黒猫の魔法使いと個性社会   作:オタクさん

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67話 仮免試験 その五

邪魔者がいなくなり、今度こそ受験生達とヒーロー達がぶつかり合う。

早く戦いたくてうずうずしている者がいれば、逆に始まってしまったと緊張のあまり嫌になってしまった生徒もいる。受験生達の内心はどうあれど、戦闘が始まればもう止まらない。

 

前衛に守られ気味だった黒猫の魔法使いが、何故か少し前の方に出て呪文を唱える。

その行動に違和感を感じる受験生達だったが、なんでも出来る黒猫の魔法使いを倒そうと深く考えずに、黒猫の魔法使いに一斉に攻撃を仕掛ける。だがしかし、他のヒーロー達の攻撃と相殺し合い、黒猫の魔法使いや他のヒーロー達には攻撃が届かなかった。飯田や爆豪などが蹴りや"個性"による攻撃を直接当てて止めようとするが、彼らが襲い掛かるのと同時に呪文が発動する。

 

『グラブ・アルケミカ』

 

「野生と錬金、ダブルでいくぜぇ!」

 

白い髪をベースに、水色の髪の毛が混じった獣の耳を生やした少女が活発に叫ぶ。

 

先程とは違う攻撃魔法が唱えられる。攻撃魔法だとしてもやることは変わらないので焦ることはなかった。

水球と雷撃が近くにいた飯田と爆豪を中心に狙われ、大砲の如く放たれた水球は貫かんばかりの勢いで受験生達を狙い、雷撃は痺れさせて一時的に体の自由を奪う。しかも、前衛にいた爆豪にとっては水球は何気に厄介だった。彼の爆発の元は汗、冷たい水球が当たってしまえば体温を下げる故に汗が出にくくなってしまう。

 

チッ!と舌打ちを出しながら爆豪は爆発を活用しながら空中に逃げるなどをして避け、飯田はスピードを維持しながら右へ左と移動をして距離を詰める。他校の生徒達も飯田や爆豪のように"個性"を使ったりして避け、上手く避けられないと悟った者は一旦下がって距離を取り、防御が得意な"個性"はその場で止まって攻撃を凌ぎながら次の機会を伺う。

スピードを緩めることもなく、距離を詰めていた飯田は真っ先に黒猫の魔法使いに狙いを定めて蹴ろうとする。蹴られそうになっていた黒猫の魔法使いはほくそ笑む。黒猫の魔法使いの笑い方を見た飯田の背中に悪寒が走り、これは罠だと気が付くが時すでに遅し。飯田が止まろうとした時には二回目の攻撃が発動しており、雷撃は飯田へ、水球は他の生徒達へと。二回目の攻撃が他の者達に襲い掛かる。蹴る体勢で不安定だった為に、避けられずに飯田のお腹に容赦なく雷撃が直撃する。焦りすぎた代償は痛みだった。

 

「カッ...ハ!!」

 

お腹に雷撃を食らった飯田は、ろくに言葉を発することが出来ないまま遠くに飛ばされる。トドメを刺そうとギャングオルカが近付いて蹴りを入れようとするが、毛原が髪の毛を操る"個性"を使い、飯田の体に巻き付けて他の受験生達がいる所に引寄せる。

 

「大丈夫か?」

 

「ありがとう...恩に着る」

 

咳き込みながらも飯田はお礼を伝える。

攻撃を受けてしまった飯田や他の受験生達が見て、黒猫の魔法使いが前の方に出ていたことは、受験生達を誘き出す為の餌にすぎなかった。反省する暇はなく、油断させる為に動かなかったギャングオルカ達が本格的に動き出す。受験生達も負けじと、肉弾戦が得意な人達がギャングオルカ達に挑む。

 

「......!!!この試験は戦闘だけでないのよ!みんな!彼らを安全な場所まで連れていくのよ!」

 

攻撃に向かない"個性"故に、様子見をしていた受験生の一人が救助の試験も同時で行っていることを思い出して指示を出す。

黙って話し合いを聞いていたフックの人達はいつの間にか演技を再開しており、受験生とギャングオルカ達から響き渡る戦闘音、フックの人達の見事な演技と相まって、救助に専念しようとした受験生達は怯みそうになるが、のし掛かるプレッシャーを追い払って救助に励む。怖がっているフックの人達に優しく声を掛けたり、フックとマネキンと人形を出来るだけ丁寧に運んで戦場からいち早く逃げる。

 

「逃がすか!」

 

「させるか!!」

 

救助者を背負って戦場から離れようとした受験生達を、ギャングオルカは超音波攻撃を繰り出して攻撃をする。

防御が得意な"個性"持ちの二人の受験生が盾となる。しかし、超音波攻撃に負けそうになって吹き飛ばされそうになる。吹き飛ばれそうになった二人を他の受験生達が背中を押して支える。

 

『淡い光...』

 

救助者達を必死に守る生徒達を嘲るかの如く、黒猫の魔法使いが呪文を唱えようとする。その時だった──

 

 

「スーーーーマッシュ!!!」

 

「緑谷!?」

 

「緑谷!」

 

緑色の閃光を纏った緑谷が黒猫の魔法使いに殴り掛かる。

突然の出来事に、不意を突かれた黒猫の魔法使いは防御障壁を展開する余裕もなく殴られそうになる寸前、金色の髪と立派な髭が繋がったライオンのような筋骨隆々の男性ヒーローが庇って代わりに殴られて吹き飛ばされる。緑谷の乱入に受験達は驚いて一瞬動きは止まってしまったが、ヒーロー達は動じずに、VRゴーグルのような物をかけた女性ヒーローが乱入してきた緑谷に向かって光の矢を放つ。

 

「うわ!」

 

「きゃっ!?」

 

光の矢が緑谷に当たる寸前、どこからか鳩やカラスが飛んできてヒーロー達の視界を奪う。ヒーロー達の顔目掛けて飛んできたせいか、思わず短めの悲鳴を上げていた。敵(ヴィラン)役といえども、動物をむやみやたらに攻撃をする訳にもいかず、鳩やカラスを手で追い払うことしか出来なかった。役目を終えた鳩やカラスはどこかに飛んでいく。ヒーロー達が鳩を追い払っている間に、飯田の時と同様に毛原の助けもあって緑谷は難なくヒーロー達から離れることが出来た。

 

黒猫の魔法使いは鳩を追い払うこともなく、呪文を発動して精霊強化の魔法でヒーロー達を強くし、回復魔法も唱えておいて吹き飛ばされた男性ヒーローを回復させる。回復したヒーローは殆んど傷が無くなり、少し残っていた傷も精霊強化の魔法で無かったことにされる。

 

受験達は思わず舌打ちをしたくなったが、そのような暇はなかった。吹き飛ばされた男性ヒーローが足を豹に変化させて受験達に襲い掛かる。その男性ヒーローの後ろから、電気を纏った黄緑色のショートヘアーの女性ヒーローと、墨のように真っ黒な髪にしなやかな筋肉質の男性ヒーローも加勢する。

どうして緑谷がここに来たのか、他のA組はどうなっているのかと飯田が尋ねたい気持ちを抑えて襲い掛かるヒーロー達を迎撃しようとする。受験達に辿り着く前に誰かの技名が聞こえてくる。

 

「ハートビートファズ!」

 

大音量の音と共に地面が割れ、ヒーロー達の動きを阻害する。

この日の為に作られたサポート道具は耳朗の"個性"を強くさせ、受験達よりも遥かに強いヒーローを足止めさせる程の大きな地割れを起こす。だがしかし、あくまでも一時的なものであり、地面が割れて走りづらくなったとしても軽々と乗り越えて受験達に危害を加えようと距離を詰める。ヒーロー達の拳や蹴りが受験達に届きそうになった瞬間、今度は大きな氷の壁がヒーロー達と受験達の間に現れて受験達を守る楯となる。

 

「耳朗!轟!」

 

「委員長!ウチらだけじゃないよ!」

 

「一年A組、全員で応援に来た」

 

 

 

時は少し遡り、一年A組だけで救助と敵(ヴィラン)との戦闘を同時に行っていた時の話。

 

爆豪の件で荒れて喧嘩をしている間も、雄英一年A組で固まっていた生徒達は手を止めずに救助者達を助けていた。

喧嘩などの問題は起きないとはいえ、救助者目掛けて容赦なく攻撃をしてくる敵(ヴィラン)役のヒーロー達に悪戦苦闘を強いられていた。ヒーロー達から距離を取ろうとしても、どこまでも救助者狙っては執拗に追い掛けてくる。

 

動かない人形やマネキンはともかく、一般市民として演技をしているフック人達は突然攻撃をされたらパニックになるだろうと、受験達の言うことを聞かないでどこかに行ってしまうものだから更に悪戦苦闘を強いられる原因となっていた。しかも、生きてはいない人形とマネキン相手だと全力で壊しに来ることが厄介だった。

これもまた試験の一部であり、パニックになっているフックの人達に苛つきを感じたら失格対象となる。勿論、一年A組はパニックになっているフックの人達に苛つきを感じてはいなかった。だが、焦ってしまう要因とはなり、ケアレスミスが多発していた。

 

特にケアレスミスが多いのは八百万だった。

大金持ちの家で生まれた八百万は幼い頃から色々な習い事を習っており、"個性"も優秀で文部両道な人物だ。一見すると完璧な人に見えるのだが、プレッシャーに弱い一面もある。

脂肪から様々な道具を作れるが、構造を理解した物しか作れず、作りたい物の構造を頭に浮かび上げながら今必要な物を作る。脅えるフックの人達の声で同時作業が出来なくなった八百万。いくらカロリーが高い携帯食料を持っていたとしても、脂肪は有限であり限界を超えて使えば倒れる要因となるだろう。

 

無駄な失敗をするくらいなら立ち止まって様子を伺っていた方が良い。そう思った八百万は一度深呼吸をして周囲を見回していた。次作る道具を考える理由に動きを止めてしまっていた。

今八百万が立ち止まっている間にも戦闘は続き、切島が体を硬化させて盾となって守り、救助者を助けながら"個性"で持ち上げた瓦礫をヒーロー達にぶつけて攻撃をする麗日、唯一"個性"が当たっても害がそこまでない峰田は頭から血がどれだけ流れようとも頭に生えているボンボンを必死に投げ続けて動きを封じようとする。無差別に感電させてしまう電気も、救助者達が周りにいない時は"個性"を使って攻撃をしていた。感電したり、峰田の"個性"で動けなくなったヒーロー達を瀬呂や蛙吹はセロテープや長い舌で捕縛する。みんな出来ることを精一杯やっていた。

 

(こういう時...轟さんなら...飯田さんなら...緑谷さんなら...どうするのでしょうか...)

 

すっかりと弱気になってしまった八百万は同じ推薦合格をした轟、同じ委員である飯田、同じクラスメイトである緑谷ならどう対応するのか考え込んで行動が出来なくなっていた。そんな時だった──

 

 

八百万の視界に緑色の光が入る。

 

(これって...緑谷さん!?緑谷さんは今、別の場所で救助者を助けに行ったのでは...もしかして私達を助けに来たのでしょうか!?)

 

緑色の光がこちらに近付いてくる。猛スピードで目指しており、後もう少しで辿り着き、この戦闘に加勢をして、戦場を引っ掻き回してこちらが有利になるように動いてくれることを信じていた。

だが、相手はプロヒーロー。単純な不意打ちでは勝てない。動揺をさせて勝てる確率を上げたとしても、それだけでは足りないとも八百万は思った。勝てないと思ったとはいえ、良い案が思い付かない八百万は余計に焦る。

 

(どうしましょう...)

 

このまま立ち止まっていたら失格になるかもしれないことを自覚はしている。けれども、考えないで動いて事態を悪化させるのも嫌だった。だからといって、何もしないで失格になるのは物凄く嫌だ。

 

(いっそのこと──)

 

悩める時間はない、八百万は覚悟を決める。

 

「皆さん!」

 

八百万の叫び声に一年A組、フック、ヒーロー達が一斉に振り返って八百万の方を凝視する。全員が八百万を注目を浴びたのを狙って...一番作るのが得意なマトリョーシカを作って地面に落とす。

マトリョーシカが地面に触れた途端──

 

 

眩い光が炸裂をして無差別に視界を奪う。

視界を奪われた中でも特に、一年A組の動きを警戒して注視していたヒーロー達が酷かったが、間近にいた八百万もヒーロー達と同じくらい目が見えなくなっていた。腕で目を覆うなどの動きをしてしまうとヒーロー達にバレてしまう為出来なかったのだ。目が見えなくなったといえども、クラスメイト達がヒーロー達を倒してくれると信じて捕縛する為の網を作り続ける。

逆に八百万と仲良かった芦戸、葉隠、耳朗、蛙吹、麗日が八百万の思惑に気が付いて目を閉じ、その様子を近くで見ていた男性生徒達も真似をして目を守る。

 

後から合流してきた緑谷がヒーロー達を殴っている間に、目が見えるようになった者から加勢をしたり、倒されたヒーロー達が再び立ち上がらないように"個性"や八百万が作った捕縛用の網などの道具を使って拘束をする。

敵(ヴィラン)連合の襲撃などの大きな事件を乗り越えた彼らにとっては隙さえ作れれば、案外楽に突破することが出来るのだ。あれ程苦戦をしていたのに、閃光手榴弾一つで戦況を引っくり返すことに驚きを隠せなかった一年A組だが、手を止めずにヒーロー達を拘束をし、フックの人達などの救助者には手当てをしたり、救助者の体に負担を掛けない程度の素早いスピードで安全な場所まで運んで行く。

 

別の場所で起きていた受験同士の言い争いは、話し合いを聞く為にその場に留まり、敵(ヴィラン)役のヒーロー達は他の場所に行けなくなり、雄英だけで集まっていた場所にとってはかなり有利に終える結果になった。

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総合評価:10752/評価:8.34/連載:42話/更新日時:2026年05月04日(月) 12:00 小説情報


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