「良太兄ちゃん...。」
野営地の撤収にかかる良太の背中を見ながら、六助は不安げな声を漏らして彼の背中に駆け寄る。周りの隊員たちも同様に資材の梱包作業、有線の撤収作業などを実施している。どうやら第1中隊は大住郡を離れ、新たな拠点に移るようだ。この前の軍議でそう決定したらしい。この雰囲気で六助は、良太が自分の下を去ってしまうと感じたのだ。
「...六助。」
「どこ行くの...?いやだ、一緒がいい!良太兄ちゃんと一緒がいい!」
振り向きざまに六助が良太に抱きつき離すまいとしている、それを優しく諭すようにゆっくり頭を撫でながら言った。
「俺たちは、この村に来れて良かった。もっとも...俺は六助や小五郎...それから村のみんなと縁を持つことが出来て...俺は嬉しかったよ。」
「鉄砲の使い方教わるだけじゃやだ...。...ねぇ、いてよ。良太兄ちゃんまで、戦で死んじゃったら...オラ...、...オラ....。」
ポロポロ涙をこぼす六助を優しく抱きしめて、お互いに体温を感じながら温もりを与え合う。ひとしきり抱きしめたら、六助の頭を優しくポンポンッと手を添える。
「この国や六助やみんなを守る為には、必要なんだ...。」
「.....豊臣なんか嫌いだ...。」
「六助....。」
「オラと良太兄ちゃんがせっかく仲良くなれたのに、それを台無しにする豊臣なんて...嫌いだ...。」
そこから泣き喚きながら懐に引っ付く六助を見て、今までの溜まっていた辛かった時の想いが溢れ出しているのだと思った。自分が今出来ることはこの村と相模国を豊臣の軍勢から守り抜くこと、六助を優しく撫でてやることだけだ。
「約束する。...俺を必要としてくれる六助やみんなの為に...必ず帰る。」
「ぐすっ....。..,約束っ....。」
指切りげんまんの呪いを交わす。良太と六助の小指が絡まり、決して潰えない固い約束を、優しく絡ませた互いの小指にその気持ちを込めた。
「六助も...十分注意しろ。まだ周りに野盗が居るかもわからない。...中隊長や火器陸曹に許可を得て余剰の小銃と弾薬は蔵に入れてある。...いざとなったらお前や小五郎、友達みんなでこの村を護るんだ。...良いな?」
「...うん!わかった!」
出立は明日の昼。村人に挨拶を済ませた後、北条の軍勢と合流ののちに指定された各要害へと向かう。第1中隊の全戦力はおおよそ三分する計画である。撤収作業を実施中に、また新たな報告が舞い込む。念の為無線機で何かしらの電波が拾えないものかとF10をいじっていた啓介が、そこで無線を傍受したのである。