裏切りと陰謀の時代とされる、動乱巻き起こる戦国時代。その時代にあって尚諸国の武将が謀叛を起こし、起こされる中、相模国を治める北条家は稀有な例の武家であると言えるだろう。小田原征伐に至るまでの間、謀叛もなければ、騒動も起こらない。戦国時代における平和な統治を成していた一族と見て間違いない。そこに時の流れを遡ってやってきた陸上自衛隊48普通科連隊の隊員達は、まさに幸運と言える。タイミングもタイミングで、離反する者が出ない内に北条方へ迎え入れられたのもあり戦力としても充実している。
晴れ渡る空の下、小田原城内では籠城戦の準備を整える北条軍、そしてその中にあって48連隊1中隊の隊員達の姿も見える。迫撃砲の陣地構築、城壁に重機関銃を据える作業、更には炊事場の開設を手早く実施して城内の士気を多いに高めた。
「準備は盤石に致してございます、殿。」
「うむ、休み休みに適宜休息をとらせるがよい。...。」
城内の視察を行う氏直は、足軽の配置などに目を向けた。その次、自衛隊の配置にも目を向けてみる。これから他の要害へ向けて配置されるという時に元気付けてくれるのは、やはり美味い兵糧だろう。
「順番に並んでください!いくらでも炊きますよぉ!」
「はい!塩握り!しゃけ握り、梅握りもあるよ!味噌汁やおかずも!」
まるで屋台の売り出しだ。展開した野外炊事車の前には武者達の行列が出来上がっていた、現代でよく見る人気ラーメン屋の前で並ぶサラリーマンの姿が思い浮かばれる。今も昔も、人というのはそんなに変わらないのかもしれない。無論、この野外炊事車に関しては例外だが。この戦国の世ではまさに重宝されることだろう。
「やはり目を見張るものがあるの、あれが先の世の飯炊きか。これで兵達も喜ぶ。」
するとそこへ城内の視察をしていた伊庭もやってきては、炊事場の確認をする。思った以上に足軽が大挙しているのを見て、配下の隊員と米の在庫を確認している。
「戦に備え、いくらでも食べるが良い!」
声を上げる氏直の下へ、小さな影が近づく。氏直はそれに気付いていない様子だった。
「はいっ。お殿様。」
「のあっ!?なんじゃお主は!」
途端に湧いて出た様な現れ方の六助に、一国の主の表情が一瞬砕かれる氏直。すぐ気を持ち直すや、そこへ怯まない様子の六助の姿を見る。
「お主...これを儂にくれるのか。」
「うんっ!お殿様頑張ってるから!」
9歳の少年と二十半ばの城主のやり取りがこんなに和むものとは誰も思うまい。氏直の目に映る六助は優しい少年という印象だが、背中に背負っているモノを見た後しゃがみながら六助に口を開く。
「小童。お主何をしにここへ来た。まさかわざわざ兵糧を届けに来ただけではあるまい。」
「はい。お殿様にお願いがあって来ました。」
六助が背に背負ったそれは、良太から受け取った89式小銃であった。肩にかけた巾着袋の中には多分弾倉だろうか、ゴツゴツとした突起部が見える。
「オラを...お殿様の戦の仲間に入れて下さい!」