黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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53話 湖井白部の過去 その6

拒絶をした自分達を受け入れてくれた人の為に、憧れた人に近付く為にも、白部は今日も"個性"の特訓を続ける。

いつしか目と目を合わせることがある程度出来るようになり、特訓が苦でなくなったところ、運命の出逢いが訪れる───

 

 

始まりはイライラしている社員が多くなったところからだった。それも尋常ではない程に。

普段なら普通に話をして笑顔で挨拶を返してくれる。そんな当たり前のことが出来なくなっただけではなく、常に怒っていたり、口調が興奮気味で早口になり、酷い時には物に当たる。あまりにもイライラしている様子に、何でそんなにイライラしているの?と尋ねることも出来なくなる。イライラしている人達と、事情を知らない人達の差が開く中、白部は"先生"からの命令により原因を知ることになる。

 

 

 

『新ヒーロー、黒猫の魔法使いについて調べてほしい。彼女のことは出来るだけ気に止め、可能な限り関わりを持ちなさい』

 

この命令がなければ白部は知ろうともしなかった。

 

「何々......黒猫の魔法使い?そんなヒーローいたの?まあ...検索すれば出てくるのでしょ」

 

いくら大好きな"先生"から頼まれた仕事と言えども、嫌悪感を感じる程嫌すぎる仕事である為、のんびり出来る家でやることに決めた白部。

ベットの上に寝転がり、すぐにストレス発散出来るように自分のスマホを手に届く位置に置くと、仕事用の携帯で黒猫の魔法使いと検索をする。

 

「...ふ~ん。流石に止められちゃった。元々、消されやすいらしいのねこの動画。...まあ、私は興味なくて観てなかったけど...。"先生様"が気に止めろって言われてから調べ出したのが悪かったのかしら?...こんなことになるくらいなら...動画が出てからすぐに、調べておけば良かっ...ううん...いくら"先生様"の言い付けで、こんなことをしていても、自分からヒーローに関わりたくないのよねえ...」

 

暫く検索して分かったことは、何故か喋る猫を相棒にし、ヒーロー史上最速で市民に嫌われたヒーロー。しかも市民にだけに嫌われているのではなく、同業者にも目茶苦茶嫌われていた。

あまりの嫌われように、彼女に関連する動画は暴言に溢れ、暴言のせいですぐに動画が消されてしまっていた。そのせいか観れたとしてもほんの数秒しか観れなかった。

 

動画でまとめる調べる作戦は終わり、経歴や出身校、どのような"個性"を持っているのか、どのようにして戦うのか、また何で嫌われているのかと、ヒーロー公式サイト、素人でも情報を編集出来るウェブブラウザ、掲示板などを利用して個別で調べていくことにする。

 

少し調べただけで黒猫の魔法使いが想定外の存在だと気が付く。

先ずは"個性"。"個性"は驚くことに何でも出来る"個性"で火、水、雷、光、闇を操り、時には強力な攻撃から守る盾を作り出し、どんな傷をも癒す。これらでも歴代トップの有能な"個性"なのに他にも出来ることがたくさんある。これだけで嫌われている一因が容易に理解出来る。それでいて"先生"が目を付けろと忠告するのも、有能すぎる"個性"だからであり、最近知った"先生"の"個性"AFO他人の"個性"を奪うことで何でも出来る"個性"が、黒猫の魔法使いの"個性"とシンパンシーを感じたのかもしれない、と好きな存在を大嫌いな存在と重ねた自分に白部は嫌気が差す。

 

想定よりも長くなる作業に愚痴と本音を溢す。

 

「しかし...こんなにも、"先生様"の興味を持たれるなんて、私からすれば羨まし~い。..."先生様"と似ている"個性"だからかな?考えても分からないなあ...。...あ~あ、調べに行かないと駄目なのかな?"個性"を悪用する時の言い訳を考えないといけないのだから、面倒くさいのよねえ~。しかも私の"個性"の効果じゃ、気付かれないようにするのは無理なのよねえ~。............ほんと......」

 

 

「嫌になっちゃう」

 

本音が溢れ、この一言が引き金となる。

 

「今更、なんで、弱い人の味方のふりをするのかしら?貴方達ヒーローは、人の不幸が大好きな最低な人達でしょ!今更!!弱い人の味方なんてしないでよ!!!気が付くのが遅すぎるの......いや、これは...気が付いているのではないわ。ヒーローが多すぎて、目立つ為に、新たな路線を作っただけなのよ!きっとそう!そうに違いないわ!あっははは!!だとしたらなんて馬鹿なの?!先輩達が作ってきた自ら道を否定するなんて!なんて馬鹿なの!皆が面白がっているのよ!そんなこと分かっていないの?!あっははは!!こんなの...!まるで...」

 

どうして穏やかなみんなが物に当たる程怒っているのかを実感をし、白部も同じ気持ちになって叫び出す。

敵(ヴィラン)の気持ちなんて知ろうとしなくて良い、余計なことをするくらいなら仕事してろ、馬鹿な奴らの気持ちなんて知ってどうする?とかの心ないコメントを書く一般市民。誰よりも強い"個性"を持ち、苦労したことのない人生を歩み、他人を馬鹿にすることが出来る立場の人が、今更取って付けたように手を差し伸べ、弱者の味方の振りをする。こんなことを知れば心が荒れるのは当然のこと。

世間の声もそうだが、今まで楽な人生を過ごして見捨ててきた人が今更寄り添うなど言語道断。寄り添うなら"先生"のようにもっと早くから行動するべきだと。

 

最後まで言えることはなかった。白部の狂った笑い声が下まで響き、母親を心配させてしまい、自分も不愉快になったので調べものはネットの人達に任せることにした。

 

 

 

それなりに時が経ったある日、エンデヴァーの事務所に仕事に向かう。その時チャンスが舞い降りた。

エンデヴァーの事務所内を歩いていると、偶然にも黒猫の魔法使いとすれ違う。

 

「ふ、ふふふ、ふふふふふふふふふえぇ!!?」

 

「にゃにゃ!?」

 

驚きのあまり白部は大声を出してしまう。その叫び声に釣られて相棒の黒猫も叫ぶ。

叫んでしまった白部だが、この叫び声のお陰で相手が動けなくなる。このチャンスを逃がさないように白部はズカズカと近付いて勝手に自己紹介を始める。

 

「お初にお目にかかります。黒猫の魔法使いさん、ウィズさん。私は湖井 白部【こせい しらべ】と申します」

 

白部が名乗っても動けない黒猫の魔法使いとウィズ。更に畳み掛ける。

相手が自分の目を逸らす前に"個性"を使ってどんな"個性"を持っているのか確認をする。すぐにバレてしまうが相手はヒーロー。印象が何よりも大事な故に、謝れば相手は許すことしか出来ない。堂々と"個性"を発動する。後で平謝りをすれば良いやと白部は気軽な気持ちで行った。けれど、それは間違いだった。

 

「..............む..."無個性"..........?う、ううううううううううう、ううううう嘘!?あ、ああ、あなたが、む、むむむむむむむ”無個性”だなんて!!嘘よ!!!.............嘘って!言ってよ!!!言ってよ!!!言ってよーーーーー!!!!」

 

"個性"を発動しても相手の"個性"が分からないことで、あの時のトラウマが甦る。

自己紹介をしている赤毛の少女、寄って集って一人の少女を虐める少年達、赤毛の少女がいなくなって標的になる自分。今だってたまに悪夢を見る程のトラウマで、訓練をしても"無個性"相手に使うことは精神面で無理であった。

 

トラウマによる体調不良で一時撤退するしかなかった。

 

 

このまま引き下がる訳にもいかず、相手に謝罪すると言うことでエンデヴァーの事務所前で待つ。

夕方頃、仕事終わりだと思われる黒猫の魔法使いがとても疲れた顔をしてやって来る。白部相手にも淡々としていて相当疲れていることが容易に伺える。

 

それでも縁を絶やさないように謝る。

顔を上げる際には"個性"が発動しないよう目を合わせないようにする。もうあんな思いは二度と御免だから。それでもあのことを思い出しそうになってしまって、"個性"を使って防いだだけだと自分に言い聞かせる。

 

「先程は、本当に申し訳ございませんでした!」

 

「いきなり"個性"を使ってきた私は、敵(ヴィラン)その者と変わりないことをしてしまったと自覚しています。...自己満足なのは分かっていますが、謝罪をしに待っていました...」

 

「...分かったにゃ。けど、説明はちゃんとしてほしいにゃ。どうして"個性"を制御を出来ない理由を」

 

「そうだね。説明をしてほしいね」

 

謝罪は受け入れてくれたものの返答は厳しいものであった。

予想外の態度に白部は舌打ちしそうになるが、何とか堪えて話を進める。

 

「はい。勿論、説明致します。...ですが、その前に、私の"個性"の発動条件を説明をした方が、分かりやすいと思いますので先に条件の方を説明します。私の"個性"は、私と相手が真正面で目を見つめ合うと、勝手に発動してしまうものです。体感的には数十秒後に発動してしまいます。それは、元々の話で、今は家で練習をしたかいがありまして、制御できるようになりました。...ですが、気持ちが高まったりしてしまうと、発動してしまうのです...」

 

「で、気持ちが高ぶって発動してしまったとにゃ」

 

「はい...。面目ありません...」

 

見られないように顔を下に向け、指をもじもじさせるなどをして怒りを抑え込む。

 

「でもなんで、気持ちが高ぶったの?」

 

「......あ、あの、実は...」

 

聞かれることは分かりきっていた。だから言い訳を考えてある。

 

「実は?」

 

 

「わ、私!魔法使いさんのファンなのです!!」

 

「「...えっ?」」

 

怒りで顔を真っ赤になってしまったが、照れていることにして誤魔化そうとする。

それに会えて嬉しいと思ったのも本心だ。主に"先生"の役に立てると言う意味合いでだが...。

 

「そうなんだ。ファンって言ってくれて嬉しいよ」

 

数十秒、一分くらい経った後に黒猫の魔法使いが手を差し出して握手を求める。

こうして、白部と黒猫の魔法使いとの会話する仲となった。

 

 

話せるようになったと言えども、いきなり"無個性"などのデリケートな話をする訳にもいかなかった。

そこで思い付いた案は、嫌われていることを良いことに、他の"弱き者"がウザ絡みをしてその言っている言葉が本心なのかどうか、白部が何気なくそこら辺を触れて確かめることになった。

その結果が──

 

「チッ!何だよ!危ない"個性"が何てない、使い方の問題だと!馬鹿なことを言いやがって!!」

 

「どうせ"個性"が暴走して襲われたら手のひら返しをするに決まっている!」

 

「ああ、それこそ、あんな危険な人だとは思わなかった、あれは存在してはいけない存在だとか言って殺すに決まっているだろ!!」

 

「敵(ヴィラン)になるのも理由があるだと!!今まで俺達を見捨ててきた癖によく言うわ!」

 

「ほんとだよな!今更遅いし、そんなことを言っている暇があるんだったら助けろよな!!」

 

「そうよ!身内に敵(ヴィラン)が出たら恥ずかしくて隠すのでしょ!!」

 

「いいや!あの手のタイプは真っ先に排除しようとするね!!」

 

「自分よりも強い人がいっぱいいるですって!?"個性"を使いこなせないのなら、"個性"で苦しんでいる私達にも分けてほしいわ!」

 

荒れるだけだった。

 

「おい、湖井!」

 

「は、はい!何でしょう!」

 

白部にも火の粉が飛ぶ。

その言い方に不満を感じて理不尽だと言いたくなったが、喧嘩をしたくなかったので耐えて従順になる。

 

「明日、また質問をするから、黒猫の魔法使いが移動する場所は確認をしとけ。後その様子を携帯でも何でも良い。動画にして撮っておいけ」

 

「場所は分かるけど...何で話している姿を動画にして撮らないといけないの?」

 

「それは簡単だ。どうせ彼奴は口先だけの人間だ!どれだけ口で綺麗事を言ったところで顔は歪んでいる筈だ。その歪んでいる姿を全世界に発信して、こいつは偽善だと知らしめせば良い!!」

 

「わ、分かった...」

 

男性の気迫に押されて白部は了承をする。

 

 

次の日。

予め黒猫の魔法使いから仕事場所を聞いて待ち伏せをする。通るかは分からないと白部は伝えたが、運良く魔法使いは言った通りの場所に現れる。相手役の男性が魔法使いに話し掛けた瞬間、白部はスマホで盗撮を開始する。

 

「おい!黒猫の魔法使い!」

 

「...何の用?」

 

怒りを隠さずに怒鳴り付ける男性、そんな男性の態度に苛つく魔法使い。

互いに嫌悪感を隠さずに会話が始まろうとしていた。ハラハラしながら見る白部の気持ちとは裏腹に事は上手く進む。

 

「黒猫の魔法使い...お前は......!"無個性"のことをどう思っているんだ!!」

 

「......!!?」

 

思わぬ話題に白部は驚きすぎて叫びそうになってしまう。

 

「......"無個性"?それって確か...異能の力を持っていない人達のことだよね?それがどうかしたの?」

 

きょとんとする黒猫の魔法使い。

発言といい、きょとんとすると態度が自分には何も関係ありませんと言っているようで男性と白部の怒りを買う。

 

「あんだけ綺麗事を言っておきながらどうせ...!お前も!"無個性"のことを馬鹿にするんだろ!!!」

 

男性の想いは叫びとなり、涙となる。

呆然としているのか、それとも考えているのか、魔法使いは黙り込んで男性を見詰める。深呼吸をして言いたい言葉をまとめると男性と向き合った。

 

「力がないと不利な場面があるのは認める。でも、だからといって馬鹿にすることはない」

 

「彼らは弱い存在ではない。それに、共に戦ってくれたから、今自分はここにいる。だから......」

 

 

「彼らは頼もしい存在であり、大切な仲間だ。誰がなんと言おうとこれだけは譲らない!」

 

「なっ...!?どうせ俺や他の人が聞いているかもしれないから!心にもない綺麗事を言っているだけだろうが!!」

 

「違う。これは本心だ」

 

魔法使いの言葉と真っ直ぐに相手を見据える曇りなき眼。信じられなくて男性は反論するが、すぐに力強い眼差しと共に否定する。

それでも信じられなくて男性は舌打ちをしてその場から走り去る。

 

見ていた白部の脳裏にも魔法使いの笑顔が焼き付いて、一生忘れなくなった。

 

 

後日、仕事場の使われていない一室で白部はあの時の動画がきちんと撮れているかどうかなどの確認作業を行う。

本当は一人でやりたくなかったのだが、黒猫の魔法使いの話題は荒れてしまいので一人でやるしかなかった。携帯で撮った動画をパソコンに移して大画面で確認をする。

 

『おい!黒猫の魔法使い!』

 

『...何の用?』

 

『黒猫の魔法使い...お前は......!"無個性"のことをどう思っているんだ!!』

 

『......"無個性"?それって確か...異能の力を持っていない人達のことだよね?それがどうかしたの?』

 

『あんだけ綺麗事を言っておきながらどうせ...!お前も!"無個性"のことを馬鹿にするんだろ!!!』

 

『力がないと不利な場面があるのは認める。でも、だからといって馬鹿にすることはない』

 

『彼らは弱い存在ではない。それに、共に戦ってくれたから、今自分はここにいる。だから......』

 

『彼らは頼もしい存在であり、大切な仲間だ。誰がなんと言おうとこれだけは譲らない!』

 

『なっ...!?どうせ俺や他の人が聞いているかもしれないから!心にもない綺麗事を言っているだけだろうが!!』

 

『違う。これは本心だ』

 

何度も。

 

『おい!黒猫の魔法使い!』

 

『...何の用?』

 

『黒猫の魔法使い...お前は......!"無個性"のことをどう思っているんだ!!』

 

『......"無個性"?それって確か...異能の力を持っていない人達のことだよね?それがどうかしたの?』

 

『あんだけ綺麗事を言っておきながらどうせ...!お前も!"無個性"のことを馬鹿にするんだろ!!!』

 

『力がないと不利な場面があるのは認める。でも、だからといって馬鹿にすることはない』

 

『彼らは弱い存在ではない。それに、共に戦ってくれたから、今自分はここにいる。だから......』

 

『彼らは頼もしい存在であり、大切な仲間だ。誰がなんと言おうとこれだけは譲らない!』

 

『なっ...!?どうせ俺や他の人が聞いているかもしれないから!心にもない綺麗事を言っているだけだろうが!!』

 

『違う。これは本心だ』

 

何度も何度も。

 

『おい!黒猫の魔法使い!』

 

『...何の用?』

 

『黒猫の魔法使い...お前は......!"無個性"のことをどう思っているんだ!!』

 

『......"無個性"?それって確か...異能の力を持っていない人達のことだよね?それがどうかしたの?』

 

『あんだけ綺麗事を言っておきながらどうせ...!お前も!"無個性"のことを馬鹿にするんだろ!!!』

 

『力がないと不利な場面があるのは認める。でも、だからといって馬鹿にすることはない』

 

『彼らは弱い存在ではない。それに、共に戦ってくれたから、今自分はここにいる。だから......』

 

『彼らは頼もしい存在であり、大切な仲間だ。誰がなんと言おうとこれだけは譲らない!』

 

『なっ...!?どうせ俺や他の人が聞いているかもしれないから!心にもない綺麗事を言っているだけだろうが!!』

 

『違う。これは本心だ』

 

何度でも。

 

『おい!黒猫の魔法使い!』

 

『...何の用?』

 

『黒猫の魔法使い...お前は......!"無個性"のことをどう思っているんだ!!』

 

『......"無個性"?それって確か...異能の力を持っていない人達のことだよね?それがどうかしたの?』

 

『あんだけ綺麗事を言っておきながらどうせ...!お前も!"無個性"のことを馬鹿にするんだろ!!!』

 

『力がないと不利な場面があるのは認める。でも、だからといって馬鹿にすることはない』

 

『彼らは弱い存在ではない。それに、共に戦ってくれたから、今自分はここにいる。だから......』

 

『彼らは頼もしい存在であり、大切な仲間だ。誰がなんと言おうとこれだけは譲らない!』

 

『なっ...!?どうせ俺や他の人が聞いているかもしれないから!心にもない綺麗事を言っているだけだろうが!!』

 

『違う。これは本心だ』

 

確認をする。

何十回、何百回でも黒猫の魔法使いの表情を見て発言を聞いて、じっくりと考えながら確認をし続ける。だからこそ気が付いてしまった。

 

「.........嘘......。こんなことって......ありなの!?」

 

日本だけではなく、世界トップクラスの有能な"個性"持ちの人間が優しげに、愛おしそうに、まるで宝物を扱うかのように──

 

 

『彼らは頼もしい存在であり、大切な仲間だ。誰がなんと言おうとこれだけは譲らない!』と力強く断言をしていた。

 

"個性"が強い人程有利で威張っている人が多いこの世界で、"無個性"を大切な仲間だと口先だけではなく本心から言い放つ。

終始泣き怒っていたのは自分達"弱き者"であって、試されていた黒猫の魔法使いは語っている途中笑顔になっていた。その姿もまた、ここにはいない友達を自慢しているようであった。

 

認めたくない!と心が拒否しても、何度も考えながら言葉を聞いた理性がこれは本心だ、と自分の価値観を全て否定する。

 

「......あ...ああああああああ!!」

 

耐えきれなくなった白部は叫びながら気絶をした。

この動画は他の"弱き者"には見られず、"先生"の元に動画が送られた。危機感を感じた"先生"は更に警戒を強め、それと同時に黒猫の魔法使いの心を打ち砕いて存在そのものを否定しようと強く誓った。

 

 

 

「や~い、うそつき女!"むこせい"はあっちいけ!」

 

「そうだ!そうだ!"むこせい"きんがうつるんだよ!」

 

「"むこせい"は学校にくんなよな!」

 

夢。気絶をした白部はそのまま悪夢を見ていた。

 

(止めて...もう止めて...。もう終わったことなんだから...)

 

自分も、相手の人生も、終わらせてしまった悪夢。いつもなら赤毛の少女が自殺するところまで見せ付けられるのだが、今日は会ったことも見たこともない人物が割り込んでくる。その人物の頭はバブルピンク色をしていた。

 

「いじめは止めなさい!」

 

ビシッと格好つけて虐めを止めようとする少女。

少年達は何か言い返そうとしても、相手の"個性"が怖くて何も出来ずに逃げていく。後に残されたバブルピンク色の髪の毛の少女が、泣いている赤毛の少女の側に寄り添う。

 

「だいじょうぶ...?」

 

赤毛の少女はずっと泣いている。

泣き止まない少女に驚きの発言をする。

 

「"むこせい"だってかっこいいと思うよ!つよいと思うよ!」

 

慰めにもならない発言に赤毛の少女は驚いて泣き止む。それを良いことにバブルピンクの少女は手を差し出す。

 

「いっしょにつよくなって、こんなせかいみかえそうよ!」

 

幼い自分は、あの時のように見ていることしか出来なかった。

 

 

 

「...ハッ!!?」

 

いつもとは違う悪夢。思いがけない悪夢を見た白部は自分自身に戸惑う。

 

「どうして...今更...」

 

いつの間にか白部は休憩室のベッドに寝かされていた。運んでくれた人への感謝をする余裕なんてなく、ただ呆然と泣いて気持ちを誤魔化した。

 

 

あれから、東京の大規模な敵(ヴィラン)も襲撃もあってか、黒猫の魔法使いとは会えなくなる。

その代わりに自分達と似たような価値観を持つ、"無個性"のレイチェル・オールと言う女性と出会う。彼女はヒーローにも興味がないと言う点で物凄く仲良くなれると思ったのだが、ヒーローを目指す少年緑谷出久が"個性"に目覚めた影響で会えなくなった。

 

"無個性"の前で無惨にも"個性"が芽生える緑谷。"個性"が芽生えるタイミングは選べないから仕方のないことだと理解しているが、"無個性"で苦しんでいる相手にヒーロー科しかも雄英高校に入学出来る優秀な"個性"持ちの人達に会わせるとか鬼畜の所業である。元々ヒーローを目指す者が大嫌いなのに、この件の影響で更に白部は呼んだ緑谷のことも大嫌いになったが、平然と会いに行く雄英の生徒も大嫌いになる。

 

緑谷が"先生"が探していた"個性"持ちだと判明をする。調べあげた白部は"先生"に褒められる。白部は天にも昇る気持ちとなる。けれども、喜んでいられたのも僅かな間だけだった。白部が直接緑谷達を苦しめる係りになったからである。今までの功績を称え、痛みを感じなくなる"個性"と楽に死ねる"個性"を渡してくれた。

 

あの時死ぬ覚悟をしていたとは言え、楽しいこと、同じ志を持つ新しい仲間と出会った今の白部には死は恐怖であり、避けたいものであった。けれど、もう、助けを求めることは出来ない。だって──

 

 

人を殺してしまったから。

 

 

決行日前日の夜。

白部は眠ることが出来なくて、リビングにあるソファーに座り込んでいた。

 

何となく白部は辺りを見渡す。

電気をつけていない部屋の中がはっきりと見えなくても、どこになにがあるのかは把握している。置いてある全ての物が家族との思い出で詰まっていた。

 

弟とチャンネル争いをしたテレビ。

 

家族でゲームセンターに遊びに行った時に取ったぬいぐるみ。

 

父が読んだ後に乱雑に置かれた新聞紙。

 

母が趣味で育てている観葉植物。

 

少し奮発したデザートをみんなで一緒に食べた大きなテーブル。

物だけじゃない、空間さえも思い出がいっぱい詰まっていて、目を瞑れば鮮明に包丁で食材を切りながら家族を呼ぶ母の声が聞こえ、父が新聞を読んで夕飯を待っている。呼ばれた少し後から白部がやって来て母の手伝いをし、弟は更に遅れてやって来る。手伝わない弟に怒りながらも白部は席に座る。

 

談笑をし、時には喧嘩をしてしまうが、楽しくて掛け替えのない日々。

思い出してしまった白部は思わず泣いてしまう。涙を止める術がない為、声を何とか押し殺して泣く。

 

「どうして......こんなことになってしまったの...?私はただ......」

 

 

「誰かに救われたいだけなのに...職を求めただけなのに...平和な日々を求めただけなのに...!!」

 

泣き言を言ってももう遅い。

敵(ヴィラン)と関わってしまったのだから。家族と強制的に引き下がれ、生きられない怨み。ただ生きているだけでキズツケテクル理不尽な社会への怒りを、明日の襲撃で八つ当たりすることしか出来なかった。




これにて白部の話は終わりとなります。
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