「・・・・・」
俺はしばらく黙って五代さんと一緒に海を眺めていた。
思えばあの化け物の姿になって以来、海を見るのはすごく久しぶりだった。
透き通るようにきれいな海水は俺たちのすぐ近くまで波打ってくるがすぐに引いて行く。
「・・・・・五代さん。」
「ん?」
「・・・正直俺は自分のことが怖いんだ。また、あの化け物の姿になるかもしれないし、もしかしたら本当に怪物として殺されるかもしれない・・・・・・」
「う~ん~それはないんじゃないかな?」
「えっ?」
五代さんの言葉を聞いて俺は思わず顔を上げた。
「俺もね・・・・実は『変身』してたことがあるんだ。クウガに。」
「クウガ?」
悪戯っぽく言う五代さんの顔を見ながら俺は首をかしげる。
「少し前に日本に帰ったときなんだけどその時に『未確認生命体』っていう奴らが出てきて大変なことになってたんだ。」
「未確認生命体?」
五代さんは自分のことについて話してくれた。
彼が日本に帰った時、日本では「未確認生命体(グロンギ)」という古代の先住民族が蘇り、人間に対して殺人ゲームを行っていたんだという。その中で彼は偶然目にしたベルトの装飾品を身に付け、古代の戦士「クウガ」の変身能力を手にしてみんなの笑顔を守るために戦い続けたのだという。
俺は、昔弾たちと一緒に見ていた特撮番組「仮面ライダー」を思い出した。
だが、驚くべきことは五代さんは奴らと同様の扱いで「未確認生命体4号」として一度攻撃を受けたのだということだ。
「攻撃されたんですか!?警察に!?」
「うん、あの時はびっくりしたな。戦っていた5号と散り散りに逃げて、その後一条さんに怒られちゃったんだよ。桜子さんも心配してたし。」
「よく、それで戦い続けましたね。」
俺だったら正直言って嫌になって辞めていたと思う。
「俺は守りたいと思うから戦っていたんだ。あんな奴らのためにこれ以上誰かの涙は見たくないって。みんなに笑顔でいてほしいから頑張ってこれたんだよ。」
「・・・・・すごいですね。」
「でも・・・・それでも怖いと思ったことはあるんだ。」
「えっ?」
「途中で未確認の奴らが強くなってもっとひどいゲームをやったんだ。42号の時だったかな?あの時やり方があまりにもひどくて思わずそれまで以上になんていうか怒りを感じたんだ。その時、周りに一条さんたちがいたのに俺は金の赤になって倒そうとしていたんだ。でも、途中でゴウラムで押さえて場所を変えて倒したけど。その時、爆発の中で角が4本の目が黒くなったクウガを見たんだ。」
「・・・・・・・」
「それを桜子さんたちに教えたら、多分警告なんじゃないかなって言われてこれ以上強い力は使っちゃいけないって感じたんだ。」
「五代さん・・・・・」
その後、0号との戦いでさらに強くなった黒の金でも歯が立たずたくさんの人を死なせてしまったと悲しそうな顔で話した。
彼は覚悟を決めて「凄まじき戦士」になり、激しい戦いの末倒した。
それに比べて俺ときたら・・・・・そこまで人のことを考えたことがあったんだろうか?
「一夏君も自分のことが怖いかもしれないけどそれをもう一人の自分として受け入れ場いいんじゃないかな?」
「でも・・・・みんな自分から離れていくことが恐ろしいんだ。」
「ん~じゃあ、さっき話してくれた箒ちゃんって子はどうして一夏君のそばにいてくれたの?」
「そ、それは・・・・」
俺は、答えを出せなかった。
俺が箒と再会したのは俺があの怪物の姿になってからすぐ後だった。
姿を見られないように市街地の山の方へと言ったのだが運の悪いことにその場にいた警官隊に発見されて銃撃を受けた。
闘争本能に呑まれかかっていた俺は警官隊を返り討ちにして逃げようとした奴らを気絶する程度に痛めつけた。
その時体力を消耗した影響で一時的に人間の姿に戻ることができ、ちょうどその場で居合わせたのが彼女だった。
どうやら警官隊は政府の重要人物保護プログラムで彼女を警護していた部隊だったらしく、その山の近くの一軒家に住んでいた。
終始警官隊を襲っていたところを見られて俺は思わずその場から逃げ出してしまったが慣れていないこともあってその場で倒れて気を失ってしまい、気が付いたときは彼女の家に運ばれていた。
俺が目を覚ました時は既に彼女がそばにいてお互い気まずい空気となった。
俺は、とりあえず久しぶりと言って軽い挨拶をした。箒も返事して少し空気が軽くなったかと思ったが俺はまたそう本能に襲われ始める。
箒が「大丈夫か?」と寄り添ってくれた直後、俺は自分の右腕が再び怪物の物へと変わっていたのに気が付く。
このままだとまずいと思い、俺は完全に姿が変わる前に箒に家から逃げ出した。後ろから箒の叫びが聞こえていたが足を止めることなく、俺は必死に走った。また、あの怪物の姿になって。
その後、ひと月近く俺は山奥に細々と潜伏していたが変な二色の強化スーツを着た束さんに捕縛され、その際にまた箒と再会することになった。
その時、俺が生きていたことが分かってその後に会った千冬姉にも劣らぬほど号泣しながら俺を抱きしめた。
「生きててよかった」っと泣き叫びながら。
何故そこまで彼女が俺のことを思ってくれたのかはよくわからない。
でも、何かホッとしたような気分だった。
「・・・・・わからない。普通だったら拒絶されるだろうに。」
俺は首を横に振りながら言う。
箒とは長い間会っていなかったとはいえ、彼女の性格は知っているつもりだ。
普通なら最初に再会した時点で化け物扱いしてきてもおかしくなかったのに・・・・・
「きっと、その子も一夏君のこと大切だと思っているんだよ。だから、帰ってあげなきゃ。」
「でも・・・・・・俺なんかがそばにいたら・・・・・・」
「大丈夫!」
五代さんは俺にサムズアップをしながら笑顔で言う。
「これ、俺が小学校の時の担任の神崎先生って先生に教えてもらったんだけど『古代ローマで満足、納得できる行動をした者にだけ与えられる仕草』なんだ。だから、俺も自分が納得いくまでやっている。」
「・・・・・」
「一夏君も自分が納得できるまで何年も悩んで頑張って行けばいいんだよ。みんな、そうやって大人になって行くんだから。箒ちゃんがそばにいてくれるならそこが君の居場所だよ。」
「・・・・!」
俺は自分で無意識にサムズアップしていることに気がつく。
驚きながら顔を上げるとそこには五代さんの姿はなかった。
「五代さん?五代さん!!」
俺は辺りを見回しながら叫ぶとポケットの中に何か入っていることに気が付く。
取り出してみると何か懐中時計のようなもので「2000」という数字と彼のTシャツにも書かれていたクウガのマークがあった。
『どんな雨だって絶対止むよ。そしたら青空になる。今だって君の心に雨を降らせている雲の向こうには、どこまでも青空が広がってるんだ。』
「・・・・五代さん。」
どこからともなく五代さんの声が聞こえ、俺は無意識にウォッチを回転させて起動させてみる。
<クウガ!>
同時にあたりが眩しくなった。
『ウ、ウゥウウ・・・・・・・』
一夏は再び目を覚ました。見ると目の前には天井が見える。
『・・・・・・夢?』
上半身を起こして自分の手を見てみるとやはりアナザークウガとしての自分の腕だった。しかし、もう一方の手を見るとそこには箒が手を握って眠っていた。
『箒・・・・』
化け物の姿になりながらも慕ってくれる彼女に対して一夏は思わず感謝した。そして、本能なのか彼はそっとベッドから起き上がり、窓をそっと開けた。
『・・・・・行カナキャ。』
一夏は箒の方を一度見ると窓から飛び降りて学園から離れて行った。
5分後
「一夏!一夏!!どこ行ったんだ!?」
目を覚ましたら一夏の姿がいなくなっていたので箒はパニックになりながら彼を探していた。
「何処へ行ったんだ?・・・・まさか、ラジオで聞いた怪物のところへ行ったんじゃ・・・・・・」
窓に爪の跡が付いているのに気づいて箒は直感で行き先を見抜く。
そして
「おっととっ!?う、うわぁああ~!?」
どこから持ってきたのか青いパワードスーツを纏い、不慣れな運転ながらもバイクを走らせ、彼女は一夏の後を追った。
・・・・・・無免許運転で。
最期はいらなかったかもしれない。