仮免試験が終わり、帰りを待つバスの中、疲れきってだらけきった緑谷達。相澤とキキとウィズがバスの中に入ると発進をする。
「お疲れ様にゃ」
「お疲れ様」
「お疲れ。で、試験はどうだったか?」
ウィズ、キキ、相澤が生徒達に労いの言葉に掛ける。
話す気力もない緑谷達だったが、彼らの言葉が耳に入った瞬間、項垂れていた頭を上げて、空気を大きく吸い込んでから口を開く。
「「「仮免試験難しいすぎだ(よ)(ですわ)!!」」」
仮免試験の難易度の不満は疲れを一気に吹き飛ばし、文句をぶつける。
「あんなに難しいだなんて聞いていないよ!」
「仮免試験なんだから!もう少し優しくしてほしいよね!」
「実戦でも中々無い厳しさだよな。あれが基準だったらテレビで敵(ヴィラン)との戦いが放送出来ないだろう」
「早々、敵(ヴィラン)になす術もなくやられるヒーロー...観ている俺達の心も痛くなるから観たくねぇ」
「黒猫の魔法使いの強化魔法や回復魔法ははっきり言って、脳無を即席で作っているようなものだな」
「殴って傷をつけることが出来ても、直ぐに回復をされた時は本当に絶望感を感じたものだ」
「黒猫の魔法使いだけでも厄介なのに、ギャングオルカなどのプロヒーローが多く集まっていたところも難しくなる原因だった。ギャングオルカは口田君、月詠は上鳴君など、僕らにとって不利になる人達が集まっていたのも...これも実戦では僕達の弱点を攻める敵(ヴィラン)を想定したものなのだろうか...」
「いくら実戦形式だからってあれはないですよ!何の準備もなく、レベル1の俺らにレベル99の魔王をぶつけるクソゲーになっているっすよ!!」
「クソゲーか...お前らが言うクソゲーというものはなプロに限らず、戦場に出れば誰もが遭遇する可能性がある。それこそ神野区事件ではお前らよりも少し強い新人ヒーロー達が、魔王と呼ばれていたAFOと逃げずに戦い...散っていた...この程度で弱音を吐くようではやってはいけないぞ」
相澤の言葉にA組の生徒達は口を閉める。
娯楽として作られたゲームとは違って現実は非情である。あらゆる、困難、理不尽を乗り越えて人々を助けるのがヒーロー。どんな時でも諦めてはいけない、"個性"の相性で逃げる人達がいたから"弱き者"が生まれ、社会が壊れる切っ掛けとなった。そのことを知っていたのに、手加減をされていた仮免試験に文句をA組の生徒達は深く反省をする。
ただ...相澤が言いたいことは神野区事件のことや"弱き者"のことだけではないとウィズとキキは悟っていた。その証拠にいつも怒る時はじっと相手の眼を逸らさない相澤が、A組の生徒達の眼を逸らして車内の窓から見える青空、白い雲を見詰めていたからだ。相澤がウィズとキキが自分の様子を伺っていたことを気が付く。何時ものように一言言うだけかと思いきや、何故かウィズの方に腕を伸ばして触ろうとする。
「にゃっにゃっ!?」
いきなり触ろうとした相澤に驚いてウィズは叫ぶ。
ウィズの叫び声に生徒達は考え耽るのを止めてウィズの方を見る。相澤も無意識の行動に戸惑っており、ウィズの叫び声で我に返って急いで腕を引っ込めた。
「どうかしましたか?相澤先生」
「どうかしたのにゃ?」
八百万とウィズが心配をしたが、相澤は無反応で彼女達に応えることはなかった。
無反応の相澤に他の生徒達も疑問に感じ、無事を尋ねながら相澤の様子を伺おうとするが、相澤は聞こえないふりをして話し始める。踏み込まれたくないのだと誰もが察し、気になっていてもこれ以上質問をするのは駄目だと思って話を聞く体勢になる。とはいえ、内心心配されたくない理由は何だろうか?と考えてしまい、集中をして話を聞ける状態ではなかった。
「お前達が勝てなくて文句を言っていたが...今のお前達では勝てないようにしていた。これで勝ってしまったら、今までの問題点を反省する気が無くなってしまうからな。お前達が全員で協力出来る状態で全力で挑んでやっと勝てる強さに上が調整をしていた。今後勝ちたければ、どんな人達とも協力出来るようにしろ。文句をぶつける相手は俺達ではない、協力出来なかったお前達が悪い」
個人の力は重要で絶対に欠かせないものである。だがしかし、個人の力には限界があった。みんなに過信をされていたオールマイトさえも、AFOとの戦いではぼろぼろとなり、骨と皮だけの本来の姿が世界中に放送されてしまっていた。
個人の力には限界があると誰もが痛感をした。だから、仮免試験ではチーム戦を何よりも重要視したのだ。雄英潰しが出来る球当てを無くして、戦闘と救助を同時に行う試験に変えて難易度を上げ、必然的に受験生達が全員で協力しないと勝てない状況にしていたのだが...神野区事件が起きる原因となった"無個性"虐めの犯人を許したことにより、雄英生徒達は他校の生徒から反感を食らい、雄英生徒達は拒絶されてしまった。途中からがむしゃらに共に戦えなければ、拒絶された側と拒絶した側両方が失格となる最悪な結果になっていたところだった。
「拒絶されてしまった君達にとっては...」
「こいつらを甘やかせるなウィズ。お前達だって、状況次第では戦っていた相手でも協力は出来ていた。殺し合った相手でもな。それなのにこいつらときたら、基本的に競い合うとはいえ、時には協力をしているのにも関わらず、拒絶されただけで諦めた。拒絶されても諦めずに言えれば、協力出来なくてもお前達だけ不合格の対象にはならなかった」
仮免試験に不満を言ったことが相澤を相当相澤を怒らせる原因となってしまったようだ。
何が彼の琴線を触れる切っ掛けとなったのだろうか?と、キキは考えながら反論をする。
「確かに自分達は出来たけれど、それは相手側も手を組むと決めたからだ。相手にも手を組むという意思が泣ければ出来ない。ボク達だって、拒絶されていて協力出来なかった時があったから」
キキの反論で相澤は黙ったが、納得をしていないのは見え見えだった。
疲れもあってか、その後生徒達全員は寝てしまったので、また怒られることもなく無事に雄英に着いていたのであった。
A組の寮の前で通形、波動、天喰、心操、因氣、ひねり、夏希子といった話し合いに参加していたメンバーがA組の生徒達を待っていた。
他校の厳しい視線や陰口、厳しい仮免試験を終えた実感を感じたことから、普通のお出迎えにも感極まって泣き出しそうになる切島、飯田。峰田、緑谷などの数名のA組生達は我慢出来ずに泣いていた。泣いていない飯田でさえも、普段は御坊っちゃまであることを隠しているのに僕と無自覚言ってしまい、中学まで友達がいなかった緑谷は泣いている生徒達の中で一番涙を流していた。
「ううぅ...俺..こんな温かいお出迎え、生まれて初めてだ...!!」
「オイラの為にこんなに女の子集まってくれるなんて...!!オイラ感激だぜ!」
「僕も今感動をしている!やはり持つべきものは友である!」
「僕も...信じられないよ...!!」
「いや、アンタの為じゃないから。というか...凄く泣いているけど、何かあったの?」
泣いているA組生に戸惑いながらも、ひねりは峰田の話をきっぱりと否定する。
「その......試験会場で陰口を言われたり、試験がかなり難しかったり、相手から拒絶されたのに私達も失格にされそうになって愚痴を言ってしまったら...相澤先生に叱られてしまい...」
「そう...物凄く大変なことがあったのね。あたしから言えることはお疲れ様。話を聞かなくて事件を悪化させた加害者の一人のくせに、他人のせいにするお馬鹿さんの言うことは聞かない方が良いわよ。時間の無駄だし、ストレスになるだけだから」
ひねりの言葉にA組生達は押し黙る。
話を聞けなかった。そのせいで事件が悪化した。その言葉はA組生達にも重くのし掛かる。特に身近でこの世界は可笑しいと言っていたキキとウィズの言葉を聞けなかった緑谷にとってはかなり耳が痛い話だ。耳が痛くなったからこそ緑谷はひねりの目を見て質問をする。
「あの...その...物見さんは話を聞けていたのですか?」
緑谷からの質問にひねりは目を逸らさずに答える。
「ええ、あたしは始めから話を聞いていたわよ。...あたしって言い方だけではなくて、考え方も他人よりも変わっていてよく言われたの。その考え方をどうにか出来ないのってね。そのことが切っ掛けで他人の話を聞けるようになったのよ」
「色々と言われても......物見さんは考え方を変えなかったのですか...?それと考え方を変えろと言われたことが話を聞く切っ掛けとなったことはどういうことですか?」
「そのことに関して話を聞けば分かると思うから、取り敢えず話を聞いて。言い方は自覚しているから出来るだけ優しく言うようにしていたし、指摘されたらきちんと反省をして更に心掛けていたわよ。だけど、考え方は変える気はなかったわ。だって、あたしは、悪いことをしていないもの」
「辛くなかったのですか?!」
「勿論辛かったわよ。現実では味方はいなかったし。そんな状況だから逆に、意地になって変えなかった。あたしは何も間違っていないのに、考え方が世間と違うからって変えなさいという意見に従う気にはなれなかったわ。その代わり、自分の考えがあっているのか、間違っているのか、テレビ、ネット、本、新聞、ラジオ、人。情報源になるものは全て片っ端から調べて考える癖を身に付けたわよ。それが他人の話を聞けるようになったって訳」
「......他人に言われて止めるような人は...」
「何とも思わないわ。諦めることも悪いことではないからね」
緑谷から発する雰囲気から何かを察したひねりは、緑谷が言い終える前にきっぱりと言い切る。ひねりからすれば、緑谷が何に対して後ろめたさを感じているのかは知らない。けれども、緑谷は悪いことをしていないのだから気にしないで伝える為に最後まで言わせなかった。
そもそも、反省をしているA組生達を責めるつもりはなく、未だに反省をしていない人達に怒っているだけだったが、反省をしているA組生にとっては関係ない。反省をしている彼らに対して慰めの言葉が思い付かなかったひねりは、話題を無理矢理峰田へのモテる為のアドバイスに変える。
「...!!峰田。モテたければその性欲を隠しなさい!性欲が丸見えだから拒絶されるのよ!ただひたすらに人助けをすればモテるわよ!大体...真面目な話の時に下ネタで茶化すなんて人として最低だわ。......えっ...?上鳴さんも...」
話題を変えても、仮免試験の時に峰田と一緒になってパイスライダーと下ネタを言った上鳴が流れ弾を食らい、ひねりの知らぬ内に上鳴もお叱り対象になっていた。
ひねりは峰田の様子を観察する為に何気なく峰田の方を見ると、冷や汗を流す上鳴を見てしまって引いていた。怒りや呆れが混じった溜め息を吐くひねりに、また話が長引きそうになると確信をした通形は慌てて話を変える。
「まあまあ!無事に終わったことだし!大事な話は休んでからじっくりして、今は仮免試験を終えたことを素直に喜ぼうよ!」
「お疲れ様だね。ねぇねぇみんな試験結果はどうだっだ?難しくなったってどんな感じになったの?」
「そうだよ!本当にお疲れ様でした!」
「改めてお疲れ様」
「......お疲れ様です...」
「.........ああ、俺は今度の本試験に合格出来るのか不安になってきた...」
「天喰、今のお前には無理だ。お前は......」
「みんなー!本当にありがとう!ところで他のメンバーは見掛けないけどどうかしたの?!」
通形が空気を変えた後、A組生達の涙に驚いて労いの言葉を言えなかった人達が次々と言葉を掛ける。
今度は相澤が天喰に説教を始めそうになったので、芦戸が全力で話題を変える。せっかく無事に仮免試験を終えたのだから、今だけは嬉しい気持ちで終わらせたい。通形の援護もあるお陰で相澤の説教は続くことはなかった。
「絢爛崎さん、蝶宮さん、燈台君、縮小君、声高さんはB組の寮の前で待っているよ。発目さんはサポート道具作りに忙しくて参加していないよ。君達の所だけ集まるのは不公平だからね!」
「あっそっか!そうだよね!私達の所だけだったら不公平だもんね!」
「発明君は相変わらずサポートアイテム作りに夢中になっているのだな。サポートアイテム作りに夢中になるのは良いのだが...他人の話を聞くことと暴走するところは直していただきたいものだ」
「ねぇねぇ、どうして不思議だよねぇ~みんな仲良く出来たら良いのにねぇ~」
「本当にどうして物間さんはA組に対して敵対心を持っているのでしょうか?」
「A組とB組で話せないのは凄く残念だけど、A組が意見を出していると対抗心を燃やして意見を出したり、他の人達にも促してくれるのは良いのだけどねえ...やっぱりまともに会話出来ないのは困るわね。こんなことになった切っ掛けを分かる人はいる?」
「知らねえよ。俺達が聞きたいぐらいだ」
通形と芦戸の話題逸らしは大成功だった。
思いの外、発明やB組の物間のことで盛り上がっている生徒達を見て相澤は溜め息をつくが何かを言うことはなかった。相澤に気付かれないように、チラチラと様子を見ていた通形と芦戸は内心でガッツポーズをする。だがしかし、彼らの喜びはここで終わってしまうことになる。
「お前ら...この程度で喜んでいる場合ではないぞ。次からがもっと大変だぞ」
「次からがもっと大変とは、どういうことですが相澤先生」
生徒代表として飯田が背筋を伸ばして尋ねる。
相澤は大きく溜め息を吐きながら答えた。
「次のインターンシップは...通形、波動、天喰と一年A組は全員同じ場所でインターンシップを行うことになる。今のお前達は嫌われていて個別に選べる程選択肢はないからな」
被害に遭ったA組生は一気に顔を曇らせ、ネガティブな天喰は想像をしてその場で貝のように縮こまる。逆に、まだ被害に遭ったことがない通形と波動はピンと来ていないようだ。
「言っておくが、インターンシップは仮免試験の比ではない程は辛いぞ。覚悟をしておけ」
相澤の言葉を聞いて生徒達は神妙に頷く。
覚悟を決めた彼らだが、実感が湧かないままインターンシップに挑むことになった。
なんとなくA組の男子生徒って涙もろい人が多いと言う印象があります。