活には戻れていないでしょう!その子供だって!誰にも気付かれない軽い虐めが絶対にある筈です!そこはどうなのですか!!?」

 

捲し立て聞いてくるバーテンダーの格好をした女性。

必死に話を聞き出そうとする彼女の姿は、異世界の人間であろうとも、似たような境遇の人の身を案じているようであった。

 

魔法使いは必死に尋ねる女性を安心させる為、優しく柔らかな笑みで語り掛ける。

 

「パンテレイモンの場合しか知らないけど、彼は事件を起こした後も、同じ職場で働いている。ジャスティス・カーニバルと言う...プロヒーローが行う英雄の体育祭みたいなものがあるけれど....そこで彼は、自分の好きなヒーロー、アレイシアの応援団長をしていたよ」

 

「えっ.........?世の中に混乱を招いた人が......普通に生活をしている.........?!そんなこと!あり得ません!!証拠はどこにあるのですか!!?」

 

嘘かどうかは、魔法使いの様子を一目見れば明白なのだが、取り乱している女性の頭はそこまで回らなかった。

魔法使いは信じてもらう為証拠の台詞を流す。

 

「申し訳ありませんが邪魔をしないでいただきたい!今の私は応援団長、アレスちゃんの応援に命を懸けているのです」

 

応援に全力を尽くしている男性の声が木霊する。

 

「敵(ヴィラン)になっても...職を...失わない......?だったら......私は......私は......!!なんで!嫌がらせを受けなければならなかったのですか!!?私は悪さをしていないのに!!叩かれて...!暴言を吐かれて...!存在すらも否定されて...!私は...!私が...!!一体何を悪さをしたと言うのですか!!私と彼はどこが違うのですか!!?誰か...!誰か......!教えてよ!!!」

 

男性の台詞で正気を取り戻せた代わりに、圧倒的な差に絶望をしてその場で泣き崩れる。

悲痛な叫びが現場を包み込む。誰もが女性に同情をしている最中、AFOだけは見向きもせずに話を進める。

 

「ふーん...。で、君達は、他のパターンを知らないと...。そんな希少なパターンで勝ったつもり?馬鹿馬鹿しい。結局、人の苦しみとか、差別に興味ないから、自分達の周りで起きたことしか知らないんだね」

 

「人の苦しみに興味ない?!それはお前だろ!大体、あの世界には少ししかいられなかったけど、こっちの世界よりは幸せそうだった!苦しんでいる人に寄り添うのは当たり前だけど、だからと言って、むやみやたらに人の過去を聞くのは違う!相手の様子を見ながら......」

 

「僕が人の苦しみに興味がない?それは違うよ。もし、僕が人の苦しみに興味がなかったら、彼らを放置していたさ。君も僕のせいにして......」

 

「じゃあ!なんで!?"弱き者"達は今も泣いているの!!?」

 

魔法使いはAFOの言葉を遮って否定をする。

証拠なら目の前にあるから。

 

「本当に救われているのならば!他人を怨み続けたりしない!他人を妬んだりしない!救われていないから、自分と同じ立場の人にさえも辛辣になるんだ!本当に救われているのならば......」

 

 

「過去を気にせず、前を向いて、笑って過ごす!これが出来ていない限り、救われてたとは言わせない!」

 

魔法使いは過去の冒険を振り返る。

どの異世界の住民も、自分の知りたくなかった事実に落ち込んで、絶望をし、自暴自棄になって暴れてしまうこともあった。それでも、自分の頭で考え、現実と向き合い、支えてくれる仲間と立ち向かう。そうやって、自分の正体を受け入れ、自分だけの道を選び、仲間と共に笑い合う日々を送る。

 

立ち直れた姿を何度も見てきたからこそ、それが出来なければ、魔法使いやウィズにとっては救われたとは認めない。

 

「......で...言いたいことはそれだけ?君は偉そうに言っているけど、出来ていない君が言える立場でないのは分かる?」

 

「分かっている。だけど...!諦めたりはしない!」

 

自分の非を認めながらも諦めない魔法使い。

強い眼差しで見つめ返す魔法使いにAFOは苛立ちを覚える。

 

「でも...君さ......僕達を止める方法って結局、暴力なんだろ?それが...正しいやり方かな?僕は違うと思う!ヒーローならば力で解決をせずに!話し合いで解決するべきではないのか?」

 

「さっきから話し合いで解決を求めているけど...力で解決をしようとしているのは君達もだよ。傷付けられたからと言って、誰かを傷付けていい理由には言い訳にはならない。それと...戦いで何も解決はしないと思われているけど......」

 

 

「戦いで解決した件もあるんだよ」

 

魔法使いは全員の目を見据える。

 

「皆が戦いで解決したとは言えない。けれど、戦いで解決した人達もいっぱいいるんだ。リヴェータ、ルドヴィカ、キワム、レッジ、ユリカ...本の一例なんだけど......」

 

「えっ!?ちょっと待って!ユリカちゃんの話って...戦う必要があったの!?あの言葉は本心だったのでしょ?!」

 

事情を知らない人達は舞梓と同じ反応を取っていた。

この世界ではリレイ達の言葉は百点満点以上ものであり、戦いという展開は絶対にあり得ないものだと思っていたからだ。

 

「皆が思っている通り、あの言葉は紛れもない本音だ。だからこそ、力試しとして、スニェグーラチカは戦いを挑んだんだ。本当の意味でユリカを守れるかを確認する為に」

 

「戦いで解決することが駄目じゃないにゃ。戦っても本音を語れず、相手の気持ちが理解出来ず、本質を分かろうともしないから、こんなことになってしまうのにゃ!逆に言えば、本音でぶつかり合い、相手の気持ちを理解し、本質を知ろうとすれば、戦いでも解決出来るのにゃ!」

 

ウィズが戦いを肯定をする。

今までの流れに逆らった内容に敵も味方も面食らう。結局、一番やってはいけない暴力に辿り着いてしまった。

それでも、魔法使いとウィズの経験上、戦いが傷付けるだけではないと知っているから、二人は時には必要なものだと認容をする。

 

「君達の本当の気持ちを...教えてくれないか?」

 

「その質問は...戦いの合図のつもりなのかね?」

 

「言葉で教えてくれないのなら...」

 

「言葉で語るのをすぐ諦めるとは...なんだかんだ言って、暴力が好きなんだね君達は!そんな君達の想いに応えてあげようではないか!」

 

AFOの嘲笑と共に、これまでの鬱憤を溜め込んでいた"弱き者"達は武器を構える。

 

話し合いは平行線で終わり、戦いの火蓋を切られるのであった。

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