黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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50話 湖井白部の過去 その3

復讐を終えた後、着ていたジャージを真麗に渡し、証拠隠滅として白部はシャワーを浴びていた。

シャワーを浴びている最中、ふと気が付く。

 

(......あれ?私......勢いで人殺しちゃったけど......これからどうしよう!?見付かったらどうすれば良いの!!?)

 

不安に襲われた白部は居ても立ってもいられずに、浴室から飛び出して真麗に飛び付くように助けを求める。

 

「どっ、どっ、どっ、どうしよう移動さん!!本当にばれないのこれ!?私これからどうすれば良いの!!?あいつ殺したからって......刑務所に入りたくないよ!!お父さん、お母さん、宇純...家族には迷惑掛けれない!!私...これからどうすれば良いの......」

 

「どうやら、正気を取り戻したようですね。これが悩みが生まれると言うことです。でも、ご安心して下さい。我々の仲間...皆様の集まっている所に行けばそのような不安は消えて失くなります」

 

「本当......?」

 

「はい、本当です。堂々としている皆様の姿を見たり話をしたりすれば、そのような不安は解消されるのでしょう」

 

「だから...私を...そちらで用意した建物に泊まらそうとする...訳?」

 

「ええ、それだけではないのですが、湖井さんの為でもあります」

 

「私の為...?」

 

「はい。今の湖井さんの顔色に出てしまっていますからね。その状態ではいくら言う気がなくても家族、警察、ヒーローにばれてしまいます。本人の意思で裏切るならともかく、言う気がないのに裏切り者扱いされるのは可哀想すぎます。家族と離れるのは寂しいと思いますが、湖井さん自身の為にも、今暫くの間は我々の用意した建物に泊まって下さい」

 

パニック状態になり錯乱している白部の頭を優しく撫でてあやす真麗。

裸の白部にも動じずに、泣き止まない我が子を慰めるかのようにそっと頭を撫で撫でながら、白部が納得するまで声を掛け続けてくれた。

 

 

 

真麗の慰めもあって冷静さを取り戻した白部は、シャワーを再度浴び直してから真麗と向き合う。

恥ずかしさもあってか、手をバタバタと忙しなく動かした後真っ赤に染まった顔を隠す白部。そんな白部と対照的に笑顔を一つも崩さずに対応する真麗。対極的な二人だった。

 

「え、あ、その...お見苦しいところを見せてしまい...大変申し訳ございませんでした!」

 

「いえいえ、こう言うことには慣れているので大丈夫ですよ」

 

相手が本気で気にしていないと言えども、初対面の相手に裸で抱き付いたことに恥じを感じている白部の耳には何も言葉が入らない。

時間だけが過ぎていく。案が思い付かない真麗は空気を変えようとして話を変える。

 

「厄介を掛けたくない家族が居る...それだけで素晴らしいことです。少し...いいえ...とても羨ましいことです」

 

「.........移動さんは......ご家族が......居ないのですか......?」

 

衝撃的なカミングアウトに白部はやっと正気を取り戻す。聞いてはいけないことを思わず口に出してしまった白部は急いで口を塞ぐが、真麗は気にしておらず自ら過去を話し出す。

 

「......産むだけの親でしたら......でも...私には本当の家族なんて存在しません......」

 

「駄目ですわね......。もう過去のことを気にしないと決めたのに...でも大丈夫ですわ。こうして湖井さんや素敵な仲間達と出逢えたのですもの。......他の人達の幸せは認めることは出来ませんが......」

 

どんよりと暗い表情から一気に、ニコッと太陽のように光輝く笑顔で語る真麗の姿は、弱々しい印象をなくさせる。

 

「私...もっと...移動さんと話をしていたいな...。このまま...ここに居ることは出来ないの?」

 

親切な人から離れることや知らない場所に行く不安、もっと真麗と仲良くしたい気持ちから、白部は場所を変えることに忌避したくなっていた。

 

「私も湖井さんと仲良くしたいですし、お気持ちは嬉しいのですが...いくらここに人が来ないと言えども、表向きは普通のバー。会話している姿を見られるだけならともかく、会話の内容を聞かれてしまったらアウトです。大丈夫ですよ、湖井さん、あちらの居る方々は素敵なお方ですからすぐになれますよ」

 

柔らかい物腰の言い方ではあるが、ここに残ることを拒む真麗。

白部はこれ以上は無理だと思い、真麗の話を信じて大人しく引き下がる。

 

「分かりました...。そちらの事情を知らずに、我が儘に言ってしまい申し訳ございません」

 

「いえいえ、私も新しく仲間が出来てとても嬉しいですわ。きっと、近い内に会えると思います。その時までのお別れですから、不安は感じる必要はないはありません」

 

「そうですか...そうですね。私も会える日を楽しみにしておりますね。...ところで、この場所に行くにはどうすれば良いのですか?」

 

「そのことに関しても心配する必要はありません。黒霧さんが指定の場所に連れていって下さります」

 

そう言うと真麗はポケットから携帯を取り出す。

 

『もしもし、黒霧さん?この場所での過程が全て終わりました。なので、彼女、湖井さんをあの場所まで連れていくことをお願い致します。...ええ、十分ほどこのバーで待機ですね。分かりました。彼女にもそのように伝えておきます。後はよろしくお願い致します。はい、失礼致します...』

 

電話を終えた真麗は白部の方を向く。

 

「後十分ほどで黒霧さんがここに着きます。その間に準備を終えておいて下さい」

 

「分かりました。ところで...黒霧さんはとは...一体誰ですか?」

 

「このバーで働いている方の一人ですよ。黒霧さんはこの組織のボスである"先生"の側近の一人です」

 

「この組織のボスの側近の一人...私...そのような偉い人に会うの怖いのですが...」

 

「大丈夫ですよ。黒霧さん、彼はとても物腰の柔らかい方ですから...」

 

「へぇー、そうなんですね。黒霧さんってどんな人だろう...」

 

「名前通りのお方ですよ。思い出して下さい湖井さん。湖井さんは黒霧さんと会ったことがありますよ」

 

「......会ったことがある...?......ああ!あの時の黒いもやの人!?」

 

白部は疑問に感じながらも真麗に言われたままに考え込む。

インパクトのある出会いであり、"個性"が名前を表しているのもあってか、数十秒くらいで思い出して大声を出す。

 

「そうです。あの黒いもやの人です」

 

「黒霧さんって...名前通りの人なんですね...」

 

変なところで感心する白部だったが、真麗の手を叩く音で現実に戻される。

 

「はい、納得されましたら準備をして下さい。黒霧さんはすぐに来れるお方です。早く準備をしなければ黒霧さんが来てしまい、待たせることになります。会話は準備を終えてからです。黒霧さんがお越しになるまでの間、もしくは、湖井さんが落ち着いたらいつでも会えますので、今は準備にだけ集中して下さい」

 

「は、はい!」

 

こうして、慌ただしくしている間に黒霧がやって来る。準備を終えた白部は、綺麗にお辞儀をしている真麗に背を向けて、黒霧と共に指定された場所に向かうのであった。

 

 

 

「あ...あの!あの時は助けてくれてありがとうございます!」

 

「......ただの仕事ですから気にしないで下さい......」

 

指定された建物は何も変哲もない普通のホテルだった。

指定された場所に着くといなや、白部は頭を下げるのだが一瞥もくれない黒霧。出会いも別れも呆気なく、白部もまた何も考えずにホテルに向かう。

 

ホテルは外見通りに中も普通のどこにである内装だ。違うところと言えば、カウンターにチェックインするための従業員以外誰も居ないこと。それでも人気のないホテルと言われれば、疑問を感じることはなくなる。

 

取り敢えず白部は、カウンターに行ってチェックインを受けることにした。

 

「あ、あの...」

 

チェックインに向かったのは良いものの、なんて言ったら良いのか分からず、口ごもる白部。

どうやらチェックイン担当の若い男性も慣れているようで、戸惑っている白部に爽やかな笑顔を浮かべて安心させようとする。

 

「話は聞いております。貴女が湖井白部様ですね?御待ちしておりました、湖井様の部屋までご案内させて頂く、無為と申します。では早速、ご案内させて頂きます。あ、荷物はお預かりしますね」

 

テキパキと白部の荷物を持ち前を歩く若い男性。

あまりの手際の良さに白部が呆けていると...

 

「...?どうか致しましたか?何か問題がありましたか?」

 

「い、いえ!なんでもありません!」

 

着いてこない白部に対して男性は不思議そうに振り返り、きょとんとしていた白部は慌てて歩き出す。

今は流れに身を任せることしか出来なかった。

 

 

 

部屋に着いた白部は荷物を置き、案内してくれた男性の言葉を思い出して復習をする。

 

一つ目、一階で敵(ヴィラン)連合の話や"弱き者"達の話をしないこと。

理由は単純にこのホテルにもたまに人が来るから。

 

二つ目、暫くの間はこのホテルで雑用係として働くこと。

目的は宿泊費を稼ぐと共に完全なる社会復帰を目指す為。少量ながらも給料は払われる。またここでは、多少の失敗なら許される。

 

三つ目、メンタルが整うまでは家に帰れないこと。

これは言わずがなもバレないようにする為である。帰れないが、メールなどの動揺していることを悟られない方法であれば、いつでも家族や友人に連絡することは許可されている。ただし、メンタルが安定するまでの間は誰かにチェックをしてもらわなければいけない。

 

四つ目、週に一回以上は"個性"の訓練をしなければいけないこと。

どのような過去があろうとも訓練を逃れることは出来ない。その代わり、きちんと訓練を行っていれば進歩の早さを問われることはない。

 

これらを整理しながら備え付けられたソファーに座る。

白部が気にしていたのは一つだけだった。

 

「"個性"の訓練かぁ...。嫌だなぁ......"個性"なんて絶対に使いたくないよ......」

 

"個性"。それはこの世界の人間ならほぼ誰もが持っている異能の力。

しかし、誰もが持っている故に持っていない者は迫害され、意図しなくても誰かを傷付ける。そんな"個性"を白部は怖がり、大大が付く程嫌っていた。

 

なんとかして訓練を逃れる理由を考えていると、ピンポーンとチャイムが鳴る。

 

「は、はーい!今開けますね」

 

考え混んでいた白部は対応がワンテンポ遅れる。

扉を開けるとそこには、金髪を角切りにした若い男性が立っていた。

 

「悪い。なんかしていたか?そっちにも都合があることは分かっているが、こちらも皆を集めているから呼ばないといけなくてな。今から君達の歓迎会を始めようと思っているけど...都合は大丈夫か?」

 

申し訳なさそうに白部に尋ねる男性。雰囲気が伝わってきて、白部も申し訳ない気分になっていく。そんな気分を紛らわす為に白部はじっと相手を観察する。

金色の眼は黄金のように輝き、スポーツをしていたのか、体はある程度鍛えられていた。人見知りの白部でも話しやすい爽やかな好青年という感じだった。

 

「いえ、大丈夫です。こちらこそ、待たせてしまい申し訳ございま...」

 

「謝罪なんて良いんだよ、俺達は仲間なんだからさ。堅苦しい挨拶なんて無しにしていこうぜ」

 

なんの躊躇もなく男性は白部の手を差し出す。

 

「俺の名前は姿見 新和【すがたみ あらわ】。これからよろしくな」

 

「わ...私の名前は湖井白部です。よろしくお願いします」

 

白部は手を差し出そうかと迷っていたが、これから仲間になるから、と決意をして恐る恐る差し出された手を握り返す。

握手を終えた二人は他の仲間達が居る食堂を目指した。

 

 

 

「ようこそ、敵(ヴィラン)連合へ!不謹慎だけど、俺達"弱き者"の仲間になってくれてありがとう。俺の名前は姿見新和。よろしくな」

 

パチパチ。疎らな拍手が寂しく鳴る。現状をきちんと理解出来ていないが、癖で自然と拍手をしていた。

白部の他にも四十代の主婦らしき女性、サラリーマン風の三十代の男性、蝙蝠のような男性、手が鎌になっている二十代の女性、顔の形が岩のような形をしており、常に頭から煙を上げている男性、計六人の男女が歓迎会に招かれていた。

 

「同じく、同期の田中 七奈【たなか なな】です。よろしくね」

 

「俺の名前は増阿久 勘次【ぞうあく かんじ】。この汚い社会を消す為に皆の力が必要になる。どうかその力を貸してくれ」

 

新和の後に二人の男女が続いて自己紹介を始める。

長い黒髪にふわっと、雰囲気が柔らかく淑女のような三十代前半の女性が田中 七奈。濃い紫色の髪を短髪にし、ボディビルダー顔負けの肉体を持つ三十代後半の男性が増阿久 勘次。この三人が主催者のようだ。

 

歓迎してくれる気持ちは六人にも伝わっていたが、初対面の人と盛り上がるのにはハードルが高すぎるし、何よりもそんな気分ではない。

まるで六人の代表になったかのように、サラリーマン風の男性がおずおずと手を上げる。

 

「一つ...質問がありますけどよろしいのでしょうか?」

 

「遠慮なく言ってくれ。気軽な関係になりたいからな」

 

新和が笑顔で質問を許可する。後ろに居る七奈と勘次も頷いていた。

 

「私達を集めて...一体何をさせたいのですか?」

 

「早速仕事の質問か。言い心がけだ。そう畏まらなくても良い。俺達の仕事は......」

 

 

「先生が用意した就職先で働き、ヒーローや一般人と仲良くし、この社会を裏から操ることだ」

 

 

ヒーローや一般人と仲良くすると言う言葉に嫌悪感を覚えることよりも、勘次の衝撃的すぎる発言に六人の目が点になる。

えっ...?一般市民が裏で社会を操る?しかも社会に追い詰められた弱い立場私達が?!何寝ぼけたことを言っている?疲れてる?休みな。社会を裏から操ると言う非現実的なことなんて出来っこない!六人は初対面なのにも関わらず、一斉に意見や考えが一致する。

 

「な、な、何を言っているのですか!?私達にそんなことは出来ません!」

 

「そ、そうよ!社会を裏から操るなんて出来るわけがないわ!」

 

「そうだ!大体...!なんでヒーローや一般人と仲良くしないといけないんだ!!俺達がどんなに遭っていたのか知っているだろ!!!」

 

ある者は放心状態で止まり、またある者は納得が出来ずに騒ぎ出す。

この反応にも慣れたものなのか、主催者の三人は特に反応はしなかった。毅然とした態度で七奈が話を進める。

 

「皆様がどのような目に遭い、私達が掲げる目標がどれ程無謀なのかは十分に承知しております。ですが、これには深い訳があるのです!どうか、我々の話を聞いてから判断をして下さい。お願いします」

 

深くお辞儀をする七奈の姿に騒いでいた者は黙る。

黙ったところで今度は新和が話し出す。

 

「一つ目の先生が用意した就職先で働く。これらは簡単なことだ。敵(ヴィラン)連合の資金調達の為」

 

「二つ目のヒーローや一般人と仲良くすることと...三つ目の社会を裏から操る。これは二つ同時に説明しないと分かりづらいな...。例えば...この敵(ヴィラン)連合に所属している病院とバーがある。そのバーに、とある殺したいヒーローと仲良くなった"弱き者"が連れてくる」

 

「殺し方は簡単だ。酒に毒を盛り飲ませれば良い。その後は所属先の病院に搬送させ、医者に急性アルコール中毒死と診断書を書いてもらう。医者の診断であれば、どんなに仲良かった家族や友人、同僚も疑問を持たずに受け入れる」

 

「あの...それでも不信がられた時は...?」

 

「その時は君達、"弱き者"の出番だ。彼の死は仕方なかったと言う流れに持っていき、疑問を持つ者に対して罵倒してまでも否定する。これが"社会を裏から操る"と言うことだ」

 

話は一先ず終わるが、六人の中で誰一人として理解出来た者は居なかった。ただこれだけは実感をする。

とんでもない所に来てしまった、と皆で顔を見合わせた。

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