戦国自衛隊 小田原の戦い   作:佐藤練也

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第5話

「陸上自衛隊....?ほう、聞かぬ名じゃな。」

 

そう言って中隊の面々を騎上から一望する氏直は自身の馬を前へと進ませ、それに重臣や付き人複数名が後から随行する。

 

「見ない身形に、聞かぬ名。お主等のような軍勢は、見たことがない。」

 

それもその筈。この時代には存在しない組織であり、人間にしても機械にしてもまだ存在していないもので溢れている。氏直はそう言いながら昌に近寄っていき、ガチャガチャと甲冑が擦れる音を響かせる。続けざまに質問をする彼の眼には、好奇心かそれとも探求心、あるいは敵を探るための観察眼でも備わっているのか、色々なものが渦巻いているように昌は感じた。

 

「訳あって、この村に昨日から世話になっている。」

 

「ほう。どのような縁じゃ?」

 

 

馬から降りて、氏直は付き人に馬の手綱を握らせる。そこへ頭を下げていた村長が顔を上げて、氏直と昌の下へ近寄り事の説明を行った。昌を始め第1中隊の隊員は少なくともこの村の住民から、少なくとも理解を得ていると思えたことで心強さを感じていた。隊員達も氏直やその周辺の重臣等の接し方を見るに、銃口を向ける必要は無しと昌が制した通り銃口を下方へ下げローレディの姿勢になる。

 

「恐れながら、私の方から述べさせていただきます。この方々は、私の村の者を野盗から御救い下さいまして、恩義を感じ村に泊まっていただいております。」

 

「野盗か。どこぞの流れ者かは知らぬが、領民に人死には出てはおらぬのか。」

 

「ええ。1人も死んではおりません。ただ、野盗は1人残らず、伊庭様方が討ち取って下さいました。」

 

「左様か。災難であったな、後で家臣に城から米や食糧を村に贈らせる故。」

 

「有難く存じます。」

 

 

村長とのやり取りを終えた後に、再び昌の方へ向き直る氏直。領民の命を野盗から救った人間の集まりということは、少なくともこちら側に仇成す者達ではないと言い切れないにしても友好的な存在であると氏直自身、認識は出来たようだ。氏直は続けて口を開いた。

 

「我が国の領民の命を救ってくれたこと、誠にありがたく思う。...見たところ、伊庭殿の軍勢は刀を持ってはおらぬようであるが。一体どのようにして野盗を除けたのだ?」

 

「鉄砲です。」

 

「鉄砲だけでか?!」

 

 

氏直やその重臣達は、昌の言う言葉に驚いた様子だった。この時代の鉄砲と言えば火縄銃という火薬や火打石を使って弾丸を放つ古典的な使用方法、機材を用いられ、尚且つ重量がある為取り回しが不便である。自衛隊が使用する89式小銃などは、弾倉へ弾薬を込める作業を除いてほぼほぼ自動で行程が行われる為、使い勝手が良く更には軽量で日本人の体格に合わせて作られており、射撃がし易く着剣をすれば白兵戦も可能といった数多くの利点が存在する。

 

「ええ。今私が持っている鉄砲もそうですが。私の家臣、....部下が持っている鉄砲が今回、野盗を討ち果たした鉄砲です。」

 

「ほおお....。」

 

 

昌が1人の隊員を呼び、氏直に間近で小銃を見せるように言う。目の前に差し出された黒一色の鉄砲は、今までに見たこともない形をしており氏直の興味をさらに引かせた。

 

 

「これを持って、伊庭殿の軍勢は戦っておるのだな。そうか。....中々興味が湧いてきたぞ。.....おお!」

 

 

氏直がある一点を見て、指をさした。それを見た昌や他の常即共の隊員達もその方向を見やる。氏直の指した方向には、先刻この時代にやって来たと思われるヘリコプター....。UH-1Jがあった。使われていない広大な畑を利用した発着スペースなだけあって、その中央に位置する大きな空飛ぶ鉄塊は、この時代では異様な存在感を醸し出している。UH-1Jの近くまで歩み寄った氏直は、重臣等と共に周囲を回り始めた。まじまじとヘリの外観を見て回る様は、まさにタイムスリップしてきた人そのものだ。(今回の場合、未来人が来たという逆の形だが...。)

 

 

「ほお。康秀、まさにお主の言う通りじゃ。見よ、日の丸が描かれておる。」

 

「はっ!確かに、左様で御座いますな。」

 

「ふむ、伊庭殿の軍勢の名前も書かれておる。『陸上自衛隊』っか...。」

 

 

噂がたちまち城下町に広まり、そして家臣からの報告で上がった鉄の鳥ことヘリコプター、UH-1Jをまじまじと見て御満悦といった感じの氏直は、今度はヘリに搭載されていた火器、M2ブローニング12.7mm重機関銃に目を向けながら昌へ言葉をかけた。

 

「伊庭殿、この鉄の鳥に据えてあるこれは何じゃ?」

 

「これも鉄砲です。」

 

「ほおおお.....。このような大きな鉄砲もあるのだな!」

 

重機関銃に直接触って触れてみるなどして、その質感を確かめる氏直。長い銃身、そして薬室に繋がれているベルトリンクに連なっている12.7mm実包。付近には昨日卸下したばかりの弾薬類が、シートを被せた状態で置かれていた。

 

「やはりどれをどう見ても、今迄儂が見てこなかった....。いや、どの大名もおそらく見たことないものばかりであるな.....。」

 

「諸国を回ろうとも、このような大きい鉄の鳥を飛ばすことの出来る国は皆目見当が付きませぬ.....。」

 

 

UH-1Jの機内にも入り隈なく観察を続ける氏直は、ヘリから降りてまた別の車輌へ足を進めた。次は軽装甲機動車、通称LAVの方へ近寄って行く。ヘリよりかは一回り小さいが、鉄の塊には相違無く氏直はそれにも興味を示した。その様子に隊員達も面白いのか、微笑する。

 

 

「なかなか堅そうじゃのう.....、伊庭殿。この鉄の馬は何というものじゃ!」

 

「装甲車です。」

 

「装甲車.....!なるほどお、織田水軍が使っていたという亀甲船のようなものじゃの!これなら弓矢や槍は勿論、鉄砲に至るまで防げるではないか!」

 

「それに相違ありません。」

 

 

それから一通りの見物を重臣と共に行った氏直は、昌と共にまた最初に居た場所へ戻る。そこで改めて、第1中隊の面々へ問いを投げる。

 

 

 

「伊庭殿。....儂からも1つ聞きたい。」

 

「何なりと。」

 

「家臣を連れて、鉄の鳥、鉄の馬を携えどこから来たのだ?琉球か?それとも北の蝦夷の地からか?」

 

「.......我々も、なんとも申し上げられないが......。」

 

 

はっきりしない返答に、氏直は疑問を抱き再度問いかける。

 

 

「己がどこから来たかも解らぬと言うのか...?」

 

「いや....。我々は.....、400年より先から来た。貴殿らがまだ見ぬ、遥か先の時代から。」

 

「.....。遥か先の時代から?」

 

昌の返答に対して、これは突拍子もないことを言う御仁だとでも言いたげにしながらも、その答えに偽りなしと心を改め氏直は昌に向き直る。それに重ねて、昌は言葉を述べた。

 

「我々も、まったく見当が付きません。何故この時代に居るのかも。ですが、これは偽りではなく誠で御座います。我々が操る鉄の馬も、鉄の鳥も、一撃ちで数十名を薙ぎ倒す鉄砲も、皆。....この時代の物では無いのです。」

 

「.....そうか。ならば伊庭殿。領民の命を救い、そして此度の急な伺い、鉄の鳥、鉄の馬を拝見させて頂いた。その御礼じゃ。また幾日後に、儂の家臣が村民に食糧を与えに参る。その時に、お主と家臣の分の食糧も運ばせよう。」

 

「いえ.....。」

 

「そう言うでない。....400年先の人間でも、兵糧が尽きれば戦えぬであろう。それから、いつでも我が城下に家臣諸々足を運ぶが良い。さらばじゃ!」

 

 

そう昌や隊員達に述べた氏直は、再び馬にまたがり手綱を握って踵を帰す。帰路につき、それに続いて家臣達もまた元来た道を共に帰っていく。それをその場で見送る第1中隊の隊員。

 

 

「....北条、....氏直。」

 

 

その日の夜。中隊野営地にて新たな天幕等設営の準備でもしているのか、資材を積載していた3t半から業務用天幕(通称、ビックリ業天。)を複数、炊事用資材を卸下、それに野外炊事車を稼働させている隊員達。それを不思議そうに遠巻きから見守る村民達の中に、自衛隊が何か始めると思い何人かは近くで見物をし始めている。村民から分けてもらった野菜や川で捕れた魚を使って、料理を始める隊員。その光景に、村民達は目を丸くした。

 

「良し、出来たな!みんなを呼ぼう。」

 

「皆さーん!!晩飯上がりましたよー!!」

 

災害派遣等で実証された自衛隊の高い野外炊事能力は、戦国時代においても遺憾無く発揮されている。身寄りが無く村に泊めてもらっている恩を、こちらも返さなくてはならない。美味しい料理の香りに、村民達は自衛隊の天幕地域に集まって来た。そのうち大人数になり、焚火を起こしてその周りで村民と自衛隊が一緒に喫食する格好になった。

 

「兄ちゃん。」

 

「おっ、お疲れ。.....えーっと....。」

 

良太の隣へ、昨日の少年がちょこんと腰を下ろした。手には配給された大根の味噌汁を持って、湯気と一緒に美味そうな臭いが鼻まで伝わってくる。昨日名前を聞いていなかったので、良太は少年の名前を言えずにいた。

 

「六助。」

 

「そうか。六助、昨日はよく眠れた?」

 

少年の名前は六助と言うらしく、更に打ち解けた感じがした良太は嬉しく思えた。彼はコミュニケーション能力がそこまで高くないと自覚があり.....。いや、そうではない。変り者である上にコミュニケーション能力がそこそこある為、平成の時代では生まれる時代を間違えたとまで言われた程、平成という時代は良太にとって生き辛い時代であった。しかしこの場所、この時代はそれらを遠ざけてくれる。こうして戦国時代の人々と触れ合うに連れて、心が穏やかになる感じを彼は覚えた。少年は笑顔で良太に答えた。

 

「うん。キャラメル美味しかった!ありがとう。」

 

「また今度持ってくるよ。」

 

そう言って自らも手に持った味噌汁を地面に置いて、頂きますと一言述べてから一口すする良太。六助も同じく頂きますと言って、味噌汁を音を立ててすすった。自衛隊の管理野営なども大体このような雰囲気で行なわれるのだが、今日は地元住民も合わせた家族キャンプに近い形となっている。

 

「兄ちゃん、名前は?」

 

「まだ言ってなかったな。俺は、佐々木良太。改めてよろしくな。当分の間世話になるよ、六助。」

 

「それじゃあ、良太兄ちゃんだね。」

 

なんか兄ちゃんという響きが嬉しいのか、それともこそばゆいのか。少なくとも嬉しい方なのは確かな様子の良太は、無言で六助の頭をくしゃくしゃと撫でまわした。

 

天幕地域からは離れて、村長の住む住居に通された昌。本日起きた一連の出来事について礼を述べた昌に対し、村長も同じように言葉を返す。近くの囲炉裏でパチッ、パチッ、と音を立てて薪が小さく燃え、色は鮮やかに赤くなっている。

 

「今朝は大変ありがとうございました。村長や村の方々がいらっしゃらなければ、我々の存在に誤解が生じたかもしれません。」

 

「いえいえ。私達こそ、これ程の料理を準備して下さりありがとうございます。村の方で炊き出しをやろうということにはなっていたのですが、代わりにやっていただけて村の者も皆喜んでおります。」

 

「こちらも宛てもない身で広く使わせて頂き、その上泊めてまで下さっているのですから。」

 

「ははは、好きなだけお使い頂ければ。私共村の者も伊庭様の軍勢が居てくれた方が、むしろ安心出来ますよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

所が変わり、小田原城。本日第1中隊野営地の村に赴いた氏直は、父である北条氏政に事の次第を報告し、家臣を交えて今後どのように接していくかを話し合っていた。

 

 

「氏直、それは誠であるか。400年先の時代から参った者達というのは。」

 

「はい。嘘では御座いませぬ、父上。この氏直。彼の者達の姿、しかとこの目に焼き付けて参りました故。」

 

氏直の後ろに居た複数の家臣、政繁、康英を中心とした重臣達も、それに相違は御座いませんと言う。重ねて父である氏政に報告する氏直。ただならぬ内容に氏政は到底信じることの出来ぬ内容と言いたげに、疑いの眼差しを氏直へ向けた。

 

「鉄の鳥、鉄の馬、自然に溶け込むが如く戦装束、そして一撃ちで数十名を討つ鉄砲。間違い御座いませぬ、あの者達こそ鉄の鳥を操りし軍勢。」

 

「氏直、お主。儂に戯言を申しておるのか?」

 

氏政の言葉に、家臣の政繁や康秀が説得を試みつつも氏直の言葉に偽りは無いと弁明する。

 

「とんでも御座いませぬ、氏政様!我等もしかと殿と共に己が目で確かめ、この手で直に鉄の鳥へ触れました!」

 

「まさに鉄の鳥とも言うべきもので御座いました。更にその鉄の鳥には、鉄砲の大きさを更に上回る鉄砲が御座いました。」

 

家臣達の言葉を耳に入れた氏政。それでもまだ信じるには足りないようで、息子の氏直やその家臣達に言い放った。

 

「ならばその方達の言う者を、ここへ連れて参れ。己が目でその者を見なくては信用するに足らん。儂は隠居の身であるとて、この相模国を守る家の者。どこの由緒もあるか解らぬ者共を、みすみす領内に置いておくわけにはゆかぬ。3日程間を空け、その者を小田原城へ招くのだ。」

 

「....畏まりました、父上。」

 

 

 

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