救助活動に集中していたものも、騒ぎに気が付いた他校の生徒達が黒猫の魔法使い、爆豪、飯田の存在に気が付いて一斉に振り向く。双方面を食らっていると黒猫の魔法使いが動き出す。
大魔術を地面に向かって放ち、その反動を使って空を飛ぶ。衝撃と共に砂埃が舞い、黒猫の魔法使いの姿を隠す。高く飛び上がって逃げようとした黒猫の魔法使いをとある受験生が邪魔をする。
「そうはさせないッス!!」
頭を丸刈りにし、マントを羽織り、軍服のような制服を着た大柄な男性─夜嵐(よあらし)イナサが豪快に風を操って砂埃を吹き飛ばす。
砂埃が吹き飛ばされると黒猫の魔法使いの姿が露になる。暴風並みの威力の風だったが、防御障壁で身を守っていた為黒猫の魔法使いに特にダメージはなかった。高い建物の上に着地した黒猫の魔法使いの動きはなく、爆豪が先制攻撃をしようとした時、別のところから誰かの悲鳴声が聞こえてくる。事前に考えていたようで、受験生達にとって最悪なタイミングで敵(ヴィラン)役の人達が暴れだす。
「敵(ヴィラン)役の方が紛れ込んでいました」
「...ッ!!やはり紛れていましたのね!!」
薄水色の長い髪、片目にはモノクルを着けている。お嬢様風の制服を着た女性が忌々しげに呟く。
彼女の名前は印照 才子(いんてり さいこ)。別の場所で救助活動を行っていた生徒達の報告により、フックの人達の中に敵(ヴィラン)役の人が紛れ込んでいることは事前に分かっていた。けれども、怪しいからと言って、人を助けるヒーローが先に攻撃をするのは御法度だ。相手から先に手を出さない限りヒーローからは攻撃は出来ない。怪しい人物に目を付けていたとしても、今回のように誰かが派手に暴れられては、目を離してしまう隙を作られて意味がなくなってしまう。才子はイライラしながらも、状況を打破する為の対策を考えていた。
ダメージがないとは言えども、無防備な姿で空に浮かびなから徐々に落ちていく黒猫の魔法使い。
その隙を逃さずに夜嵐が攻撃を仕掛ける。けれども──
「その程度のものなのか」
鯱をそのまま擬人化させた人物が超音波で暴風を打ち消す。
暴風を打ち消した人物の名はギャングオルカ。見た目の怖さからか敵(ヴィラン)っぽいヒーローと言う不名誉なランキングにランクインしているが、立派なヒーローであり、その見た目を活かして全国の水族館で活動をしている。神野区事件で上から参加してほしいと指名される程実力がかなりあるのだ。
黒猫の魔法使いだけではなく、プロヒーローであるギャングオルカも参加している。これだけで受験生達の心に重く伸し掛かる。一瞬たじろいでしまった受験生達に、更なる追い打ちが掛かる。
『淡い光、心の力』
「力、分けてあげようっか?」
青を基調とした煌びやかな服を着た、夜空の中で一際目立つ赤く輝く目を持った少女の姿が浮かび上がる。
黒猫の魔法使いがギャングオルカを中心に精霊強化の魔法をかけたのだ。ただこれだけでヤバイと感じたのは爆豪と飯田だけだった。後から二人の反応を見て印照が受験生達にとって不利な出来事だと悟る。他の生徒達は自分達やギャングオルカに目立った変化がないことから、少女の姿で気を逸らしているだけかと勘違いをする。何にも変化がないところから慎重に、けれども大胆に、数の差を活かして、夜嵐を中心にギャングオルカ、黒猫の魔法使い、民間人に紛れ込んでいた敵(ヴィラン)役の人達に攻撃をしようとする。だが──
「フッ...」
ギャングオルカの軽い吐息のような超音波によって、全ての攻撃が吹き飛ばされる。
予測していた爆豪と飯田は驚かなかったが、一気に強くなったギャングオルカに戸惑いを隠せない他校の生徒達。
そもそも精霊強化を知っている人はかなり少ない。いくらテレビやネットで黒猫の魔法使いの魔法について語っていたとしても、多種多様な魔法を調べ尽くすことは難しい上、同じ人物のカードでも服装やポーズ、人数が増えていたり、デフォルメになっていたりすると効果や属性が違っていたりする。黒猫の魔法使いと親しくなって教えて貰えなければその違いは分からない。また、見分けられなくなってしまった理由は他にもある。それは掛けていた相手だ。
真っ向から全否定した為、他のヒーローと仲良く出来なり、殆んどオールマイトにしか精霊強化を掛けていなかった。オールマイトには精霊強化魔法が効かないと言う訳でもなく、きちんと彼にも精霊強化の魔法は発動していて何時もより強くなっていたのだが、元からパンチ一発で天候を変える程強い彼を強化したところで、元が強すぎるが故に誰にも気付かれないのだ。他の人達から見ればオールマイトは凄い!の印象で終わる。
精霊強化魔法を掛けられたのはギャングオルカだけではない。フックの人達の中に紛れて暴れていた一部の敵(ヴィラン)役の人達にも掛けられていた。
いきなり強くなったギャングオルカに困惑している間にも、強化された敵(ヴィラン)役の人達が次々と受験生達を痺れ矢で痺れさせたり、"個性"や格闘技で倒していく。打開策を見付ける為にも印照が爆豪と飯田に近付く。そんな印照に才様!と呼び掛けて止めようとした人がいたが、印照は敢えて無視をして飯田に話し掛ける。
「貴方達何か知っているようね?あの魔法は一体何ですの?」
「あれは精霊強化魔法というものだ。精霊強化魔法とは掛けられた対象の身体を強化したり、少しずつ傷を回復したり、火や雷と言った攻撃を軽減したりと色んな効果がある。また、同じ精霊強化魔法といってもカードによっては状態異状を無効化するといった効果があったり...」
「えっ...それって...!!神野区事件で暴れていた脳無みたいことになっているのではないですか!それで!今使われた精霊強化魔法の効果を正確に把握しているのですの!?」
力が常人よりも強くなり、傷を勝手に治せる精霊強化魔法は脳無と似たような力を得ることが出来る。そのことに気が付いて焦った印照は精霊強化魔法について丁寧に語っていた飯田の話を遮る。印照の問いに正確に把握していない飯田も爆豪も答えられなかった。
大体の効果を覚えていたとしても、関り合いが少なかったり、仮免試験で忙しくて黒猫の魔法使いが使う魔法を完璧に把握はしていない。対策としては魔力切れを待つ、詠唱中に邪魔をして術そのものを発動させない、本人の意識を奪うとかのやり方があるのだが、どれもこれも上手く出来るものではないと爆豪と飯田は思っている。だがしかし、ここで諦める気持ちは毛頭もない。
爆豪が前に出ようとした刹那、狙うかのように、球状になった水弾が爆豪達に襲い掛かる。水弾は爆豪が繰り出した爆発と相殺し合い水蒸気となって消え、互いの視界が奪われる。奪われた視界の中で牽制し合う。意外にも有利になっている黒猫の魔法使いは動かなかった。そのことに疑問を感じた印照は、腰に取り付けた水筒を手に持って飲もうとする。その時だった──
水弾と電撃が印照達を襲う。
「済まない!」
「きゃっ!」
先程以上の動きで印照に狙い始める黒猫の魔法使い。飯田は印照をお姫様抱っこに近い状態で抱えてその場から離れる。いきなり抱き抱えられて驚く印照だったが、自分のことを守る為の行動だったので特に文句を言うことはなく、飯田に抱えながらも水筒の中身を飲もうとする。
「水分を取るのも大事だが、今はそのようなことをしている場合ではない!安定した状態で飲まないと誤って気道に入り、最悪の場合誤嚥性肺炎を引き起こし...」
「そのことは私も知っておりますわ!ですが!今は一刻も早く!お紅茶を飲んで"個性"を発動しないといけないのですわ!」
印照才子の"個性"IQ。
紅茶を飲んで目を閉じている間だけIQが倍増する"個性"だ。紅茶を飲んでIQを上げて打開策を考えようとしていたのだったのだが、かなり真面目な飯田に健康的な理由で止められてしまい、黒猫の魔法使いの攻撃が止むまでの間、飲みづらいこともあったからか"個性"を使うことは諦めて、抱えられた状態のままで打開策を考えようとする。
「余所見してんじゃねぇよ!!!」
飯田が印照を抱えて逃げている間、無視されて苛ついた爆豪が激怒をして黒猫の魔法使いに飛び掛かる。爆豪の叫び声と爆発音が鳴り響く。
ここでも黒猫の魔法使いは余裕綽々と、無反応で爆豪を見詰めていた。舐めている態度に爆豪は最大火力の爆発を叩き込もうとする。黒猫の魔法使いを睨み付けていた爆豪は気が付いていなかった、どうして彼女が最後まで動かなかった理由を──
「その余裕ある態度を壊ぶっ壊してやるっスよ!!」
他校の生徒である夜嵐が爆豪ごと突風で吹き飛ばす。
"個性"のお陰で空中をそれなりに動ける爆豪と言えども、空中で踏ん張れる術はないので落ちてしまう。黒猫の魔法使いが無反応だったのは夜嵐が爆豪ごと狙っていたことが分かっていたからだ。吹き飛ばされながら爆豪は叫ぶ。
「俺が倒そうとしているのが見えねぇのかあ!!ああ!?見えねぇなら!!でしゃばって来るんじゃねぇ!!!」
これでも暴言は抑えている方であると、爆豪の性格を知っている黒猫の魔法使いと飯田は、戦場中にも拘わらず少し感心してしまった。
爆豪への巻き添えはこれだけではなかった。夜嵐の突風に合わせて肌色の塊が黒猫の魔法使いの周りを浮いている。それに気が付いていた黒猫の魔法使いは電撃で肌色の塊を攻撃していく。黒猫の魔法使いが肌色の塊を破壊していたお陰で爆豪への巻き添えは無くなったが、今度は夜嵐と爆豪の言い合いが始まってしまった。
「お前の方こそ邪魔ッスよ!!大体!昔虐めをしていたくせに!ヒーローになろうとするのはどういうこだ!!ヒーローは熱くて格好いい存在!誰かを貶す格好悪いお前がヒーローを目指して良いものではないッス!例え!雄英が認めていたとしても俺達は認めないッスよ!!!」
夜嵐の叫びに頷くかのように、夜嵐と同じ制服を着た紫色の髪の細目の男子生徒が爆豪を批難する。
「嘗ての私は君達を拝し、御校と伍することに誇りすら感じていたのだ。だが...私はどうやら間違っていたようだ。責務や教示を放棄しているどころか、あまつさえ品位を貶め、今まで積み上げてきたヒーロー社会の根本を潰し、偉大なる道を作り上げてきた諸先輩に失礼だと思わないのであるか!貴様らのような者はヒーローになる資格はないのである!!」
感情が高ぶった紫髪の男子生徒肉倉 精児(ししくら せいじ)が爆豪だけではなく雄英生達を激しく叱責をする。剥き出しになった感情のままに"個性"で攻撃をする。夜嵐も肉倉の爆豪もろとも黒猫の魔法使いを狙おうとした瞬間、肉倉と夜嵐の携帯電話が鳴り響く。
「夜嵐イナサ、肉倉精児。ヒーローに相応しくない行動をした為失格とさせて頂きます。速やかに試験会場から退出して下さい」
無機質に一方的に失格と告げられた夜嵐と肉倉。
本人も周囲の人々も納得出来ない人が多かった。試験中で動きを止めてはいけない状態であったが、敵(ヴィラン)役のヒーローは生徒達を襲うことを止めて話し出す。敵(ヴィラン)役の動きが止まると、受験生達も立ち止まって話を聞く体勢になる。二人の失格に納得出来ない受験生がそれ程多いのだ。
「本人達で解決したとは言えども、虐めは許されないことであるのは当然のことだ。暴行や暴言を虐めと言う言葉で片付けてはいけない」
ギャングオルカの言葉に他の受験生達はそうだ!そうだ!と言おうとしていたが、フックの人達が注意をして静かにさせる。
静かになったところで、ギャングオルカが深呼吸をして話を再開する。
「だがな......」
「お前達も他人のことを言える常態ではない。お前達も爆豪と同じように、黒猫の魔法使いやヒーロー社会に忠告した者を馬鹿にし、話を聞かなかったた人も本質的に同じだ」
ギャングオルカの否定に、本物の敵(ヴィラン)を倒す勢いでギャングオルカに襲い掛かろうとするが、近くにいた敵(ヴィラン)役のヒーロー達に止められたり、ギャングオルカの超音波攻撃であっという間に倒されていく。他の受験生達が感情的に暴力で訴えかけている中、肉倉が声を荒らげながらも言葉で訴える。
「何故!私どもがあの愚者と一緒にされないといけないのであるか!?我々は守るべき弱者を助けていたのである!話を聞かなかった件については我々が悪いのではなく、一方的に否定をし、理路整然に話を出来なかった黒猫の魔法使いにも原因がある」
肉倉の言い分に、ギャングオルカは心底呆れていてため息をついていた。
「そうだな...。確かに、黒猫の魔法使いの言い方に問題があるだろう。だがしかし、黒猫の魔法使い以外にもこのヒーロー社会に苦言を申していた者はそれなりに居たのだ。異世界人である黒猫の魔法使いと違って論理的に話せていた者も居た筈だ。何故その人達の話は聞かない?忙しかったからか?自分には関係なかったからか?ヒーローを否定する存在が気に食わなかったからか?...それで言い訳になると思っているのか!!」
超音波混じりの怒声を浴びせながら肉倉達を吹き飛ばす。肉倉達は反論しようにも立ち上がることに必死で話せる状態ではなかった。
住民を守ってくれていたヒーロー社会の中には傷付き、問題が起きて被害者が出ても放置され、影で泣いている人達もいた。だから、ヒーロー社会を否定して問題提起をする人達が現れた。しかし、ヒーロー社会や常識を否定する者は頭可笑しい人、陰謀論者、知的障害者、低学歴、友達いない人などと様々な暴言をテレビやネット、現実でも浴びせられてきた。
話を聞けなかったのは爆豪が"無個性"を馬鹿にして虐めるように、社会を否定する者は馬鹿だと思い込んで話を聞けなくなっていた。爆豪の虐めを許せないと言っておきながら、黒猫の魔法使いにも原因があると開き直る姿は本質的に爆豪と似ているものだ。馬鹿にする相手が"無個性"からヒーロー社会を否定する者に変わっているだけだ。
唯一幸いなのは"にも"と言っているから自分達にも原因があると自覚をしていることだった。とはいえ、話を聞かないといけない立場なのに開き直って反省をしない時点でアウトだ。これでもし、きちんと反省をしていたら、ギャングオルカは直ぐに言葉を訂正して肉倉達に頭を下げるつもりだった。けれども、この状態では本気で潰そうと思うどころか、相手にするのも無駄、ヒーローとして相応しくないと判断をしてさっさと退場させる方が時間的にも、心情的にも楽である。
爆豪がヒーロー目指すことは認めたのは被害者である緑谷が許し、彼が心の底から反省しているだけではない。他の受験生達も本質的には同じで爆豪だけ失格にする訳にいかないからだ。
現状のヒーロー社会は危ない!と忠告した者を無下にした者は多く特定することは難しい。本気で改心をした彼だけが目指すことを認めないのは理不尽であり、彼を認めないのであれば話を聞かなかった者を全員を特定してその者達もヒーローへの道を諦めなければいけない。ヒーローとはどんな時でも困っている人の声を聞かないといけないからだ。
「文句があるなら出ていけ。お前らのような耳無しは要らん。仮免試験を受けられるだけ有り難く思え」
受験生達は腕を組んでいるギャングオルカを睨むことしか出来なかった。
きりがいいので今回はここまでとなります。次からは戦闘メインになると思います。
夜嵐と肉倉ファンには申し訳ございませんが、二人は失格対象になりました。理由はこのような感じです。
夜嵐は普通に原作の動きからしてアウト。彼の性格的に爆豪を許せなくて手を出すと思います。相手が轟から爆豪に変わっただけです。肉倉も許せなくて手を出すタイプだと思ったので彼もまた失格とさせて頂きます。
肉倉の考え方は間違っているとは思ってはおりません。寧ろ正しいと思っております。現実の虐めてくる人って爆豪のように反省をしておらず、過去のことを忘れて悠々と生きている人が多いですからね。そういう人達が多いから架空のキャラクターでも虐めっ子は嫌われますよね。とはいえ、爆豪は心の底から反省をしており、被害者である緑谷も許しているのでヒーローへの道はとだされることはありません。
この作品では爆豪が反省をしているだけではなく、他の人達も忠告者の言葉を聞けなくて駄目でした。ヒーローは困っている人、悲しんでいる人達の声を聞かないといけないので聞けなかった。しかも、常識を否定する者は頭可笑しい人扱いした人が多かったので彼らも駄目です。片方だけを罰する訳にもいかないのです。しかし、話を聞かなかった人達の数が多く、特定する時間もなく、これからのことを考えると少しでも人手が必要なので双方見逃される形となりました。
爆豪のような過去を持っている人をヒーローにさせない方法は、ホークスが語っていたヒーローが暇な社会を作る方法しかありません。
その為にも問題に無関心にならず、全員で向き合い、ヒロアカ世界に住んでいるヒーロー、住民、ヴィランを全て変えないといけません。...現状だと無理ですね。相当時間が掛かります。