色んな事があったり、気になるニュースの方を観ていたり、ヒロアカでこんな設定有りかなって考えるのに時間がかかりました。
誤字、脱字、疑問点などがあるかもしれませんが、楽しんで読んで頂ければ嬉しいです。
手を引っ張られるままにキキは街の中を走らされていた。走っていく内に建物や人が少なくなっていく。
どれぐらいの間、走っていたのかは分からないが、いつの間にか自然多き場所になっており、辺りには民家と思わしき建物があった。
そして、目の前には、巨大な学校みたいな建物が建っていた。
建物の大きさと比例するかのように庭も広く、庭の周りにはそびえ立つ鉄の柵で囲まれ、目の前にある大きな門が固く閉ざされていた。外との連絡用に小屋が門の近くに設置されており、小屋は人一人分に入るのに少し余裕があるぐらいの大きさだった。
小屋の中には人型の亀がいた。
シュッツと目が合うとその人はニコッと笑い、帽子を軽く上げて挨拶をする。その後、キキと目が合うと一瞬目をぱちくりとしたが、手でポンッと軽く叩くと一人で納得をしだした。キキとウィズに穏やかな笑みを浮かべると歓迎の合図として軽くお辞儀をする。
「これはこれは、シュッツさん。お疲れ様です。お嬢さんも、児童養護施設オアシス東京支部へ、ようこそ」
門番がそう言うと門がゆっくりと独りでに開く。
門が空いた途端、シュッツはキキの腕を掴んで早く入るように急かされる。キキが驚いて辺りを見渡すと、門番は無反応でこういうことはよくあることなのか?とキキは察する。
門が無事に閉まるのを見届けてから歩き出す。
「中々な良さそうな場所だにゃ」
キキとウィズは感嘆な声を上げた。
そこは緑溢れる場所だった。
ただ自然豊かな庭ではなく、草が生えていても歩きやすい長さにカットされ、色とりどりの花が咲き誇っていた。門から建物の位置は遠く、はるか彼方と錯覚してしまう程の距離だった。広大な土地に威厳を感じてしまう程の建物が示す。
巨大な建物、厳重に柵で囲む、それらからここは重要な場所だと物語っていた。
建物に近付くと段々、遊んでいる子供達の声が聞こえてくる。
きちんと整備された道を歩く。途中途中、ここで働く人達と目が合う。笑顔で軽くお辞儀をする者もいれば、じっとこちらを見る者もいる。互いに目が合うが、すぐに目を逸らす。
キキはシュッツの後ろを歩いているが、シュッツはキキのことを気にも留めていなかった。どうやら、それなりに信用してくれたみたいだ。
ウィズは退屈しのぎにシュッツに質問をする。
「そう言えば、児童養護施設って何だにゃ?」
「...そんなことも分からないのか...」
シュッツは呆れ顔で溜め息をつく。
「児童養護施設とは、訳あって身寄りのない子供達の世話をするところだ」
「何だ。教会みたいなもんにゃ」
「そういったことは、クエス=アリアスでは教会がやるんだよ」
キキはウィズの話に少し増補する。
「...ああ、そう言うことか...。単純に言い方が違うだけか...。って!!何、簡単に納得しているんだ私は!」
シュッツはなるほどと納得しそうになるが、立ち止まって首を振り考え直す。顔に手を当てて自分自身に呆れ果てていた。
「ここはよく手入れされているね」
「そうだにゃ。本当によく手入れされているにゃ。ここまでちゃんとしているところは中々ないにゃ。こういうところは人手不足になっていることが多いのににゃ。庭の手入れだけで、もう二~三人見ているにゃ」
シュッツの気を取り直す為にキキとウィズは、少し大袈裟気味の明るい声で話を変えた。
「...ああ。誰が見てもここは綺麗な場所だと思う」
「けど、だからこそ、悲しいんだ」
キキとウィズに向けていた笑顔が、悲しそうな憂い顔になった。
「...それは、どういうことにゃ?」
ウィズは真剣な表情になって追及する。
「国を挙げてとあるプロジェクトを行っている。その一環として、ここ児童養護施設オアシスでは特別プログラムを実施している。その影響により人が必要以上にいる」
「プロジェクト?特別プログラム?」
「随分と大掛かりになっているのにゃ」
「理由は色々あるが敵(ヴィラン)になる人が多いんだ。国が少しでもそういった人達を減らそうとしている。そこで、一番、敵(ヴィラン)になりやすくて分かりやすい理由はお金だ。だから、新しい職場が見付かるまでここで雇って働かせている。それが特別プログラムだ。そうすれば、少なくともお金目的の敵(ヴィラン)を減らすことができる」
「...なるほどにゃ。だからこんなに綺麗なのにゃ。綺麗になればなるほど、犯罪者になる人が多いってことにゃ」
「そう、そういうことだ。綺麗になることは良いことだし、子供達も余計な怪我をしなくて済む。...だが、それほど敵(ヴィラン)が多いんだと嫌でも実感してしやすくなってしまう...」
シュッツはどうしようもない現状に溜め息をついた。
「なるほどそういうことなんだね。ところで、ここで働いている人達はどれぐらいいるの?」
キキはさらに質問をする。
「ここで正式に雇っている人達を”正規”って呼んでいるのだが、三十七人働いている。特別プログラムによって働いている人達を”非正規”と呼んでいて五十四人働いている」
「元々多いんだね」
「ああ、まあな。警備員とか医師とか専門員とかがそれなりの数が必要だからね。敵(ヴィラン)に狙われやすいし。それに、ここでは"個性"の研究もしている」
「何で子供を保護する場所で"個性"の研究をしているのかにゃ?...まさか?!」
ウィズの顔が強張った表情となる。だが、シュッツは笑い飛ばした。
「ワッハハハ。そんな非道なことはしない。ただ、子供達を日頃から観察して異常がないかと調べるだけだ。せいぜいやるとしても、血を少しくらい取る血液検査ぐらいだ」
シュッツは笑い続けるが、キキは気まずくなって謝る。ウィズの頭を軽く押して謝るように催促をする。ウィズもまた気まずくなっていたようですぐに謝った。
「ごめんなさい」
「疑ってごめんにゃ」
「...こういうことは結構言われ馴れているから平気だ。寧ろ、君達みたいに謝ってくれる人は少ない。この施設に研究所がある理由は、子供達の中には"個性"を上手く制御出来ずに、親を殺してしまった子もいる。そういった悲劇を二度と起きないようにする為の研究所なんだ」
シュッツは笑っていたが悲しそうな笑みだった。
キキとウィズの表面上は落ち着いているように見えているが、内心かなり驚いていた。
魔法でも、上手く制御出来なくて暴走してしまった例は聞いたことはあるが、それは大人だけで子供では聞くことはない。普通の子供には暴走する程の力がないからだ。
詳しく聞けなかったが、"個性"とやらは、子供でも強力な力を得てしまうのだろう、とキキとウィズは推測をする。この世界のことを何も知らなくても、一刻も早く研究を進めるべきだと理解をする。
「そんな大事な理由があるのにね...」
余計に罪悪感を感じてキキはシュンとなる。ウィズもかなり罪悪感を感じたようだ。
罪悪感から逃げる為にウィズは話を変える。
「...話を変えるにゃ。さっきのシュッツの話で気になったことがあるにゃ。国の考えとはいえ、元犯罪者をここで働かせても大丈夫なのかにゃ?もし、被害者と加害者が鉢合わせてしまったらどうするのにゃ?」
ウィズはかなり心配をするのだが、対称的にシュッツは
軽い言い方で説明をする。
「ああ、それなら大丈夫だ。そういうことはちゃんと大丈夫かと調べているし、鉢合わせしないようにもしている。それに、これにはちゃんとした訳がある」
「えっ、それってどういうこと?」
シュッツは一呼吸して言う。
「これは、加害者に自分がどれ程罪深いことをしたのかを見せる為だ」
キキとシュッツの歩みが止まり立ち止まった。シュッツは振り替えって話を続ける。
「...いくら、生きる為とはいえ、誰かを傷つけたんだ。どんな理由があったとしても誰かを傷付けてはいけない。そもそも他の道があったのに、敵(ヴィラン)の道を選んだのなら、それ相応の反省が必要となる。...子供達を見れば、自分がこういうことをしたんだと。ここで働いていれば嫌でも解るだろう。それを糧にしてこれからは真っ当に生きていくってな」
「...でも、それだけで反省するもんなのかにゃ?」
「...確かに、反省する人はいると思うけど、皆が皆そうだと思えないな」
キキは今までに敵を思い出す。
事情がある者ならばそれが解決次第に止まってくれるから楽だ。けれども他のタイプは止めるのが難しい。信念がある者の中には自分の中で折り合いをつけてくれるパターンもあるが、大概は達成するまで止まらない。まだこの手の人達は良くて、最悪の場合、誰かが苦しんでいるところを見て喜んだり高笑いする人もいる。
あの女魔道士の笑い声が聞こえてくる。あのような人には一生無理だろう。
キキは考え耽っていたがシュッツは話を続ける。
「反省をしない人は連れてこないさ。何度でも言うけど、ここに連れてくる時は念入りに調べて、犯した罪が軽い人。心の底から反省している人。子供達に悪影響を与えない人とかね。間違っても"個性"を使って人を殺したい、自分の欲のままに暴れた人は連れてこないよ」
「そっか。それなら大丈夫だね」
「まあ、職を見付けてあげるだけでも違うと思うにゃ。...と言うか、何で、そんなに暴れたい奴がいるのかにゃ。人を傷つけるくらいなら、誰かの為に使おうって思わないのかにゃ?」
ウィズは思い切り溜め息をつく。
ウィズの発言にシュッツは優しく微笑んだが、現状を思い出して苦笑いをする。
「...ほんと何でだろうね..。私には分からない。皆が君達のような考え方になると良いのだが...。だけど、"個性"を使って良いのはヒーローになってからだ。一般人の時は駄目だからね」
シュッツはウィズの考え方を誉めた。キキには同じ目線になって優しく叱る。あの時のことは良いことだと認めるのと同時に、二度と危難なことをしないように警告をする。
けど──
キキとウィズにはその考えにかなり納得いかなかった。
「...身を守る為でもにゃ?」
「...駄目だ!」
ウィズの苛立ちが含んだ声にシュッツは驚いたが、直ぐ様に素に戻って叱る。
「ヒーローが来るまで待ってないといけないの?」
キキも反論するかのように質問をする。
「勿論だ!」
シュッツはさらにきつく叱る。
「...それは無理だね。"個性"とやらの相性で戦わなくなるから意味ないし、そんな人達を待つくらいなら自分で戦う方が遥かにマシだ」
キキの冷え冷えとした言い方で否定をする。
シュッツはキキの冷たい雰囲気に圧倒され、呆然としてしまうが、すぐに気を取り直してキキの目をじっと見詰める。暫くしてシュッツは気を引き締めて言う。
「...ああ、そういうことか...。君達がどうしてそのような考えを持った経緯は解らないけど、ここには君と同じ考えを持った人達が沢山いる。子供も大人も関係なく。私もその一人だ。...けど、自覚しているからこそ、一日でもより多くの訓練をしたりして、あらゆる状況に対応出来るようにし、もう二度と起こさないようにと誓っている」
「でも、他の人達はそんなこと気にしていなそうだよ。戦うと自分で決めたわりには、"個性"の相性で戦う相手を決めるんでしょ?それに...ここの人達が気にしていても、他の人達が気を付けていなければ意味はない」
「ああ、君の言う通りだ。...彼らは幸か不幸かそういった事を現場で体験してない故にそれを知らない。だから、相性が悪いから仕方ないって考えるし、ヒーローの数も多いから誰かがやればいいと思っている」
「施設が必要な程被害者が出ているのに、悠長なもんだね。と言うか、そういうことは起きてからでは遅いよ。その後の遺された人達のことを想像出来ないなんて....やっぱり、この世界のヒーローなんて待っていられないよ」
「それも君の言う通りだ。...ところで、何で一般人が勝手に戦闘に参加してはいけない理由は解るかい?」
キキのトゲトゲしい言い方にも、シュッツは一歩たりとも退かなかった。
キキの言っていることは正しく、反論する術がなかったシュッツは別の視点に変えて説得を試みる。話を変えられたキキは怒ることはなく元の口調で話して質問に答えた。
「一般人が戦闘に参加してはいけない理由?それは下手に手を出せば、攻撃の邪魔になったり味方の足を引っ張ったりして迷惑をかけるから」
「そう、その通りだ。...って!分かっているなら、止めなさい!!君が戦わなくたって、プロが代わりに戦う。すぐに信じろとは言わない。けど、もう、君は戦わないでくれ。...だって...君は...あの時の戦いが初めてじゃないんだろう?本来、君みたいな一般人が戦わないといけないと思わせるのが、可笑しいんだ。君達から見たヒーローはとても情けない存在だけど...。それでも私達ヒーローが頑張るから...ね」
怒鳴る程の勢いがあったが、段々と弱くなっていき、か細くなっていた。シュッツは手で顔を覆って声を抑えようとしたが、嗚咽が漏れ涙が見え隠れしていた。弱々しくも必死に説得させようとするその姿はまるで、許しを求める罪人のようだった。
尋常ではその様子にキキとウィズを狼狽え、必死に宥めようとする。
自分達以外にも戦う者が現れる度に、泣いて止めようとして、代わりに立ち上がっても変えられない現実に憤っているのだろう、と直感的に感じ取る。
「別に責めている訳じゃないよ。ただ、出来ていない人がいるから文句を言っているだけだよ。ちゃんとやっている人には文句はないよ」
「そうだにゃ。私達はちゃんとやっている人達には文句はないにゃ。....私達は気づいての通り、戦ったことがあるにゃ。それもかなりの場数を踏んでいるにゃ。私達が戦っているのは現場にいる人達が情けないからではないにゃ。この力、魔法を人の為に、正しく使いたいだけにゃ。だから、泣かなくていいにゃ。自分を責めなくていいにゃ。少なくとも私達は、自分の意思で立ち上がって戦っているにゃ」
かなり慌てていたウィズだが、途中から落ち着いた声で優しくシュッツを諭した。
それでも、シュッツは泣き続けていた。ゆっくりと手を下ろし顔を剥き出して喋り出す。
「...それでも...私は......。...いや、君達はどうして戦っていたことは分かった。けど...不思議だ...。君の"個性"はかなり強力だ。それなのに噂話の一つも聞いたことがない。絶対に目立ってしょうがない筈なのにな...。...やはり、君達は異世界人で、"個性"ではなく魔法...?」
「そうだよ」
「.........信じるしかないのか...?まあ...こればかりは..."個性"検査と記憶を見れば分かるだろう...」
キキのしれっとした言い方に、シュッツの涙は驚きで止まっていた。
強力な力なのに一度も噂を聞いたことがないところから、少しずつ信じ始めたようだ。
「....そう言えば、記憶を見るってどうやって?」
「"個性"だ」
「"個性"って色んなことが出来るんだにゃ。でも、何でそういう人を雇ったのかにゃ?」
「うん、そうだよ。悲惨な事件から運良く生き残った子供から知る為にね。後、ここで、急遽働くことになった非正規の最終確認をする為にもね」
「なるほどにゃ。じゃあ、シュッツは何で泣いていたのかにゃ?」
何となく気付いていたが、ウィズが一番気になったところなので尋ねる。数秒間黙った後にシュッツは意を決したようでゆっくりと語る。
「ここに来る人達の中には、君達と同じ考えを持ち、戦っていた者もいる。...そして、保護された子供達の中には、"個性"の相性で、戦ってくれず見殺しにされた子もいる。...それを知っているからこそ、同じヒーローとして情けないんだ」
予想が当たり、シュッツのげんなりとした姿を見て、キキとウィズは互いに顔を見合せて溜め息をつく。
シュッツはその姿を見て歩き出す。この話もうしたくないようだ。シュッツは二人を置いて行く。
「君達、置いて行くぞ」
シュッツは後ろを振り返って、立ち止まっていることに気が付きキキに向かって叫んだ。キキはゆっくりと後を追う。
「......なんか、この世界可笑し過ぎるにゃ」
歩き出したキキの肩の上で、ウィズは小声でぼやきが出る。キキは何のアクションを起こさなかったが、ウィズと同じ意見だった。
あの後、何事もなかったように建物に向かって歩いていると、遊んでいる子供達とすれ違った。
「あ、くまさんだ!」
「くまさ~ん」
「あそんでーあそんでー」
シュッツは子供達から慕われており、遊びをせがまれていた。軽く高い高いをしてあげたりするが、他の時間が掛かるような遊びはやんわりと断っていた。
「あたらしい人?」
「...ヴィランみたい」
「あー、あの人のかたにねこがのっている!」
「ねこさんだー。かわいい!」
「にゃんにゃんさわらせて」
「今、急いでいるから、無理なんだごめんね」
「むー!さわらせてくれたっていいじゃん!」
「ごめんね」
キキは頬を膨らませる少女を軽くいなした。
歓迎されているシュッツとウィズと違って、キキは子供達から怖がられていた。原因はキキの格好がヴィランに見えるらしく、怖がられて木で身を隠したり、身体を震わせていた。だけどもウィズのお陰で場はなんとか持ち堪える。
(...この格好魔法使いの正式な服装だけど...敵(ヴィラン)扱いしないでほしいな...)
トラウマの影響で何かと思い出しやすく、傷つきやすいのは解るが、流石に敵(ヴィラン)扱いされるのは、納得いかないキキであった。
そんなこんなで建物の前に辿り着く。
建物の前には子供達が二、三十人ぐらいいる。その子達の周りには三人の大人がいた。
大人三人の中でもある女性が一際目立っていた。亜麻色の髪は腰までとどく程長く、ウエディングドレスのように真っ白いメイド服を着た二十代前半の女性。子供達に囲まれた彼女は聖母の様な微笑みを浮かべていた。
その女性がシュッツに気が付くと、こちらに駆け寄って近づいて来る。
「シュッツさん。お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様。花野さん」
「はい、お疲れ様です。...あら、そちらの方は...。初めまして、私は花野 香【はなの かおり】と申します」
女性ー花野香はキキにお辞儀をする。
「こちらこそ、初めまして。キキ・レイラドルです」
「うふふ。御行儀良くていい娘ね」
キキは挨拶をする。その様子に香は嬉しそうに微笑む。
「この娘はさっき保護したんだ。今後どのように対応するのかは決まっていない」
シュッツが説明をすると、香の顔から笑顔が消え視線が地面の方に落ちた。数秒間俯いていたが、元の笑顔に戻してキキを見つめる。
「そうなのね...」
「...今まで本当にお疲れ様。良く頑張ったわね」
香はキキの事を慈愛で満ちた眼で見つめる。
哀れるのではなく、心の底から心配し親身になって考えている。ここに来る者は何かしらの理由で、心に傷を負っている者だと知っている故の行動だ。
子供も大人も訳のある人達が集まる場所故に、心から心配をし無事だと安堵の涙を流す。
過去のことを引きずらせないように、香は笑顔で迎えて褒め称える。
キキには関係ないのだが、説明するのは難しいし、話をしたところで信じてはくれない。けど、今まで色々な出来事があったのは本当のことだから、話を合わせることにする。
「今まで、色々なことがありました。....でも」
「その分楽しかったから大丈夫だよ」
想いが駆け巡り、かつてのことを振り返る。
(...本当に色々な出来事があった。理不尽なことも沢山あったし、いつ死んでもおかしくはないことも沢山あった。...だけど、困っている人達を助けられて良かった。何よりも...色んな人達と出逢えて仲良くなれた。掛け替えのない友達も沢山できた。楽しく過ごせたことも沢山あった。...それだけで充分だ)
キキは笑顔でもなく、目を閉じていただけなのだが、香はその姿を見て安心をする。
確認の為、うっすらと目を開けたキキは心の中で苦笑いをする。そもそも心に傷を負ってここに来たのではなく、行く宛がなくてここに来ただけのことだ。
それでも、心配させてしまったので、安心してくれたところを見てホッと息をつく。
良い雰囲気になっていたところをシュッツは、手をパンパンと叩き壊した。香、キキ、ウィズ、ボーとしていた他の大人と子供達はシュッツを一斉に見る。
「はいはい。良い雰囲気のところを悪いんだけど、その娘にはこれから用事があるもんでね。花野さん、悪いんだけど、先に生かせてくれないか」
「あらまあ、ごめんなさい。急いでいるのに引き留めてしまって...。では、いってらっしゃい。...でも、その前に」
そう言うと香は腕を伸ばして、白いレースの手袋をはめた手でウィズを掴み上げた。
「にゃにゃ!?ちょっ!?放してにゃー!!」
「えっ!ちょっと!?何するんですか!?放して下さい!!」
これにはウィズとキキはかなり驚いた。
納得がいかないキキは全力で抗議をする。キキとウィズがここまで怒る理由が分からない香はきょとんとする。
「あのー...。捨てようとしていませんのよ。本館は動物禁止なもので、裏手にある小屋に連れて行こうとしただけなのですが...。...あら?この猫ちゃん。雄英の根津校長みたいに喋るのですね」
「本当に捨てない?どこか別の場所に連れて行かない?」
「ええ、本当ですわ」
「本当の本当に?」
「ええ、本当の本当にですわ」
不安で念には念を入れて訊くキキに、嫌な顔を一つもせずに応える香。話をボーと聞いていた翼を生えた少年が意地悪そうにニヤッと笑うと話に参加した。
「でも、里親に出しちゃうかもな!」
「それも止めて!!」
涙めになるキキをケタケタと笑う少年。
少年はシュッツから軽く拳骨を食らい、香からはこっぴどく叱られた。
「イッテェー」
「こら!翔太君!人の大切なものでからかうのではありません!!ペットだって大切な家族ですよ!それに里親に出したのは、あの犬ちゃんは家族がいなかったからですのよ!この猫ちゃんには関係のないことですよ!ほら、ちゃんと謝りなさい!!」
「.........ごめんなさい」
少年はばつ悪そうに言うと、居たたまれなくて直ぐにその場から離れてたのであった。
「ごめんなさいね。翔太君が失礼なことを言ってしまって」
香は深く謝った。
「大丈夫だよ。謝ってくれたから気にならないよ」
キキは取り乱したが、謝ったので怒る気持ちはなくなり気にしないようになる。
「そう言ってもらえると有り難いですわ」
二人の会話が終わったところを見届けると、シュッツがすかさず割り込んで先に進むようにと促した。
「済まないね。色々あってあんな感じの子もいるんだ。...さて、悪いんだけど、早く先に行きたいから、その猫を花野さんに預けてくれないか?」
「うん、分かった。香、ウィズのことを宜しくね。ウィズ、また後でね」
「また後でねにゃ」
「えぇ、分かりました。任せて下さい」
「では、行こうか」
「ちょっ!?ちょっと!?にゃーー!尻尾を引っ張らないのにゃ!!変なところを触らないのにゃ!!ちょっと!にゃーー!!」
他の子供達にもみくちゃされるウィズ。
「このねこしゃべるんだ。すごーい」
「まるで、ゆうえいの校長みたいだな」
「お願いだから優しく触ってね!!」
「花野さんに任せたら大丈夫だから。ほら、行くぞ」
「ちょっ!?」
呆れ気味のシュッツにローブを引っ張られて、無理やり連れて行かれるキキであった。
「こらこら、猫ちゃんをちゃんと優しく撫でてあげなさい。良いですね?」
「「はーーい」」
扉を閉める時子供達の声が元気良く鳴り響いた。
屋敷に入ると先ず、大量の下駄箱が目に留まった。その奥には事務室と思われる場所があり、その部屋の中で三十代前半の紫色の髪に鋭い眼の男性が働いていた。
屋敷の中は必要最低限の物しか置いておらず、やはり掃除が行き届き塵一つ落ちていなかった。シュッツは靴を下駄箱に置いてスリッパに履き替え先に進む。紫色の髪の男性と話すとどこかの部屋の鍵を受け取り、キキにも上がるように指示をする。
キキはブーツをどこか邪魔にならないとこに置いておき、用意されたスリッパに履き替えて、屋敷に上がるのであった。
屋敷の中を進んで行くシュッツとキキ。階段を降りるとやけに頑丈な扉の前に着いた。
シュッツが鍵を使って開けると、そこは薬品の臭いが漂う医務室だった。
シュッツとキキを迎えてくれたのは、白衣を着た六十代前半の白髪の男性と、ガトリンが着ていたような服、いわば、ナース服を着た四十代後半の女性。クリーム色の髪の毛をひとつ結びにしている。
男性と女性は予め話を聞いていたみたいで、キキのことを困惑した目で見てくる。
男性が恐る恐るとキキに話し掛ける。
「え、えっーーと、君がキキ・レイラドルかね?」
「うん、そうだけど」
「そ、そうか。私の名前は測定 真太【そくてい しんたい】だ。まあ、そこの椅子に座って気長にしてくれ」
そう言われたキキは背もたれのない黒い丸い椅子に座った。キキが座ると真太は話し出す。
「今から、"個性"を確認する為に足のレントゲンを撮ったり血液検査をする」
「それで解るの?」
「ああ、解るさ。足の小指に関節があるかないか。血を調べることにより”個性因子”があるかないかとね。君には、検査結果が出るまでの間に君が言う”魔法”とやらを見せてもらうよ」
キキが返事をする前にすぐ様検査が始まった。
こことは違う部屋で足の写真を撮られたり、左腕から注射器とやらで血を少量採られた。キキはこれまで味わったことのない痛みに戸惑った。
待っている間キキは彼らに魔法を見せた。
左腕の注射の時にできた小さな傷を回復魔法で治したり、火、氷、雷、白い光、黒い闇を軽く出したたりした。
彼らは見る度に驚き困惑をし、魔法を使う度に険しい表情になっていった。
もっと出来るか?と訊かれ、キキは更に魔法を続ける。身体を強化して部屋のはしに一瞬で移動したり、水や風を発生させたり、煙を発生させて部屋の中を見にくくしたりした。
「これで、一通りかね?」
「うん、大体はね」
「他にも出来るのか?」
「出来ることは出来るけど、複雑な魔法は準備が必要だから今は無理」
ある程度終わった後、真太から質問をされるキキ。
真太は今までのことをノートに書き込むと、更に質問をする。
「"魔法"とやらのデメリットは?」
「魔法は魔力がないと出来ないし、問われた問に正確に答えなければ発動しないし、唱えているからその分時間が掛かって、素早い動きの対処が苦手」
「そ、そうなんだな。では、杞奥さん。宜しく頼む」
「はい。分かりました」
険しい顔をした女性へと担当が代わった。
「初めまして、私の名前は杞奥 響明【きおく きょうめい】と申します。早速ですが、レイラルドさん。私の"個性"で貴女の記憶を見させて頂きます。その際にこの薬を飲んでください。この薬はただの睡眠薬です。毒ではないのでご安心ください。もし、不安でしたら、この薬を飲んだことをある人を今すぐお呼び致しましょう。何か質問をありますか?」
白い丸い錠剤を見せながら、有無を言わせない堅い口調で説明をする響明。
キキは質問をする。
「質問です」
「はい。何でしょう?」
「何で、ボクの記憶を見るのに睡眠薬に必要なんですか?」
「はい。必要です。私が"個性"を使って記憶を見ると、相手にも私の記憶が見られてしまうのです。私の記憶には今まで色んな人達を見てきたので、その人達の記憶が私の頭の片隅に残っているのです。相手方のプライバシーを守る為であります。レイラルドさん、はっきり言って、私どもは貴女のことを信用しておりません。なので、貴女には記憶を見ないように寝ていて下さい。では、納得して頂けたら、そちらのベットに腰を掛け、薬を飲んで寝て下さい」
キキは案内された白い簡素なベットの上に座り、薬と水の入ったコップを受け取ったまま俯いた。
キキはちらっと彼らを見るが、険しい表情でこちらを見るだけだ。
(......はあ...。飲まないといけないみたいだね...。...覚悟を決めるか)
心の中で覚悟を決めたキキは薬を飲んだ。
強力な睡眠薬だったようで、すぐ様暗闇が訪れるのであった。
暫くたつとキキは目を覚ました。
薬の影響で眠たい頭を無理やり動かして、キョロキョロと回りを見渡した。シュッツと真太は起きたキキと目があってかなり戸惑っていた。もう少し先を見れば、キキが座っていた丸い黒い椅子の上にウィズがちょこんと座っていた。
キキはウィズを見て一安心をする。
ウィズはキキが起きたことを確認すると、キキの肩の上に移動した。
「おはようにゃキキ。もう夜だけどにゃ」
「おはようウィズ。大丈夫だった?」
「中々大変だったにゃ。...そんなことより!キキの記憶を見てどうやら、私達のことをやっと信じてくれたみたいだにゃ!...でも、大変だったにゃ。かなり慌てた様子で私を捕まえに来て、息つく間もなく質問攻めされたにゃ...。でも、そのお陰で、私達が元の世界に帰るまでの間、ここに泊まって良いことになったにゃ。生活費も国が出してくれるにゃ。でも、その代わり......」
「ヒーローとして、働いてもらう」
嬉しそうに話すウィズに割り込んだシュッツ。先程の戸惑い顔は消え真剣な表情になっていた。
「すぐには働けないけどね。色々とあるから、...しかし、一つ質問があるのだが...君達が来たってと言うことは......この世界は何か大変なことが起きるのか?」
「必ずしもじゃないけど、大概は何かしらある」
「悪いけど平和だった方が少ないにゃ」
「......そうか...」
シュッツは心底げんなりとした声で言う。
シュッツは自分の気持ちを切り替える為にも、ごほんっと咳払いをする。
「君の魔法は目立ち過ぎる。だから、表向きには"個性"ということにしてもらう。色々と考えた結果。君の"個性"は...他人の力を借りる個性だ。...そして、君は本来に"無個性"だ。ほんと驚いたよ...」
「今度は私が説明する」
真太が話に割り込んでくる。
「キキ・レイラドル。君が"無個性"という結果についてだ。理由は...君の足の小指の関節があったこと。君の身体から"個性因子"が見つからなかったこと。...しかし...面白い。魔法とやらは、魔力が尽きるまで発動出来て、魔力が回復すれば、また発動出来る。それに対して"個性"は"個性因子"は尽きることはないけど、回復することは出来ない。ほんと不思議だ」
「そう言うことだ。後、君にデメリットのことも聞いたのだけど...その結果、デメリットにならな過ぎる。これもヒーローになるまでの間に考えておこう。......まあ、色々なことがあったけど、宜しくな。キキ、ウィズ。私の本名は諸橋 刃【もろはし やいば】。で、シュッツと言う名はヒーロー名だ」
刃はそう言うと右手を差し出した。キキも右手を差し出し握手をする。
「こちらこそ、よろしく」
「よろしくだにゃ」
こうして、一日目にして色んな事があったのだが、この"個性"で成り立つ不思議な異世界での生活に幕が上がるのであった。