山吹色とチョコ色の少女の…… 作:明天
「ありがとうございましたー!」
「ありがとうございました。」
パンの香ばしい香りが、漂う空間に響く明るく、元気な声
それともう1つの落ち着いた声。
1人の少女は山吹色のポニーテールを揺らして、せっせか忙しそうに動いている。
もう1人は、それを手伝う訳でも無く、見守っている。
1人の少女の名前は、山吹沙綾。
山吹ベーカリーという商店街にあるパン屋さんの長女。
「ほら!翼も手伝って!」
その長女に『翼』と呼ばれた少年こそ、宝条 翼(ほうじょう つばさ )、この物語の主人公。
山吹沙綾とは昔からの幼馴染で、小さい頃から、よく2人でお店を手伝ったり、翼の親が仕事で居ない時等は山吹家で、寝食を共にした。
彼の親は仕事が忙しい時が多く、大半家に1人で居るのだが、彼女、山吹沙綾の『1人で家に翼を居させるのは危険だ。』というお節介により、学校終わりの放課後はよく、山吹ベーカリーで、アルバイトという形で汗を流していた。
絶えず、彼女と彼は一緒に居て、学校では『親公認の夫婦』『世話焼き女房』等と散々弄られた。
他人の恋バナに興味を持つ中学生らしい事だろう。
彼は最初、否定していたが、途中から面倒くさがり適当に話を合わせた。
彼女は逆に嬉しそうな顔をしていたそう。
彼は、ある程度の事に対して必ず、「面倒臭い」と言う。
彼は、様々な事をサボる。それは普通の人からしたら、度を越してるかもしれない。
ゲームに熱中すると、何時間、何十時間もやり続け、その間水分は勿論、食べ物も取らず、それに打ち込む。
それも、彼を自分の店で働いて貰っている理由の1つだった。
彼がまた変な事をしない様に、監視という形で。
勿論、ご飯は山吹家で食べる。
気を抜くと、彼は寝食を忘れて熱中するから。
「翼?明日から入学式だね。」
「そうだな…」
今年から花咲川という元女子校の学校に通うことになった2人。
幼稚園からずっと、2人は同じ組、クラスになっていた。
彼は一時、花咲川は女子校となっていた為、違う学校に通う予定だったのだが、幸いな事にギリギリで共学化が間に合い、2人はまた同じ学校に通う事になった。
「私、友達出来るか不安なんだけど…」
「沙綾なら、大丈夫だろ。」
ある程度、心の知れた中学校の友達はいるとしても、人間違う環境に行くと緊張はするもの。
「大丈夫だよね!翼も居るもんね!」
それもいつも商店街の人に明るさを振舞っている彼女も例外では無かった
「翼君。おはよう。朝ごはん出来てるわよ。」
「ありがとうございます。」
そして、朝ごはんが置いてあるリビングへ移動し、頂きます。と一呼吸置いてから、食べる。
相変わらず、沙綾の母、千紘さんの料理は美味しい。
食後にコーヒーを出してもらい、ゆっくりと味わっている所に
「……ねぇ?翼。そろそろ行かないと遅刻するんだけど?」
「マジで!?もうそんな時間?」
急いで準備して、玄関に向かう。
「翼、こっち向いて。」
「ん?」
沙綾に呼ばれた為、そちらを向く。
「ネクタイ曲がってるよ?直してあげるから」
ネクタイを真っ直ぐと結ぶ沙綾
顔が接近するが、幼馴染というものは、いつも一緒にいる為、ドキドキする事がない。
「サンキュー。もう行こうぜ。」
「あっ!ほんとだ!遅れちゃう!」
「それでは、千紘さん。行ってきます。純くんと紗南ちゃんも行ってくるね。」
「翼兄ちゃん。お姉ちゃん行ってらっしゃい!」
千紘さん、純くん、紗南ちゃんに見送られて、早足で向かう。
* * *
「入学初日から、遅刻の危機なんてついてないな…」
「沙綾、文句なら後でいくらでも聞くから今は間に合うように早く行かないと!」
暫く、走って向かう。
入学早々、遅刻なんてついてねぇぞ……
腕時計で、今の時間を確認すると、案外時間があったのでSNSでも見ようと、スマホを開き、見る。
沙綾はもう前に行ってしまった。
歩いても、もう間に合うし、別に焦る必要は、無いだろう。
携帯を弄りながら、歩いていると、前に人が居たのに気づかずに、ぶつかってしまった。
「すいません!前見てなくて…」
やっぱり歩きスマホはするものでは無い。
周りが見えなくなり、今回は人だったが、これが車だったら……と思うとゾクリと背中が冷えた。
「わ、私の方こそごめんなさい!私も前見てなくて……」
ぶつかってしまった人は、黒髪のショートカットの少女だった。
「本当にすいません。お怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫です!そちらこそお怪我はありませんか…?」
「大丈夫です。本当にすいませんでした。」
「どうしたのー?翼!」
遠くから幼馴染が、呼びかける。
「今すぐ行くから!」
「あの。本当にすいませんでした!」
もう一度謝ってから、幼馴染の元へと駆ける。
* * *
何とか学校に辿り着き、席に着く。
先生が来るまで、スマホを弄る事で時間を潰す。
彼女はもう、話せる友達が出来たみたいだ。
猫耳?を持つ少女と話していた。
でも、彼女は不思議な少女の様で、沙綾が少しタジタジになっており、対応に困ってるみたいだった。
暫く、すると先生が入ってきた。
そして、お決まりの自己紹介を端的に終わす。
自己紹介が終わり、席に戻ると
「また…会いましたね。」
隣にいたのはさっきぶつかってしまった少女だった……
そして、その2人をじっーと、見つめる幼馴染。
これが今思えば、今後を左右していく分岐点だったのかもしれない……