八王子城の要害地区において罠の敷設及び埋設を完了した浩二は、小休憩にと御主殿に立つ会所へと足を運ぶ。普段は隣接している主殿において政事などをした後に、参加の面々をもてなす用途として使われていた建物であるが、城兵の休憩スペースとしても使われている様だった。
「ここがあの会所跡か...。」
浩二は、趣味でよく城郭巡りなどをしておりこの八王子城などにも勿論行ったことがある。今ではもはや御主殿の石垣、そこの前に掛かる曳き橋、そして会所があったとされる場所に土台が立つだけになってしまってはいるが、今はそうではない。確かに人々の活気が息づいている、大きな広い会所の頭を覆う茅葺きの立派な屋根はまさに伝承の通りの姿であった。それを見た浩二は、えらく感激し、そのあまりの感動さ故に涙を溢した。
「もし?あの、先の世のお侍様ですか?」
「おおっ!これはこれは...。」
「どうしたのですか?そのように泣かれたりして...何か悲しいことでもあったのですか?」
感動したもので涙を流してしまったとはあえて言わずに、気のせいだとごまかしながらもその美しい女性に答えながらハンカチで涙を拭った。心配する女性の身なりはどこか華やかなもので、腰まで長く綺麗に伸びた黒髪を纏め綺麗な着物を着ている。ゆっくりと会所に来るように手招きする女性に言われるがまま、浩二はゆっくり靴を脱ぎ会所の中へと入って行った。
「...自衛官は俺だけか。」
「さっ、ごゆっくりなさって下さい。今茶をお持ちしますね。」
軽く会釈をして下がっていく女性の背中を見送りながら、浩二は考えを巡らす。あの子...結構若かったな。歳は何歳だろ...それにあの着物...十二単かな?きっといいところの便女か奥方様に違いない。確か八王子城は陥落まで数多くの婦女子が詰めていたという。美人に接待してもらえるなら男の士気も上がるってもんだ。なおさら引くわけにもいくまいと考えていた浩二は、御主殿にある庭園に目を向けた。なんと綺麗な景色だろう、池の張った庭園には緑の苔が生えて、その頭上には緑が多くある。
「400年後には...会所の後に彼岸花が咲くなんて思ってもないだろ...。ましてや、彼岸花だけになってるなんて....。」
感慨深い。何か漠然とタイムスリップをしたとこの時代に来た時にはそう思っていた、だけど今は何か...感じるものがある。何かを、歴史が求めている...。歴史が、俺たちに何かをさせようとしている。それは俺たちにも、この時代の人たちにとっても必要なことだとしたら...。そう思う浩二の傍に、先程の女性が静かに腰を下ろした。