黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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56話 次へと進む為の準備

「さてと...そろそろ本題に戻ろうか。君だって褒められても嬉しくないだろうし、そもそもそこまで褒めることでもない。大きな一歩を踏み出した言えども、これはあくまでもマイナスからゼロに近付いただけさ」

 

「だったら何で褒めやがった!!?そんな必要はねぇだろうが!!!」

 

「必要はあるよ。多くの人達が自分の失敗を目を逸らし、現実に目を向けることが出来ず、なかったことにしようとする。いや...何も気が付かずに罪だと認識することさえも出来ない。けれど...君は出来た。それは素晴らしく誇るべきことなんだ。そんな偉業を成し遂げた君を、教育者の一人である僕には見過ごせないよ。それと...これも君が望んでいる罰の一つだよ。ほら、精神的な苦痛を与えて罰する方法何てよくあることでしょ。例えば、狭くて自由が利かない牢獄に閉じ込めて反省を促すとかさ。現に君に効いているようだね」

 

爆豪は悔しさのあまりに歯軋りをする。その勢いは凄まじく、今にも歯が削れそうだった。

 

「でもねせっかく反省してくれたのに、これ以上僕は責めたりはしないよ。で、本題に入ろうか。本題は──」

 

 

「一週間後、二人の"弱き者"をここに連れて、君達と共同生活をしてもらう」

 

「ナッ...!!」

 

驚きすぎた爆豪は呼吸することさえも忘れ、少しの間固まってしまうが、何とか気持ちを切り替えて、荒ぶった感情のままに疑問をぶつける。

 

「ハァ......ハァアアアア!!!?んだよそれ!!?急すぎるだろうが!!大体!あいつらは犯罪者だろうが!!!それとも何だ、あいつらには可哀想な過去があるから何やっても許されるってか!!?」

 

ゼーゼーハーハーと全力で叫んだ爆豪は肩で息をする。

根津は爆豪の反応を予想していたらしく、何食わぬ顔でお茶を飲みながら主張を聞いていた。喉を潤してから悠々と始める。

 

「別に可哀想な過去があるから特別扱いをした訳ではないよ。あの神野区事件でヒーローにしか手を出さなかった、敵(ヴィラン)連合に加入する際に人を殺さなかった人。そういった罪の軽い人達だけを招き入れるから...」

 

「んな訳あるか!!あいつらは嬉々として自分が恨んだ相手を殺す!」

 

「いやね、意外と...調査の結果、驚くことに、少数派ではあるが、敵(ヴィラン)連合への加入の際に殺していない人がいることが判明した。差別をなくす為にもお互いのことを知る必要があるし、今は少しでも問題解決の糸口を見付けたいから、殺人者ではない限り共同生活をしてもらうよ。それに......」

 

「さっき僕はこう語ったよね、精神的な苦痛を与えて罰すると。ヒーローと、ヒーローの卵が集まるこの場所に"弱き者"を招き入れたら...刑務所以上の苦痛を与えて反省を促せるよね?」

 

根津の説明に納得をした爆豪は大人しくなる。

根津は説明に集中していたが、爆豪の口角が微かに上がっていた変化を見逃さなかった。

 

(いくら成長をしたとは言えども、いきなり殴ってきたらそうなるよね。まあ...大笑いしてこない限り注意はしないけど。差別をしない人間を作ることが目的であって、何をやられても許す聖人君子を作ることは目的ではないからね)

 

"弱き者"達が世間やヒーロー達を嫌っているのと同様に、爆豪もまた"弱き者"達を嫌っている。

自分達に危害を加えてきた人と似たような人を嫌うのは仕方のないこと。けれども、それで手を出してしまえば、"無個性"や敵(ヴィラン)向きの"個性"と言うだけで虐めてきた人達と何も変わらない。本当に差別を無くしたければ、当事者同士だけで問題を解決しなければならない。手を出してしまうと、今の爆豪みたく負の連鎖が続いてしまうからだ。

 

「今の僕の説明を聞いてどう?納得してくれた?」

 

最後の確認として訊ねるが、多少不満があるものも反論しないで爆豪は受け入れる。

 

「......話はそれだけか...?」

 

「納得してくれてありがとう。でもね、話はまだまだあるから戻れないよ。ここからが君にとって一番大事な話なのさ!」

 

根津はわざとらしく咳払いをし、爆豪の目だけを見詰めながら話を切り出す。

 

「"弱き者"をここに受け入れる。それは───」

 

 

「君の過去、緑谷君を虐めていたことが、クラスメイトのみに関わらず、この学校中に知られてしまうだろう。そのことを覚悟してほしい」

 

今度こそ息が止まる爆豪。

それもその筈、爆豪は中学生の頃、学生の内から伝説を作りたくて緑谷に雄英を受けるなよ、と圧力をかけたことがあるからだ。それだけではない、幼少の頃から虐めは続いており、ただでさえ印象が悪くなっているのに、全てを暴露されてはヒーローに成れないのも当然である。

 

体の方に限界が来て爆豪は蹲って咳き込む。

更に追い討ちをかけるかのように根津は話を続ける。

 

「少しでも大嫌いなヒーローの印象を悪くする為に、虐めをした君を追い詰める為に、弱き者"達は君の過去を大喜びで暴露するだろう。僕や相澤君を含む雄英の教師、ウィズさんや魔法使いさんなら、当事者同士できちんと終わらせられたら文句は言わないよ。でもね......」

 

 

「世間は違う。例え問題が解決していて、被害者加害者双方が納得していても、君を責める人は必ず出てくる。僕達がずっとは止めることは出来ないし、虐めはいけないことだ!とか言われたら反論は出来ない。責めてくるのは生徒は勿論のこと、君と共に困難を乗り越えたクラスメイトからも言われるかもしれない。今からそれを...覚悟しておいてほしい。"弱き者"達が来るまでの一週間の間にどうするか決めておいてほしい。僕から伝えたいことは...これだけだ」

 

「...ふっ...ふざけんなぁああ!!デクならともかく!何で赤の他人にとや...ぬが!?」

 

爆豪が叫んでいる途中に相澤が操る捕縛布によって口が塞がれる。

 

「君の言い分も分かるけど...叫んでいたらみんなにバレてしまうよ。叫びたかったら...はい、この訓練部屋ならいくらでも叫んでも良い。君に与えられた選択権は二つ。一つ目は大人しくその部屋に行って叫ぶか。二つ目は感情を押し殺して話し合いに戻るか。この二つだ。さあ...どうする?」

 

捕縛布を解かれた爆豪は、ズカズカと根津に近付いて部屋の鍵を奪い取り、扉を壊すかと思う程の勢いで扉を閉める。

その様子に根津と相澤が呆気に取られ、相澤はいくら爆豪が成長をして喜ばしい状況だとしても、物に当たる態度には注意しようと心の中で決めていた。

 

まるで空気を変えるかのように、数秒経った後に根津は相澤にある頼み事をする。

 

「相澤君...今度は緑谷君を呼んできてくれないかい?」

 

「分かりました」

 

特に質問をすることもなく相澤は背を向けて行こうとするが、言い忘れていた根津が何気なく告げる。

 

「あ、そうそう...緑谷君を呼ぶ時に他の教室の様子を見ておいてね」

 

軽く頷いて返事をした相澤は部屋を後にし、そんな彼の背中を根津は黙って見送っていた。

 

 

 

「緑谷君、君にも大事な話があるんだけど...」

 

緑谷から発生する負の雰囲気に圧され、根津は言葉を失ってしまいそうになるが、一呼吸を入れることで何とか気を取り直す。

 

「まあ...落ち込む気持ちも分かるよ。でもね、時間は待ってくれないんだ。悩むのは後に...いや、悩めるのは後一週間しかないんだ」

 

「悩めるのは後一週間って...それはどういうことですか!?」

 

驚愕する話にずっと塞ぎ込んでいた緑谷の感情が露になる。

 

「爆豪君にも話をしたけど、互いのことを知る為にも、一週間後雄英に"弱き者"達を招き入れる。君に受け継がれた"個性"OFA..."弱き者"達がその"個性"をどれくらい知っているのかは知らない、箝口令を轢いたりして、厳重に対策をして情報をばらさせないようにするけど...どこからか情報が漏れるのかは分からないから、漏れる前提で話を進めさせてもらう。そこで君にはある決断をしてほしい。それは──」

 

 

「そのまま"個性"を受け継いでヒーローを続けるのか、"個性"を手放して一般人に戻るのか、この一週間の間に決めてほしい」

 

"個性"を手放す。

そんな提案をされてしまった緑谷は、先程まで俯いて話せない程落ち込んでいたとは思わせない動きで根津に近付き、机を力一杯叩いて抗議をする。"無個性"で虐められた緑谷は誰よりも"個性"に執着しているのだ。

 

「そ...そんな!!?僕はオールマイトに選ばれたのに!?ヒーローを目指すのを辞めないといけないのですか!?僕以外にもオールマイトに選ばれた人がいるのですか!!?」

 

「別にヒーローを目指すのを辞めろとは言わない、君がヒーローに相応しくないからこんな提案をした訳ではない。でもね───」

 

 

「嫌なことを言われそうになって立ち止まり、ずっと塞ぎ込んでしまうくらいなら、君のメンタルを守る為にもヒーローを目指すことを辞めるのをお勧するよ」

 

「ヒーローと言う者は、どんなに高い壁があっても、どれ程困難な道でも、勝利を掴むまで、困っている人を助けるまで諦めずに挑む者だ。残念ながら今の君には......出来なさそうだ。君はOFAと言う最強の"個性"を持つ責任に耐えられるか?周囲からのプレッシャーに耐えられるか?他人の命を背負う覚悟、守れなかった時の罪悪感、遺族からの批判...君がプロヒーローに成る前にはっきりと言おう、僕からの否定、しかも本心ではないで上に言い放った訳でもない。それなのに、ずっと落ち込む今の君は耐えられない」

 

今にも泣き出しそうで人によっては同情をして、直視することが出来なくなる程辛くなる緑谷の目から逸らさず、真っ向に見詰め返して話し続ける根津。他人と自分の命が関わる以上、妥協も甘えも許されない。

緑谷はすがり、根津は何も言わずに見据える。このままでは切りがないと感じた根津は終わらせようとする。

 

「君がどう思っていても、この決断は覆されないよ。互いの溝を無くすことが最優先だからね。ここで僕を見ている暇はないよ。悩みたければ自室で悩むと良い。...そうそう、受け継ぐにしても、受け継がないにしても、答えがちゃんと決まるまでの間は鍛えておいてね。この話はここで終わり、一週間後の朝またこの部屋で会おう」

 

取り付く島もないと感じた緑谷は、渋々校長室から退出しようとした時、諦めきれなかったのか最後まで根津を見詰める。

けれども、根津は気付かない振りをして書類を読んでいた。

 

 

 

緑谷が退出して暫く経った後、先程の行動に疑問を感じていた相澤が根津に話し掛ける。

 

「根津校長、一つ質問があります」

 

「後で各クラス担当をしている教師が報告するのに、わざわざ遠回りして様子を見に行かせたことが気になっているのでしょ?答えは簡単、百聞は一見に如かずだよ。こう言うことは自分の目で確かめる方が良いからさ。報告だけでは気付かないこともあるからね」

 

まるで予想をしていたかのように、内心を言い当てられた相澤は特に気味悪がることもなく、顔色を変えずに話を続ける。

 

「まあ...理屈は分かりますが、それだと私は会議に参加していないから参考にならないのでは?」

 

「大丈夫。今回は君に大事な用があって話せないと、他の教師に伝えてあるから」

 

「そうですか。しかし...爆豪はともかく、緑谷と青山が落ち込んで話しにならないとは...これでもマシな方なのが最悪ですね」

 

「これでもマシって...一体何があったのかい?」

 

今まで書類を読んでいた根津が顔を上げる。

 

「この二人のことではありませんが...他のクラスではテレビと同じように、忠告を聞かなかった自分達のことを棚に上げて魔法使いに怒っていたり、このような事件が起きたのは仕方ないことだと、考えることを放棄していました」

 

「確かにそれは最悪なことだね。家族や友人などを失ったことにより、考えられない状態だったら分かるけど、怒るのは筋違いで怒りを向ける相手を間違っていることに...早く気が付いてほしいものだよ」

 

心底うんざりする根津。長い溜め息をして何とか気持ちを落ち着かせようとしていた。

 

「たった一人に、世界や国、平和を押しつけたツケが、何も考えない癖が、人の話を聞けなかったことが、このような痛ましい事件を起こす引き金になってしまったのだと実感している。今後はそのような愚かな行為はしないと誓おう。それでもね──」

 

 

「OFAを受け継ぐ緑谷君は別だよ。またオールマイトのように任せきりにして、彼に大きな負担を背負わす愚行はしないよ。けれども...ヒーローの頂点に立つ可能性が高い彼には、次世代に強力な"個性"を引き継がせる相手を見極めないといけない彼には、この程度のプレッシャーを乗り越えなければならない」

 

OFAはこれまで緑谷を含むと九人に受け継がれている。そして、緑谷の後も受け継がれていくだろう。

OFAはパンチ一撃で天候を変える程強い力を持っている"個性"。受け継がせる相手を間違えてしまえば世界が滅ぶと言っても過言ではない。見抜く力と決断力を培わなければいけないうえ、敵の親玉であるAFOは緑谷が今代のOFA継承者だと知っている。手下を使って何かするのは明白だ。OFAのこともバラされるのも時間の問題かもしれない。

 

落ち込みやすいことが生来の気質だとしても、弱気な状態ではOFAを任せられない。それを理解しているから相澤は根津のやり方に文句はなかった。

それどころか、合理的な考えを好む彼には、今すぐ現役のヒーローに受け渡した方が良いのでは?と考えている。表立って言わないのはOFAの秘密が広まるリスクを恐れているからだ。

 

「しかし...緑谷君は過去を知っているから分かるけど...青山君も何であそこまで落ち込んでいるのだろうか?彼のことも調べてみるか...」

 

ここで根津の話が終わり、相澤もまた教室に戻って生徒達の様子を見守るのであった。

 

 

 

あの話し合いから三日経った。話し合いは今でも続き、青山は立ち直って参加していたが、相変わらず緑谷は落ち込んでいて部屋に閉じ籠っていた。

クラスメイト達がどれだけ声を掛けても部屋から出てこない。みんなが途方に暮れていた時、爆豪はキキの肩を掴んで無理やり引っ張る。

 

「おい!魔法使い!ちょっと面貸せ」

 

クラスメイト達は爆豪を止めようとするが、キキは手で制してクラスメイト達を止める。キキが大人しく着いてくることが分かると、爆豪は引っ張るのを止めて先に進む。

人目がつかない所まで行くとある頼み事をする。その頼み事に酷く驚いたキキであったが、嫌なことではなかった、寧ろ楽しいことだったので快く引き受けた。

 

 

キキが爆豪に頼まれ事を終えたその日の午後。爆豪はやけに神妙な面持ちをして緑谷の部屋の前に立ち、荒々しい動作で扉を叩く。

 

「おい!デク!いい加減にしろ!」

 

「いい加減にするのは爆豪の方...」

 

「ああ゛ん!!?こっちはきちんと先公から許可取ってんだよ!!」

 

「先公って...相澤先生のことか!?どうして許可が取れたん...おい!待て!いくら何でもやりすぎだろ!」

 

騒ぎを起こす爆豪を止めに入る切島。

切島が戸惑っている最中に、爆豪は相澤から預かった合鍵で緑谷の部屋に勝手に入り、体育座りをしている緑谷を力付くで立たせて強制的に外に連れ出す。

 

「い、痛いよかっちゃん!止めて!」

 

「うるせぇ!!元はと言えば、ずっと落ち込んでいるテメェが悪いんだろうが!!」

 

騒ぎを聞き付けた切島以外の男子生徒達が一緒になって止めている間、女子生徒達やキキとウィズも騒ぎを聞いて駆け付ける。

結局の所、爆豪の行動は誰にも止められず、緑谷は爆豪に抵抗出来ずに引きずられ、キキとウィズと生徒達は着いていくことしか出来なかった。

 

 

 

「確かに俺は、緑谷を部屋から強制的に連れ出す許可を出したが...こんな騒ぎを起こして良い許可は出していないぞ」

 

爆豪が緑谷を無理やり連れてきた場所は訓練部屋だった。

最初は大騒ぎに相澤は驚いていたものも、事情を聞いて物凄い呆れ顔になっていた。

 

「本当に相澤先生からちゃんと許可を取っていたのね、ケロッ」

 

「でも、どうして、許可をしたのですか?」

 

「俺も爆豪と同じ意見があってな。連れ出す許可を出す代わりに、やりすぎないように俺が見張る予定だったが...連れ出す時点で騒ぎを起こすとはな...いくら成長をしたとは言えども、爆豪は爆豪のままか。...まあいい。で、このまま始めても良いのか?」

 

「.........構わない。どうせ遅かれ早かれバレるだけだ。後で説明すんのはかったるいから、これで良い」

 

「そうか...。他の人達も見たければ邪魔にならない場所にいろ」

 

爆豪への成長をした発言に、キキ、ウィズ、生徒達は首を傾げる。

上鳴が質問をしようとするが、雰囲気的に聞けるようではなかったので、大人しく端に並んで様子を見ることにする。緑谷も端に行こうとするが、爆豪が許す筈もなくフィールドに立たされる。

 

爆豪が緑谷の反対側の位置に立つと、それは始まった。




切りが良いのでここまで。
次回こそ緑谷をどうにかしたいですね。アンチヘイトを掲げておいて説得力はないのですが、緑谷がここまで落ち込みやすいのも、ヒロアカの世界では認められることが何よりも結構重要なので否定されると弱いのかな?と思ってこのようになりました。
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