ガンダムビルドダイバーズ EXTREAM VS 作:TLS中毒患者
その少し前
――私立ミハシラ学園。
とある財閥が経営する中高一貫の学園だが、複数の運動場や体育館などの設備の豪華さもさることながら、この学園では昔からガンプラに関する部活動が非常に盛んでもある事で有名だ。運動部も存在しない訳では無いが、圧倒的にガンプラバトル部、またはその関連の部活が多くを占めており、予算を巡った内部抗争も無くは無い。誰が呼んだか『ガンプラバトル界の学戦都市』。
その中をソースケはエイジの腕をつかみながら強引に案内板を見つつ、着実にその歩みをガンプラバトル部の部室にへと足を進めていく。勧誘やその他の声がかかるがそれらはソースケが軽くあしらい、ようやくしてガンプラバトル部の部室へと到着した。
「ちわーっす!! 入部希望者連れてきました~!! ……あれ?」
しかし、こちらの様子などお構いなしと言った具合に部室前方の大型スクリーンの前に集まって眉をひそめているという異様な光景が広がっていた。
百二十台のパソコンとそこに繋がれたGBN専用デバイスには御構い無しだ。
「またやってるよ、あの先輩たち……ほっんと最低……!!」
「中等部校舎のPC室にGBNデバイス持ち込んでんだろ? そこまでして勝ちが欲しいのかよ……」
「あの新入生の子も、可哀そうに。あんな奴らに目ぇつけられちゃって、運がないわ」
「けど、その割には押しているみたいだね。新入生」
エイジを引きずったままソースケはその集団の中に割って入り、事情を聴いた。何でも以前も厳重注意を食らった先輩たちが懲りずにポイント目当てで新入生狩りを行っていると言うのだ。しかも相手は中等部の女子生徒。彼女の操る純白のアヴァランチエクシアは連戦ミッションの後にも拘らず一機をダウンさせ、目にも止まらぬ速度で飛んで潜ってを繰り返して翻弄しているが、
「あんなペースじゃ、GN粒子が持たなねぇぞ……っ!!」
ソースケがそう言った刹那、両肩と脚部から滲み出ていたGN粒子の光が弱くなり、失せた。アヴァランチエクシアは原作でも出撃前にGN粒子を1時間もコンデンサーに貯め込まなければならない。少なくとも短時間では先程のように動けるようになる事は無いだろう。
ペースが狂い、徐々に押され始める純白のアヴァランチエクシア。
「クソッ!! 見てられねぇぜ!! こうなったら俺のヴォルテックスガンダムで……アァァァァァァァッ!?」
「ど、どうした!?」
「チクショウ……角が折れた……」
ソースケがガンプラケースから取り出したガンプラは、紅白で彩られたライトニングガンダムだ。しかし、精巧なZ系列フェイスを飾る頭部の角が……折れていたのだ。先程鞄の隙間から見える程蓋が開いてしまっていたのだ、恐らくはその時に何らかのショックが加わって折れてしまったのだろう。
「クッソォォォォ!! ちょっと修理してくるぜ!!」
「角ぐらい良いじゃねぇか、あっても無くても変わらねぇだろ」
「コノバカヤロウッ!! コイツの場合はそうでもねぇんだよ!! 誰か瞬間接着剤持ってない!?」
ギャーギャーと騒ぎ立てるソースケのせいで沈鬱だった場の雰囲気が一気に台無しである。その場に居合わせた先輩部員の話によると校舎の反対側にあるビルダールームにならあるとの事だが、どれほどの時間が掛かる事か……
(俺が、ガンプラバトルを出来ていれば……せめて、ガンプラがあれば……)
ダッシュで部室を飛び出すソースケを見送るや、エイジは不意にカバンから外した日本刀型のキーホルダーを握り締めた。いや、それはキーホルダーと呼ぶにはやや大振りだった。まるで、HGのガンプラに持たせるべくして作ったと言わんばかりの大きさだ。
ただ見ているしかないのか? しかし、この刀一本で自分に何が出来る?
その自問自答の答えは突然差し出されたガンプラが解決した。
手の平に乗っていたのは黄金のフレームと異形の右腕を持つ深紅のアストレイ、その先を辿ると差し出したのは少女だという事が分かった。どこか超然とした雰囲気を纏い、彫りの深い顔立ちに映える長い黒髪を靡かせ、碧眼の瞳でこちらを見据えながら長身の少女は告げる。
「機体が無くてお困りなのでしょう? でしたら、これを使いなさいな」
「これは……?」
「テスタメントアストレイ。まだ未完成品ですが、十分に戦えますよ。力があれば戦えるのでしょう?」
何故か硬直する先輩部員達を差し置いて、エイジは少し考えた後その機体を手に取り、腰部に握り締めていた日本刀を装着する。アストレイ側にもアタッチメントが付いており、まるで最初から付ける事を想定していたかの様にぴったりと装着できた。
一応レベルで持っていたGBNデバイスを装着し、バイザーを付けて準備は完了。
「ヤチヨ、彼の補佐を」
「分かったよ、アケノ」
ログインする刹那、何か小さい物ががダイバーギアの上に飛び乗ったのを感じた。
◆◇◆
(このガンプラ、俺の思い通りに動く……っ!!)
バーチャルコックピット内に浮き出たコントロールステック、では無く、その間に浮かんだ六つのボタンと一つのレバー、所謂アーケードコントローラーにて操作をしていたエイジはメインに宛がわれている二連装ビームガンから特射入力でミラージュコロイドを発動、姿を消しながら真横から回り込み、右腕のトリケロスに備えられた鉤爪で切りかかる。ゲームの様に攻撃を当てれば必ず怯む訳では無いので一方的にコンボは差し込めないが、回り込みながら切りつけたその動作はヤクトドーガの装甲を着実に削っていた。
「どう? 君に合わせて調整したアーケードコントローラーの調子は?」
ジャンク屋然の格好をしたエイジの横で初心者同然であるエイジの機体制御の補佐を行っていた少女が告げる。ややおっとりとした雰囲気とは裏腹に橙色の切り詰めて露出度を上げた裾の短い着物を纏い、側頭部に8を模した簪を宛がった金髪の少女だ。
彼女の名はヤチヨ。
かつてGBNの存亡を賭けた戦いの際に発見されたエルダイバーの一人で、今ではこのガンプラの持ち主であるアケノの世話になっているらしい。
エルダイバーはその一軒以来着実に数を増やし、最近ではサルベージ技術も進んでいてその数を増やしている。それでも、現実世界に確認されているのは僅か数百人程度。勿論エイジも初めて見るので、ログインしていつの間にか真横に乗っていた瞬間は大慌てだった。
「細かい補佐は僕がやるから、君はどう動かしたいかをこれで示してほしい」
そう言われて新たにコックピットに出現したアーケードコントローラー型操縦桿を用いて操作するが、機動力の特性などがゲームでも使うゴールドフレーム天とほぼほぼ同じだったので初使用にも拘らず手に馴染んでいた。
「アニキっ!! あのガンプラはまさか……っ!!」
「まさか、あの人がこんな小競り合いに介入してきたとでも言うのか? いや、ありえねえ!!」
深紅の機体の強襲に怯むヤクト・ドーガのファイター。機体の完成度は彼らの目からも分かる程高く、あの人と畏怖を込めた呼び方をする人物の作品である事は明らかだった。
しかし、そうであれば自分たちなぞ瞬殺されている。おまけに、先ほど聞こえてきた声は男のそれだった。つまり、あの人では無い。とは言え、聞き覚えも無い。であれば……
「てめぇも新入生って所かぁ!? まとめて歓迎してやるぜぇ!!」
いくつかの判断材料からそう確信したヤクト・ドーガのダイバーはビームサーベルを背後のテスタメントアストレイに向けて振るう。しかし、攻撃の動作が見えていたエイジは所謂バクフワと呼ばれる動作で慣性を付けて後ろに下がりながらビームガンを放つ。それと同時に射撃ボタンは押しっぱなし、ある動作に備える。
「ガーベラ・ストレートォッ!! は、こう使う!!」
射撃ボタンを離すと、右腰の鞘に収められていた日本刀を抜刀。しかし、それで切り掛かるのではなく……投げた。
まさか日本刀を投擲されるとは思っておらず反応が遅れるが、投擲されたジェスタは回避こそ叶わなかったがガードが間に合う。しかし、その予想外の重量と切れ味はシールドを貫通し、左腕ごと串刺しにした。
「こいつ!? この刀、本物の軟鉄で出来てやがる!? 金属パーツってそう言う事じゃねぇぞ!?」
ジェスタのダイバーは動かなくなった左腕を盾にビームサーベルに持ち替えて格闘戦を行うが、バルカンをトリケロスに阻まれ、アストレイはシールドの陰からハンドガンを付き出して射撃。よろけを取った後に左腕に刺さった刀を引き抜き、そのまま切り捨てる。シールドごと真っ二つになったジェスタの左腕が、宙を舞った。
「だが、隙は出来た!!」
不思議な動き方をするが、どうにも一定の癖がある。それ故に刀を振り切った後の硬直を狙ってジェスタはビームサーベルを振るうが、その胴体を後ろから何かに貫かれた。鈍色に光るGNソードだ。放置されている間にどうにかダッシュ一回分の粒子がチャージできたユキナが高速で距離を詰め、背後からその胴体に突き立てたのだ。
「撃破確認しないから……こうなる」
「お、俺のポイントがぁああああっ!!」
断末魔も他所に爆発四散するジェスタ。しかし、悪あがきか粒子を纏っていないせいで切れ味の鈍いGNソードを掴まれ、離脱が遅れたアヴァランチ・ブランシェの左腕を道連れにする。ユキナはジェスタを撃破確認した後、両膝がショートを起こして崩れ落ち膝立ちになった。
「貸し一つ。けど私がやれるのはここまで」
「クソッ!! こっち来るんじゃあない!!」
勝てる筈の勝負が突然の乱入者のせいで全てが狂ってしまった。楽にポイントを手に入る筈だったのに、予想外に強い新入生と、恐らくはあの人の作品を駆る新入生の為に全てがパーだ。ここで負ければ、もう自分に後は無い。だからこそ――――――
「だからって、大の男が女の子苛めちゃダメでしょ!!」
エイジはロックをヤクトドーガに向け、トリケロスを盾に今度は日本刀を構えながら斜めに軸をずらしつつ急速接近、ヴィダール横特格をそのまま再現した形だが、思いの外様になっている。
耐久性の高いトリケロスはシールドメガ粒子砲を防ぎ切り、そのまま胴体に向けて日本刀を振りかぶる。
片手でそんな使い方をしよう物ならガンプラ側に負担が掛かってもおかしくないが、すくい上げる様にしたその一撃は機体を両断するのでは無く打ち上げた。先端は尖っていてあの貫通力だったにも拘らず、伝わって来たのはまるで鈍器のような破壊力。
「まさか、研無刀-----」
「今だよ、エイジ」
「穿て!!」
打ち上げた後に相応しい攻撃は決まっている。すかさずトリケロスを展開、手の平後方に備えられていた空洞にランサーダートを装填、そのまま右手を打ち上げられたヤクトドーガに向けると、目にも止まらぬ速度で射出されたランサーダートが機体の中央を貫き、胸部装甲を突き破って内部まで侵攻したダートが爆発を起こし、それと連鎖するようにヤクトドーガは爆発四散する。
「こ、降参する……」
《――BATTLE ENDED!!》
仲間二人を失い、恐慌状態に陥ったジェガンのパイロットが降参する事によって、戦闘終了を告げるシステム音声が流れた。
(こんな人も……いるんだ……)
コックピットハッチから出てきて初勝利の余韻に呆然とするジャンク屋衣装の少年と、こちらに向けて手を振る金髪のエルダイバー。
彼女の目から見れば、エイジの動き自体はまだどこか稚拙で、変な癖がある。けれども、どうであれ自分の為にこの場に駆け付けて来たこのダイバーの事を、少し気に留めようと思ったのであった。
機体解説
機体名:ガンダムテスタメントアストレイ(未完成)
武装:多機能攻循システム『トリケロスT』、シールド内蔵ハンドガン×2、軟鉄製日本刀』、ビームサーベル×2
特殊機能:ミラージュコロイド
本作の主人公、アマギリ エイジがアケノと呼ばれる少女に手渡された深紅のアストレイ。ゴールドフレーム天がベース機体だが、装甲はやや彩度の低い赤色になっており、前方に突き出た二本のブレードアンテナや右腕の鬼の手にも見えるトリケロスから、テスタメントガンダムにも見える機体となっている。
トリケロスTは展開式シールド裏にハンドガンを収納可能な他、中央部分を電磁加速投射装置を内蔵。これにランサーダート等の棒状の物体を装填する事でダインスレイヴの様に超高速で射出が可能になっており、遠距離戦闘における最大火力を誇る。
腰に据えた日本刀は本物の軟鉄を使用して作られたガンプラ用の刀剣で、以前からエイジが大切に持っていた物。切っ先の切れ味は鋭いが刃自体の切れ味はそうでも無いという変わった切れ味を持ち、主に取り回しやすい鈍器として利用されるか投げられる。
その武装構成とGBN慣れしていないエイジ用に調整されたアケコン制御システムを導入する事により、『特殊移動がミラコロになったBR持ちのヴィダール』と言った具合の立ち回りが可能になっている。