これからもよろしくお願いいたします。
本編が始まる前にヒーロー活動する際には、名前のところをヒーロー名で表記させていただきます。
街の中にあるとあるビルが炎に包まれ、煙がもうもうとしている。
綺麗だった店内は荒れ果て、穏やかな日常から暴力が支配する非日常へと変わってしまった。子供達は泣き止まらず、大人達も宥めるのに必死だ。大人達の中にも泣き叫び、パニックになっている者も多かった。また、派手な衣装を着たヒーローと思われる人物が、敵(ヴィラン)との戦闘により倒されていた。
そして、この惨状を作りだしたのは五人の敵(ヴィラン)。
二十四~五歳の男女の集団で、背丈はバラバラだが黒い服で統一している。
成人男性にしては小柄で、黒の短髪に鋭い目つきをした敵(ヴィラン)の一人が、恐怖で座り込んでいた店員らしき制服を着た女性に近付き、長い藍色の髪を無理やり引っ張り上げて強制的に同じ目線にさせる。
「ひぃ!?痛い!痛い!止めて下さい!」
女性は痛みと恐怖で逆らえず涙目で懇願していた。
それでも敵(ヴィラン)はうざそうに舌打ちをすると、首もとにナイフを当てる。ナイフが皮膚に当たってしまい少し血が流れていた。
「うるせえんだよ!おめえはただ、金目の物を渡せば良いんだよ!」
「も、もう、お金とかは無いのです...あれで最後です」
「はぁあ!?ここはデパートだろうが!!まだATMやレジ、宝石ぐらい残っているだろうが!!」
「す、すすいません。もう無いのです...許して....ひぃ!!」
女性は泣きながら説明をして許しを得ようとしたが、駄目だった。返答の代わりに男性の右ストレートを繰り出される。
全員が最悪な光景を見たくなくて目を瞑っていたところ、殴る音や人が倒れる音が聞こえることはなかった。恐る恐る目を開けてみると意外な人物が彼を止めていた。
「ねぇ、この服盗んでいい?奈穂も持っていっているし-」
彼の動きを止めたのは、同じ仲間であるアホッぽい話し方をする女敵(ヴィラン)。褐色の肌に金髪ポニーテールの女性が、高級そうな服を持って尋ねる。
「はぁ!?んなもん!自分で決めろ!」
「だって~、必要な物以外持っていくと、逃げる時邪魔って厚也言っていたよね?」
「バッカじゃねえの!?それぐらい、自分で判断出来ねぇのか!?後、やる前に言ったよなあ!互いに本名を出さないって決めただろ!昇華!」
「あ~、厚也だって、今、あたしの名前言ったじゃん!ねぇ~、それよりも~、良いんじゃん~少しぐらい~力也だって食べ物詰め込んでいるよ」
「はぁあ!?..チッ!!あのデブ!大体!おめえらが、そうやって!持っていくと車のスピードが...」
厚也と呼ばれた男性が、昇華という女性に怒鳴ろうとした瞬間─
ガンっと壁が壊れる音が鳴り、壁の破片がパラパラと崩れ落ちる音が響く。粉塵が舞い、壊した人の姿を隠していた。
「ここは十五階だぞ!...まさか!!」
「ハアーハハハハハハ!!」
敵(ヴィラン)の疑問を答えるかのように、煙の中から特徴的な笑い声が聞こえてくる。
「その声!」
「この声は...!!」
笑い声を聞いた民間人は泣き叫ぶのを止め、パニックは次第に収まる。逆に敵(ヴィラン)達は慌て始めた。舞っていた粉塵は風で飛ばされ、隠されていた姿が露になる。
逆立った金髪、筋骨隆々の体型、青を基調とした派手な衣装、真っ白の歯、顔の彫りが深い男性。
もう一人は黒いローブをピッチリと羽織ったせいで顔が見えず、男か女かは人目見ただけでは判らず、一見して敵(ヴィラン)ぽい服装をしている人物。肩には黒猫を乗せている。
「オールマイトだぁ!!」
泣いていた少年がオールマイトと呼ばれる男性を見つけると嬉しさのあまりに叫ぶ。
そんな少年の方を見て、オールマイトはニカッと笑うと宣言する。
「もう大丈夫だ。...何故って..」
「"私達"が来た」
オールマイトと黒猫の魔法使いが現れたのであった。
「チッ!!もう来やがったか...!」
余裕がなくなった敵(ヴィラン)達の焦りは苛立ちに変わる。
オールマイトが現れても諦めきれずに、五人は一塊に集まってそれぞれの武器を構える。
「ま、まだ、大丈夫だ!こんなかの誰かを人質にすれば...!!」
敵(ヴィラン)の一人が人質を取ろうとして、体制を整えようとするが...
「そんなことはさせない」
「し、しまった.!!」
オールマイトの超スピードで何の問題なく確保していく。恐怖に震える民間人も、負傷したヒーローも、誰一人欠けることなく確保する。あまりのスピードにこの場にいる誰の目にも捉えれることは出来なかった。
オールマイトは一通り確保すると、黒猫の魔法使いの側による。
「さてと...私は、彼等を安全な場所まで連れて行かないといけない。頼んだぞ。黒猫の魔法使い」
「うん、分かった」
オールマイトは返事を聞くと、振り向かず、握り拳で親指を立て降りていく。
残されたのは、魔法使いとウィズと安全上のため一緒に降りられなかった一部の民間人。誰もが様子を見をする中で、魔法使いは、首にかすり傷を負った長い藍色の髪の女性に近付く。
「もう大丈夫」
魔法使いはカードを取り出して淡い緑色の光を放つ。淡い緑色の光は女性の首を包み込み一瞬で傷を癒す。
魔法使いの動きを観察していた敵(ヴィラン)達は、自分達の敵ではないと判断をし、余裕をかましながら取り囲むように動き出す。
「な~んだ。残ったのは"回復系の個性"かぁ。これなら、怖がって損した~」
「と言うか、こいつの名は有名じゃないから、ウチらでも余裕で勝てるしょ」
「そうだな。さっさとこいつを倒して、人質を作ってオールマイトの動きを止めるぞ!」
「そうだな。回復系は厄介だしな。...あいつ、どこかで見たことがあるような...?まあ、良い。どこまで回復出来るかは分からないが、こいつは必ず殺そう。人質はこいつらの中から適当に選べばいい」
リーダー格の敵(ヴィラン)が思い出そうとするが、結局思い出すことが面倒くさくなって途中で止める。
敵(ヴィラン)達が動き出したのと同時に、魔法使いもまた違うカードを構えて敵(ヴィラン)の集団に突入していく。
「ハンッ!!ヒーローは守るもんが多くて大変でちゅねぇ~」
オールマイトがいなくなり、自棄になったと勘違いした敵(ヴィラン)達がストレス発散の為に魔法使いを煽り、小柄な男性敵(ヴィラン)が挑発をしながら魔法使いにナイフで襲い掛かる。
民間人からも、"個性"の相性が悪いなどで勝ち目を信じておらず、悲鳴を出したり目を瞑っていたりしていた。怖がっている民間人を嘲笑うかのように、(ヴィラン)達は勝利を確信して魔法使いを殺そうとする。
回復系の"個性"しか使えなかったり、"個性"以外の手段で戦う方法がない者には敵(ヴィラン)や民間人が思い浮かべた結果になっていただろう。しかし、魔法使いは違う。
魔法使いはカードに書かれてある呪文を唱える。
『歳末魔道炊き出しカレー&シュー』
呪文を唱えた途端、うっすらとサンタの格好をした金髪の少女と雪だるまの格好をした黒髪の少女の姿が浮かび上がる。
そしてどこからか、場違いな元気一杯の少女の叫び声が反響する。
「アリエッタ、今よ!」
「これぞいい子の振る舞いだ!どりゃー!」
「「「...はあ!?」」」
クリスマスパーティーにでも参加するような格好、気の抜けた叫び声。これには敵(ヴィラン)達も思わず動きを止め、戦意を失う程呆れ果てていた。
「ねぇ......あの人...遊んでいるの?」
「何で、オールマイトはあの人を信用しているの?!」
「早く!オールマイト!助けて!!」
民間人達も敵(ヴィラン)と同じように呆れ果て、終いには自分達が助けてもらう立場なのに文句を言う人が出てきてしまう。
だが、魔法使いはそんなことを気にせず、敵(ヴィラン)達の動きが止まったのを逃さずに氷と雷の連撃を放つ。
「はぁ!?」
「チッ!防御を固めろ!!」
今度は打って変わって攻撃系の"個性"を繰り出す。
あまりの変わりように焦ったものも、捕まりたくない意地か、何とか持ち直ったリーダー格の男性が、他の仲間に命令をして立ち直らせる。命令を聞いた太った黒髪の男性が仲間の前に出てその身を盾にする。太っていた男の敵(ヴィラン)は"個性"で更に縦にも横にも膨れ上がり、服は破れ、巨大な肌色の生きた盾となる。
小柄な男性もただ味方を盾にするだけではなく、ナイフから盾に持ち変えて、"個性"で盾の幅を厚くして耐えられるようにする。
敵(ヴィラン)の準備が終えた頃、氷と雷の連撃が二人に向かって放たれる。
「クッ...!!」
「くそ!!こいつの"個性"は回復系じゃねえのかよ?!」
「回復系の"個性"だけじゃなくて...!!攻撃力系の"個性"も持っているのかよ!?しかも氷と雷も!そんなのチートじゃねえか!!」
氷と雷の十数連撃に敵(ヴィラン)は絶句をしてもなお、文句を言う余裕はあるようだ。
「卑怯よ!」
「そうよ!"個性"は一人一個よ!」
「にゃはは。こちらもちゃんと"個性"は一個にゃ」
ウィズは笑って答える。
平然と嘘をつくウィズを見て魔法使いは、戦闘中なのに、思わず感心してしまう程の演技だった。
確かに、魔法使いの魔法は契約をした精霊の力を借りるだけで"個性"は一個とも言えるが、その力を借りる為に契約をしたカードは一枚につき一個だけの力ではない。
カードの力は大きく三つに分けることができる。
一つ目はAS(アンサースキル)。これは魔法使いが制限時間以内に応えれば発動するタイプ。主ににこれで攻撃をする。
二つ目はSS(スペシャルスキル)。これはASを何度も行わないと発動出来ないスキル。でもその分威力はASスキルよりもかなり強力だ。しかし、今みたいに呪文は唱えないといけない。因みに『歳末魔道炊き出しカレー&シュー』もSSの部類に入る。
三つ目はEXーAS(エクストラアンサースキル)これもASよりも強力で、しかも、条件が達成すれば、呪文を唱えなくても発動出来る優れものだ。だが、条件が達成すると勝手に発動してしまう。その上、一部の強化スキルしか受けつかなくなる。
一枚のカードで最低三個の力がある。しかもカードによってはSS1、SS2で違うタイプに変わるものや一部の特殊なカードだと四、五個以上の力も持っているパターンもある。
改めて思い返してみれば、凄い力だと実感をし、魔法使いは苦笑いを浮かべてしまう。いつまでもカードのことを考えている訳にもいかず、再度意識を敵(ヴィラン)に向けて気を引き締める。
「だが!この程度まだ耐えられる!」
「ああ、鬱陶しいが!」
敵(ヴィラン)男二人組には耐えられる程だったが、代償は大きく、太った男性の敵(ヴィラン)の肉体は氷で霜焼けをし雷で火傷を負い、その両方の影響で動きが鈍くなっていた。盾の方もボロボロで、あともう少しで破壊できる程だった。
「へっ!耐えきれたぜ!」
「調子に乗りやがって!このくそヒーローが!」
あともう少しのところで連撃が止まってしまう。魔法使い攻撃が終わってしまえば、敵(ヴィラン)達の番になり、魔法使いや民間人に危殆に瀕することになるが、けれどもその前に、もう一度同じ連撃が始まる。
これは魔法使いが唱えた『歳末魔道炊き出しカレー&シュー』の効果である。この呪文の効果は、発動しているもう一度ASを発動させ、同属性の攻撃力を300まで上げることが出来るのだ。(条件をきちんと揃えた上での最高出力である。)
「おい...!!油断するな!」
「なッ!?」
「嘘だろ!おい!」
「うわ!」
「けっ!糞が!」
異変に気づいたリーダー格が大声で伝える。ボロボロの盾のまま慌てて体制を整えたが、巨体の男は攻撃によって吹き飛ばされ、盾も壊れて使い物にならなくなっていた。
「あたしらを舐めんな!」
「これでも、食らいなさい!」
倒れた隙間から、女敵(ヴィラン)達が現れる。黒の長髪の女敵(ヴィラン)は持っていた植木鉢の木を"個性"で急速に成長をさせ投げ払おうとする。金髪の女敵(ヴィラン)は口から黄緑色の塊を吐き出す。
攻撃が終わった魔法使いは急成長された枝を屈んで、黄緑色の塊は転がって避ける。
「どけ!お前ら!ここは、俺が」
ろくに魔法使いにダメージを与えられないことに、苛立ったリーダー格の男が銃を持って応戦をしようとするが──
「テキサス・スマッシュ!!!」
オールマイトの強烈なパンチが、嵐のように何もかも吹き飛ばすのであった。
倒れた敵(ヴィラン)達はオールマイトによって担がれた。
「お疲れ、黒猫の魔法使い。初めてにしては上出来ではないか」
「まあ、戦闘には慣れているからね」
オールマイトから労いの言葉を頂く。魔法使いは軽く受け答える。端から見ればとても仲良さそうと見えるこの二人、実は共同でヒーロー活動するのは今日が初めてなのだ。しかも今朝に出逢って軽く話をした程度。それでも二人は互いにどこかシンパシーを感じていた。
片や人生全て捧げてヒーロー活動を行っていた者。片やどんな時でも人助けを怠らない者。そういったところに共感したのか直ぐに仲良くなったのだ。
オールマイトがいつも言う"私が来た"と言う台詞も、"私達が来た"と言い換える程に。
「そうか」
「ところで、人質はどうなったのにゃ?」
「勿論、ちゃんと救いだしたさ。それにペットショップの子達も救いだしたさ」
敵(ヴィラン)相手では敵なしの彼でも、動物相手には悪戦苦闘するらしく、オールマイトの顔には猫に引っ掻かれた思われる傷があった。
「魔法使い」
「何?」
魔法使いはオールマイトの突然の問い掛けに首を傾げる。
「いやあ...何故か分からないけど、毎回犬に噛まれたり、猫に引っ掻かれたりするんだよね...。そこで、魔法使い。猫の扱いには慣れているのだろう?どんな風にすれば良いのかな?」
「シャッー!私は人間だにゃ!!」
まだ会ったばかりだからか、ウィズが人間だと把握しきれておらず、その言葉を聞いたウィズが怒る。
「ハッハハハハ。悪い悪い。...さて、そろそろ降りようかね。私は敵(ヴィラン)を担がないといけないから、頑張って降りてね」
「えっ?...あ!」
オールマイトがこれから、散歩しようか?と言うのりで軽く言う。
魔法使いはオールマイトに言われて、今の状況を思い出してすっとんきょうな声を出す。魔法使いは頑張って降りることしか方法はなかった。
オールマイトが力強くドスンッと地上に降り立てば、魔法使いは後からその隣に降り立つ。
そんな二人に群がるのは救出された人達とカメラを持ったマスコミと呼ばれる人達だ。
「ありがとう!」
「ありがとう!オールマイト!」
「オールマイト!!オールマイト!!」
感謝の言葉とオールマイトコールが鳴り響く。
カメラからパッシャパッシャとシャッター音がなり、その度に彼を照らしていく。
「流石!!オールマイト!今回はどのようにして、解決に至ったのでしょうか?」
マイクを向けて語り掛けるマスコミ。
オールマイトは笑いながら応える。その様子に他のマスコミ達もマイクを向けて次々と質問をする。オールマイトは笑顔で一人一人顔を向けて対応していく。魔法使いはその様子をボーッと眺めていた。
「応援ありがとう!でも!ヒーローは時間との勝負もあるから、次行くね。では、液晶越しでまた会おう!マスコミの皆さんもまたの機会に。それでは...今後とも応援よろしくね-------!!」
五分くらい対応するとオールマイト自ら切り上げ、魔法使いを肩に担いで飛び立つ。
衝撃で粉塵が舞い上がり人々を色めき立たさせ、遥か彼方空高く飛んで行く。
オールマイトに夢中な民衆は気付かない。けれども魔法使いが立っていた場所の周りには、不自然にゴミが落ちていたのであった。
「やあやあ、遅くなってごめんね。これもヒーローには必要な事だからね」
「...そう...。...まあ、いいけど...」
オールマイトは苦笑いしながら弁解する。
魔法使いは民衆のせいで不機嫌になり、ぶっきらぼうになっていた。オールマイトに関係はないと言えども、彼といれば民衆と関わることが多くなるのでどうしても態度が隠せなかった。
和やかな雰囲気が一転して険悪な雰囲気へと変わる。
そこでウィズは雰囲気を変えるために、魔法使いがやるべきことを思い出せる。
「ねぇ、キキ。オールマイトを強化魔法掛けなくてもいいのかにゃ?」
「...あ、そうだね」
思い出した魔法使いは懐からカードを取り出し唱える。
『オーセンティック・シプレーノート』
「私が調香した香水です!」
花に囲まれた長いピンク髪の少女の姿が映し出される。
のんびりとした声が聞こえると、オールマイトの身体はオレンジ色の光に包まれた。
「...これは!!中々凄いね。力が漲ってくるよ」
この魔法の効果は暫くの間体力と攻撃力を上げることだ。
オールマイトは何度も手のひらをグーパーを繰り返しながら沸き上がる新たな力を確かめる。一見して、オールマイトには必要ないことに思えるが実は違う。今この姿をマッスルフォームとオールマイトは呼んでおり、この姿でいられる時間は一日約三時間。それ以降はこの姿になれなくなり戦えなくなる。
じゃあ、本来の姿は何ていうのか、それはトゥルーフォームだ。トゥルーフォームは、マッスルフォームから極端に痩せて骨と皮でできた骸骨みたいな姿になる。
なんでこんなに体型が激変わりするかと言うと、それは六年前AFO【オール・フォー・ワン】との戦いのせいである。その戦いの影響で呼吸器は半壊し、胃袋は手術で全摘出するほどの重症を負ってしまったのだ。現役で戦うことは出来るが、無理をすると血を吐く後遺症が今も続いている。
だから、少しでもマッスルフォームが長く続くようにと、オールマイトと話し合って魔法使いが強化魔法を掛けることとなった。
魔法の影響で空を飛ぶスピードがかなり速くなり、魔法使いは必死にオールマイトの身体をしがみつく。
「にゃ...!!」
凄まじい風とのし掛かる重力により、ウィズの口から声にならない悲鳴が漏れる。
「大丈夫か?」
「...大丈夫」
「何とか大丈夫だにゃ!」
魔法使いとウィズは暴風により口を開けずらかったが、何とか質問に応える。
「そうか。それなら良かった。...また敵(ヴィラン)だ」
質問を聞き終える前に魔法使い達への興味は薄れ、オールマイトの目線の先には黒い車が走っていた。車はただ走っているだけで、端から見れば何も問題ないように見える。
「あの、車が、どうかしたのにゃ?」
ウィズが言葉をつっかえながらも質問をする。
「あの車に...どうも敵(ヴィラン)が乗っているようだ」
「ど、どうして、分かるのにゃ?」
「なーに、長年の勘さ」
「それで、決め付けて、良いの、にゃ!?」
笑いながら答えるオールマイトにウィズは冷や汗をかく。
「...取り敢えず止めてみれば良いんじゃないのかな?」
「にゃにゃ!?キキも!?」
ボソッと同意する魔法使いにウィズは、驚きのあまり普通に話せるようになる。
「じゃあ、決まりね。...では、行くぞ!」
笑顔でのほほんとしていたオールマイトが、表情をキリッと締めて戦闘体勢に入る。歴戦のオーラが魔法使いとウィズに伝わり、自然と引き締まり戦闘体勢に入った。
返事を聞くこともなく、相手の方を見ることもなく、オールマイトは地面に落ちるスピードを上げ、魔法使いはオールマイト身体からしがみつくのを止め空に飛び立つ。
オールマイトは地面に降り立つ。
黒の車の前に立っているが、車は止まる気配はない。それどころか更にスピードが上げて直接ぶつけようとするが─
オールマイトは片手で難なく止める。
汗一つかかず涼しい顔をしており、その様子に敵(ヴィラン)達は恐怖で青ざめ、陸に打ち上げられた魚の如く口をパクパクしていた。車はその衝撃でフロントガラスは割れてフロントバンパーは大きく凹む。
「いや~凄いね。魔法というのは。いつもなら、もう少し力を入れるが、腕を添えるだけで簡単に止められるものだ。...さて、敵(ヴィラン)の諸君。覚悟は良いか..?」
「ひぃいいい~~~」
オールマイトの気迫に情けなく叫ぶ敵(ヴィラン)達。
敵(ヴィラン)達はただ動けなくなっているかと思いきや、バタンッと大きな音が鳴る。まだ無事な後ろの扉から一人が逃げ出していた。どうやら、仲間を見捨てて逃げ出そうとしているのだ。
「ひぃい~!!やってられるか!!お、俺だけでも、逃げてやる!」
「待て!お前だけ逃げるな!」
「そうだ!そうだ!仲間を見捨てる気か!?」
「ふん!知るか!!」
慌て府ためて逃げる敵(ヴィラン)をオールマイトは追わず、ただじっと見つめる。
「お、追い掛けてこない...!?やったー!逃げ切ってやるぞ!!」
敵(ヴィラン)は後ろを振り向き、追ってこないことに喜びそのまま走り続ける。
だが、敵(ヴィラン)の喜びは直ぐ消えてしまう。遅れてきた魔法使いがやって来たのだ。
魔法使いの手にはカードが握られていた。
涙目ながら敵(ヴィラン)は迎撃しようと構えるが、敵の"個性"が発動する前に魔法使いが唱える。
『ミク×ウィズスペシャルステージ』
「歌うよ!」
魔女っ子の格好をした青緑色の髪のツインテールの少女がうっすらと映る。
少女の姿がが映るのと同時に、魔方陣で描かれた時計の針がクルクルと回り、十二時を示す場所へと止まると逃げ出した敵(ヴィラン)の動きが止まる。その間に魔法使いは捕縛用の縄で縛り付けて捕獲する。
「う...嘘だろ...」
逃げられると思っていた敵(ヴィラン)は、何が起きたのか分からずにショックのあまり呆然と呟く。オールマイトも戦意喪失した他の敵(ヴィラン)を縄で縛り付けていた。
騒ぎを聞き付けた警察に敵(ヴィラン)の身柄を渡す。
「ご苦労様です。オールマイト。黒猫の魔法使い」
ビシッと敬礼をする警察官。
「うむ。ご苦労様」
「お疲れ様」
オールマイトと魔法使いも労いの言葉を掛ける。
警察官が何か話そうとした瞬間。警察官の胸から無線機が鳴る。詳しくは聞こえないが、ところどころの単語や青ざめいく表情、警察官から発する空気が、非常事態だということを伝えさせる。
オールマイトが声を掛けようとするが、警察官がその前に無線機を繋げたまま話を再開する。
「都内の外れにある。とある山で大規模の山火事が発生!至急応援お願いいたします!!」
オールマイトがこくりと頷くと魔法使いを抱え、直ぐ様飛び立つ。超スピードで現場に向かう。
山火事はこの二人の働きにより簡単に終わった。
オールマイトは超パワーで天候を変えて雨を降らせ、火の海を弱らせる。そして、超スピードで山に取り残された被災者を助け出していく。
魔法使いの方も水を作り出し消火活動を行い、更にオールマイトや現場にいた他のヒーロー達にまた違う強化魔法を掛ける。その強化魔法により多少のダメージなら防ぎ、傷なら少しずつ回復していく。これにより、救助活動がやり易くなる。また、運び出された被災者を回復魔法を駆使して応急措置をしていく。
無事に鎮火させるとオールマイトは魔法使いを抱えて、またどこかに飛んでいく。
そんな二人の後ろ姿を見て誰かがポツリと呟く。
─あの二人だけで良いんじゃないか?
そんな嫉妬やらの悪意のこもった呟きが誰にも聞かれず、空へと消える。
魔法使いの本格的なヒーロー活動は、これでも、まだ始まったばかりだった。