「そろそろ交代の時間か。」
左手首に着けている時計を見やる。良太が歩哨についてから2時間ほどが経過をしていた。いい加減テッパチが頭部に食い込んできて、若干気がめいり始めた良太は、自分と向かい合っている形で存在する深緑の森へ視線を移した。銃口もその方向へ向けながら、警戒は怠ることは無い。
「....(とんとん」
自身の半長靴を固いもので小突くような感触に、前方への警戒をしながら返答する。
「異常なし。現在、前方深緑の森を監視中。」
「了解。....良太、進だ。」
「待っていたぞ...。」
ゆっくりと立ちながら、良太の横に配置へ着く進。2人は現在身体偽装を施しており、敵に見つからないよう、警戒に当たっているところだった。89式小銃の銃口が睨む先、青々とした葉を成す木々の向こうへ意識を集中させる。
「敵の斥候でも見えたら攻撃せよって命令だったよな?」
「当たり前だ...。俺達は今戦国時代に居るんだぞ。」
彼ら2人は足軽を射殺した最初の隊員で、この世界の戦闘を最初に経験した先駆者ともいえる。予備自衛官といえども、流石実戦を経験しているだけある。ためらいなく襲われていた人々を救い、襲い来る敵を完膚なきまでに叩きのめしたのであるから。
「....。(ガサガサ」
「!!」
その深緑の森とは別の方向から草を掻き分ける音が聞こえ、良太と進はその方向へ銃口を向けた。
「誰何!!!」
声を張り上げる。その声を掛けられた者はびくっと反応を示してから、その場で硬直しているためか動きを見せない。さらに続けて誰何を行う
「誰何!!!!」
先程よりも語気を増した誰何に、更に委縮したのか動きを停止させたままの彼我不明のモノは何者か。
「答えなければ撃つぞっ!!!」
「まっ、待てっ!!待ってくれ!」
そう言って錯雑地より顔を覗かせたのは、1人の農夫であった。しかもこの前野盗に襲われていた、あの男である。
「うっ、撃たないでくれ!」
「誰だ!!!」
「あんたらを匿っている村のもんだ!!道を間違えちまった!!」
「そこは警戒区域ですよ!下がって、危ないですから!」
良太が農夫をこちらへ誘導しようと近寄り、そしてそれを進の鷹の眼でカバーする。進は64式狙撃銃のスコープから目を離し、視野を広く保った状態から良太のカバーについた。
「(はあ、こりゃ村の連中にも危険な場所をもっと知らしておかんきゃいけんかねえ...。)」
良太が農夫の手を握って歩哨壕へ戻ろうとしたとき、彼の真横を矢が掠めた。それが農夫に当たり、その農夫は死に絶えた。すぐさま手を離し、駆け足で陣地に戻る良太を進は64式で援護する。そして陣地に戻った良太は、小隊本部へ連絡を入れるべく受話器を取り、送電機を回し有線を使い敵襲の報告を迅速に済ませる。
「また野盗か!!」
「こちら30、こちら30!!敵襲!!!繰り返す、敵襲!!!!」
深緑からわらわらと出てくる野盗共に7.62mm弾を浴びせる進、1発1発を丁寧な呼吸と射撃姿勢でもって野盗の頭部や四肢を撃ちぬいていく。流石7.62mm弾、四肢に当たれば身体から離れ、それには野盗もたまらず転げまわる。
「まだこんなにいたのかっ!」
良太も89式小銃で射撃を開始し、単発射撃で発砲を開始。腹部を中心で狙いを定めて、的確に弾丸を敵に届ける。腹に5.56mm弾が当たると同時にうずくまる野盗共。しかし後からわらわらと蜘蛛の如く湧く、その数は100~150人と言ったところか。