最後に残されたもの   作:牛乳拭いた雑巾

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プロローグ

「はっ、無個性のデクがヒーローになれるわけないだろ!」

 

 薄い金髪に、赤目の三白眼が特徴的な男の子ーーー爆豪勝己ーーーは近くにいる縮れ毛の少年ーーー緑谷出久ーーーを見下しながら鼻で笑った

 中国で起きたある出来事を境に今までオカルトでしかなかった超能力を多くの人が次々と発現していき、今では非日常だったそれらの力は『個性』と称されるようになり、現在では総人口の約8割が何かしらかの個性をもって生まれてくる。

 そしてそんな社会で、最も人気を博している職業。それが『ヒーロー』だ。

 かつては創作物の中でしか見れなかったそれは、個性という人の手に余る力を持ったことによって崩壊した秩序を取り戻し、今なお平和を維持するために私利私欲ではなく助けを求める、まさしく多くの人が憧れるにふさわしいものだった。

 そして、この少年たちもまた他の子供たちと同様に『ヒーロー』に憧れていた。が、金髪の少年が言ったように縮れ毛の少年は現代社会において珍しい無個性であり、その個性で秩序と平和を保つヒーローにとってある種最も重要なものが生まれつきかけていた。

 ゆえにーーー言い方に悪意はあったもののーーー勝己の言っていることは正論であり、少なくとも彼のその意見に反対する者はいなかったーーー彼を除いて。

 

「だーかーらー!それを決めんのはお前じゃねえっていつも言ってんだろ、勝己!無個性がヒーローになれねえだなんて誰が決めたよ!ああ!?」

 

東雲察危(しののめさつき)。ヒーローになれないという万人が肯定する勝己の意見を真っ向から本気で否定していた。

 

「デクがヒーローになれるわけねえだろうが!無個性だぞ!どうやってヴィランを倒すってんだよ!」

「そんなん体鍛えりゃどうにでも何だろうが!ヒーローの中にだって戦闘向けじゃない個性の奴はわんさかいるだろ!だいたいお前、個性個性いってるがよ。ヒーローにとって大事なのは個性だけじゃねえだろうが!」

「はあ?個性以外に何がるってんだよ?」

「そんなの、困ってる人を助けようっていう気持ちに決まってんだろ!前にいじめられてる無個性を助けようといの一番に飛び出していったのは俺でもお前でもねえ、出久(こいつ)だったろうが!」

「だがその後、ボコボコにされてる出久を助けたのは俺たちだろうが!結局助けられなきゃ意味ねえだろうが!」

「だからそんなのはこれから体を鍛えていきゃあどうにでもなるって言ってんだろうが!鳥頭かテメエ!大体、強さ云々言うんならテメエ今まで一回も俺に勝ったことねえだろうが!」

「んだとゴラァ!!ちょっと勝ち越したぐらいで調子乗ってんじゃねえぞ!!」

「はっ、130敗もしていて何がちょっとだ。お前汗だけじゃなくて脳みそも爆発しちゃったのか?」

「ブチッ。今日こそはぶっ殺してやらあ!!」

「おーおーやってみろよ!」

 

 勝己はボボボッと手の平で細かな爆発を起こし、察危もまた個性を発動させながら構えを取る。ここにきて漸くただオロオロしてるだけだった出久が声を上げた。

 

「ちょ、ちょっとかっちゃんもさっちゃんも喧嘩はやめてよ~」

 個性の無断使用は原則禁止されている現代社会。未だ小学生の三人ではあるが当然そんなことは幼稚園で習うものなので知っている。当然喧嘩なんかでの使用は禁止されているのだから彼の言っていることは正しい。正しいのだが……

 

「うっせーデク!テメエは引っ込んでろ!」

「だいたい出久も出久だ!」

「ええ!?僕!?」

 

頭に血が上った状態の彼らにとっては火に油。急に燃え上がった炎は油を注いだ本人にも飛び火する。

 

「そうだろうが!お前も少しは言い返せ!いつもいつもへらへらしやがって!そんんじゃ勝己の言う通りヒーローになんかなれねえぞ!」

「で、でもかっちゃんの言うことも最もだし……」

 

 いじいじなんていう効果音が聞こえてきそうな態度をとる出久に業を煮やした察危は、ガシガシと苛立たし気に髪をかきむしりながら言う。

 

「あーもうめんどくせえ!テメエら二人がかりで掛かってこい!性根を叩きなおしてやる!」

「それはこっちのセリフだ!なめてんじゃねえぞカスがあ!」

「そういうのは俺に一勝でもしてから言うんだなァ!!」

「ちょっ誰か、先生!先生ーーーー!!」

 

爆豪勝己が緑谷出久を馬鹿にして、東雲察危がそれを否定して、頭に血が上った彼らの喧嘩を止めようとした緑谷出久が巻き込まれてけがをする。そして勝己と察危が先生や親たちに怒られる。それが彼ら幼馴染三人組の日常だった。

そんな日が、ずっと続く。もしかしたら、三人とも夢を叶えヒーローになってからも喧嘩をしてるかもしれない。そんな未来も悪くない。彼はそんな風に考えていた。

 

ーーーーーーーあの日までは。

 

 

****************************************************************

「…………随分とまた、懐かしい夢をみたな」

 

 ボロボロのやっすいベッドの上で目を覚ました俺は、胸に沸いた苛立ちを抑えきれずに思わずそう呟いた。

 

「どんな夢だったんだ?」

 

 独り言にふさわしい小声でつぶやいていたが、どうやら同居人はすでに目を覚ましていたらしく聞こえてしまっていたらしい。俺が苛立ったているのが楽しいのか、同居人は珍しく楽しそうな声音で俺に話しかけてきた。

 

「……別に、ガキの頃の夢だよ。死柄木」

 

 死柄木弔。俺が今加わっているヴィラン連合という組織のリーダーを務める男であり、顔や腕などに無数の『腕』を付けた触れたものをボロボロにする『崩壊』の個性を持っている。無論のこと、死柄木弔は本名ではないが、こいつの本名など興味がないからどうでもいい。

 

「へえ。お前はどんなガキだったんだよ」

「………チッ」

 

 普段はこっちのことなど大して興味を持たないくせに、こんな時に限ってちょっかいをかけてくるその性格の悪さに舌打ちする。そもそも、俺のことなどどうせ『先生』から聞かされているだろうに。かといって、このまま無視したところでこいつは永遠とちょっかいを出し続けてくるだろうから、知られても困るものではないので答えてやることにした。

 

「こんな社会に、守る価値があるだなんて思っていたただのクソガキだよ」

「くはっ」

 

 俺のその返答に、死柄木は吹き出すようにして笑い声をあげ、「そりゃあ確かにクソガキだな」などと面白可笑しそうに続けた。

わかっていたことだが、それでもむかついた俺は枕元に会った目覚まし時計を死柄木に向けぶん投げる。が、奴の個性によってそれはボロボロのカスに崩れてしまった。はあ、また買わなきゃいけない……。

 

「二人とも起きてますか?」

 

 コンコンと俺と死柄木の共同部屋がノックされる。声の主は同じくヴィラン連合の黒霧と呼ばれる黒い靄のような体を持った男だ。

……毎度思うが、あいつの手でどうやってノックしてるんだろうか。

 

「ああ、起きてるよ」

「おい黒霧。今日の朝飯は何だあ?」

「今日は昨日の残り物ですよ」

「はあ?てことはまた米かよ。俺はパンがいいんだが」

「だったら口でクソ垂れる前にテメエで準備しろや」

「あ?お前も同じだろうが」

「前に黒霧が風邪ひいた時は俺が作ってやっただろうが。まあテメエが作ったら全部パウダーになるだろうがな」

「殺すぞガキ。大体何ため口聞いてんだ。年上には敬語使え」

「だったら少しは年上らしいことしてから言えよ」

「……殺す」

「やってみろよ」

「やめなさい二人とも!はあ、こんなことであの作戦は成功するんでしょうか。不安になってきました……」

 

 呆れたように長い長いため息をつく黒霧。現状、主要メンバーが俺と死柄木と黒霧しかいない今一番ストレスがたまってるのはこいつだろうな。同情はしないけど。

着実に黒霧の胃にダメージを与えながら朝食を終えた俺たちは予定通り一月後に迫った作戦ーーー雄英高校襲撃に向けて作戦を練り始める。

 

(しかし、本当に懐かしい夢を見たな。……まあ、心当たりはあるんだが)

 

 雄英高校。そこは言わずと知れた数あるヒーロー育成機関の中でも最高峰の高校。ヒーローを志したことのあるものならば一度は目指したことのあるそこは、無論のことかつては俺も目指していた。そして、それはあいつも同じだった。だからこそ、あんな夢を見たのだろう。

出久はわからんが、少なくともあいつはそこにいる。頭がよく、強力な個性を持ち、努力も怠らないあいつならば絶対そこにいる。ゆえに、あいつとの衝突は避けられない。

 情がないわけではない。これでもかつては喧嘩を繰り返した相手だ、いないならそれに越したことはない。

 だがーーー

 

「どうかしたのですか、死乃?」

「別に」

 

 俺の目的のためならば、あいつも出久も関係ない。立ちふさがるものが誰であろうと、叩き潰し、それでも邪魔するなら殺すまで。

 俺の大切なものは、もう何も残っていないのだから。

 

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設定

東雲察危(しののめ さつき)男

個性:危険察知

能力:自らに降りかかる危機を事前に察知することができる。危機が近ければ近いほどより具体的に察知でき、逆に危機が遠い場合は嫌な予感がするレベル。勝己との喧嘩ではその個性で勝己の攻撃がどのタイミングでどの角度からくるかまで察知できる。

ただ、未来予知ではないため、自分が攻撃する際は相手がどう動くは基本的に分からない(カウンターは察知できる)。またあくまで自分の身に降りかかる危機のみなので他人に降りかかる危機は予見できない。

タイプは死柄木みたいな常時発動型ではなく、意識していないと察知はできない。数時間くらいは発動しっぱなしにできるが、24時間365日ずっと発動は無理。

個性に加え数多の武術を習得しており肉弾戦に非常に強く、遠距離攻撃も苦手ではあるが個性のお陰で回避できるので鬼門というわけではない。

もともとはヒーローを目指していたが、ある出来事を境に目指すのをやめ、とある目的のためにヴィラン連合に参加する。

性格は勝己寄りではあるものの出久のヒーローとしての素質にいち早く気づくなど無個性相手でも正当に評価できる。

勝己・出久とは幼馴染みであり、特に勝己とは犬猿の仲ではあったもののなんだかんだで認めており、130戦130勝という戦績を持ちながらも決して油断はせず、口ではいろいろ言いつつも内心は見下したりしない。

ヴィラン連合内での呼び名は『死乃』。女の子っぽい呼び名であることを気にしてるが、言うと死柄木が面白がって連呼するであろうから言わない。




黒霧:連合内のお母さん的立ち位置。息子たちの行動に胃を痛める毎日。胃薬が親友。
死柄木:反抗期真っ盛りの子供。飯に文句をつけながらもなんだかんだで残さず食べる良い子。死乃みたいな弟はいらん。
察危:お父さんが拾ってきた養子。口も態度も悪いがお母さんが困った時はおうちのお手伝いをする良い子。死柄木みたいな兄はいらん。
AFO:単身赴任中のお父さん。子供の養育方針にお母さんの口出しを許さない亭主関白。
ドクター:お父さんの同僚。大怪我は治してくれるが風邪薬も胃薬もくれない。
(黒霧たちの評価はあくまで本作でのものです。原作には一切の関係はありません)
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