彼女はどこにでもいる普通の女性だった。
「見てみて白部が笑ったわよ」
「ああ、君そっくりの可愛い笑顔だね」
両親に愛され
「姉ちゃん!キャッチボールしようぜ!」
「ええ~べつのあそびがいい~」
「なんのあそびがいいんだよ」
「おままごと!」
「ぜったいにいやだ!」
二つ年下の弟とは喧嘩しながらも仲良く過ごす
よくありふれた家庭に生まれ育ちの女性。幼い頃は明るく人懐っこい、誰に対しても挨拶をする社交的な少女。平凡でどこにであるもの。けれども、確かな幸せを感じながら生きていた。そんな幸せな人生は──
ある日突然崩れ去る。
それは日本でも、海外でも、ある一定の年齢を越えれば誰もが通る道。そう...それは───
「皆さ~ん。ご入学おめでとうございます」
小学校の入学だった。
春、出会いと別れの季節。美しく舞い散る桜の姿はまるで祝福をしているかのように感じさせる。だけど、大人になった白部からすれば、自分とある少女の結末に泣いているようにしか思えなかった。
「私の名前は裂間空子です。二年間よろしくお願いします」
入学式も終わり、主席番号順に指定された席に座ると、担任である年配の女性が張り切って自己紹介を始める。
「え~、ここにいる皆さんはこれから二年間、一緒に学んでいく仲間となります。なのでしっかりと覚えていきましょう」
担任の自己紹介が終われば、今度は生徒達の自己紹介が始まる。
これもまたよくある光景。自己紹介する側の子供達にとっては、わざわざ前に出ないといけない面倒くささと緊張をして上手くいかなくなる嫌な体験であり、見守る大人達にとっては、微笑ましくも成長する為の大きな一歩にもなる大事な場面。互いに考えがすれ違いながらも、ごく普通に行われる自己紹介。
白部も例外なく緊張をしていた。
前に出たらなんて言おうか、冷静に話せるように落ち着かなくては、そんなことを考えながら白部は自分の番を待っていた。
「次は...湖井白部さん。前へ」
「は、はい!」
緊張のあまり声が裏返る白部。
慌てて前に出る後ろ姿を同情の眼差しで見つめる者、意地悪そうにクスクスと嗤う者、ただぼーっと眺めている者。色々な反応を気にする余裕もなく教壇の前に立つ。
「わたしの名まえは、こせいしらべです。"こせい"はかがみです。すきな食べものはオムライス、すきなことは絵をかくこと、よろしくおねがいします!」
ぺこりとお辞儀をして自己紹介が終わる。
拍手の音を聞いて気が楽になった白部は、自分の席に戻って相手の顔と名前を覚えることに専念をする。
緊張が解けてすらすらと覚えていく。
名前と"個性"が連動しているこの世界で、自分の真正面で目が合った人の"個性"が分かる"個性鏡"は、他の誰よりも覚えやすくさせていた。
相手の顔と名前を覚えないといけない為、相手の目が合いやすくなる白部。見られている相手も自己紹介に夢中で気付かない。そもそも、目が合ったとしても、不自然なことではないので相手側も気にしない。
だからこそなのか───
白部の人生、相手の人生をも壊す、悲劇が起きてしまったのは.....
「わたしの名まえは.......です。"こせい"は.....です...よろしくおねがいします...」
その少女は大人しめの少女だったのか、小さく聞き取りづらい声で自己紹介をしていた。
記憶が朧気で曖昧なのは、声が聞こえなかったからではない。辛いトラウマ故に、防御反応として彼女に関する記憶を蓋に閉じたのだ。それでも、炎のように燃える立派な赤毛は強く印象に残す。
この少女にも目と目が合う。
そんな些細な切っ掛けが二人の人生を破滅に誘う。
(あ...この人......)
「"むこせい"だ......」
白部は思わず呟いてしまった。
嘘ついていたことに怒りは感じていなかった。告発する気も指摘する気もなかった。ただ単に珍しい存在、噂でしか聞いたことのない存在を知って、思わず声に出してしまった、それだけのことだった。
七年くらいの人生でも、差別はいけない、"無個性"や異形系の"個性"持ちの人達が苦しんでいる。それぐらいの知識は身に付けていた。また、他人を傷付けてはいけない、と両親からの言い付けを破る気など更々ない。
だから、白部にとって、彼女との関わりは気が合って友達になるのか、もしくは、必要最低限の付き合いになるのかの二択でしかなかった。
この時はまだ、特に問題はなく、赤毛の少女の自己紹介も無事に終わるのであった。
生徒全員が終わると、連絡事項を伝えられ、新入生は帰る時間となる。
白部が配られた教科書、プリントをランドセルにしまっている最中、好奇心旺盛そうな少女に話し掛けられる。
「ねえ、ねえ。"こせいかがみ"ってなあに?」
これもよくある出来事で、聞いただけでは分からない"個性"は質問の対象にされやすい。
慣れている白部は快く質問に答える。
「"こせいかがみ"はね、あい手の目が合った人の"こせい"が分かる"こせい"なんだよ」
「へぇー、そうなんだ。じゃあさ、わたしが"こせい"をいわなくても、どんなものかわかるの?」
「うん、わかるよ」
「それはすごいね!」
「えへへ...」
キラキラとした目で褒めてくる少女に白部は照れる。
自分の体の一部である"個性"を褒められて、嬉しくない者は誰一人もいない。調子に乗ってしまった白部は発動条件、詳細を全て話してしまう。
「そんなこまかいところまでわかるなんて、ほんとにすごーい!ヒーローむきな"こせい"じゃん!」
「そうかな?」
「そうだよ!だって目が合えば、あい手の"こせい"がわかったらゆうりだよ!」
「でも...わかっただけじゃ、たいしょできないよ...。わたしの"こせい"よりも、いちかちゃんの"こせい"のほうがヒーローむきだとおもうよ!だって、どんなときでもはやくはしれるから、こまっている人のもとにはやくいけるもん」
「ほんと!?」
「うん」
「ほんとに、ほんと!?」
「うん、ほんとにすごいとおもっているよ」
「やったー!そういわれたのははじめてだよ!」
喜びすぎて叫び出す一果。
白部が引いていたり、教室中の人達が白部達を凝視しているが、一果は周りの様子を気にせずにその場で飛び跳ね回る。
「えっ...そうなの...?」
「うん、そうなんだよ!わたし、しらべちゃんにいわれるまで、かけっこがとくいなだけな"こせい"だけって、ばかにされていたんだ。ヒーローになれない弱い"こせい"って、いわれつづけていたんだ。でも!しらべちゃんがそういってくれてうれしいよ!」
だからあんなに喜んでいたんだ、と白部は一人納得をする。馬鹿にされるのは"無個性"だけではないんだと、汚い社会の一面を知ることになった白部。
同情と助けたい気持ちが重なってある提案を出す。
「わたしの"こせい"で...いちかちゃんのゆめ...手だすけしようか...?」
「えっ......」
突拍子もない言い分に一果の興奮が冷めていく。
呆然としている一果を見て怒らせてしまったと、勘違いをした白部は急いで話の補足する。
「あ、あのね!ちがうの!いちかちゃんが、わたしの"こせい"を、くわしくわかる"こせい"ってほめてくれたことがうれしくて!どこをどうすればいいのか、アドバイスできるかなっておもったの!テレビで見たのだけど、ヒーローどうしでアドバイスをしながらつよくなるっていっていたからそれで!」
一果は不安がっている白部の手を取って喜びの姿を示す。
「ううん!すごくうれしいよ!」
「ほんと!?」
「うん!」
「ありがとう」
「いちかちゃん、もしよかったら、友だちになろうよ!」
「うん!」
手を取り合いながら喜び合う二人。二人だけの世界で小さな友情が生まれる。
「わたしも、しらべちゃんがこまっているときは、力になるよ!」
「ありがとう!これからたすけあっていこうね!ねえ...やくそくとして...ゆびきりをしない?」
「うん!しよう!そうしよう!」
小指を絡ませて約束を交わす白部と一果。
互いを支え合うと決めた美しい友情。永遠にずっと続くのだろうと、約束を交わした白部と一果、その様子を見ていたクラスメイト、保護者、担任。誰もが信じて疑わなかった。
けれども...そんな友情は───
呆気なく壊れてしまう。
異変は次の日に起きていた。
仲良くなった白部と一果は、早速朝の登校を一緒にする。他愛もない話で盛り上がり、いつまでもこんな日々が続くと思っていたのだが、教室の扉を開けた時にはもう始まっていた。
「や~い、うそつき女!"むこせい"はあっちいけ!」
「そうだ!そうだ!"むこせい"きんがうつるんだよ!」
「"むこせい"は学校にくんなよな!」
数人の男子生徒が寄ってたかって暴言を吐き、赤毛の少女を虐めていた。
この酷すぎる光景に白部や一果、先に来ていた他のクラスメイトの思考が追い付かず、止めることも出来ずにその場に固まってしまう。
「ねえ......これって...いじめだよね...?なんで...こんなことがおきているの......?」
「わたしにもさっぱりわからないよ...。それに..........さんの"こせい"は.....で..."むこせい"ではないはずよ......」
虐めもそうなのだが、意味不明な発言がより拍車を掛けて事態を混乱させる。
しかしながら、白部には、違う意味で強い衝撃を受ける。
(どうして......)
(あの人が"むこせい"だとバレてしまったの?)
確かに秘密を暴いてしまったが、あくまでも暴いただけなのであって、決して言いふらしてはいない。家族には話してしまっていても、担任やクラスメイトは勿論、新しいお友達の一果にも言ってはいない。
「とりあえず......先生をよぼう。わたしたちじゃ何もできないから...」
「そうだね...」
二人は急いで先生を呼びに行く為に背を向ける。
だから、気が付かなかった──
虐めている男子生徒の中に、白部と主席番号が近い男子生徒がいることを。
「何をやっているのですか!」
白部と一果に呼ばれた担任は血相を変えてやって来る。
現場を押さえられた男子生徒達は顔を青ざめたり、恐怖で固まって動けなくなったり、逃げようとして後退りをする。けど、ある男子生徒だけは違った。
「あ...あいつが...あいつが!"むこせい"だといっていたんだ!!」
なんと白部まで道連れにしようとする。
指を指された白部、隣にいる一果とクラスメイト、被害者の少女は驚きすぎて呆然となり、担任は怒りを通り越して呆れ返る。
「......何馬鹿なことを言っているのですか!金属君!湖井さんは!貴方達の愚かな行為を止める為に、私を呼んだのですよ!金属君の言う通り、湖井さんが犯人でしたら、私を呼んだりする訳がないでしょうが!!」
男子生徒の悪あがきは担任の怒りを更に買い、一果、女子生徒中心のクラスメイトの人達から冷ややかな視線を浴びせられていた。
それでも男子生徒の往生際が悪く諦めなかった。
「じゃ、じゃあ!なんでおれたちがあいつ.......を!"むこせい"だとわかったとおもっているんだ!あいつ!こせいがいっていたんだ!おまえらだってきいていただろ!きのう、あいつはじぶんで、"こせい"がわかる"こせい"だって!はなしていただろ!」
「あっ!そのはなしぼくもきいた!」
「いっていたね...」
「おれもきいた」
「ぼくもきいた」
「でも...!....さんがいじめられていたとき、こせいさんはいなかったよ!」
「そうよ!あのときいなかった人がどうやっていじめるのよ!」
「いじめっ子だったら先生をよばないわ!」
疑い始めるラスメイトも出てきたが、一果や女子生徒達が擁護をする。
「いい加減に......」
懲りない男子生徒に担任は手を出すような勢いで声を上げようとするが、往生際が悪すぎる男子生徒は声を荒げて話を無理やり戻す。
「きのうあいつはいっていたんだ!"むこせい"...の!....のじこしょうかいがおわったときに!あいつは"むこせい"だっていっていたんだぞ!おまえだけにげるのはゆるさないからな!」
男子生徒に指を指された白部の元に視線が集まる。
皆の視線、勝手に悪者扱いをされ巻き込まれた動揺と、"言った""呟いた"の違いが分からない白部の頭の中はぐちゃぐちゃとなり、何も言えなくなって黙り込んでしまう。
「......湖井さん...。本当に貴女が...彼に伝えてしまったのですか?」
担任が優しく問い掛けをしても答えられない白部。
言ってしまったのは事実。誰かに伝える気がなくても伝わってしまった以上罪悪感を感じる。でも、だからと言って悪者扱いされるのは納得出来ない。だが、言い訳は思い付かなかった。
長い沈黙が肯定とみなされ担任は声色を変える。
「そう...分かりました...。湖井さん!貴女も謝りなさい!」
「えっ...なんで...」
理不尽だと感じた白部は思ったことを声に出してしまった。
怒りに支配されていた担任は、白部にも虐めていた男子生徒と同じくらい怒鳴る。
「何を言っているのですか!貴女が言わなければ!....さんが虐められることはありませんでした!こんなことになったのは!貴女にも責任があります!謝りなさい!湖井白部!」
担任の剣幕に気圧された白部は、言われるがままに虐められていた女子生徒に平謝りをする。
「ご...ごめんなさい......」
その態度が気に食わなかった赤毛の少女は白部をずっと睨み付けていた。男子生徒特に金属は、自分達のことを棚に上げてニヤニヤと意地悪な笑みを白部に向けていた。だが、担任はそれを見逃さない。
「何他人事のように見て笑っているのですか!貴方達が一番悪いのですからね!!貴方達も早く謝りなさい!」
担任に逆らえず金属を含む男子生徒達も渋々謝る。
「.........ごめんなさい......」
平謝りと言えど、暫くの間は虐めが収まったのであった。
けれども、1ヶ月過ぎれば、虐めは担任に見付からないように隠れながら再開される。
存在無視、陰口、罵倒、物を隠されたりゴミ箱に捨てられていたり、バイ菌扱いなど赤毛の少女は理不尽な程酷い扱いを受けていた。そんな彼女をクラスメイト達は怖くて何も言えなかったり、白部のように巻き込まれたくない、"無個性"を蔑む思いから見て見ぬ振りをされていた。白部もまた、ろくに話を聞かずに犯人扱いされた影響で教師に相談する発想が無くなっていた。個人で何度か助けようとしたが、赤毛の少女に睨まれたり拒絶されたせいで何も出来なかった。助けが来ないまま、赤毛の少女は四年間も虐められる生活が続いた。
「......今日は皆様に悲しいお話があります」
白部が五年生になったある日のこと。
一年生の時とは違った担任が泣きながら教壇に立って話す。その様子にクラスメイト達は驚いて、自然と静になり話を聞く体勢に入る。泣いている担任にはクラスメイト達の変化を気付ける余裕はなく、ただただ職員室で聞いた出来事を報告する。
「今日...お休みをしていた..........さんが......自宅のマンションの屋上から飛び降りました.........」
赤毛の少女の訃報にクラスメイト達がざわめく。
一番ショックを受けていた白部の耳には担任の言葉も、クラスメイト達から発するざわめきも、外から聞こえてくる雑音も、皆聞こえなくな り自分だけの世界に閉じ籠る。
(私が......私が......"無個性"だと.........口に出してしまったから......こんなことになってしまったの?)
白部の瞳から涙が零れ落ちる。
その涙は懺悔、後悔の涙なのか、純粋に赤毛の少女が亡くなった悲しみによる涙なのか、最後まで分からなかったこの涙は、放課後の見回りの職員が教室に来るまでずっと一人で流れていた。
赤毛の少女の自殺の話はクラス内だけで止まらず、学校中の話題になった。
赤毛の少女が属していたクラスの人達は指を指され、すれ違っただけでひそひそ話をされ、汚物を見るような目で蔑まれる。まるで虐められていた赤毛の少女の姿のようだった。辛い日々に耐えられなくなったクラスメイト達は不登校になったり、中には転校をする者も出ていた。そんな中残った人達はある行動に出る。それは───
犯人捜しだ。
辛くなった彼らは自分達の行いを反省せず、誰かを犯人にして罪を擦り付けようとした。話し合いの末犯人は──
「湖井白部さん。貴女のせいで.......さんがいじめられていたのね」
「えっ......また......私の責任...?」
あの事件以降独りぼっちだった白部。必要な時以外誰にも話し掛けられなかった白部は、驚いてまたしてもあの時のように本音を呟いてしまう。
「そうよ!あんたがあの時言わなければ!....さんの嘘がバレなくて!いじめられずに普通の学校生活を送れていたのよ!みんなあんたの責任なんだからね!!」
「そうだ!そうだ!お前が言わなければこんなことにはならなかったからな!」
「人の秘密を探るなんて最低よ!」
白部の態度にクラスメイト達はキレる。
担任が居ない今止められる人は居らず、ここで「いじめていた人が一番悪いのでしょ!」と言い返すことが出来れば話はすぐに終わるのだが、あの時のことがトラウマになっていた白部は黙って俯くことしか出来ない。
赤毛の少女が飛び降りても、虐めの事件は反省することもなく、誰かに罪を擦り付けることしかしなかった。
不幸中の幸いなことに、白部の虐めは1ヶ月経たない内に終わる。
理由は...赤毛の少女を虐めていた男子生徒五人が...敵(ヴィラン)の手によって無惨なバラバラ死体に変わり、中には臓器を抜かれていたからだ。敵(ヴィラン)のせいとは言え、この事件は罰が当たったと誰もが思い怖くなって止める。
それでも白部の心に深い傷を負うことになった。
赤毛の少女と同じように存在無視、悪口や陰口、バイ菌扱い、私物が隠されたり捨てられる他、"個性"を発動する為の目に向かって石や消しゴムが投げ付けられる。なんとか学校を通えていたが心はぼろぼろになっていた。
嵐のように過ぎ去った、二人の少女の心を壊した虐めは、始めから誰も興味なかったみたいに有耶無耶に終わるだけであった。
その後。中学校を時々休みながらも通い、通信制の高校をなんとか卒業をして大人になった白部。家にずっと居るわけにもいかず、働こうとしたがある問題が発生していた。そうそれは...面接だ。
面接は終わるまで目を合わせる必要はないが、それなりに目を合わせないといけない。目と目を合わせることがトラウマになってパニック状態になる白部には到底無理だった。病院に通っていても治る見込みはなかった。
家族に迷惑をかける後ろめたさ、自分だけ働いていない劣等感、同じ年代の人達がヒーローなどで成功している姿に嫉妬。
色々な感情が白部を苦しめていたが、成人式を迎えた日に起きた出来事が彼女の背中を押す。
働けない代わりに白部は家事を頑張っていた。
朝一番早く起きてポストから新聞や手紙を取りに行ったり、朝食や父と弟のお弁当を作ったり、洗濯物を干したりする。今日も家族の誰よりも早く起きて新聞や手紙を取りに行く。ポストの中に入っていた自分宛の手紙に白部は首を傾げる。しかもその手紙は何故か、送り相手の名前は書いておらず分厚かった。気になった白部はその場で封を開けて読む。
ごめんなさい。
貴女は加害者ではなく、被害者でした。
このお金は好きに...
ぐしゃっと無意識に手紙とお金を握り潰す。
激流のように感情が流れ涙で頬を濡らし、他の人達の迷惑を考えられずに叫ぶ。
「......今さらなんで!なんで!!謝ってくるの!!?あんなことしておいて許されるなんて思っているの!!?私がどれだけ苦しめられたか分かっているの?!こんな手紙一つで許されるなんて思わないで!!あの子はどんな思いでだったのか......絶対に!絶対に!!許さない!!!こんな紙お金ごと...」
お金を捨てようしたが、働いていない白部には勿体なくて捨てるどころか手から放すことさえも出来なかった。
突っ張ることが出来ない自分に、憎き相手の施しを受けてしまった自分に、腹が立ち絶望をした白部は......
「もういや......耐えられないよ......」
誰もいない廃屋のビルの屋上まで走り飛び降りた。