ジャージを着ていた5人も今から練習を始めるようで来ていたジャージを脱ぎ捨ててそれぞれに別々のゴールにつく。
そして、各自が練習する。
それを、ゆっくりと観察する視線が一つ。
黒い学ランに身を包んだ豪が体育館の一歩外から彼らの練習風景を観察していた。
一度目を丸くしたかと思うと、次はにやにやと笑い出し、豪の体はいつの間にか自然と体育館へと移動していた。
そして、邪魔にならないよう端に寄せてあった籠に入っていたバスケットボールを一つ持ち上げて、その場でを二、三度ついてみる。
(あんまり感覚は変わらないのか。しいて言うならゴールがちょっと高く感じる程度だな。これなら……)
「何か用かな?」
突然後ろから声がした。
ぱっと後ろに向くと、先ほど入ってきたジャージ組の一人の赤髪の子が立っていた。
その姿を見て豪は少し驚いた。
(確かコイツは、ついさっきまでここから一番遠い位置で練習していたはず……体育館の様子は全部把握してるってことか。さすがはキセキの世代)
「一応ここは部外者以外立ち入り禁止なんだけど」
「ん、あぁ! 悪い悪い、ついついな。」
そう言って手に持っていたボールを籠へと戻す。
「それで、ここには何をしにきたんだ? 白谷 豪くん」
「俺のこと知ってるんだ」
素直に豪は驚いた。
(おいおい、適応させていくって言ってたけどどうやるんだよ。すでに知られてるぞ、白谷 豪のこと)
「もちろん。同じ学年の人の名前は全員覚えているさ」
「そ、そうか……。お前は?」
「僕は赤司 征十郎。それでここに来た理由は?」
「んー」
豪は顎に手を当て天を仰いで少し考えるそぶりをする。
そして、何か思いついたのかにやっと笑う。
「入部しに来た。」
さすがにその言葉は簡単には赤司も呑み込めなかったらしい。
すこし狼狽しながら
「本気で言っているのか?」
と問った。
だが、豪はおくすることなく
「ああ、俺は大まじめだぜ?」
と言った。
「言ってはなんだが僕たちは二年の時点で全国制覇する実力者揃いだ。今から入っても正直レギュラーを取るのは難しい。正直君にとってもあまりいい思い出にはならないと思う。始めるなら高校からでも遅くないんじゃないか?」
赤司のその言葉を聞くと、満足したように笑い、豪は答えた。
「じゃあ、入部テストしてくれよ。即戦力になれないようなら諦める。それで問題ないだろ?」
「……まぁいいだろう」
すると赤司は練習中の3人の丸坊主の生徒に声をかける。
そして、事情を説明し始める。
その姿を見て、練習をしていた先ほどのジャージ軍団もこちらにちらちらと視線を寄せる。
「よし、じゃあまずはシュート力を見せてもらおう。」
「わかった」
丸坊主の生徒からボールをもらい、指定された位置からシュートを打ちゴールを決めるというしごく単純なものだ。
10本やって全部難なく豪は成功させてみてた。
「まぁ、言うだけの実力はあるようだ。なら、いきなりだが最終試験まで飛ばしていこう。ラストはこの3人と3on1でゴールを奪え。」
そういって赤司が豪に新しくボールを渡す。
と同時に3人の坊主頭が構える。
豪はちらっと先ほどのジャージ集団がこちらに衆目しているかを確認のために後ろを見る。
と、一人、緑髪の奴を興味津々といった感じでこちらの方に視線を向けている。
が、緑髪の奴もシュート練習をしながらこちらをちらちらとはうかがっているようだ。
それを見て安心すると、豪はボールを突き出した。
三人がグッと詰め寄ってくる。
体格的にはさほど変わらないから、三人で囲めば勝てると踏んだのだろう。
だが、次の瞬間、三人の動きが硬直する。
そして、顔だけがすっと横に後ろにと移動する。
横をすり抜けていく黒い学ラン姿の豪の姿を目で追うために。
そして、難なく豪は三人を抜いてネットを揺らした。
このときジャージを着ていたレギュラー陣の視線の種類が興味本位から明らかな好敵手への視線へと変化した。
「どうだ?」
豪は赤司に視線をやる。
すると、赤司は少し顎に手を当てて考えるとちらっと練習しているメンバーの方に顔を向けて言う。
「青峰。やるか?」
すると、一番こちらに興味を示していた青髪の男がすごくうれしそうにこちらにやってくる。
「おう! やるやる!っていうか、止められてもやる気だったしな」
すると、同じく黄色髪の爽やかな男も何か不満げな様子でやってきて口をとがらす。
「ええ~、なんで青峰っちなんスか赤司っち。なっとくできないッス」
「まぁ、見ておけ。すぐにわかる」
それでもブー垂れている黄瀬との視線を切って再び赤司は豪に顔を向ける。
「というわけだ。悪いがこいつとも相手してもらえるか?」
「もちろん、なんならそっちの黄色い子も一緒でいいぞ」
「いや、まだ黄瀬では……」
――のけ者になる
さすがに赤司のその言葉には黄瀬だけではなく青峰も、他にも聞き耳を立てていたほかのレギュラー陣も目を丸くした。
レギュラー陣が集まったからかいつの間にかこちらの方をずっと止まってみている部員たちも目を丸くしていた。
そして、別の意味で豪も目を丸くしていた。
「へ?何言ってんすか、赤司っち。そんなわけないじゃないっスか。別にあれくらいなら俺だってできるっすよ!」
そう食って掛かる黄瀬に赤司は諦めたようにため息を吐き
「……なら、入ればいい。」
と言った。
「悪いが、そういうわけだ。2on1で相手をしてくれ。これは試験ではないから負けても入部には影響しない。大方実力は把握した。ぜひ明日からは部員として練習に参加してくれ」
これに関して異論を唱える者はあの動きを見たならまずいないだろう。
確かに現状この部活で、三人抜きをして見せられるのはキセキの世代のみだからだ。
もはや豪も立派なレギュラー格の人間であることは疑いようがないだろう。
だが、さすがにあれだけでキセキの世代の一人である黄瀬よりも上というのは、練習をとめてみているレギュラーではない部員たちであれば信じがたい話だった。
それだけ彼らにとってキセキの世代は雲の上の存在なのだ。
赤司が再び豪にボールを渡し、青峰と黄瀬が構える。
いつの間にか体育館からボールのつく音はなくなっていた。
豪がゆっくりとボールをつき始める。
そして、豪は青峰を見て、赤司の言っていることを納得した。
(ゾーンか……。なるほど)
一方黄瀬を見てみると確かに集中力は大したものだが、やはりゾーンの域ではない。
(じゃあ、いっちょのけ者にしてやるか)
次の瞬間黄瀬の眉がピクッと動いた。
とその刹那、豪が一気に詰め寄ってくる。
黄瀬は反応が遅れてあっけなく抜きされれる。
が、カバーに入った青峰はさすがにゾーン状態というべきか、振りほどくことはなかなかできない。
右へ、左へ、後ろへ、そして前へを繰り返す。
黄瀬も後ろから必死になって参戦を試みるが、黄瀬の方をろくに見ていない豪に赤司の言うとおり見事に翻弄されて一向に何もできないでいる。
「いい動きだな。軸移動するときのロスが少ない。しなやかなばねと柔軟な体のなせる業だ。」
一方的に豪がしゃべるだけで、青峰は何も返さない。
否、返せなかった。
いま、一言でもしゃべってしまったら次の瞬間には抜かれている。
そう確信しているほどに青峰には余裕がなかった。
自分の動きについてきた青峰に満足すると、豪は一度後ろへと引き下がる。
青峰と黄瀬は息も絶え絶えなのに対して豪はまだまだ涼しい顔をしている。
「じゃあ、見せるもん見せてもらったし、俺からも一つプレゼントをやろう。」
豪がそう言って間もなく、青峰と黄瀬は豪のその雰囲気の変化に敏感に気づいた。
が、もう次には抜かれていた。
試合を見ていた誰もが目を大きく見開き、口が閉じない者までいた。
赤司もまた目を見開いている人間の一人となっていた。
「ゾーンの次の形態。向こうで俺らは
ネットを揺らした後に豪はそう言った。
そして、ボールを取ると、それを赤司の元へと持っていく。
「悪いな、赤司。やっぱり俺はこんなレベルの低い部活には入らねーことにしたわ。」
豪は日本の中学ナンバー1のバスケ部をレベルの低い部活と言い捨てて、体育館を去って行った。