...タイムスリップというこの現実に、今は胸の動悸が治らない。射かけられた時には生きた心地がしなかった。鉄の塊に囲まれた空間にいるとはいえ、あの集団...軍勢は明らかな敵意を以って攻撃してきたのだから。...61式戦車の運転をする望月努3等陸曹は、冷や汗を滲ませた額にハンカチを当てながら慎重に運転を続けていた。
「くそぉ、あんなめった撃ちにされたら敵わんなぁ。大丈夫か望月。」
「大丈夫です...。」
61の車長、菊池一陸曹長はペリスコープから辺りを警戒しつつ、前進を促す。61式戦車も現代戦ではかなりの旧式だが、対戦車戦闘以外ならテロリストの掃討等、対歩兵戦闘車輌として駆り出されている。しかし状況中に友軍部隊と逸れ、途中から合流した74式戦車と共に今こうして走っているわけである。
「流石に旧式のコイツでも弓矢くらいは防げるらしい。」
「....。菊池曹長!」
操縦する望月の目に、関所が映る。しかしその前には見慣れた車輌が数台ほど、その周りには鎧武者の者達と共に警備に就く...アレは間違いなく自衛官の姿。その姿を見るだけでだいぶ安堵出来た望月は、ため息をこぼした。櫓にも立つ自衛官が弓を持つ足軽に射かけぬ様制止させ、何人かが駆け足で近寄ってきた。
「やたら原始的な陣地だな。...まあありゃ友軍だし、安心はしてもいいだろ。ちょい行ってくる。望月、同行。」
「了解。」
一旦戦車を路肩へ寄せて、武器を携行して下車する菊池と望月そして74の乗員。それを出迎えたのは48連隊1中隊の一部の隊員だった。
「48連隊か。...富士教導団の菊池曹長。」
「同じく、望月3曹。」
そこで彼らも、今自分達が戦国時代へタイムスリップしてしまったことを知るのである。三つ鱗の旗印が掲げられる陣地にまた、心強い味方が加わったことで北条軍の士気も大いに高まった。そこは、まず小田原征伐における最初の戦場になる...あの山中城の眼前。箱根街道と接続する城の三ノ丸大手口付近であった。
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山中城へはヘリでの隊員輸送、配置を実施したその後。
所は八王子城。北条氏照の居城であると同時に、難攻不落の名城として名高い北条が誇る要害である。そこへ馬に跨り行軍してきた武者の集団に混じり、三菱パジェロが数台、軽装甲機動車数台と同じく高機動車、その後に弾薬、資材、食糧を満載した3t半トラックが車列を作り八王子城の城下町まで到着した。
「下車用意、下車!」
トラックの後部から幌を剥がし降りてくる隊員達。フル装具に実包を込めた弾倉、小銃も薬室をオープンにした状態で安全化を図りつつ段取りを始める。まずは戦に備えての陣地の構築、障害構成、有線の開設と埋設を実施する。