カーマちゃんならともかくカーマ/マーラって聖杯大戦だと絶対強いと思う   作:ぴんころ

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なんか消えたので再投稿


第一話

「全く、面倒なことこの上ないですね」

 

 白髪、あるいは銀髪、どちらで呼ぶかは個々人によって別だろう幼い少女の言葉に返事をする声はない。深夜の森林には相応しくない、どこか情欲を唆る格好をしている。きっとこんな少女が人の多い街を一人で歩いていれば理性を失った男の一人や二人、彼女を路地裏に連れ込もうとしてもおかしくはない。白銀のショートヘアーを風に揺らしながら、見つめられお願いをされればきっと誰一人として断ることはできないだろうと思える気怠げな紅玉の瞳で数メートル先の視界すらおぼつかない夜の森林を眺めている。彼女の眼前に広がる闇よりもわずかに薄い、紫の混じったかのような独特な衣装には黄金の意匠があり、それがわずかに反射する月明かりがこの闇夜における常人が認識できる光源だろう。

 

 そんな中を、少女はまるで視界のハンデがないかのように平然と歩いていた。

 

 少女のことを指し示す記号(名前)は”黒”のアサシン。

 彼女は今、一つの任務を受けて先ほどまでいた本拠地であるミレニア城塞を降りてトゥリファスに向かっていた。

 その任務の名前は赤の陣営のセイバーの戦力調査。

 

 この聖杯戦争は、ただの聖杯戦争ではない。

 ”聖杯戦争”と聞いて誰もが思い浮かべるだろう、世界中で行われている亜種聖杯戦争程度ではなく。

 世界中に広がった亜種聖杯戦争の大元になる、”冬木の聖杯戦争”ともまた違う。

 七十年前に行われたものが最後となった、今世界中に広がる亜種の源流たる”冬木の聖杯戦争”は、七騎のサーヴァントとそれを使役する七人の魔術師が最後の一人になるまで殺しあうものだった。

 だが今回は、集結するサーヴァントの数は冬木の聖杯戦争の二倍である十四騎。

 ユグドミレニアと魔術協会がそれぞれ七騎ずつのサーヴァントを呼び出し、相対する七騎のサーヴァントを殲滅する、個人と個人のぶつけ合いだったバトルロワイヤル形式の聖杯戦争とはまた違う、軍勢同士がぶつかり合う真なる意味での『戦争』だった。

 

 そして、これが軍対軍ということを考えれば、雑兵を以て敵の戦力調査をすることが基本なのだろうが、それを無視してこのアサシンが出動することになったことには無論、理由がある。

 

 まず一つ目に、召喚されるサーヴァントは英霊、かつて世界に名を残した英雄英傑の類だ。そんな存在にはサーヴァントではない雑魚では決して敵わない。

 二つ目は、このアサシンの能力。まず基本となるステータスの時点で筋力以外にはCランク(平均)以下が存在しない。そしてその筋力すらもCランク。つまり、彼女は高スペックの持ち主であり、耐久と魔力に関しては測ることができない、つまりはEXランク(評価規格外)である。

 これは、黒の陣営の最強戦力に近い黒のセイバー(ジークフリート)すらも総合スペックでは上回っている。

 

「お疲れ様です皆さん」

 

 それほどの力をその幼い身体に充溢させているアサシンはやがて森を抜け、トゥリファスの街にまで降りてきた。彼女の視界に入るのは魔力供給のために生み出されたものとはまた違う、ホムンクルスの数々。

 

 夜は魔術師の、聖杯戦争の時間である。

 

 しかもトゥリファスは黒の陣営のお膝元、そのため昼間はいなかった魔術師たちの尖兵……ホムンクルスたちが街中を見回り赤の陣営のマスターを探すことは容易なこと。それも、七十年前に大聖杯を奪った時から『魔術協会からの離反』を考え用意していたこと、彼らがミレニア城塞(黒の陣営の本拠地)を知っていることを考慮すれば、赤のマスターの居場所を知るのは造作もない。

 

「それで、状況はどうなってるんです?」

 

 黒のアサシンにとって、ホムンクルスたちはそこまで好きな相手ではない。何せ、堕落させようと思っても自我が希薄な彼らは誘惑になかなか屈しないからだ。だが、それはそれ。今回の出動ではホムンクルスたちから状況を聞けと、黒の陣営の王となる黒のランサーに言われているので、彼らと関わらざるを得ない。それも、この状況を見られているのだからなおさらのことだ。

 

「はい。”赤”のセイバーらしきサーヴァント、そしてそのマスターと思われる男が発見されています。現在は場所を補足し、アサシン様からの命令があるまでの間、動かないように言われていますが、我々はどうすればよろしいでしょうか?」

 

「あなたたちが行っても意味はないらしいですよ」

 

 ホムンクルスたちに命令は与えない。が、してはいけないことだけは告げる。

 

「出していいのはゴーレムだけ。相手はフリーランスの死霊魔術師(ネクロマンサー)で、戦場のスペシャリストらしいですし」

 

「では、我々は?」

 

「逃げた時のための追跡を」

 

 黒のアサシンはマスターからセイバーのマスターである獅子劫界離という男についての情報をすでに得ている。

 死霊魔術とは動物や人間の死体を使用して相手を呪い殺す。そして、フリーランスの魔術師がそんな魔術を使用しているということは死体をよく得られる戦場を渡り歩いてきたということで、そんな彼を相手に身体能力に優れているだけのホムンクルスを向かわせても呪い殺されるのが関の山。それなら、命を持たないゴーレムを向かわせたほうがいいに決まっている。

 

「承知しました、アサシン様」

 

 自我があまりにも希薄なそれを見てアサシンは顔をしかめるも、ホムンクルスたちがそれに理解を示すことはない。

 彼女の命に従ってホムンクルスたちが撤退をする。

 戦場に巻き込まれてしまえば、終わった後の追跡に支障をきたすと考えて。

 アサシンがホムンクルスたちによって与えられたサーヴァントの居場所に急行すれば、そこには二つの人影が。

 マスター殺しのクラスとして、たまには遠距離の補足されない場所からマスターを狙ってみようか、なんてことを考えないわけではなかったが、それをしてもサーヴァントに迎撃されるだけだと首を振る。

 

「なら、やっぱりこれですかね……」

 

 呟いて、少女は霊体化によって姿を消した。

 

 

 

 

 

 そして、その光景をユグドミレニア城塞の中の一室、王の間にて黒の陣営の面々は眺めていた。

 

「……アルル。あれがアサシンの宝具かな……?」

 

 呆然と呟いたのはこの黒の陣営の首魁、ユグドミレニアの長であるダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。彼の視線の先にあるのはアルルと呼ばれた少年、アサシンのマスターである少年だ。

 銀の長髪を後ろで一纏めにした、紅い瞳の少年。魔術師からすればホムンクルスなのではないかと疑うようなその容貌は、されど人間味溢れる表情からしてたとえホムンクルスであったとしてもよほどの魔術師が生み出したものなのだろうと理解させられる。実際にはホムンクルスではないのだが、それほどまでの美貌を持った少年なのだ。

 

 彼こそがアサシンのマスター、アルル・クロウス・ユグドミレニア。

 扱う魔術は、次期当主と召されるフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアと同じ降霊術(ユリフィス)と、そして”この世ならざる遺物”を扱う伝承術(ブリシサン)

 かつて時計塔に通っていた頃は現代魔術科(ノーリッジ)に通っていたために、魔術師としての才能ではフィオレには及ばないながらも、実際に戦うことになれば必ずと言っていいほどに勝利をもぎ取ることができるほどに魔術の扱い方という一点では卓越している。

 

「いいや、彼女の扱っているあれは宝具じゃないよ」

 

 そして、この場にいる全員が視線を向けたというのに、特にキャスターのマスターに至っては己が先生と慕うキャスターのゴーレムの有用性を奪ったからか敵意を込めた視線を向けているというのに、サーヴァントを含むそれらからの視線に対しても一切気圧された様子もなくアルルは言葉にした。

 キャスターの用意した七枝の燭台(メノラー)が映し出す光景はセイバーの戦闘シーン。

 そしてそこに映るのは、無数のアサシンがセイバーとそのマスターを追い詰める姿。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実に、心強いものと薄ら寒いものを同時に感じながら、ダーニックはアルルの言葉を待つ。

 

「あれはただのスキルだよ」

 

「サーヴァントの増殖が、ただのスキルだと?」

 

「ああ」

 

 信じられない、というような表情のダーニックだが、それが真実。

 そういう能力があるとは聞いていたから彼女を向かわせたのは事実なのだが、聞いていたのと実際に目にするのでは話が違う。

 しかも、聞いていたのは『増殖する』という一点だけだったので、数多の聖杯戦争で召喚され尽くしたハサン・サッバーハの一人、『百の貌のハサン』のように劣化した自分を増やす程度の宝具なのだろうと思っていたのだが、実際には完全なコピーを増やすスキルだというではないか。

 その驚きは筆舌には尽くしがたいものであるということだけは、アルルにもわかった。

 彼女の扱う『万欲応体』というスキルによって、アサシンは召喚された時の能力を維持したまま増殖することができる。

 無論、無条件にできるものではなく、彼女の領域、彼女の宇宙となった空間でのみ使用可能な代物ではあるのだが、その条件さえ満たしてしまえば数の暴力を具現化させることができる。

 そして、このルーマニアは黒の陣営の一人、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアによって用意された無数のホムンクルス(材料)が存在するために、それらを使用してルーマニア全土をアサシンの領域へと作り変えてもいる。

 そのためここルーマニアは、ランサーの領地でありアサシンの領域でもある、そんな謎の状態。

 ここでは大本となる一体、なんてものは存在せず、その全てが霊核を持ったアサシンであるために全てを同時に消し飛ばさない限りは黒のアサシンを消滅させることなんてできはしない。

 

 少なくとも、このルーマニアにおいては彼女を消し飛ばすのは不可能と言っても過言ではなかった。

 

「ほら、それよりも赤のセイバーとの戦いに集中したらどうだい?」

 

 相手が撤退を成功させる可能性があるのだから、もしも次があった時のことを考えての話。

 ただしそれを行うためには彼らがルーマニアから出る必要があるのでほとんどの場合は存在しないと考えてもいいのだが。

 

「あ、終わった」

 

 順当に、その僅かな可能性をセイバーとそのマスターは掴みとれなかった。

 赤のセイバーは無数に存在するステータスの暴力とも呼べる黒のアサシンを相手に次第に防戦一方となり、そのマスター、獅子劫界離がアサシンの凶刃にかかることを防ぐことはできなかった。

 マスターからの魔力供給が行われない状態ではセイバーもいずれ消滅する。正面戦闘をそこまで得手としないクラスのアサシンがセイバーと真正面から戦うのは無謀と言わざるを得ないのだが、彼女のように『戦ってもまず殲滅されることはない』という能力を持っているのであれば、彼女が消滅するまでの間戦い続けることは不可能ではない。

 赤のセイバーを黒のアサシンたちは翻弄し、彼女を魔力切れにまで追い込んだ。

 黄金の霧と化して消滅するセイバー。

 

 聖杯大戦の初戦はこうして、赤の陣営のサーヴァントが一騎消滅、黒の陣営のアサシンの能力の危険度に関して両陣営に伝える形で幕を閉じた。


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