話し合いからいつの間にか時間が過ぎ、群青色の光が真っ暗な夜空を塗り替えようとする。その光はまるで、新たな時代の幕開けの合図のようであった。
戦いを告げる鐘を鳴らす必要もなく、信念と想いを胸に、各自武器を構え、両者一斉に走り出す。
土煙が舞い、真っ向からぶつかり合う。ヒーローとAFO、魔法使いと"弱き者"。運命に導かれるままに、因縁が続いている者、因縁が生まれた者同士激突する。
新たな時代を決める戦いが、今、始まる。
「あああぁぁぁ!」
長年に亘って受けた苦しみ、社会への恨みを込めた一撃が魔法使いの背後を襲う。
これ程恨まれているのは悲痛な過去、可哀想な存在である自分達を否定されたからである。
魔法使いが冒険談を語るまでは"弱き者"は被害者でいられた。誰もが心の叫びに共感をし、反論をする者は悪となり、どのような罪でも許されるものになっていた。
けれど、魔法使いが語ったことにより、その価値観は全て否定されてしまう。
存在意義を決められ、道具として生まれたリフィル、ソウヤとユリカ、キワムを含めたガーディアン。最愛の人を奪われても、堕ちることもなく、愛する人が住んでいた世界を守るレッジ。いがみ合い、憎しみを募らせて戦争が起きていたが、積年の恨みを水に流して手を取り合ったリュオンとイスカ。
実例はこれだけではなく、他の世界にも似たような人達にもそれなりに存在をしている。例え、異世界の話だ!と否定しようとしても、彼らもまた"弱き者"と同じ心に痛みを負った同じ人間であることには変わりない。彼らが過去を理由に悪さをしないで真っ当に生きている限り、こちらもまた過去を理由に悪さをしてはいけない。
それを突き付けられたからこそ、"弱き者"達は怒り狂う。
振り下ろされたメカニックな大剣を躱し、すれ違いざまに赤毛の女性と目が合う。
燃えるような赤い髪と同じ赤い瞳は憎悪に染まっていた。
「あんたさえいなければ...!いなければ!!私達の勝ち同然だったのよ!それを壊しやがって!この外道め!私達の幸せを奪いやがって!!あいつらの無様な姿を潰しやがって!!私達の為と思うなら!ヒーローを殺させろ!!この社会を壊させろ!!この偽善者めが!!!」
四方八方から来る攻撃を躱し、防御障壁を展開しながら、魔法使いは赤毛の女性を見据える。
怒り、憎しみ、恨みに囚われ、我武者羅に剣を振り回す姿は目的の為に一直線だった。傍から見ても迷いは無いように思わせる。けれども...魔法使いからすれば......。
芯が抜けて、暗い感情に流され、空虚で何もかも空っぽな姿。
魔法使いとウィズにはそんな風にしか見えなかった。
この戦いで芯になっていたものを取り戻さなければいけない、と魔法使いとウィズは心の中で誓う。
全ての攻撃を往なした後、魔法使いは"弱き者達に"問う。
「君達が誰かを恨む前の望んでいた幸せは一体、どんなものだったの?」
一瞬静まるが、すぐにまた怒号が飛び出す。
「過去のことを訊いてどうする?!」
「そんなの!あんた達のせいで忘れてしまったわ!」
「知っていてもお前に教える義理はない!!」
「そう...だったら......」
「思い出させてみせる!」
「やれるもんならやってみろ!」
カメラマンに徹していた金髪の男性が放った銃弾を放つ。直ぐ様防御障壁を展開して防ぎ言葉を投げ掛ける。
「君達の幸せは社会を壊さないとなれないものなのか?」
「ああ!そうだ!お前達がいるから幸せになれないんだよ!!」
「なんで?」
「はぁあ!!?お前!話を聞いていなかったのか!!?お前達が俺達を否定するからだろうが!!!」
話を聞いていないような質問に、"弱き者"達は怒り狂い攻撃を止めて怒鳴り散らし、攻撃もより一層に激しさが増す。その怒声は耳を塞ぎたくなる程の罵倒であったが、魔法使いは全ての言葉を聞いて問い掛け続ける。
「それって...この世界住む全員にやられたの?」
「当たり前だ!」
「それは違うと思うにゃ」
より一層酷くなる罵詈雑言を無視してウィズは語る。
「もし君達の言う通りであれば、自殺する人はもっと多いだろうし、昔敵(ヴィラン)だった人は社会復帰出来ない筈にゃ」
「うるさい!!数が少なければ私達はどうなってもいいってことなの!!?」
「そうは言っていないにゃ!!全員ではないと言いたいだけにゃ!」
「お前みたいなチート野郎には分かんないと思うけどな!!存在そのものを否定されたり!夢を否定されるとなあ!苦しくて!虚しくて!生きることが辛くなるんだぞ!!!」
新たに参戦してきた一人の男性が魂の叫び。
その叫びに他の"弱き者"達は頷いているが、魔法使いとウィズは真顔になる。二人の変化に気が付くことはなく互いに慰め合う。いつまで経っても終わらなそうな様子に、魔法使いから話を切り出す。
「存在を否定されても、力強く生きている生きている人達はそれなりにいる。夢を否定された人は一人しか知らないけど、その人も新しい夢を探すんだ、と笑顔で話していたよ」
騒ぎがぴたっと一瞬にして収まる。
存在を否定された人がいることは話で察していたが、夢を否定されていた人もいるとは思っていなかったからだ。
「しかもその人が住んでいる世界は、捨てられた夢が実体化するロストメアがいる世界。その人ミリィは、ロストメアと戦うメアレスで、ロストメアの強さや厄介性を知っている。なんなら、いつか自分の捨てた夢と戦う可能性もある。それでも、ミリィは、前を向いて新しい夢を持つことを決めたんだ」
「何度でも言うにゃ。どんな理由があるにせよ、悪いことはいけないのにゃ」
怖くなる程静かに話を聞く"弱き者"達。
彼らの様子を固唾を呑んで見守っていると、赤毛の女性の肩がわなわなと震える。魔法使いとウィズが身構えるのと同時に、赤毛の女性の感情が爆発する。
「大体!!異世界がそんなに素晴らしいのなら!!異世界の真似事をさせれば良いじゃない!!!私達が住んでいる世界と似たのもあったのに!その世界の真似事をさせなかった!!あんたはその時点で同罪なのよ!!幸せな社会を知っていながらあんたは何もしなかった!この役立たず!暴力主義者!悪魔よりも血も涙もない外道女!私達を見殺しにしたあんたなんか腐った社会と共に死ぬがいい!!!」
感情の爆発を切っ掛けに再度猛攻が始まる。
銃、"個性"による遠距離攻撃が雨霰のように降り注ぐ。攻撃を躱す余裕はなく、防御障壁を更に強化して攻撃を受け止めながら訳を語る。
「似た世界の真似事をしたって、人間性は真似出来ないよ。それに...あの世界を真似たら......」
「君達を殺さないといけなくなるかもしれないから」
苦虫を噛み潰したよう顔で、かつてあった出来事を告げる。
衝撃的な発言に"弱き者"達は立ち止まり、武器を落とす音が疎らに響く。
「.........えっ......?嘘だろ......」
「本当だよ」
「つまんない冗談はよしてよ!!」
「冗談じゃないにゃ。気を失っている敵(ヴィラン)に対して、ヴィランの息の根を止めろ、と言われたことがあったにゃ」
ウィズも同じ顔をして同意する。
「そんなの......」
「ありかよ!!!」
「だ、だって!神々との戦争を巻き込もうとした奴が...普通に生活をしているんだろう!!?奴と比べたら、俺達のやっていることは可愛いもんじゃねぇか!!大体!こんなことになったのはお前達のせいなんだ!!お前達が死ぬのは当然だが!!俺達は関係ない!!寧ろ被害者なんだ!!!なのに!何故殺さなければならんのだ!!!」
「それが、あの世界のルールだから」
無情に、無慈悲に、魔法使いはきっぱりと言い放つ。
"弱き者"達が狼狽える最中でも話は容赦なく続く。
「どんな罪でも、事情があったとしても、ルールを破った者は罰を受ける。例え罪が軽いものだとしても、改心したとしても、ルール通りに裁かれる。......殺すことさえもあるんだ......」
「しかもあの世界は、厳しいのは敵(ヴィラン)だけではないにゃ。ヒーローにも厳しいにゃ。この世界のヒーローは"個性"を自由に使えるけど、あっちの世界のヒーローは力制限されているにゃ」
ウィズの一言でざわめきが止まる。また新しい衝撃の事実に頭がついていけなくなったようだ。
市民の安全を守る点から、ヒーローは、使用禁止されている"個性"を自由に使える許可を貰っている。危険なものでもあるが、それと同時に、防衛手段として最も有効な手段として認められていた。そんな"個性"を封じることは阿保同然であり、愚か者以下の行為であった。
「そのせいで大きい敵(ヴィラン)が暴れていてもすぐに出動出来なかったり、英雄省に連絡取れなくて神器(パンドラ)の使用許可をもらおうとしていた最中に負けてしまったアポロンⅥ。大きな事件がこれだけあっても、制限は今も続いている。制限の内容は地区によっては違うけど、速度制限、跳躍制限、飛行制限とか色々あるんだ」
「ただでさえ相性によって逃げているのに、制限を掛けてしまったら、救える者も救えなくなってしまうにゃ。だから知っていても真似しようという案は出なかったにゃ」
「リレイ達のいる世界は基本的に知られていないから参考にならないし...。他にも、この世界の似たような文明の世界がもう一つあるけど...その世界は敵と戦うと言ってもじゃれ合いみたいなものだし...なんならやり過ぎて味方側から怒られたり...なんて言うか、なんで戦っているのか分からない程仲良いから、その世界も参考にならないだよね」
呆気に取られて瞬き一つも動かせなくなる"弱き者"達。
力の相性で逃げず、どんな大物敵(ヴィラン)も許してくれる夢の楽園は、ルールによって雁字搦めに縛られた誰にでも厳しい世界でしかなかった。価値観に囚われるのか、ルールに縛られるのか、どちらを選んでも辛い出来事が待っていた。代案として他の二つの似た世界を真似したところで、不思議な存在は認知されていなかったり、戦う理由が思い付かない程敵味方が仲が良いなど、全然当てにならないものだった。
「............極端すぎるだろ......」
誰かの本音が木霊する。
何度目かの木霊で正気を取り戻した赤毛の女性は、固まっていた口を無理矢理動かして叫ぶ。
「ばっ...!ばっかじゃないの!!!」
赤毛の女性の感想に"弱き者"達は正気を取り戻す。
各々武器を拾ったり、独り言を呟いたり、近くにいる人同士で話し出したりして事態の収拾がつかなくなる。
魔法使いとウィズがどうしようか?と、悩んでいると赤毛の女性が二人に向かって指を指す。
「アポロンなんちゃらとか知らないけど!ルールに縛られ過ぎて馬鹿じゃないの!!?そんなにルールに縛られていたら!人なんて助けられないわよ!!現に!大型敵(ヴィラン)が暴れていても戦えなかったようだし!!やっぱり!どの世界のヒーローも!人を助ける気なんてないみたいね!!!」
勝ち誇った笑みで責める赤毛の女性。でも、その顔は涙目になっていた。
更に文句を続けようとするが、魔法使いは割り込んで文句を中断させる。彼らが問題視している点は言われてなくても対策を行っている。それを証明する為に、魔法使いとウィズがいなくなった後のあの日の話を語る。
「人々を守るにや、ルールを守っているだけでは足りねえ。ぶち破って先に行くヤツが必要だ。...と大きい敵(ヴィラン)が暴れた日、ゾエルの考えでヴァンガード隊が生まれたんだ。ヴァンガードは先駆者という意味を持つらしく、その意味に因んで、いざという時にルールに縛られない部隊を作り上げたんだ」
「...............いざという時にか.........。結局、その部隊もルールに縛られているじゃん。まあ、そんな調子じゃあ碌に使えそうにもないけどな......俺達にとってはどうでもいいけど......。っていうかなんで、あっちの世界のヒーローはそんなに制限掛けているんだ?」
「神話還り(ミュータント)が生まれたばかりの頃、敵(ヴィラン)が暴れた被害よりも、ヒーローの方が被害を出してしまったらしいから」
「ふーん......ほんと!ヒーローは存在自体厄災みたいなもんだな!」
得意気に馬鹿にする男性。
魔法使いとウィズは反論をしたくなるが、今言っても聞く耳を持たないことは明白であった為、黙って男性の言葉を聞くしか出来なかった。嬉しそうに笑っていても次第に飽きてきたのか、自ら話題を変える。
「ということは...あっちの世界の市民も、俺達と同じ、使用禁止なのか......」
「そうだよ。あっちの世界の市民も使用禁止だよ。只し、身を守る為に力を使うことは認められている」
「身を守る為なら認められている...。......つまり!正当防衛なら認められるのか?!!」
「うん、認められているよ。それでも...まあ...一度正当防衛なのか調べる為に捕まってしまうけどね」
口を全開まで開けて叫ぶ男性。男性の驚きぶりに魔法使いとウィズは苦笑いになる。
男性だけではなく、他の"弱き者"達も男性と同じように驚いていた。"個性"の使用禁止による不満なのか、それともヒーローへの不信感によるものなのか、または両方によるものなのかは魔法使いとウィズには判断出来なかった。
「おい!お前!!」
魔法使いとウィズが考え込んでいると別の男性から指を指される。何?と尋ねる前に話は進む。
「他の世界は許されているのに!俺達の世界では正当防衛すら許されていないなんて!お前は可笑しいと思わなかったのか!?変えなきゃいけないと思わなかったのか!?お前は自由に使える立場だから!文句はないだろうけどな!俺達はな!役に立たないヒーローどもに命を預けないといけないんだぞ!!そこんところ分かっているのか!!?」
「分かっていたよ!だから何度も可笑しいと訴え掛けたよ!けれども!ボクが訴え掛ける度に関係ない人達が傷付けれられてしまうんだ!」
「関係ない人達が傷付けれられた?そんなもんは!世界を変える為の必要な犠牲だ!」
再度攻撃が始まる。
怒りで顔を真っ赤にした男性が瓦礫の双剣で斬り掛かる。魔法使いは避けずに電撃で反撃をする。雷撃で双剣は壊れ、痺れて動けなくなった男性はそのまま地面に転んで倒れ込む。魔法使いは親の敵を見付けたかのように倒れた男性を睨む。
「心の傷の痛みを知っているのに!他人の痛みは気にしないなんて...どうかしているよ!」
「俺達が他人の痛みを気にしない!?はぁあ!?お前達が擁護しているあいつらだって俺達を見捨てていた!あいつらも同罪だ!」
無防備な魔法使いを狙い、倒れた込んでいる男性を助ける為、コオロギ風の男性が蹴り掛かる。魔法使いは屈んで避ける。
「君達だってユリカの存在を否定したくせに!もし、本当に差別をしない人だったら!リレイ達のように!世界を壊してしまうかもしれない存在だって認められる筈だ!」
「あれは論外だ!」
蹴りが不発に終わった男性は追撃をせず、倒れ込んだ男性を抱えて離脱する。コオロギ風の男性が離れたのを見計らうと銃撃、"個性"による攻撃が土砂降りのように降り注ぐ。防御障壁を展開する余裕もなく、走って攻撃を切り抜ける。
「論外ではない!君達が言う、差別をしない人達はどんなことでも受け入れる人のことでしょうが!」
破壊音に負けない程の大声で叫ぶ。
攻撃が届く前に走り抜け、瓦礫を楯にし、屈んで避けていく。攻撃が当たらないことにイライラした"弱き者"達はただ我武者羅に攻撃をする。銃弾が切れ、"個性"の使用に限界がきたのか攻撃が止まる。魔法使いもこれを機にカードを構え息を整える。一瞬たりとも目を逸らさずに睨み合う魔法使いと"弱き者"達。暫く睨み合っていた。ずっと動きがなかったウィズの口が開く。
「もし...君達の中で......」
「考え方が少しでも違う人が出たらどうするのにゃ?」
ウィズの可笑しな質問に面食らう"弱き者"達。魔法使いも意図を理解出来なくて首を傾げる。
赤毛の女性を始めとした一部の"弱き者"達は、質問に答えずに襲い掛かろうとしたが、万全の状態である魔法使いを見て素直に質問に応える。
「......何が言いたい」
「君達の考えを改めて知りたいのにゃ。で、君達にとっての差別は生まれや"個性"の危険性で判断すること。これが君達にとっての差別、これで合っているのにゃ?」
「まあ...合っているけど......」
「だけど君達は、ちゃんと出来ているリレイ達のことを否定した。それはどうしてなのにゃ?」
「そ、それは...!!相手が規格外過ぎるからよ!大体あの子は!母親を殺し!世界を壊す為に産まれた存在!それを否定して何が悪い!」
「そうだ!あいつと違って俺達は!少し危険な"個性"を持っているだけだ!」
「そうです。私達とあの子を一緒にしないで下さい」
「......はぁ......これでは社会を変えても何も意味ないにゃ......」
「だーかーら!俺達がこんな惨めな考えになったのもあいつらのせいであって!俺達は被害者なんだよ!!」
「.........ねえ......君達はなんで.........嫌いな人達の考えを素直に聞いてしまうの?その価値観のせいで死を選んでしまったのに...。どうして、そんな下らない価値観を捨てないの?」
ウィズも魔法使いも呆れ果てて本音が溢れ落ちる。
隙だらけの魔法使いに、怒り狂った機械の大剣が振り落とされる。慌てて右に転がって避ける魔法使い。その後ろ姿を執拗に追う。
「あんた達には分からないのよ!ずっと否定されてきた人の気持ちが!ずっと否定されているとね!自分の考えなんか持てる訳ないのよ!!!」
「仲間同士で励まし合わなかったのか!?」
「はぁあ!?何言ってるの!?」
魔法使いは口の中に砂が入ることも気にせずに叫ぶ。
すっとんきょうな問い掛けに赤毛の女性の手が止まる。その間に魔法使いは立ち上がり少しでも距離を取る。
「君達と同じ悩みを持っていた人達も、仲間の言葉で立ち直ったきた!これまでの旅の経験では仲間達の言葉で充分であった!君達は同じ目的を持つ仲間と出逢えたのに自分を持っていない。ねえ...仲間同士で励まし合わなかったのか?!」
「励まし合ったわよ!」
「でも君達は立ち直っていないじゃないか!」
「そんなの......ずっと言われ続けられてきたからこうなったのよ!」
「仲間の言葉よりも他人の言葉を大事なのか?!そんなの可笑しいよ!」
「言われっぱなしの気持ちに何が分かる!!あんたみたいなチートは!否定されたことがない奴なんて...」
「ボクだって仲間から考えを否定されたことがある!」
「.........はい?」
思いがけない話に"弱き者"達は呆ける。
呆けてしまった彼らにウィズは、小さい子供に物を教えるように優しく語り掛ける。
「あのね、人には色々な考え方を持っているのにゃ」
「何がしたいのか、何をされて嬉しいのか、何が許せないのか、何が譲れないのか、それは人によって違うのにゃ。例え、同じ仲間同士であっても」
「仲間同士でも考え方が違う、そのことを君達はちゃんと分かっているのにゃ?」
「分かっている!」
「だったらなんで君達は世界中の人達に理解を求めているのにゃ?」
「差別を無くす為だ!」
「確かに差別はいけないことにゃ。でもね君達は、自分達と考え方が違うから、ちゃんと出来ていたリレイ達を否定した。自分達と考え方を違う者を否定する、それも差別ではないのかにゃ?」
無言になる"弱き者"達。
ウィズはそのチャンスを逃さずに一気に畳み掛ける。
「あともう一つ言いたいことがあるにゃ」
「君達は長年言われ続けてしまった故に他者、しかも嫌っている人達の言葉を鵜呑みにしてしまうのにゃ。他人の言葉を鵜呑みにしてしまうくらいなら、励まし合った仲間の言葉を鵜呑みにすればいいのにゃ。だけど君達は仲間の言葉は鵜呑みにしない。なんでなのにゃ?仲間の言葉は信じられないのにゃ?それとも...その人達は仲間ではなくて、ただの赤の他人なのにゃ?それなら納得...」
ウィズが言い切る前に極太のレーザーが放たれる。
極太のレーザーは魔法使いと赤毛の女性の間を通り抜け、遠くのビルを破壊する。レーザーを放った男性の掌から煙が吹いていた。
「違う!ここにいる奴らは皆仲間だ!俺達の悲願である!この腐った社会を壊し!理想の社会を作り上げる為の同士だ!」
男性は今まで以上に声を上げて反論をする。
関係を侮辱されたことが一番の地雷のようで、うっすらと涙が目に浮かび、視線だけで人を殺せるものであったがウィズは視線を逸らずに問い掛ける。
「ならなんで信じてあげないなんだ!」
「そ、それは...仲間達もお前達のせいで自信がなくて...!」
「仲間の言葉を信じることが出来ない、自分で自分を蔑んでいたら、社会を変えることなんて一生懸命出来ないのにゃ!」
長年に渡って行われてきた差別は人々の心を蝕み、当たり前の価値観にし、矛盾点を気付かせさせない。
その当たり前を捨てることが出来ない者は、どんなに良い人であろうが、素晴らしいスローガンを掲げようが、どれだけ同士を集めようが、決して変えることは出来ない。だって変えたい本人達でさえも何も変わっていないのだから。そのことに分かりきっていた魔法使いとウィズは彼らを否定する。
暴れて回りに被害が出すことが出来ても、自分がない羊には何も変えることは出来ない。
魔法使いとウィズの言葉の意味が分からず、"弱き者"達は再び激情にかられて攻撃を始める。
話す言葉は語り終え、戦闘が本格的に始まる。数が多くても多少訓練しただけの"弱き者"、一人でも数々の戦いを乗り越えた魔法使い。結果は目に見えていた。
群青色の光が勝者も敗者も関係なく、全てを優しく照らしていた。