MCUに磁界王として転生してしまったんだけど? 作:くろむす
7/24 日常編2と合体しました。しおり挟んでくれた方すみません。。。
エリックの故郷の味については、ドイツ国籍らしいですが出身がポーランドになっていたのでポーランド料理にしています。
記憶が混線すると、自分が誰かっていうのはすごく曖昧になるんじゃないかなぁと。
すべてを肯定してくる誰か(家族)を彼は求めているのかもしれないですね。
■エリック・レーンシャーあるいは、とあるボディガードの日常
「やぁ、今日も早朝から出勤ご苦労さま」
「そうか?あなた程ではないが、スタークさん」
スターク邸に朝の8時から上がり込んだ俺--ーエリック・レーンシャー改め仕事の時はマグニートーと名乗っている--ーは、目の下に隈をこさえた雇用主を前に軽く挨拶をすると、警備部長というホーガンが予め俺の携帯端末まで送ってくれている本日の予定に目を通す。
ホーガンはスターク個人の警備担当ではない。あくまでスターク・インダストリーズの警備担当のため、現在は会社とは関係の無いかつての上司…この場合スタークだが。その予定をまとめて送ってくれるだけで非常に感謝している。
というのも、最近のスタークは親しい間柄にあるペッパー・ポッツという女性に自社を全て任せて、外出の予定がない時はこの海辺の邸宅にこもり一日中アーマーを作っている状況だ。
俺もこの邸宅にいある間は予定という予定は特になく、一日スタークの邸宅でその作業をたまに見学させてもらいつつ、テレビを見たり、買い出しに行ったり、暇すぎて数少ないレパートリーから料理をたまに作ったりとそんな日常を送っている。
「それで、今日の予定は…自宅で作業…これだけか?」
「そう、それだけ!僕の予定は昨日も、一昨日も、そして今日も変わらず、思う存分趣味のアーマー制作に打ち込むこと。以上!要望は受け付けないが、質問は受け付ける」
「質問も要望も特にはないが、そろそろ食料の買い出しが必要だな。俺は10時になったら出るとしよう」
「わかった、君の料理にケチをつけるつもりはないが…あー…たまには昼食がデリでもいいんじゃないか?」
俺がいつも作るのは、母が作っていた素朴な家庭料理だ。まぁあまり食べる機会のないポーランド料理といってもハードなローテーションだったので飽きがくるのもわからなくはない。
ピゴス(肉とキャベツを蒸した料理)とグヤーシュ(シチューのようなもの)の二種類を交互だったので、スタークの言うことも一理ある。
「ふむ、そうだな…スタークさんの言うこともわからなくはない。体に良いとはいってもあまり頻繁に食べると飽きもくるだろう」
「そう!そうなんだよ!特にピ・・ゴスだっけ?あっちはしばらく食べなくても味が染み付いたというか…最近は
ならば仕方がない、暇だったので料理くらいしかすることがなかったのだが、今日はデリで済ませて明後日はグヤーシュを作るとしよう。
俺は近くのマリブに一時的な住まいを与えられているので、夜はそこへ帰るからスタークが何を食べているのかしらないが、昼だけで飽きるとはそんなに作っていただろうか?
グヤーシュは母の料理の中でも俺が一番好きだった料理で、俺自身は毎日食べても飽きないので、こればかりは個人の味覚の問題かもしれない。
「では買い出しは無しにして、正午前にデリを注文するのでそれまでに食べたいものを言っておいてくれ」
「わかった、それまで僕は2,3時間ラボに籠もるからここで好きにしててくれ。なんだったら出かけていても構わない」
「いや、家族の捜索にはS.H.I.E.L.D.も手を貸してくれているし、俺も休みを当てている。気を使わなくていい」
何を隠そう、スタークのボディガードだが、週休3日なのだ。高待遇すぎだろう?しかも本来契約上は10時出勤の19時終わりだ。
俺が8時に出勤しているのは自主的なものなのだが、しっかり残業手当も出してくれている。貰って良いものか迷ったが、あって困らないのが金のいいところだ。
俺の出勤についてだが、何もなければ一日置きにスターク邸での警護。それとは別にスタークが長時間外出する際はボディガードとしてついていくのが仕事になる。
S.H.I.E.L.D.に行ったり、他にもいろいろ遠出することもあるが、大抵は短期だ。
「OK、じゃあそういうことで、まかせるよボディーガードくん。僕はラボにいる」
そういって地下のラボに降りていくスタークだが、やはり
俺がここしばらく出勤時間を早めているのはこれが理由だったりする。
夢にピゴスが出てきてくれるくらい眠れていたら、あんな様にはなっていないだろうに。
ニューヨークの決戦後、スタークの様子がおかしいことに気づいたのはいつだっただろうか?
自分の邸宅に籠りがちになり、アーマーを次から次へ作っていく姿に違和感はなかった。
技術者ならこんなものなのだろうと思っていたが、ホーガン…スタークが呼ぶのはハッピーという名だったが。そのハッピーも気にしてそれとなく警備に力を入れ、気を使っている様子だ。
そのハッピーの徐々に変化する様子に、恐らく今の状況がスターク本来の生活スタイルではないのではないかと考えるようになった。
そしてその予想はあたっていたらしく、夜を徹して制作されるアーマーと、比例するように濃くなっていく目の下の隈。
これは眠れていないのだと気づいた。
それ以上にスタークの状況は悪いのだと確信する出来事を、ある日偶然にも俺は目にすることになるのだが。
ニュースで取り上げられたニューヨークの様子。チタウリの残骸の映像にリヴァイアサンの乗っかったままのビル映像。
過去のそれらが今もたまにニュースで取り上げられることがある。
俺はとくに気にしたこともなかったが、スタークはそれを見るなりよたよたとソファーに座り込み、青ざめた顔で這いつくばるようにラボへ消えていった。
ニューヨークの一件がスタークに与えた影響は色濃く。俺はそれを見て警戒を深めることにした。
アーマーは山のようにあるとしても、それを扱うのは人間だ。今のスタークを狙われたら彼は生き残れるのか?
いや、もしかしたらスタークこそが暴走してアーマーをまとい破壊をもたらすことだって考えられる。
そういったこともあり、俺は朝も早くからスターク邸を訪れ、暇な日常を過ごしているのだ。
ーーーいや、話し相手ならいた。
「やぁ、君にも挨拶が必要だった。失礼したなJ.A.R.V.I.S.」
『おはようございます、レーンシャー様。本日もご出勤ご苦労様です』
人間のように流暢な言葉を返してくれるのは人工知能のJ.A.R.V.I.S.だ。俺の数少ない話し相手である。
「さて、俺は今日も馴染んだソファーで優雅なティータイムだが、なにかやることはないか?」
『先日、タイヤの空気も入れていただきましたし、特にないかと』
「そうか…ではひとまずテレビで情報収集をするとしよう」
やはりテレビ以外にない。出かけるのはやめようと言ったばかりだが、時間があまって仕方がないので午後はやはり買い出しだ。
スタークにグヤーシュでも作り置いてやろう。
俺は今日の予定にそう付け加えると、ひとまずリモコンを呼び寄せテレビのチャンネルをニュース番組に合わせた。
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ーーー妻子を探すようになったころからだろうか。前の世界の俺について記憶が曖昧になっていくのとは逆に、どんどん鮮明になってきた記憶がある。
エリックが年を重ねる中でどんどん埋没していった別の誰かの記憶。大学に通い、家族が皆存命で、退屈で平和な毎日が訪れる誰かの記憶。
今では時たま水面に顔を出すクジラやイルカのように、ふとした瞬間断片が浮上しては消えていくようになったが。
そんな俺の記憶以外に今のエリックが、本来持たない筈の別の記憶がある。年を重ねるごとに鮮明になるその記憶とは、ピーター、マグダ、ニーナ…そして母エディ。
他にはチャールズやレイブン、ハンク、ハボックなど初代X-MENのメンバー、ブラザーフッドのことだ。これはすべて映画で見たエリック・レーンシャーの家族、仲間たち、関わった人々に関するものばかりだった。
最初こそ映画で見たからだろうと思っていた。エリックのことも映画で見たこと以外の情報は記憶になく、好きな映画の好きなキャラクターだったから覚えているのだろうと。
だが、徐々にではあるが、何か違和感を感じるようになった。これは本当に映画を見たからなのか?
映画館で、または自宅のテレビで、X-MENの映画を見ている。視点はそれに間違いない。しかし、これは映画の記憶なのか?
もしかして
今の俺には判別できないが、すんなりエリックの持つミュータント能力を使いこなせたのも、俺の自己暗示と映画をなぞっただけの努力とは関係なく。何か別に理由があるのではないかと今では考えるようになった。
俺という人格がエリック・レーンシャーに宿ったのか、それともエリック・レーンシャーが俺という誰かの記憶を覗き見ただけなのか。
それにまだ答えは出ていないが、今はまだ会えないでいる俺の家族に会えたなら、その時は本当の俺になれる気がするのだ。
午後になってスターク邸を出た俺が向かったのは比較的近くにあるマリブの町だ。セレブが住むだけあって物価も高く、俺としてはとても買い物がし難いところである。
スタークが俺に払っている給料は俺が人生で貰った給料の中でも桁が一つ、出張手当が入れば二つ違うのだが、今後のためにあまり使わないようにと考えると、どうにも財布のひもも固くなるという所だ。
さらに車で遠出してサンタモニカまで足を伸ばせばもう少しリーズナブルだが、ボディガードが買い物と往復で何時間もかけていられない。
中心部のマーケットで食材を買い込み、スタークから借りている車に放り込むと、スターク邸に戻るべく運転席に乗り込む。
スタークはきっとラボでアーマーを作っているのだろう。今度はどんな機能を追加するのか少し楽しみでもある。男はみんなああいったロボットに憧れるものだ。
「たまには何か差し入れもいいか…」
ふいに思い付いたのは午後の一番暑い時間帯だけあって俺自身喉が渇いていたせいか、スタークの冴えない顔を見飽きてきたからなのか。少しだけ、働いてばかりいた母に何もできなかった子供を思い出したのは内緒である。
しかしそんなただの思い付きの行動が運命を変えることもある。そしてその運命の岐路というのは、何気なく訪れるのかもしれない。
(スタークはコーヒーか?ブラック?頭を使うなら甘いものがいいのか…?)
なんとなくではあるが、ブラックのイメージがあるものの、そういえばコーヒーは俺が入れたことはなかったのを思い出す。ボディガードであって家政婦ではないのだから、料理を作っているのだって暇つぶしなのだ。
そんな俺が帰り道にある町中のカフェによって、あれこれ考えつつメニューを眺めていた時だった。
「ありがとうございました」
若い女の声だった。このエリックには本来覚えのない筈の…しかし違う世界のエリックには覚えがあったのか、電気が走ったかのように一瞬硬直したあと、勢いよく声の方に向き直った。突然体ごと後ろを向いた俺に驚いたのか、少し後ろで客を見送っていた店員が驚きトレーを取り落とす。
反射的に能力を使ったのは、頭が真っ白だったからだ、けして使おうと思ったわけではない。それなりの店らしく、装飾をあしらったトレーが床につく直前で停止し、慌てて手を伸ばした女の店員の手に収まる。
しゃがみこんだ位置だったので、俺と女の店員しか見ていないだろうが、彼女の目が見開かれたのがわかった。驚いた彼女が顔を上げる前に、俺は慌てて店を飛び出すと近くのパーキングにとめていた車に飛び乗り急いでその場を後にする。
店から飛び出したのか、あたりを見回す店員の横をすり抜け、スターク邸へ逃げかえるように車を走らせる。
西海岸の海に反射した日差しが眩しいが、今はそれどころではなかった。
つい、能力を使ってしまった。そんなこと今までなかったことだしあってはならないことだ。
しかし使ってしまった。衝動的に、考え無しに行使した力に驚いた彼女の顔が離れない。記憶にこびりついた顔だった。
『おかえりなさいませ、……レーンシャー様?何かございましたか?』
スターク邸に転がり込む俺にJ.A.R.V.I.S.が声をかけてくれるが、荷物すら車においたままの俺には当然その声に答える余裕はない。
朝も座ったソファーに座り込むと同時に目の前が歪んでいることに気づいた。
ああ、俺が泣いているのかエリックが泣いているのか…両手で顔を覆って気遣いの言葉を投げかけてくるJ.A.R.V.I.S.から顔を隠す。
恥ずかしいことこの上ない…しかし止まらない。
「…ああ、…マグダ…」
そうか、この世界には彼女がいるのか。X-MENの世界の彼女はヨーロッパにいたが、まさかアメリカで会うなんて思わないだろう。
その日、俺は間違いなく使い物にならないボディガードだったに違いない。そのままスタークがラボから戻るまでマグダとニーナのことを思い出していた。
アポカリプスでマグダとニーナの件がショックすぎて、お前ら幸せになれよぉって思った次第です。
マグダとどうなるかはわからないけど、ちゃんと彼女もこの世界では生きてるんだぜという話でした。
ピーター&ピエトロのアンケートについてもありがとうございました!
参考に今後ウルトロンで登場させたいと思います。
クイックシルバーですが、X-MENのピーターかMCUのピエトロかどちらがいいでしょう…
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X-MENのピーター
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MCUのピエトロ