再会した幼馴染が女になってた   作:鴨パ

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幼馴染が女になっても1

 欲しいものはだいたいもらえた。

 自分の部屋とか、欲しいおもちゃとか、ゲームとか、本とか、お金とか。

 愛情以外、物も環境も十分過ぎるほどに与えられたと思う。

 金持ちって自慢できるほどじゃないが、うちは間違いなく裕福だった。だからそういった面での苦労は特になかった。

 

 だからよく見える。

 物が足りてるからこそ、物以外の足りてないところが見える。

 

 でも文句はないんだ。

 俺が恵まれた環境にいるのは確かなんだ。

 たとえ歪でも、必要なものは提示されていた。

 

 俺に足りないのはただ二つ。

 

 うんざりするくらいありふれているものだ

 

 

 

  ◇

 

 

 空虚が空虚に蓋をしていた。

 彼女が生んだ俺の中の無気力が心を保護してくれていた。

 

 左腕のテープを剥がす。

 無数のリストカットの跡。新しい傷はないが傷が完全に消えることはない。

 

 一人の人間との再会で自傷行為は止まった。

 一人の人間との仲違いで自傷行為がやめられた。

 相変わらず俺はあいつに助けられてばかりだ。

 俺があいつにしてやったことなんて何もない。

 なのにあいつはこんなにも与えてくれる。

 

 だからちゃんと、返さなくちゃいけなかった。

 いずれこの繋がりは途切れる。

 その前に、俺が救われた分を、受け取った分を返したい。

 

 義務感なんかじゃない。

「するべき」じゃなくて、俺が「したい」と思っている。

 これは麦南という人間への、敬意と感謝だ。

 

 

 

 俺は人と関わることを放棄し続けた。

 だからこんな時どうすればいいのかわからない。

 怠慢のつけが今になって回ってきた。

 

 それもまた、俺の選択の結果だった。

 昔の俺を恨んではいない。

 誰も恨んでない。

 

 誰にも期待していないから。

 無論、俺にも。

 

 生きるというのは仕方のないことばかりだ。

 避けられないこと、どうしようもないことで一杯になっている。

 俺だって悔やむことはある。むしろ人より多くの後悔があると思っている。

 でもそれだって、解決しようがないことだ。

 

 だから俺はいつものようにこう思う。

 面倒だ、と。

 

 

 

 電車に揺られる。片道数時間。

 バスに乗り、再び静かに揺られていると懐かしい景色が見えてくる。

 一年と数か月ぶりの地元だ。

 あいつの行くところなんて、ここくらいしかない。

 

 メッセージに既読はつかないし電話もとらない。

 俺から向かうしかなかった。

 

 見覚えのあるバス停に茶髪の男が居た。

 バスから降りるとその男は親しげに近づいてくる。

 

「久しぶりー」

 

「よう。急にデカくなったなお前」

 

 (がく)。俺の弟だ。

 

「兄ちゃんよりたぶんデカいぜ」

 

 近づいてみると、確かに俺よりも若干身長が高かった。

 

「弟らしく俺より低くしとけよ」

 

「嫌でーす。だいたい兄弟は弟の方が優秀になりがち」

 

「はいはい」

 

 連れ立って歩き出す。懐かしい道、懐かしい街並み。自分が今、いい気分なのか嫌な気分なのかわからなかった。

 

「そういやさー。兄ちゃんの同級生の澪って覚えてる?」

 

「……うん。そいつが?」

 

「なんか兄ちゃんの連絡先を知りたがってて、俺は兄ちゃんに連絡先あげていいか確認するから待っててっつってるけど、他のやつが渡すかも」

 

 なんでまた。

 いや、澪はあいつと親しくしているんだった。

 考えるのは面倒だが、あの二人で何かしらあったのだろう。

 あいつに直接連絡先を渡せと言えばいいと思うのだが。

 

「別に大丈夫なのに。てかお前なんで連絡先やらなかったんだよ」

 

「あいつのこと嫌いじゃん、兄ちゃん」

 

「……」

 

 楽にそんなこと教えた覚えがない。なぜ知っているのか疑問だが、どうでもいいことだ。

 

「要件はだいたいわかるから、俺のあげていいよ。ただラインだけにして。携帯番号とかは面倒」

 

「わかってるって」

 

 楽は素早くスマホを操作し、さっさとポケットに突っ込んだ。あいつもだが、俺の入力速度をはるかに上回っている。

 

「全然変わんねぇな。変わらなさすぎて面白くない」

 

 街並みを眺めながらそんなことを言った。

 

「あっちに結構デカいショッピングモール建ったよ」

 

「マジ? 発展してんなぁ」

 

「だろ?」

 

 そんなくだらないことを話しながら家へと向かう。無駄に遠回りしながら町を見ていると着信があった。

 俺と楽は嘘だろ? という風に目を見合わせる。

 

 スマホを取り出すと、画面の発信者を示す場所には「MIO」と表示されている。ひとことメッセージの欄にしょうもないポエムを書いていそうな名前だ。

 画面を楽に見せれば、(いわ)くこれが澪のものであるらしかった。

 

 俺たちは道の端に寄って立ち止まった。

 

「もしもし」

 

 

   ◆

 

 

 初めての日曜参観というやつで、緊張していた。

 親が学校へ来て、学校の様子を見られる。その非日常を想像すると妙に浮き足立ったのを覚えている。

 学校からもらったプリントをリビングのテーブルに置いた。

 当時から両親と直接話すのは苦手だったから、プリントを置くだけが俺の精一杯のコミュニケーションだった。

 

 日曜日、休日にも仕事がありがちな両親だったけれどその日はどちらもは家にいて、俺は日曜だというのにランドセルを背負い学校へ。

 期待、気恥ずかしさ、そんな感情を抱えていた。

 

 結局、来なかった。父も母も。

 ちらちらとクラスメイトたちの親を見たが、その顔ぶれに知った顔が並ぶことはなかった。

 なんとも言えない気持ちで帰宅し、二人に顔を合わせるのが嫌で忍びやかに自室へ帰った。

 

 そのあと何かを捨てようと思ってリビングに置いてあるゴミ箱を開けた。

 そこには二つ折りにされた紙があり、俺はなんとなしに親の秘密を覗き見るような好奇心でそれを摘み上げ、開いた。

 

 日曜参観のおしらせ。

 今月のこんだて。

 クラス通信。

 不審者情報。

 

 俺がテーブルに置いたプリントだ。

 今考えれば二人にとって不要なプリントを捨てただけなのだが、あの時はいやにショックだった。

 

 プリントは親が把握しておくべき情報が記されているのは子供ながらにわかっていた。

 だから例外なくあのテーブルの同じ場所にプリントを置き続けた。

 それでも授業参観に親が来ることはなかった。

 もちろん仕事の都合もあった。でも、それだけだとは思えない。

 

 

 

 運動会が苦手だった。

 親はもちろん運動会があることを把握していたが、仕事の都合と会わず家族で昼食を食べたことは一度もない。

 前日にはいつも千円を渡された。弁当代だ。

 母の弁当など一度も食べたことはない。

 自分で弁当を選んで買うという行為に少しの優越感があった。だから不満はそこまでなかった。

 

 運動会の折り返し地点、昼食。

 小一の時は校舎の裏に行って隠れて食べた。

 子供ながらに、この場で家族がおらず一人飯を食べることが恥ずかしいことだと考えていた。

 小二に上がってからは弟が同じ小学校に入った。

 だから運動会のときなんかは二人で芝生のある中庭まで行き買って来た弁当を食べた。

 

 千円もあれば結構おやつが買えてすごく嬉しかった。遠くの活気が胸に痛かったが、悪くない時間だった。

 四年生の頃もいつも通りそうしていた。

 しかしそこに南がやって来た。

 俺たちがどこかへ行くのを見つけ付いて来たらしかった。それから、運動会の昼食は南も一緒に食べるようになったのだ。

 あの時の彼の行動は好奇心からだったのか、哀れみからだったのか、今でもわからない。でも、俺も弟の楽も、それに救われていたことだけは確かだった。

 

 

  ◆

 

 

 中学生の時、交通事故に遭った。

 俺は信号を守り歩道を歩いていたが相手の脇見運転でドン。命に別状はないものの手術と入院が必要なほどには体を痛めてしまった。

 

 入院一日目。父と母、そして楽がそれぞれ違う時間に病室に来てくれた。

 あの時、父と母が俺になんと言ったか、鮮明に覚えている。

 

 父はまず俺に「大丈夫か」と聞いた。

 俺は、まだ痛いけど大丈夫とかそんな風に返事をした。

 それを受けて父は「そうか」と言い、お菓子が何個か入ったレジ袋を置いて帰った。

 

 母は俺が読んでない週刊少年誌を「はい」と置いて帰った。

 

 彼らの後に楽と南が来て、うざいくらいに心配してくれた。楽は俺に家から持って来てほしいものを訊ね、南は学校であったこを話したりその日取ったノートを見せてくれた。

 

 楽は不定期だが、週に三、四回は俺のお見舞いに来て、お菓子とかテレビカードとか現金を持ってきてくれた。それと学校であったこととか友達の話を聞かせてくれた。

 携帯とか小型ゲーム機、ノート、教科書などを持ってきてくれたのも楽だった。

 親からお見舞い代として金を要求していたらしく、来るたびに何か買って来たのを覚えている。

 一緒にお菓子を食べながら適当に話してすぐ帰る。ずっとそんな感じだった。

 

 

 南は時々来ないこともあったが、ほぼ毎日俺の病室へやってきた。

 平日に病室へ来る時は、学校終わり走って来たのいつも息を切らしていて、毎日来なくてもいいと言ったが俺が来たいからだとかなんとか言って通い続けた。

 

 お見舞いの食べ物の類は楽が大量に持ってきていたので強く拒否した。

 すると、彼は大量の漫画を俺のところに持ってくるようになり、それがきっかけで俺は漫画というやつを読むようになった。

 南は来るたびにその日の授業内容を話して汚い字で書かれたノートを俺に写させた。あとはクラスとかテレビとか漫画の話しをした。

 

 なぜか同じ病室の人たちもやたらと優しくしてくれた。俺がまだ子供だったこともあるのだろう。

 そんな感じで、俺の入院生活は優しさで満たされていたし、充実していたと胸を張って言えるほど心地いいものだった。

 

 

  ◇

 

 

「もしもし」

 

 澪との通話を始めると、俺の耳にあてたスマホの裏側に楽が耳を寄せる。ここまで正々堂々盗み聞きされると止めようがない。

 

『あのー、雀……だよね?』

 

 澪の声だ。すこし、気分が沈んだ。

 

「そうだけど。何の用?」

 

『何の用って……あんたが一番わかってるでしょ!』

 

 怒りの滲んだ声。電波を介した声でも、彼女の表情が見えるようだった。

 

「お前は関係ないじゃん」

 

『関係……ないわけないでしょ! ねぇ、あんた南に何したの? ……まさか……レイプとかしてないでしょうね』

 

 俺がそんなことするわけがない。

 そんなことがわからないくらい、俺とこいつとの関係は浅い。

 なぜこの女はここまで怒っているのだろうと思う。考えてみれば相手はあの澪だ。南のことを心配しているということだろう。

 

「……いや。何も聞いてないのか?」

 

『訊いても言わないんだもん。あんたがなんかしたからじゃないの?』

 

 しばし考える。なるべく言葉を簡潔にして伝えた。

 

「告白されて、断った」

 

「は――ッ!」

 

 楽が声を出しそうだったので、もう片方の手で口を押さえた。

 

『は、はぁ……? いや、あんた…………なんで?』

 

「お前にはわからないよ。切るぞ」

 

『…………』

 

 沈黙を受けて通話を終わらせた。

 

「はぁ……」

 

 あいつもまた、面倒なことをしてるらしい。

 

「お、おい……兄ちゃん」

 

 しかし俺は目下の面倒を抱えてしまった。こちらが先だ。

 

「なんで断ったんだよ……」

 

「……」

 

「……ずっと好きだったじゃんか、南のこと」

 

「…………知ってたのか」

 

「そりゃ……わかるよ」

 

 これが奇跡の力か。

 暴力的なほどに俺を否定してくる、これが。

 

 

 

 俺たち兄弟は我が家の前に立っていた。

 周りの家と比べてもしっかりとした作り。

 そんな家だがすでにローンは払い終えている。

 やはり、恵まれているんだろう。

 

「はぁ……」

 

 楽のため息。なんだか俺に似てきたな。

 

「まさかお前、しばらく帰ってなかったか」

 

「よくわかるな」

 

「だろうと思ったよ」

 

 一般家庭にしてはやや大仰な門を開いて敷地へ。

 弟が玄関の鍵を開けて俺を招き入れる。

 なんでわざわざ迎えにくるんだよと疑問だったが、一人で帰るのが嫌だったのだろう。今ですら俺から離れないように行動している。

 

 懐かしい匂いがした。家の匂いだ。

 いい思い出などない匂い。

 

 リビングへ連れて行かれる。母が大きなソファに腰掛けてテレビ鑑賞しているところだった。

 母はもともと若いが、しかしこの年齢でもより若く見える。普通は自慢の母親、とやらになるのだろう。

 

「……お帰り」

 

 楽を見つけひとことそう言ってすぐ、俺を発見する。

 

「帰ったの」

 

「うん。ただいま」

 

「ご飯は?」

 

「食べてきた」

 

「そう」

 

 これで会話は終わり。

 しばらく俺が家に居なかったから、楽はいつもこれを一人で受けていたのだろう。

 隣に同じ立場の者が居ればすこしは自分をごまかせる。

 

 俺たちは黙って二階へ上がりそれぞれ自室へ入った。出て行くときに整理したとはいえ、一年以上放置した部屋は埃臭いだろうと身構えていたが大丈夫なようだ。

 両親には、俺も楽も部屋に入らないよう言っている。だから俺が越してからは誰も立ち入ってはいないはずだった。締め切っていればへんに埃っぽくならないのだろうか。

 

 天井を眺めているとスマホにメッセージ。

 楽からだ。

 

 

言い忘れてた

何週かに1回くらい兄ちゃんの部屋掃除してた

勝手に部屋入ってゴメン

 

 

『ありがとう』と返信しておいた。後日飯でも奢ってやろうと心に留めておいた。

 

 

 

 夕飯。

 時間が来たので一階に降りてみると父が帰ってきていた。楽はまだ降りてこない。

 

「学校はどうだ」

 

 俺を見て初めて言った言葉はそれだ。

 

「順調。成績も良い方」

 

「受験勉強は始めてるか」

 

「一応」

 

「そうか」

 

 これで会話は終わり。

 食事中に会話などなく、黙々と食べ進める。俺は気持ちゆっくりと食べていた。

 父と母は食べ終わってしまった。

 

「食器は自分で洗うよ」

 

 台所で二人分の食器を片付けていた母にそう伝えると、母は寝室へ向かう。リビングには父がいるからだ。

 

 楽に『降りてこい』とメッセージを送る。足音を忍ばせるでもなく普通に降りてきた。父も母も用がなければダイニングへは近づかない。

 二人で飯を食う。

 

「……なんで南の告白断ったんだよ」

 

 そうだろう。自然にその話になるはずだ。

 

「なんつーか……」

 

 言葉をまとめようとするが、難しい。ありのまま話したところで伝わらないのだ。

 

「ずっと好きだった子がさ、ある日いきなり見た目も話し方も変わってて、好きだった頃と全然違くなってたら……なんだ。嫌、じゃん?」

 

「南のこと?」

 

「まぁとりあえず」

 

「んー……」

 

 旨くも不味くもない飯を食べながら、楽は目をつぶって考え込む。

 

「性格がすげぇ変わってるとか、なんか変なことに手ぇ出してるとか、変な男と付き合ってるとか、そんなんじゃなければ好きなままだな、俺は」

 

「そうか……」

 

「心残り……はあるけど、そんくらい嫌な方に変わってたらさすがにな」

 

 もっともだ。

 

「そういや、部屋の掃除ありがとな。今度なんか奢ってやるよ」

 

「マジ? てか兄ちゃんの家行かせてよ。あっちでなんか食おうぜ。今夏休みなんだろ?」

 

「わかった。けど高い焼肉屋とかそういうのはだめだからな」

 

「当然!」

 

 家族でどこかに遊びに行ったりなんて全然したことない。だから代わりに俺がこいつを遊ばせてやらないと。

 

 俺は疲れていたのですぐ自室のベッドに入った。楽は友達のところに行くと言って遊びに出た。

 

 この部屋で久々に迎える夜だ。

 冷房もカビ臭かったりせず快適な空気だ。

 

 とりあえずここまで追ってきた。

 というのに、あいつに何をすべきなのかまるで思いつかないまま、俺は眠ってしまう。

 

 

  ◆

 

 

 俺が中学三年の時、学校から家に帰って自室で勉強していた時、学校から電話があった。

 二年生の楽の担任の先生からだった。

 楽が殴り合いの喧嘩をして相手を怪我させたという。殴り合いなのでもちろん楽も怪我をした。

 

 学校に向かうと父親が先に来ていた。

 正直、怖かった。

 

 そのあと俺も一緒に事情を改めて聞かされた。

 相手がちょっかいをかけてきて、楽がそれに怒って殴りかかったのが発端らしい。

 それに楽も怒ってすぐ殴ったわけじゃなくて、相手が何どもど突いてきた末の行動だった。

 

 相手方の親は、楽が先に殴ったことを盾にでもするようにやたら楽と父を攻撃した。なぜか俺もその標的になった。

 この親にしてこの子ありだな、と思ったし、あんたの息子がきっかけを作らなければ楽が殴ることもなかっただろうにと思っていたが口にしなかった。

 

 怖かったからだ。

 申し訳なさそうな顔を作って平謝りする父が怖かった。

 下手なことを言えばどうなるかわからなくて、何も言わないようにした。楽もそうだろう。明らかに両者が悪いし、反論の余地があったのにあいつは口結んでいた。

 

 一応その場は収まった。そこにいた教師たちが収めなければずっと長引いていただろう。

 

 父はそれまで俺たち兄弟を叱ったことなどなかったし、怒ったこともなかった。けれど今回ばかりはそうはいかないだろうと、俺も楽も考えていた。

 しかし父は、楽に注意の一言もなくさっさと車に乗って会社へ戻った。

 それですら怖かった。

 

 家に帰ってから、学の部屋で説教とまではいかないが注意をした。俺が。

 今回はたまたま収まったが、やはり手を出してはいけないし、楽にもしものことがあったら嫌だった。

 だからちゃんとそのことを伝え、二度目がないよう言いつけた。

 

 元々暴力的な人間でもないし、その後楽が暴力沙汰を起こすことはただの一度もなかった。

 

 結局、その時俺が学校に呼ばれた理由は、楽が父と二人になるのが怖くて俺を道連れにしたかったから担任に電話させたらしい。

 

 

  ◆

 

 

 中学の卒業式。

 卒業式も中学生になると賑やかになり、後輩やら親族やらから大量のプレゼントをもらうことになる。

 プレゼントの多彩さや量は孔雀の尾のように、その人物の格を決める。

 

 もちろん両親は来なかった。

 俺そんなことは予期していたし、他学年との付き合いは皆無だったので手ぶらで校門をくぐることになるのだろうと諦観していた。

 が、楽が大量のお菓子と風船を寄越してくれて、ちょっとだけ泣きそうになった。

 なぜか南も俺に花を渡してくれた。卒業生が卒業生に贈るものでもないが、すごく嬉しかった。

 

 

 

 次は楽が中学を卒業する。

 あいつは人付き合いがうまいのでそれなりに色々もらえるはずだが、家族が祝ってやるべきだ。

 

 だけど俺は……。俺は祝いに行かなかった。

 自分のことで手一杯で、あいつが卒業するということさえ頭になかった。

 

 与えるばかりか与えられてばかり。

 これじゃあどっちが兄だかわからない。

 

 悔やんでも、悔やみきれない。

 

 親に愛されない分、俺が愛してやろうって思っていたのに、俺は。

 結局何もしてやれないまま。

 

 

  ◆

 

 

 そんな楽にも言えないことがあった。

 こんなによくしてくれる彼らにずっと隠してきた。

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