黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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63話 仮免試験 その一

人、人、人。

ヒーローを目指している者達が、ヒーローに近付く一歩として仮免試験を受けようと会場にひしめき合っていた。あまりの多さに全員は入ることが出来ず、会場は何ヵ所も用意され、同じ高校である一年A組とB組は別の会場で試験を受けることになった。

雄英高校の生徒達あってか、ここでも毎年注目の的になるのだが───

 

 

「聞いた?雄英学校って過去に虐めを行った生徒でもヒーローになれるらしいよ」

 

「ええ、聞いたわ。天下の雄英高校がこんなことをしたのってかなりショックだわ!」

 

「雄英高校も"個性"が強ければ、"無個性"を虐めた人でもヒーローになることを認めるんだ」

 

「結局雄英も"個性"主義者なんだよな。雄英高校出身のオールマイトの顔に泥を塗っている。あの時格好よく戦っていたオールマイトに失礼だ。彼だって"無個性"を差別する奴なんて大嫌いだろ!」

 

「本当にそれ。あの時戦ってくれたオールマイトに感動して泣いた。あんなに格好良いオールマイトに教えて貰えることは贅沢すぎる。特に"無個性"を虐めた爆豪には教えて貰えるのは駄目だろ、まともで有能な雄英入試試験に落ちた人が可哀相だ」

 

「爆豪を認めている奴らも同罪だよな。ヒーローを目指しているのであれば絶対に止めるよな!俺ならそうする!絶対にそうする!結局あいつらも"無個性"差別主義者なんだよな」

 

「ああ、それなら納得。同じ考え方だから否定しないのか」

 

「でも、あの中に元々"無個性"で虐められていた人がいた筈。確か名前は...緑谷?あの人は何?"無個性"から"個性"持ちになったから調子に乗って他の"無個性"はどうでもいい感じ?そうだとしても、かつて虐めてきた人を許せるなんて理解出来ない」

 

「彼変わった人だから」

 

「彼が変わった人?どう言うことなのそれ」

 

「俺知っている!あの二人と同じ中学に通っていた友達から聞いたけどさ、何でも緑谷って、ブツブツと何かを呟いていたり、ヒーローの"個性"や動きをノートに書いていたり、虐めてきた爆豪にかっちゃん!と言って付きまとっていたりしていたらしいぞ!」

 

「何それキモ!」

 

「私達の"個性"のことも、ブツブツと呟きながら勝手にノートに書いたりしたりして!」

 

「あり得そう。話聞いただけでもマジでキモいと思った」

 

彼らに向けられた視線は憎悪に染まりきっていた。

神野区事件の大きな要因の一つである"無個性"差別。"無個性"であることを理由に緑谷を虐めた爆豪。彼の処遇に納得いかなかった雄英の生徒達が、他校に通っている友達に愚痴を言った影響で広まり、爆豪だけには止まらずクラスメイトや緑谷にも火の粉が飛んできていた。

居づらいと思っていても帰る訳にはいかず、雄英生達の足取りは重くなっていた。それでも制服からコスチュームに着替える為に会場に向かおうとすると、誰かが相澤に話し掛けてきた。

 

「何を言われてもお前達は気にせずに......」

 

「イレイザー!?イレイザーではないか!」

 

これだけ悪評が広まっているのにも関わらず、普段と変わらないような明るい声を掛けてきた女性。ターコイズ色の髪の頭にオレンジ色のバンダナを巻き、ヒーローコスチュームを着ていた。何故か女性に声を掛けられた相澤は少し肩をびくっとさせていた。

 

「テレビや体育祭で姿を観てたけど、こうして直で会うのは久し振りだな!」

 

その女性はどうやら相澤とは知り合いのようで、何故か相澤はげんなりとしていた。

 

「結婚しようぜ」

 

「しない」

 

突然の女性からのプロポーズに、恋愛話が大好きな芦戸が色めき立っていた。

 

「ブッハハハ!しないのかよ!ウケる。ハッ、ハハ...」

 

「相変わらず絡みづらいな、ジョーク」

 

「私と結婚をしたら、笑いが絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ!」

 

「その家庭幸せじゃないだろ」

 

「スマイルヒーローMs.ジョーク!個性は爆笑!近くの人を強制的に笑わせて思考行動共に鈍らせるんだ!彼女の敵(ヴィラン)退治は狂気に満ちてるよ!」

 

生徒達は呆然としていたが、ヒーローオタクである緑谷はヒーローと出会えたとことに喜びながら解説を始める。ずっと相澤の方を見ていたMs.ジョークは、生徒達の方を振り向いて相澤との出逢いを語り始めた。

 

「昔事務所が近くでな!助け、助けられを繰り返す内に。相思相愛の仲へと...」

 

「なってない」

 

「良いなあ!その速攻の突っ込み!弄りがいがあるんだよなあイレイザーは」

 

明るく笑ったり、頬を赤らめたりとコミカルに動くMs.ジョークのお陰で、待っている間少しだけ雰囲気が明るくなっていた。

 

 

 

 

相澤とMs.ジョークから別れた雄英生徒達はコスチュームに着替え、仮免試験の説明が始まるのを待っていた。会場で悪口を言う人が居なくても、視線は隠しきれずに敵意丸出しだった為、居心地はかなり悪かった。

待ちに待った説明を始めたのは、クリーム色の髪の毛をぼさぼさにした気だるげな態度をした男性だった。

 

「え~...ではアレ...仮免のヤツをやります。あ~...僕ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠。よろしく...。仕事が忙しくて碌に寝れない...人手が足りてない...眠たい...!そんな信条の下ご説明させて頂きます...」

 

疲れを全く隠さない説明に、大丈夫か?この人と受験生達は心配をする。

 

「現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕や神野区事件以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません...。まぁ...一個人としては...動機がどうであれ、命がけで人助けしている人間に"何も求めるな"は現代社会に於いて無慈悲な話だと思う訳ですが...。とにかく、対価にしろ、義勇にしろ、多くのヒーローが救助・敵(ヴィラン)退治に切磋琢磨してきた結果、事件発生から解決に至るまでの時間は今引くくらい迅速になってます」

 

「引くくらい迅速に人々を助けてきたことは...全くもって悪いことではありませんが...。寧ろ、これからもそのスピードは維持しながら助けられるようにしていきましょう...。ですが......」

 

 

「現状に満足してしまった我々は、根本的な問題を放置してしまい、事件を引き起こしてしまいました」

 

事件を引き起こした、その一言で一斉に雄英生徒達を睨み付ける。大事な試験があるからこそ、暴動は起きないのであって、仮免試験がなければ今すぐにでも雄英生徒達に危害を加えるのは明白だ。

受験生達の雰囲気ががらりと変わっても気が付いていないのか、気にも留めない様子で目良は説明を続ける。

 

「なので...今年から...試験を内容を変えます」

 

「去年まではスピードを求め、蹴落とし合いも有りとしましたが...今年からは無しでスピードよりも質を求めることになりました」

 

質?と受験生達の頭の中に疑問が浮かぶ。

受験生達が疑問を浮かべたところで、説明者である目良には関係はなく、眠気を抑えながら淡々と続けていた。

 

「試験として、皆さんにはこれから、大震災を模した被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます」

 

「パイスライダー?」

 

「バイスタンダー!現場に居合わせた人のことだよ。授業でやったでしょ!」

 

「一般市民を指す意味でも使われたりしますが...」

 

上鳴と峰田の酷い言い間違いに、黙って聞かないといけない場面だと理解していても、思わず葉隠と八百万は訂正をしてしまう。

 

「ヒーローとして一番乗大事なものはやはり...人助け。この仮免試験試験で、皆さんがどれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます。今回の仮免試験はこれだけです。一回の実技試験で測りますので気を引き締めて挑んで下さい。そして...皆さんが救助する人達はこの方達です」

 

目良はモニターの方に手を伸ばすと、モニターの画面が独りでに光り、崩壊した建物がある被災現場が映り出されていた。荒れた被災現場には苦しそうにさ迷う人達が居り、わざわざ血糊を塗って怪我人を装っていた。映像が変わると、被災現場をさ迷っていた老若男女が誇らしげに立っていた。

 

「彼らはあらゆる訓練において今ひっぱりダコの要救助者のプロ...。Help us company,略してHucの皆さんです!フックの皆さんは傷病者に扮して被災現場の全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼らの救助を行ってもらいます。ですが...人手は足りないので...」

 

丁度良いタイミングで、黒服達が大量のマネキンと人形を持ってきて目良の前に並ぶ。

 

「マネキンと人形も君達にとっては救助対象となります。生きてはおりませんが、ぞんざいに扱えばその時点で仮免試験失格となり、即座に試験会場から退出させて頂きます」

 

「君達には今から、仮免試験を始める前に一時間の休憩に入ってもらいます。休憩室には受験番号のシールが貼ってある携帯が置いてあるので、自分と同じ受験番号が貼ってある携帯を受け取って試験中は必ず持ち歩いて下さい。その携帯電話には君達の発言がこちらに聞こえる盗聴機能があり、ヒーローとして不適切な発言をした場合でも仮免試験失格となります。携帯電話を駆使して受験生同士上手く連絡をして、効率よくフックの皆さん、マネキンと人形を救助して下さい」

 

「休憩している間同じ学校の生徒同士で作戦を練るのも良いし、他校の生徒達と仲良く交流を深めるのも、問題さえ起こさなければ何をしていても構いません。また、被災現場に行くにあたって、救急箱などをこちらで用意しております。何が必要なのかは各自で判断して下さい」

 

「今回の仮免試験では合格者の数は決めておりません。君達が優秀であれば全員合格も有り得ますし、逆に...我々が求める基準を満たさなければ全員不合格も有り得ます」

 

全員合格も有り得る。

その言葉に受験生達は驚いてどよめきが立つ。こういう試験はほぼ必ず合格者の数は決まっているからだ。

 

「こんなもののせいで睡眠が...。私がなるべく早く休めるよう、問題なく、無事に仮免試験を終わることを期待していま~す...」

 

目良の説明は最後まで気だるさを隠さなかった。

 

 

 

 

仮免試験始まる前の一時間休憩。必然的に雄英生と他校の生徒は分かれていた。

雄英生徒達には地獄だった。咎めることが出来る監視員が居ないが為に、これ見よがしに雄英生徒達の悪口を堂々と大声で言っていた。

 

「全員合格有りとか...」

 

「こんな嬉しいことは中々ないぜ!」

 

「でもよぉ...あいつら雄英生も合格出来る可能性があるんだぞ。それは嫌だ」

 

「大丈夫だろ!流石に雄英教師みたいに腑抜けではないだろ!仮免試験は認められなくて全員落ちるだろ!」

 

「そうだと良いけど...」

 

「だったらさあ!どこの高校関係なく!俺達は全員手を組んで雄英生が助ける前に救助者を助け出して、あいつら全員を不合格にしてやろうぜ!」

 

「それ良いわね!そうしよう!」

 

どこかの高校生の提案に全員が乗る。

提案に乗った高校生の中には、数あるヒーロー科がある高校の中でも雄英に匹敵するほどの至難校である士傑高校生もいた。数の差に圧倒されながらも緑谷は話し掛けて冷静になろうとした。

 

「みんな...」

 

「言われなくても分かってるわ!あんなモ...あいつらの言うことを気にする暇があったら、目の前のことだけに集中してろ!」

 

「緑谷ちゃんと爆豪ちゃんの言う通りだわ。何言われても気にしないで、私達は目の前にある仮免試験のことを考えないといけないのよ、ケロッ」

 

「そうですわね...お二方の言う通りですわ。コホンッ...早速ですが、本題に入らさせて頂きます。皆様は救急箱を持っていくとしても他に何か持っていきますか?私の"個性"創造では作れるとは言え、物を作り出すことが出来る脂肪は有限です。ですから持っていくかどうか迷っていて...」

 

「確かに。素早く救助者の下に行けるのかも大事だからな。俺も八百万の立場だったら凄く悩む」

 

どんなに言われても挫けない雄英生徒達の背中を、ある女子生徒が紅茶を飲みながらじっと見詰めていた。

 

 

 

 

所変わって、教師達が受験生を様子を見守る観覧席で相澤は一人静かに座っていた。

自然な流れでMs.ジョークが相澤の隣に座る。

 

「イレイザーチャック開いてる...」

 

ちょっかいを出し続けていたMs.ジョークにウンザリをした相澤は発言を聞き流していた。

態度に出していたが、それでもMs.ジョークは会話を止めなかった。

 

「しっかし二十人とはなぁ。お前が除籍してないなんて珍しいじゃん。気に入ってんだ今回のクラス」

 

「別に」

 

ずっと笑っていたMs.ジョーク。すっと目を細めると、今までの楽しそうな雰囲気は消え去り、プロヒーローさながらの緊張感のある雰囲気を漂わせる。

 

「生徒から話を聞いたよ、イレイザーの生徒爆豪君が"無個性"虐めをしていたんだね」

 

「そうだと...言ったら?」

 

「そうだねぇ...がっかりしたと言うより、あの直ぐに除籍をするイレイザーが何で認めたのかが気になる。あの子はOKで他の子達は何で駄目だった?」

 

「......今言えるのはあいつは心から反省をした。被害者である緑谷も謝罪を受け入れた。だから除籍をしなかった。それだけだ」

 

「今はねぇ...。だったら見せて貰おうかな、イレイザーが除籍しなかった爆豪君の実力を」

 

 

 

 

雄英生徒達のとっての地獄のような休憩時間が終わる。仮免試験が始まる三分前には現場で爆発が起きたと、映像と共に出動命令がスピーカーから流れる。受験生達は各々素早く準備を整えて会場に向かう。他校の生徒達と上手く連携が取れる訳がなかった緑谷達は、各自で救助者を見付けて助けだし、人手が足りなかったら互いに連絡を取り合って助けるという作戦に出た。

単独行動をしていた緑谷は、今にも崩れそうな建物の中に入って救助者を探していた。

 

「大丈夫ですか!誰か居たら返事をして下さい!」

 

返事がない静かな建物の中。

散々調べ尽くした緑谷はここには誰も居ないのか?と別の場所に移動しようとしたその時、無造作に置かれたマネキンが緑谷の目に入った。

 

「あれは...マネキン!大丈夫ですか!?今助けるから...熱ッ!?」

 

救助者として見立てたマネキンを助けるべく、背中を無防備に見せた緑谷の頬に紅く煌めく光弾がかする。光弾は建物の壁に当たって焦げ後を残していた。

 

「いくら僕達が憎いからって!こんなやり方は間違って...!!?」

 

攻撃をしてきた相手が他校の受験生だと思っていた緑谷は絶句する。そこに居たのは──

 

 

 

児童養護施設の住民を助ける為に出ていった筈の黒猫の魔法使いが緑谷を睨んでいた。

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