希 :「花陽ちゃんが練習を早退した日…ってあったやん?」
海未 :「はい、確か…お腹が空きすぎて、力が出ない…と言っていた日のことですよね?」
希 :「ウチ、ふと気になって、翌朝アルパカ小屋に行ったんよ」
海未 :「アルパカ小屋にですか?」
希 :「虫の知らせ…って言うんかな?まぁ、ずっとアルパカの具合が悪いって言うてたし、もしかしたら、そこに何らかのヒントがあるかもって」
海未 :「はぁ…」
希 :「そうしたらなぁ…そこにあったんよ…」
海未 :「なにがでしょう?」
希 :「ゲーが…」
海未 :「アルパカが『お手』でもしたのですか?」
希 :「それは芸やろ?芸…やなくて、ゲーや」
海未 :「では、音階のソですか?」
希 :「それはゲーやなくてG(ゲー)や」
海未 :「合ってますが」
希 :「合ってるけど、ソって落ちるものやないやろ」
海未 :「意味がわかりません」
希 :「真姫ちゃんの真似はいらんよ」
真姫 :「余計なことは言わなくていいから」
希 :「ゲェ…や…ゲェ…」
海未 :「…殿方同士が愛し合う?…ってアルパカ小屋でなんて破廉恥な!!」
希 :「それはゲイや!…って、なんで真姫ちゃんと同じリアクションするん?」
真姫 :「だから、今、私のことは関係ないでしょ!」
海未 :「ですから、なんのことでしょう?」
真姫 :「吐瀉物があったのよ」
海未 :「としゃぶつ?」
真姫 :「嘔吐よ、嘔吐」
海未 :「オート?自動ドアか何かですが?」
真姫 :「はぁ…あなたも意外に鈍いのね。吐いたあとよ」
海未 :「あぁ、そちらの!!…で、でしたら、まわりくどい言い方をしないで、初めからそう言ってください」
希 :「こう見えて、ウチにも乙女の恥じらい…ってあるんよ。だって…ゲロって言えんやん、ゲロとは…って…うっぷ…あかん、口にしただけでも吐きそうやわ…」
海未 :「…失礼しました…言わなくてもいいです…そ、それで…それがどうしたのですか?」
希 :「放課後、真姫ちゃんに来てもらって、分析した結果…それは、おにぎりを吐いたあとだとわかったんよ」
海未 :「おにぎり?…アルパカはおにぎりを食べるのでしょうか?」
真姫 :「食べないと思うわ」
海未 :「では、そのおにぎりは…花陽がアルパカに無理やり食べさせた…と?」
希 :「おぅ?ふふふ…そ、その発想はなかったわぁ」
海未 :「へっ…違うのですか」
真姫 :「普通は花陽が吐いたもの…って考えない?」
海未 :「あっ…そ、そうですね…少し難しく考えすぎました…花陽がそのようなことをするハズないですからね…お恥ずかしい…」
希 :「いや、そういう自由な発想が、意外と事件解決につながるかもしれんよ?」
海未 :「ならよいのですが」
真姫 :「ここでは花陽が吐いたことを前提に話を進めるわ」
海未 :「はい」
希 :「食べた物をリバースしてしまったのなら…お腹が空いて力も出ない…っていうのも筋が通るやろ?」
海未 :「そうですね…ですが…あの時はことりが『何か食べる?』と訊いていたのを断っていたかと。花陽のことですから、そこまでお腹が空いていれば、ありがたく頂いていたのではないでしょうか」
真姫 :「それを受け入れられる胃の状態じゃなかった…てことでしょ?」
海未 :「!!…まさか…花陽に限ってそんな…は、破廉恥です!!」
希 :「ん?」
真姫 :「はぁ?」
海未 :「そ、それで…今、何か月目なのでしょうか?相手は誰なのですか?いえいえ、そもそも安定期に入るまでは、ダンスなどしてはいけないのでは?」
希 :「ちょ、ちょい待ちぃ!海未ちゃん、何、勘違いしてんねん」
真姫 :「はぁ…あなたはもう少しまともだと思ってたけど…ちょっとは付き合う友達、考えた方がいいんじゃない?」
海未 :「えっ?…妊娠すると食べ物の好みが変わるとか…酸っぱいものが欲しくなるとか…ご飯の炊ける匂いで吐き気を催す…とか聞いたことがあるのですが…」
真姫 :「それはそうだけど…その前提が間違ってるのよ」
海未 :「…といいますと…」
真姫 :「花陽は妊娠なんてしてないわよ!!ただ単に『胃の調子が良くないときに、食欲はわかない』って言っただけ」
海未 :「!!」
希 :「いや、こっちがびっくりやわ。どれだけ今日の海未ちゃん、ピントがズレてんねん」
海未 :「そうですかぁ…よかったです、安心しました…まさか花陽に限って…と思ったものですから…」
真姫 :「私はアナタのことが不安になったけど…」
希 :「そやけど、花陽ちゃん、妊娠してそんなんなったら、どうなってしまうんやろ?」
海未 :「文字通り『死活問題』ですね」
希 :「『お米を食べるなんてありえないですぅ』…なんてなぁ」
海未 :「ふふふ…そんなことになったら転変地位が起きますね」
真姫 :「ほらほら、話をそらさないで…」
海未 :「あっ…すみません!…えっと…それで…嘘というのは…それを隠していた…ということでしょうか?」
希 :「う~ん、それもそうなんやけど…真姫ちゃんにゲーを検証してもらった後、ウチら、遅れて部室に行ったんよ」
真姫 :「それからしばらくして、花陽が来たんだけど…」
希 :「『どこ行ってたん?』って聴いたら『アルパカ小屋にいた』…って」
真姫 :「でも、そこにはいなかった」
希 :「ウチらがずっといたんやから、花陽ちゃんがくれば、当然わかるハズやん。何か別の用があって遅れたのは、間違いないと思うんやけど…嘘をついてまでしなきゃいけない用ってなんやったんやろ?」
海未 :「ひょっとしてその日は…私が弓道部に顔を出していた日のことでしょうか?」
希 :「…えっと…確かそうやわ…ことりちゃんが『海未ちゃんの試合が近いから応援に行ってた』って遅れて来たんやなかったっけ…」
海未 :「!!」
希 :「海未ちゃん?」
海未 :「そうですか…」
真姫 :「どうかした?」
海未 :「その日、その時刻、ことりと花陽は弓道場の裏にいました」
希 :「!?」
真姫 :「!?」
海未 :「私がひと休みしようと表に出たとき、二人に姿を見つけたのです。花陽は泣いていたようですが…何を話していたかはわかりません。見て見ぬふりもできたのですが…やはり気になってしまい、近づいて声を掛けました」
真姫 :「それで花陽はなんて?」
海未 :「申し訳ありません…今、ここで話すのは…」
真姫 :「つまり…そういうこと?」
海未 :「どうなのでしょう…私もそれを疑っているのですが…い、いえ…本当にわからないのです。ことりも教えてくれませんでしたので…人の恋路をなんとか…ではありませんが、もしそういうことでしたら、私が口を挟むことではありませんし…」
真姫 :「そうね…」
希 :「海未ちゃんの心当たりって、その事?」
海未 :「はい…それが今回のことにつながるかどうかは、定かではありませんが…」
希 :「ウチなぁ…あの時花陽ちゃんが来たら、そのゲーの件を問いただそうと思ってんやけど…結局、現れなかったんよ。…ウチらがいることに感づいて、小屋に行くのを『回避した』のかと思ってたんやけど…ことりちゃんと会ってたって言うんなら…」
海未 :「偶然そうだったのかもしれませんね」
真姫 :「…」
希 :「真姫ちゃん?」
真姫 :「…ミュンヒハウゼン症候群…」
希 :「!!」
海未 :「えっ?今、なんと」
希 :「ミュンヒハウゼン症候群…平たく言うと『かまってちゃん病』やね」
海未 :「かまってちゃん病…ですか?」
真姫 :「平たく言いすぎだから」
希 :「聴いたことない?周りの気を引くために、仮病を使ったり、自傷行為を繰り返したりする…一種の精神疾患やね」
海未 :「あっ…」
真姫 :「さすが希、無駄に知識が広いわね」
希 :「言うたやん、勉強にはなんの役にも立たんけど…って」
真姫 :「もし花陽が…ことりの気を引くためにしでかした事だとしたら…」
希 :「上履き隠したんも…具合が悪くなったんも…あんな落書きしたんも…すべてはことりちゃんに振り向いてもらいたいがため?」
海未 :「なんとなく辻褄は合いますね…」
希 :「そして告白して…フラれた?」
海未 :「…」
真姫 :「…」
希 :「…だとしたら、かなり厄介な話やね…」
海未 :「…はい…」
真姫 :「…」
~つづく~
この作品の内容について
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面白い
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誰が犯人だ?
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可もなく不可もなく
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犯人がわかった
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つまらない